邪悪な血脈 サイコに抗いサイコに寄り添いサイコに生きる

庭 京介

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プロローグ

自覚なき孤独

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「ねえ、俺職場の同僚達から空気が読めないとか、冗談が通じないとか言われるんだけど、どう思う?」
(確かに、同僚の言う通りだな。お前は典型的なアスペだ。さっきから流れも脈絡も度外視した会話を繰り返している。多分職場の同僚に的外れで場違いな会話をぶつけて面食らわせたり呆れられたりしているんだろうな。一回二回ならユニークなやつで済ませられても、毎回となるとそうもいかないだろう。人が離れ孤立することになる。異常という意味においては、お前も俺も変わりはないが、中身は大違いだ。こいつは自分の異常さに気付いてないが、俺は全て分かっている。そして、その異常さを隠すことができる。この身体に潜むどす黒い欲望も悪意も。それを自在にコントロールできるのが、俺の非凡なところさ。俺は目先のちっぽけな欲や餌に心を奪われたりはしない。俺の狙いはもっとでかくてゴージャスなものだ。そのためにあらゆる雑念や迷いを捨て去ることができる。俺には自負自身を俯瞰的に冷静に見詰めることができる。それが俺とお前の大きな違いだ。お前は空気も場も読めないだけじゃなくて、相手の心理も感情も読めてない。でも、俺はそんなことは気にしない。俺がお前と付き合っているのは、お前のそんな異常さが気に入ったからだ。友人も仲間もいない孤立したお前だからだ。だから、いいんだ、そのままのお前で)
「そんなことないよ。話は簡潔で分かりやすいしユーモアだってある。話のテンポもいい。そんな批判を口にするやつの気が知れないね」
(そうそうそれでいい。予想通り、お前の顔にはち切れんばかりの笑み。俺の過分なる誉め言葉はそのまんま言葉通りに伝わったようだな。こいつは、お世辞も社交辞令も嘘八百も混じりっけ無しの本音も、全く区別がつかないらしい)
「やっぱりそうだよな。分かる人には分かるんだな。おかしいのは俺じゃなくて職場のやつらだよな。だって俺さあ、中学高校とクラスで三番以下に落ちたことないんだぜ。大学だって国立だ。あいつら全員高卒なんだよ。俺、店の商品の場所なんて3日で全部覚えたし、値段だって正確に頭に入ってる。店でそんなことできるの俺だけだ」
(それがどうした。中学高校時代のお勉強の成績のよさにすがってる内は、お前の上がり目はないよ。中学高校時代はちょっと変わっているがお勉強ができる子、それが社会にでたら、お勉強できるが抜け落ちて、残ったのはちょっとが抜けた変わった人。面倒臭いからという理由で誰にも相手にされない、それが今のお前の立ち位置だ)
「それは凄いね。きっと彼らは君の才能に嫉妬してるだけだよ」
「そうだよな。やっぱり君は分かってる。君に相談してよかった」
(お前、俺の発言が薄っぺらな美辞麗句で塗り固められていることなど塵ほども感じてないんだろうな。精々今の内気持ちよがってな)
「俺が見込んだ通りだ。俺の良さが分かってくれるのは君だけだ。俺達、ずっと友達だよな。これからずっと」
「当たり前だよ。死ぬまで友達だ。そう・・・・死ぬまで」
       *
 女性店員が注文したチーズケーキをテーブルに置いた。と同時に、尖った声が飛んだ
「紅茶はどうしたのよ?」
 店員は冷静に切り返す。
「紅茶のご注文は承っておりませんが」
 更に、声が尖る。
「あなたね、チーズケーキに紅茶って当たり前じゃないのよ。気が利かないのね」
 店員は一瞬ムッとした表情を浮かべたが、申し訳ありません。直ぐにお持ちします、と頭を下げた。
(ウーン、いいね。この筋金入りの自己チュー振りは。俺が見込んだ通りだ)
 俺の目の前の女は、何事も無かったかのように、俺に視線を転じ笑顔を見せた。
「ねえ、気付いてた?私達のことみんなが注目してる。羨望と憧憬の眼差しね。まあ、私はいつものことだけど。当然よね、これだけのスタイルと美貌だもの。あなたも鼻が高いでしょう?こんなパーフェクトの恋人ができて。私今まで何十人って男から告白されたけど、私に相応しい男なんて一人もいなかった。でも、あなたは合格よ」
(この女はナルだな。そして自分視点でしか考えられない種類の人間だ。自分が誰よりも優秀で自分の思いや発言に露程も間違いがないと信じきっている。他人と衝突したら、自分は正しく悪いのは常に相手。外見も容貌も完璧で常に男達の熱い視線を浴びていると信じている。ただそれは、自己肯定感の低さと自信の無さの裏返しで、そうして突っ張ってないと不安で潰れそうだからだよな。どうして私を振り返ってくれないの?どうして私を無視するの?その思いが過激な自己アピールとなる。だから、この女は人間を遠ざけ孤立の道を歩む中で、そんな承認欲求を満たしてくれる相手や達成感満足感を与えてくれる相手に尻尾を振って接近する。ただ単に美辞麗句や称賛を得て、失い掛けた自信を取り戻したいのだ。極めて扱いやすい女だ。お望み通り気持ちよがらせてやるよ)
「本当だね。周りの男達は貴女の美貌にアホ面して見とれ、次は決まって俺に羨望の視線を向ける。貴女のような理想の女性に認めてもらって、俺は幸せ者だ」
(単純なこの女は、そんな上げ底の見え見えおべっかに一気に天まで舞い上がっていることだろうよ。どうだい?満足か?自己愛モンスター。気持ちよがってられるのも、今の内だ。あんたは俺のこと何も知らないようだが、俺はあんたのことは何でも知ってる。頭のテッペンから足の爪先までな。あんたはどんなにもがこうが、もう俺が仕掛けた蜘蛛の糸から抜け出せない。俺の甘い囁きを受けて躍りながら奈落の底まで突き進むことになるだろう。あんたはもう十二分に堪能したはずだ。次は俺が楽しむ番だ。さあ、一緒にトリップしようぜ。快楽の楽園へ向かって)
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