勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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本来の意味

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 クシェル様のヒートから数日、やっとわたしのアレも終わりやっと!いつも通りの生活が戻ってきた!

 三人一緒の部屋で起きて、一緒にご飯を食べて、授業を受けて、また三人でご飯を食べて一緒に寝る!そんないつも通りの幸せな生活!だったんだけどーー

 授業開始と同時に婚約発表に向けた勉強も始まり、否が応でも婚約発表当日の事を考えさせられる日々。

 勉強の内容はこれといって問題ない。というか、想像していたよりも覚えることが少なくて拍子抜けしたくらいだ。

 この世界の事についての最低限の知識と貴族階級のこと、あとは挨拶の仕方とか今まで習ってきた事の復習みたいなものだった。目新しい知識としては、名前に関するものくらいだ。

 そう!これでやっとクシェル様が名前呼びに拘っていた理由が分かった。

 名前は家名とは違いその人個人を指し示すもので、親から我が子への想いが詰まった産まれて初めての贈り物である。そのためこの世界では、それを軽く扱う、つまり名前を呼び捨てにするというのはその者を軽んじる行為なのだ。逆に呼び捨てを許すという事は、その人との繋がりを認める、自分の心を開くという意味合いがある。なので通常、家族や恋人、友人など親しい者でないと呼び捨てにはしない。

 通常という事は、例外がある。それは立場の違いから来る格付けだ。上の者が下の者を呼び捨てにする。しかし、逆は絶対に許さない。そういった優劣を示すためのものだ。

 魔王様の客人であった時からわたしは、この城でクシェル様の次に立場が上だったらしい。だから、クシェル様はイダル先生をはじめルークさんやメイドさんにわたしを名前で呼ぶ事を許さなかったのだ。周りにわたしの立場を示す為にも、延いてはわたしを守る為に。

 言ってくれればよかったのに。とその話を聞いた時は思ったが、後から考えると、当時その話を聞いていたらわたしは恐縮し切ってクシェル様やジークお兄ちゃんのことを呼び捨てどころか名前ですら呼べなくなっていただろう。クシェル様はそれが分かっていたから、詳しい説明は出来なかったのだ。わたしが自ら自分の立場を悪くしないように。

 と、座学は問題ない。問題はーー

「ダンスって絶対踊らないとダメなんですか」

 なんと、婚約発表が行われるパーティーでは皆んなの前でクシェル様とダンスを踊らないといけないらしいのだ!大勢の人の前に立つだけでも緊張するのに、皆んなに見られながら会場のど真ん中で踊るなんて、考えただけで胃が痛い。

「お二人の仲をアピールする為にも必要でしょうね。そこで、仮初の関係だと勘繰られたら意味ないですから」

 婚約発表に向けての準備が始まると同時にルークさん、サアニャ、イダル先生の三名にこの婚約の目的や経緯の説明が成された。
 これから準備を進めていく上でクシェル様の秘書兼護衛のルークさんは勿論、わたしの身の回りのお世話や教育に携わるサアニャとイダル先生にこの事を偽り続けるのは難しいく、また正直に話した方が色々とやり易いし、この三人なら信頼できると判断したかららしい。

 正直あの護衛の二人みたいに『魔王様にそんな事をさせるなんて』と批判されるかと思ったけど三人とも批判の言葉は勿論、驚きすらしていなかった。流石クシェル様が信頼できると判断した三名だ。クシェル様への理解が凄い。

 そんなサアニャが言うのだ。

「サアニャのおっしゃる通りですね」

 実際これは仮初の婚約だ。魔王様の婚約者という肩書きでわたしを魔族から守るための、形だけの婚約。これが仮初だと、嘘だと見抜かれてしまっては婚約する意味がなくなってしまう。だから二人の仲の良さをどんどんアピールして、相思相愛!熱愛ラブラブ故の婚約である事を知らしめる必要がある!とクシェル様も言ってた。

「そんなに萎縮しなくても良くないか?」
「だ、だって人前に出るってだけで緊張するのに更にはダンスを踊るなんて、しかもクシェル様と!絶対失敗出来ないやつじゃないですか!も、もし失敗したらクシェル様に大恥をかかせる事に……そしてパーティーも台無しにしてこの計画も、これまでのみんなの苦労も水の泡に」
「失敗しても魔王様が上手くフォローしてくれるさ」
「上手くかは分からないですけど、シイナ様が失敗してもあの方が恥だと思うことは絶対にないので安心してください。むしろ喜びそうですよね」
「だな」

 失敗して喜ぶってどういうこと⁈イダル先生も迷うことなく賛同しちゃうし!

『バーーン!!』
「コハーーク!!」
「く、クシェル様っ⁈」

 いきなり勢いよくドアが開けられたかと思ったら、クシェル様が一目散にわたしの元へかけてきた。

「し、心臓に悪いので普通に…」

 特にイダル先生の心臓に悪い!

