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金髪縦ロール
しおりを挟むクシェル様の目を見て、クシェル様のことだけを考えて、クシェル様に全てを委ねる。するとさっきまでの自分が嘘のように、ダンスを踊れている自分がいて、今、この時間をクシェル様と踊るこの時間をとても楽しいと思えるようになっていた。
「クシェル様、わたし踊れてる」
「あぁ、とても上手だ」
「クシェル様のおかげです!凄い。凄く楽しい!」
クシェル様ともっと踊ってたいと思えるほどに。さっきまであんなに嫌で仕方なかったのにーー
「フフ、俺も楽しいよ。コハクと踊れて、凄く嬉しい」
「わ、わたしも嬉しい!クシェル様と踊れて、クシェル様に喜んでもらえて、褒められて、ずっとわたしのことだけを見てくれててとても嬉しい」
この時思いのままに口にした言葉の意味する事なんて気にもしていなかったわたしは、何故この時クシェル様が一瞬目を見張り息を呑んだのか分からなかった。しかし、それを疑問に思うより前にーー
「俺もだよ」
と微笑むクシェル様の瞳がとても美しく、とても愛しく思えて、それだけで他の全てがどうでも良くなってしまうくらいーー幸せだと思った。
ダンスを踊り終えるとわたしは、クシェル様と共にお偉いさん達との会話に参加ーーすることはなく、『不慣れな場で疲れた』とかなんとか適当な理由をつけて早々に退出した。
本来はわたしもクシェル様の隣に立ってお偉いさん達の言葉に婚約者として毅然とした態度で対応すべきなんだろうけど、わたしにそれは無理だし、わたしがこういう場をあまり得意としていないと知って、配慮してくれたのだ。
これは事前の打ち合わせで決まっていた事で、その時クシェル様は「こんな可愛い姿を他の奴らなんかに見せたくない!減る!」とか言ってたけど、多分その発言もわたしに負い目を感じさせないための配慮だったのだろう。
わたしのために色々と気を使わせてしまって申し訳ない……
でも、正直こういう大勢の前で何かしたり、他人からの評価を気にしないといけない場面は本当に苦手だから、今回は有り難くそのご厚意に甘えさせてもらった。
「お疲れ様でしたシイナ様。とてもお綺麗でしたよ」
入場して来たのとは別の、会場横の扉から出るとすぐそこでサアニャが待ってくれていた。
「あ、ありがとう。サアニャ」
「その邪魔そうな大きいリボンとかよく似合ってると思うぞ、ガキっぽくて」
せっかくサアニャが褒めてくれたのに、後ろからグレンさんが茶々を入れて来る。
フレイヤ様から注意を受けた日を境にグレンさんは少しずつ話をしてくれるようになって、あの模擬戦後辺りからはその頻度も増えこうやって気軽に話しかけてくれるようになった、んだけどーー
その話題は相変わらずわたしを馬鹿にするようなものが多い。
「それ、褒めてるつもりですか?」
「あ゛?褒めてんだろ?そんなん着こなせんのコイツ…シイナ、様くらいだって」
サアニャの指摘に眉間に皺を寄せ、不服そうに答えるグレンさん。
ーーほ、褒めてたんだ。
もしかしたら、グレンさんは嘘が付けないタイプなのかもしれない。思ったことがすぐに口に出るだけで、きっと本人に悪気はないんだ。
そう思うとーー
「ありがとうございます。グレンさんって本当は優しい人なんですね」
「あ?」
最初のこともあって、話しづらいだろうに今みたいに積極的にわたしに話しかけて来てくれるし、今も頑張って誉めようとしてくれたんだ。
「ちなみにですが、優しい騎士さんが褒めたその邪魔そうでガキっぽいリボンを付けようと提案したのは、グランツ様ですよ」
「っえ゛⁈」
褒めてくれたリボンはジークお兄ちゃんの案だとサアニャが伝えると、嫌そうに眉を寄せる。
あれ?褒めて、くれたんだよね?なんで嫌そうなの?
「ちょっとそこの貴女!」
会場を出て、サアニャ達と喋りながら廊下を歩いていると突然後ろから女の人の声が飛んできた。
すぐに立ち止まり後ろを振り向く。と、護衛の二人の更に後方に、真っ赤なドレスを着た金髪のザ・お嬢様!な見た目の人が一人立っていた。
「……金髪縦ロール」
護衛の二人は剣の柄に手を掛け、一触即発の雰囲気だが、それよりもわたしは彼女の姿形の方がどうしても気になってしまった。
漫画やアニメで気の強い令嬢として、よく出て来るキャラの特徴をこれでもかと集約させたようなその見た目に、恐怖や不安よりも何故か感動にも似た感情が湧き上がる。
「実在したんだ…」
腰の辺りまで伸ばされた見事な金髪縦ロールにキリッと吊り目気味の青い瞳、真っ赤な口紅に大振りのイヤリングやネックレス、真っ赤で大きく胸元の開いた大人なデザインのドレス、そしてそれを着こなす大人な体型ーーまさに悪役令嬢そのものだ!
「何を呆けてらっしゃいますの!この私が話しかけて差し上げてますのよ、お礼の一つもいえませんの?」
「す、すみま……お、お礼⁈」
呆けていたのは事実で、そのせいで返答が遅れたのは申し訳なく思う。しかし、話しかけてもらえることに頭を下げろとはあまりに横暴だ。
「たかが人族の分際でこの私と言葉を交わせているのよ、有り難く思いなさい」
そう言って扇子で口元を隠した令嬢は、わたしをまるで汚いものでも見るかのように目を顰め、見下して来た。
あぁ、またこの目か……
せっかくさっきまで楽しく幸せな気分だったのに、一気に気分が沈む。
初対面の誰とも分からない人に突然話しかけられて、有り難く思えと言われても思えるはずもなく……。
「シイナ様、取り敢えず場所を移動しませんか?ここではいつ誰が来るとも限りませんし」
「そ、そうだね」
嘘でも「ありがとう」なんて言いたくなかったわたしは、サアニャの耳打ちに頷き、話を逸らした。
「た、立ち話もなんですし、何処か座れるところで話しませんか?」
どうせ言われることなんて分かりきってる。この人の目と態度を見れば明らかだ。でもそれを聞かないとこの人は帰ってくれないだろうしーーこの件を大事にはしたくない。
二人が知ればきっと、悲しむからーー
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