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見た目だけが原因じゃなかった
しおりを挟むあの「勉強がしたいです」発言から2日後、わたしは再び朝食後執務室まで来ていた。
部屋に入るとそこにはルークさんともう一人少しくたびれた感じのおじさんが立っていた。
「先生をお連れしました」
「お、流石ルーク早かったな」
「おはようございます魔王様、シイナ様。私はイダルと申します」
「イダル様は様々な分野に精通する学者様でございます」
どうやら少しくたびれた感じのおじさんは先生だったらしい。
そして、今日から語学だけでなく数学やこの世界の歴史などをイダル先生に教えてもらえることとなった。
早速今から執務室の隣の(採寸を行なった部屋と同じ)部屋で授業を行うこととなった。
「よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますシイナ様。では今日は語学とこの世界の事について少し勉強しましょうか」
「はい、えと、普通に名前で呼んでもらえると嬉しいのですが…」
年上にしかも、こちらが教えを請う立場なのに敬語に様付けってすごく抵抗がある。
「しかしですねー……」
イダル先生は隣の執務室の方へ視線をやる。
多分わたしが魔王の客人という立場だから気を使っているのだろう。
メイドさんやルークさんにも敬語や様付けをやめて欲しいと言ったけど断固拒否された。
「わたしはクシェル様の優しさ故にここに置いてもらっているだけで、何の力もない人間ですし、こちらは教えてもらう立場です。先生がわたしを敬う必要は全くありません」
「……では、改めてよろしく頼む。コハク」
流石は学者さん。抵抗はありつつも「あちらではそうなのか」と、こちらの考え方にも理解を示し、合わせてくれた。
「因みに先生はおいくつなんですか?」
「128だが」
「ひゃっ、128⁈」
見た目から40くらいだと思ってた。
日本人の平均寿命は80過ぎくらいだったはず、魔族の人達は人間の何倍くらい生きるんだろう?
「えと、魔族の方々はそれが普通なんですか?だとしたらクシェル様やジーク様もそれくらいの……」
「あー、魔族の寿命は2、300年くらいあるからな。たしか魔王様が54で、グランツ様が51だったか」
え⁈あれで50代!20代前半くらいにしか見えない。しかもクシェル様よりジーク様の方が年下だったなんて!
ジーク様の方が体格も良く、落ち着いた雰囲気があるからか、勝手にクシェル様の方が年下だと思ってた。
驚きすぎて開いた口が塞がらない。
「コハクはいくつなんだ?」
「わ、わたしは18です」
「まだガキじゃねーか!」
そうですね。100歳越えの人から見たら18なんてまだまだガキ、赤子も同然ですよね。
二人から子供扱いされるのも納得です。
わたしの見た目だけが原因じゃなかったんだ
「でも、この世界では皆15で成人だと」
「あー、一応はな」
イダル先生曰く15で成人、大人の仲間入りではあるが、それはただその年になると騎士団やお役所などきちんとした仕事につけるというだけで、責任ある一人前の大人だと認められたわけではないらしい。
「と、そろそろ授業に入ろうか」
「は、はい」
かなり話が脱線してしまった。
改めて姿勢を正しイダル先生から児童向けの絵本らしきものを受け取る。
そこに書かれてある文字は当然英語でも日本語でもなく、全く見覚えのないものだった。
すでに無理な気がしてきた。
クシェル様がかけてくれた言語共有魔法のおかげで読み上げてくれれば意味はわかるので、イダル先生の言葉の後に沿って、日本語で訳を書いていく。
その光景を興味深そうに見ていたイダル先生は急に絵本の読み上げを中断し、カバンから分厚い本を取り出した。
「こ、これは?」
渡されたその本を開くと細かな字がびっしりと書かれていた。
ゔ、頭が痛くなってきた。
まさか、今からこれを使って勉強するの?
