勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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嘘でもカッコいいとは言えない

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「クシェル急にどうした!何かあったのか?」
「いや、なに少し驚かしてやろうと思ってな。なぁコハク」
「コハク⁈」
「えと、お、お邪魔します?」

 昼食後クシェル様に「見せたいものがある」と言われ手を引かれるまま着いて来たら、目的地はジークお兄ちゃんの職場でもある、訓練場だった。

 訓練場に着くや否や近くにいた騎士さんが慌ててクシェル様の元にやって来て「ま、魔王様自らおいでとはな、何がございましたか⁈」と戦々恐々としていた。それに「ちょっと場所を借りたくてな、あ、驚かせたいからジークには何も伝えるなよ」と答えジークお兄ちゃんの居場所を聞いたクシェル様はわたしを後ろに隠すようにして、ジークお兄ちゃんがいる団長室の扉を叩いた。

 で、冒頭に戻るのだがーー


「来るなら事前に教えてくれ…」
「いやー、こっちの方が喜ぶかなぁと」
「た、確かに思いがけない訪問に驚きつつ喜びはしたが……コハクが来ると分かっていたらもっときちんとした格好でだな、あ!へ、部屋もいつもはこんなに散らかってないんだぞ!今日はたまたま過去の書類を見返していて!」

 そう言うジークお兄ちゃんの服装は朝と違い、上着のボタンは全て開けられシャツのボタンも上から三つ目まで開けられていて、鎖骨は勿論鍛え抜かれた逞しい胸筋がチラリと存在を主張していた。

 今までシャツのボタンは勿論上着のボタンも一番上までしっかり閉められた騎士服姿しか見たことなかったからなんか新鮮だ。いつもと違うその着崩された姿に男らしさを感じて、思わずそこに目がいってしまう。

「コハク?」
「え、あ!すみませんジロジロ見たりして」

 ジークお兄ちゃんに名前を呼ばれて慌ててそこから目を逸らす。

「もしかして、コハクはこういうのが好みなのか?」
「いや……ただ男らしくてカッコいいなって『ブチブチブチ!』え!な、何して」
「カッコ良いか?」

 わたしとジークお兄ちゃんが話している横で何かが連続で千切れる音がして、慌てて横を見るとそこにはシャツのボタンが上から半分以上外れ、胸が丸見えのなのにドヤ顔のクシェル様の姿があった。

「え……と」

 何と言ったらいいのか。それはちょっと男らしさとは違う気が、いや、目のやり場に困る?ワイルドですね?服が可哀想?んー今思ってることを素直に言うべきではないことは分かる。

「カッコ良くはないだろ。襲われた後にしか見えん」
「え?」

 ジークお兄ちゃんにバッサリと切られ、迷子の子猫のような目でわたしを見るクシェル様。

「………すみません」

 嘘でもカッコいいとは言えないわたしはそんなクシェル様から目を逸らしてしまった。




「見せたいものってなんですか?」

 あの後クシェル様の着替えを待って、わたし達は訓練場に戻って来ていた。

「フフフ見て驚け!今度こそカッコいいと、じゃなくて、コハクが見たいと言っていたものだ!」
「わたしが?」


 どうやら魔法を見せてくれるらしい。
 訓練場には二人とわたし以外にサアニャと護衛の二人、解説のためにイダル先生が呼ばれ、その他のギャラリーはクシェル様が追い出した。

 護衛の二人はあの日からあからさまにわたしを敵視することはなくなり、グレンさんはあの後「偏見の目で見ていた。悪かったな」と謝ってくれて、話しかけてくれるようになった。

 グレンさんはジークお兄ちゃんに憧れて魔王軍に入ったほど、ジークお兄ちゃんを慕っている。そのため、そんなジークお兄ちゃんに馴れ馴れしくしている素性の知れない女(わたし)を酷く警戒していたらしい。グレンさんがお兄ちゃんを慕っているのは単に力が強いからではない。
 お兄ちゃんはもともと魔王秘書の息子で戦いには無縁で魔力量も多くはなかったらしい。しかし、クシェル様が虐げられているのを見ているうちにクシェル様のために何も出来ない自分を責め、クシェル様を守る為、いつかクシェル様が魔王となった時隣で支えていけるようにと血の滲むような努力を重ね実力で今の魔王軍近衛騎士団団長の座を手にしたらしい。

