エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第四十九話『サキュバスの襲撃2』

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 身長は百六十ほどあり、胸と尻が突き出ている。髪は燃えるように赤く、強気な性格を表すように目つきが鋭い。いかにもなサキュバスといった外見の相手だ。

「お前もしや、ルルニアに負けたサキュバスか?」
 そう問いを投げると相手はムグった。

「わ、わたしは負けてない! あれはただ油断しただけ! もう一度やればわたしが勝つに決まってる!」
「角を折られたサキュバスは弱くなるって聞いたが」
「うるさい! お前を喰えばこんなのすぐ治せるわ! そうすればこの前の敗北も帳消しにできる! だからこの子を連れて来たのよ!」

 その言葉でニーチャが指差されるが、反応は微妙だった。

「んー……? 何するんだっけ?」
「あんたの術でそいつと小娘の動きを止めなさい! そうしたら後はわたしが精気を吸うわ! おこぼれはあげるから早くしなさいよ!」
「そうだった。すっかり忘れてた」

 ニーチャは俺から半歩下がり、ペコリと頭を下げた。そして金色の瞳を輝かせ、サキュバスの拘束術を使ってきた。

「ぐっ!? これは……!」

 ルルニアほどの拘束力はないが、今は疲労が酷くて抗えなかった。
 赤髪のサキュバスは苦悶する俺を嗤い、上機嫌な顔で接近してきた。

「あっはははは! あんたもザコザコじゃない!」
「くそ……!」
「よほど大事に味わってたみたいだけど、残りはわたしが食べて殺す! その子が起きてどんな絶望顔を晒すのか、今から楽しみでたまらないわ!」

 焦らすように太ももをまさぐり、俺のズボンを下げようとしてくる。
 ルルニア以外で勃つものかと抵抗の意志を強めた。そんな時だった。

「────貴様、ここで何をしている?」

 唐突に森の奥からガーブランドが現れた。
 赤髪のサキュバスは手を止め、冷や汗を浮かべた。目を何度も瞬かせたかと思うと、ズボンを掴んだ手を高速で震わせる。ニーチャは呑気に欠伸をしていて温度差が凄かった。

「さ、錆びた兜に傷だらけの大剣? あんたまさか……」
 怯えを含んだ声を発し、その名を告げた。

「…………サキュバス殺し」

 最初は聞き間違えかと思った。ガーブランドはリゼットというサキュバスを娶っていたはずだ。他人の空似かと思うが、否定の返事も肯定の返事もなかった。

 ガーブランドが大剣を構えると同時、赤髪のサキュバスは跳び退いた。
 ニーチャに時間を稼ぐように指示するが、キョトンと首が傾げられた。

「時間って稼げるの? どうやる?」
「拘束術でそのデカい男を止めなさい! 早くやるのよ!」
「んー……? よく分かんないけど、やる」

 ニーチャは俺から視線を外し、また瞳を光らせた。するとガーブランドは自分が着ていたボロマントを脱ぎ、ニーチャの視界を切りながら頭に被せた。

「あれ、あれれ? 何も見えない……?」

 混乱しながら手足をパタつかせ、近くの木に激突した。絶好の機会だが追撃を加えず、ガーブランドは逃げた赤髪のサキュバスを追った。

「ひっ!? な、何でその娘を置いてこっちに来るのよ!」
「貴様は人食いであろう。生かしておく道理がない」
「何よ! サキュバスを殺して回る異常者のくせに!」

 片角のせいか赤髪のサキュバスは飛べず、一分と経たず捕まりそうな勢いだった。

「お前の仲間が殺されそうだけどいいのか?」
 俺は地面に倒れたままもがいているニーチャに声を掛けた。頭に被さっているボロマントをどけてやると、プアッと息を吐いて返事をした。

「んー、よく分かんない」
「仲間じゃないのか?」
「微妙、美味しい食事あるって言うから来ただけ」

 どうもニーチャは体よく利用されただけらしい。放置するのも何なので手を縛っていいか聞くと、大人しく両手を差し出してくれた。素直過ぎではなかろうか。

「これ従ったら美味しい食事くれる?」
 できる、とは口が裂けても言えなかった。ルルニアがいるのに他の相手と致すなどごめんだ。

 そんな考えでいると、ニーチャは目をショボショボさせた。
 力を使って疲れたらしく、ボロマントで腕を縛られながら寝た。

「……恐ろしいほど自由な子だな」

 俺は近場に寝かせていたルルニアをニーチャと寄り添う形で横たわらせた。目元に掛かっていた前髪を指でどかし、戦闘痕を辿ってガーブランドたちを追った。
 二人は家の敷地手前の林まで移動していたが、すでに勝負はついていた。赤髪のサキュバスは地面にへたり込んで震え、ガーブランドは高々と大剣を掲げている。

「来たか、こやつはどうする?」
 俺の決定を待つために生かしていたようだ。ここで見逃しても他の人間を襲うだけ、殺す以外の選択肢はない。だが即決は出来なかった。

(……こいつはルルニアが見逃がしたサキュバスだ)

 本人の意見を聞きたかったが、今は眠ってしまっている。
 どうしたものか悩んでいると、林の外から複数人の足音がした。集まってきたのは家の前にいた騎士たちであり、先頭にはロアまでいた。

「────グレイゼル、状況の説明を求めてもいいかな」
 その答えはむしろ俺が知りたかった。
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