「これは辞書だ。聞き取りが出来るなら単語を覚えた方が早いだろ?それにーー」
「それに?」
「コハクがこれに異世界の文字で訳を書いてくれたら俺も異世界語が勉強出来る!」
ーー目が輝いてる……それが本音ですね。
つまり手っ取り早く二人で翻訳書を作ってしまおう!という事らしい。
というわけで、今日から少しずつこの世界の辞書の翻訳を行うこととなった。
20ページくらい進んだあたりで、語学の授業は切り上げ、次はこの世界のことについて授業を受ける。
復習にはなるが、まずこの世界は大きく4つの大陸に分かれていて、それぞれ大きいものの順で魔族、獣人族、人族、竜人族が治めている。
それぞれの種族がそこだけでしか生活していないわけではなく、交流もあり貿易も行なっている。
ただし、竜人族の大陸には竜人族しか入れず、貿易も行なっていない。
鎖国みたいな感じかな?
人族の大陸は小さいが人口は4種族の中で一番多く、人口密度が高い。それに比べて魔族の大陸は一番人口密度が低い。
さらに人族は魔法が使えない者がほとんどなため代わりに科学が発展し、その他の魔法が使える種族は魔法が発展してきた。
「つまり、自分達の大陸だけでは自然資源が賄えなくなってきたから豊富な自然が残るここへ攻めてきた、ということですか?」
科学の発展には化石燃料等の自然資源が必要不可欠だ。
自分達がより良い生活を送るためには、今以上の科学の発展のためには、他種族の大陸を奪うしかない。
「それにしてもどうしてここなんですか?」
この大陸は人族の大陸のほぼ反対側に位置している。わざわざこの大陸にこだわらなくても、隣には獣人族と竜人族の大陸がある。
竜人族の大陸は無理にしても、別に獣人族の大陸でもいいはずだ。そこはここの次に広いわけだし。
「獣人族と人族は昔から友好的な関係を築いて、人の行き来も多い」
「貿易関係にある、と。だから迂闊に攻め入ることはできないーーもしかして生活の大部分を獣人族からの輸入品でまかなっているとかですか?」
「そう、だな。あそこは金や鉄など金属がよく取れる」
なるほど、確かに金属は科学の発展には必要なものの一つだ。そして、武器の生産にもそれらは多く使われている。
実際獣人族との貿易が途絶えると戦争すら出来なくなる、すなわち獣人族を敵にまわすイコール敗北というわけだ。
「残された選択肢がここしかなかったというわけですね」
そのために人族は異世界から勇者(魔族に匹敵するほどの魔力と特殊能力を有している)という強力な助っ人を召喚し、魔王を倒そうとしている。
大体の世界情勢が分かったところでちょうど『コンコン』と扉を叩く音が響いた。
「もう昼か」
イダル先生の言葉に扉の方を振り返ると、ルークさんが立っていた。
どうやら、昼食の時間になり、呼びに来てくれたらしい。
「イダル先生、今日は有難うございました」
「あー、お疲れ様」
「はい、明日もよろしくお願いします」
今日は初日ということで、授業は午前中だけだ。
イダル先生より先に部屋から出る。その際手を振るとイダル先生も手を振り返してくれた。
「どうだった?勉強の方は」
「すごく分かりやすくて楽しかったです」
「そうか、それは良かった」
午後からは再び隣の部屋でルークさんから、ここでのマナーや常識について授業を受けた。
代々魔族はヴェルンシュタイン家が治めていて、先代つまりクシェル様のお父様はまだ健在だが、前回の勇者との戦いで力を半分にされ、限界を感じた先代は10年前に王位を一人息子であるクシェル様に譲った。
この大陸は広く、王家だけで全てをまとめるのは難しく、貴族制を取り入れている。そのため、この国には選挙というものがない。
だからあの時『選挙権』という単語がクシェル様には伝わらなかったのか
本来わたしはなんの地位も力も持たない人間で、さらには魔族からしたら忌まわしい敵種族であるため、ここにいること自体憚られるーーのだが、立場上魔王の客人ということになっているので、立ち居振る舞いは取り敢えず、今のままで良いらしい。
というか、人族とは思えないほど常識的で礼儀正しいと褒められた。
日本の教育に感謝ですね!
にしても、ルークさんの言葉にはたまに棘を感じる。
やっぱりわたし、ルークさんに嫌われているんだな。
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