 イダル先生を見ると顔が引きつり小さく震えていた。

 ホントこんなに怯えるなんてクシェル様はいったい何をしたんだろう。
 聞かない方がいい事だと思うから、あえて聞こうとは思わないけど。

「す、すまない。だ、大丈夫か?」

 さっきまでニッコニコだったのにシュンとしてしまった。

「わたしは大丈夫です。いきなりの事でビックリしただけなので」

 ノックをしてとまでは言わないけど、せめて普通にドアを開けてきて欲しかった。

「そうか……えっと、さっきコハクへのプレゼントが完成してな、一刻も早く渡したくて…すまん」
「プレゼント?」

 クシェル様は長方形の白い箱をポッケから取り出すと両手でわたしに手渡した。
 その箱は黄色のリボンでラッピングされていた。

「ありがとうございます。開けて、良いですか?」

 頷くと少し不安そうにわたしを見るクシェル様。

 ラッピングを外し、箱を開けるとそこには金色の細いチェーンに2~3センチメートル程の卵型の黒い石が付けられたネックレスが入っていた。

「……カッコイイ」

 シンプルなデザインだけど、その石は光の当たり具合でその色合いを変え、まるで様々な色を閉じ込めたような輝きだ。
 宝石に例えるならアレキサンドライトだろうか。

「気に入ってくれたか?」
「はいとても!付けていいですか?」
「勿論!」

 わたしがネックレスを自分で付けようとしたら、クシェル様はそのネックレスを受け取り付けてくれた。

「ありがとうございます」

 クシェル様はうっとりとわたしの首元を見る。

「ま、まさかそれは!」

 イダル先生がいつかと同じ爆弾を見るかのような目でわたしの首元を見る。
 そう、今わたしの左手首にはめられている魔道具を初めてみたときと同じかそれ以上の慌てようである。

「もしかして、これも魔道具?」

 だとしたらこの石はーー魔鉱石?でも色が

「魔道具ではありませんが……」

 サアニャが言っていいものかと言葉に詰まる。
 ますます怖くなってきた。これって受け取らない方がいい感じ⁈
 わたしの手がネックレスに触れるとクシェル様が慌ててわたしの両手を掴む。

「コハクが少しでも生活しやすいようにと思って作ったんだ!他意は、ないとは言い切れないが本来の意味をコハクに強いるわけではない!」
「本来の意味?」

 視線でサアニャに尋ねると説明を続けてくれた。途中クシェル様が止めに入ろうとしたが「ちゃんと知った上で付けたい」と伝えるとわたしの両手を握ったまま説明の補足をしてくれた。


「け、結婚!!」

 この国では結婚の際に、特殊な鉱石に魔力を注ぎ込んで作られた魔力石というお互いの魔力が込められた石を交換し合うとのこと。 
 そして、それを肌身離さず身につける事でお互いだけでなく周りにも既婚者である(相手がいる)事を示すらしい。

 で、クシェル様がくれたネックレスに付いている石はまさにクシェル様の魔力により作られたもので…つまり、これ(ネックレス)を身に付けるということはわたしがクシェル様の妻である事を示す事になってーー

「これがあればコハクにも魔道具が使えるようになると思って…」

 コレを作ろうと決心したのは、クシェル様のご両親に会いに行く前、ジークお兄ちゃんがわたしにブレスレットをプレゼントしてくれたあの時らしく、本当に婚約や結婚のことなど全く意識してなかったらしい。

 つまり、仲の良さをアピールするためのアイテムとかでは無く、純粋にわたしのことを思って作ってくれものだった。

 ーーどうしよう、凄く嬉しい。

「でも、本当に大丈夫なんですか?仮初の婚約者でしか無いわたしなんかが付けて」

 これが常識はずれなのは、サアニャやイダル先生の反応を見れば明らかだ。

「それになんだか未来の、本物の奥さんに悪い気が」

 勿論クシェル様の気持ちは凄く嬉しい。でも、結婚する時に交換する石ってつまり結婚指輪みたいな物でしょ?そんな重要な物妻どころか本当の婚約者でもないわたしなんかが受け取って良いわけがない。

「そ、そんなこと言わないでくれ!コレはコハクのためを思って作ったんだ。他の誰のためでも無い!」
「クシェル様…」
「でも魔道具を使う為だけなら魔鉱石でも良いはずなんです。むしろ魔鉱石の方が効率が良い。魔力石は込められた属性の魔法しか使えないのに対し、魔鉱石は全ての魔道具に対応できますから」
「そう、だね。確かに……」

 サアニャの鋭い指摘にその場の誰もがサアニャを見る。

「っ……確かにお前のいう通り、魔道具を動かすためなら魔鉱石で十分だ。しかし、それでは俺の気が済まない!コハクには一から手作りした物を送りたかったし、何より俺の魔力がコハクの助けになっているということが重要なんだ!本当にそれだけなんだ!だからコレは単なる俺のわがままで……他の奴らの意見や常識なんてどうでもいい。ただ、ただコハクが嫌、か、そうじゃないかが聞きたい」
「そんなの嫌な訳ないじゃ無いですか!」
「コハク…じゃあ!」
「はい」

 本当に周りの意見や常識を気にする必要がないのなら、遠慮しなくて良いというのなら、わたしはコレをクシェル様が他の誰でもない、わたしのためだけを思って作ってくれたこのネックレスを外したくない。

「後で外せって言っても絶対に外しませんからね!」

 クシェル様の言葉を信じて、わたしもわがままを言ってみる。するとクシェル様は「ありがとう」とわたしを抱きしめてくれた。

「本当によろしいのですか?」
「うん。誰かの迷惑になるわけじゃないなら……外したくない」
「シイナ様がそれで良いのなら…すみません出過ぎたことを申しました」
「え⁈そ、そんなことないよ!わたしこそごめん。せっかく心配してくれたのに、でも、そのおかげで本当のことが知れて今すっごく嬉しい!ありがとうサアニャ」

 本来の意味を知ったからこそ、このネックレスに込められたクシェル様の気持ちが分かる。常識なんかよりわたしを優先してくれたクシェル様の気持ちが、手作りを送りたいというクシェル様の気持ちが、何より、この石にはクシェル様の魔力が込められているということが知れて良かった。最初にもらった時より何倍も何倍も嬉しい!

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