 その話を聞いてグレンさんはジークお兄ちゃんの生き様に惚れ込んだらしい。
 わたしもグレンさんからその話を聞いた時は泣きそうになってしまった。

 そんな二人の戦う姿が観れるとあってグレンさんはわたし以上に目を輝かせている。

 始める前にイダル先生から軽く魔法について再度説明を受ける。
 魔法には大きく分けて火水風雷光の属性があり、それらに該当しない結界や身体強化などの魔法は総称して無属性魔法と呼ばれている。
 火水風雷は名の通りそれらを操るが、光魔法は光を操るのではなく治癒魔法生命維持に関わる魔法をそう呼んでいる。

 つまり、フレイヤ様はこの光魔法に長けていて、シェーンハイト様は無属性魔法に長けているという事だ。
 クシェル様は光魔法以外は全て使えるが、結界や身体強化はあまり得意ではない。一方ジークお兄ちゃんは水と風が使えて、身体強化が得意だ。
 ちなみにグレンさんは火と風、アレクさんは水と光が少し使える。

 万が一の時のことを考え、クシェル様が防御魔法をかけてくれる。
 あれ?クシェル様は結界魔法が不得意ではなかったか?

「結界と防御って違うものなんですか?」
「結界は条件をつけて薄い壁を作るイメージだ例えば魔王様の部屋みたいに特定のモノ以外を拒んだり敵を閉じ込めたりするのに使う。それに対し防御魔法は対象を魔法、物理攻撃から守るだけだ触れようと思えば触れる事ができる」

 そう言うとイダル先生はわたしの肩に触れた。

「だから防御魔法ではコハクを完全に守ることは出来ない」

 クシェル様は説明を付け足しながらイダル先生を見る。イダル先生は慌てて手を離す。

「つまり、ダメージがない接触は可能という事だ」

 今度はジークお兄ちゃんがわたしの肩に手を置いた。

「な、なるほど」
「さて、説明も大体終わったし、始めるか」

 そういうジークお兄ちゃんは剣を抜く。

「まずは、凍らせる剣だったか…」
「は、はい!」

 ついに見れるんだ!切った相手を凍らせる剣。
 ジークお兄ちゃんはグレンさんに人型の的を設置させる。
 ジークお兄ちゃんが剣をなぞると剣の表面が青く光り、ジークお兄ちゃんに真っ二つにされた的の切り口は見事、凍り付いていた。

「す、すごーい!!ほ、本当に出来るんですね!魔法ってすごい!」

『パチパチパチパチ』

 わたしは興奮して拍手する手に力が入る。

「喜んでくれたようで良かった」

 そして、少し遅れてグレンさんの拍手の音も加わる。

「さすがです団長!!」
「あー、ありがとう」
「よし、次は俺だな!」

 クシェル様はアレクさんに新しい的を用意させる。

「俺は雷の虎だ!」

 クシェル様が空に手をかざすとバチバチと手から電気が発せられ徐々に威力を増していく。
 クシェル様が発せられた雷を操り徐々に虎の形を作っていく。それはとても繊細な作業なのか、クシェル様の眉間にはシワがより、辛そうに見える。

 わたしもしかして、二人に無理なお願いをしてしまった?

「ハァハァ、どうだコハク雷の虎だぞ!」

 雷が虎の形整う頃にはクシェル様の息は上がり、肩で息をしていた。
 その虎はわたしが想像していたより大きかったが、目や口などはなく形だけだ。
 しかし、凄いことに変わりはないし、わたしのために頑張ってくれたのが凄く嬉しかった。

「凄いです!大きくて、カッコイイです!」
「そうか!」

 クシェル様は作った虎を的に走らせ、的を一瞬にして消し炭にした。

「凄い…」
「力の無駄使いだな」

 ボソリとイダル先生が呟いた。

 クシェル様はニコニコのままで、幸いその言葉はクシェル様には聞こえてなかったようだ。良かった。
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