エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第五十一話『サキュバスの襲撃4』

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 ロアは部下を整列させ、各所の村に人員配置を行う命令を出した。全員が馬を駆って去ったのを見届けると、俺とガーブランドを見た。そして最後にルルニアへと身体を向けた。

「君はこの村が好きかい?」
「えぇ、グレイゼルがおりますので」
「そうか、それは良かった」

 たったそれだけの会話だったが、腑に落ちたものがあったようだ。ロアは含みのある笑みで馬にまたがり、別れを告げて颯爽と家の敷地から去っていった。

 難所を越えて息をつくと、ルルニアが足元をふらつかせた。
 俺はとっさに腕を伸ばし、転ばぬように背中を支えてやった。

「……すいません、ちょっと体力が限界で」
「よく頑張ったな。ロアたちは完全にいなくなったし、あのサキュバスもどこかに行ったはずだ。後はもう家の中でゆっくり休めばいい」

 足に腕を回してルルニアの身体を抱き上げ、玄関口へと向かった。閉じた扉を肘で開けようとすると、ガーブランドが気を利かせてくれた。

 俺は感謝しつつ中に入ろうとし、一度立ち止まった。
 有耶無耶になる前にサキュバス殺しとは何か質問した。

「ロア様も知っていたところを見るに、あのサキュバスの妄言ではないんですね?」
「事実だ。吾輩はこれまで多くのサキュバスを切り捨ててきた」
「何か理由が? よろしければ教えて下さい」

 ガーブランドは命の恩人であり、同じ志を持つ仲間だ。事情を知ったところで俺に出来ることはないかもしれないが、それでも無知なままではいたくなかった。

「……面白い話ではないぞ」
 言い辛そうにしていたが、さわり部分を話してくれた。

「どうしても許せん奴がおったのだ。そいつを殺そうとする過程で何人ものサキュバスを殺め、サキュバス殺しの名で呼ばれるようになった。それだけのこと」
「許せない相手というのは?」
「強大な力を持ったサキュバスだ。我が妻であるリゼットの死因にも関わっている。吾輩がこの国に来たのもそれが理由よ。今年中に決着をつけるつもりだ」

 目星がついているのか聞くと、沈黙が流れた。

「……あてもなく彷徨ってはおらんが、少し想定外の事態が起きた。しばし準備をする必要があるため、しばらくはここで過ごす気でいる」
「俺も協力します」
「気持ちは嬉しいがその必要はない。頃合いが来れば奴の方から顔を出す。お主は常に大切な者の傍におり、健やかに愛を育んでいればよい」

 そう言い残し、ガーブランドは俺たちの前を去った。


 …………玄関口でグレイゼルと別れ、ガーブランドは家の裏手から森に入った。足取りはどこか重々しく、大剣の柄を握る手には強く力が入っている。

「───まったく、因果なものよな」

 吐き捨てるように呟き、背中に差した大剣を抜いた。厚い茂みと伸びた枝葉をひと薙ぎで払うと、横たわる人影が見えた。もう一人の襲撃者であるニーチャがそこにいた。

「……すぅ、ふぅ……ふみゅ」
 二歩分の間合いに入られても呑気に眠りこけている。ガーブランドは大剣の切っ先をニーチャの真上に置き、一振りで両腕を縛っていたボロマントを裂いた。

「おー……?」

 突然の衝撃にニーチャは目を覚まし、大きなあくびをした。
 右に左と視線を彷徨わせ、首元に突きつけられた大剣を見た。

「おじさん、これなぁに?」
「お主の同族を屠ってきた刃だ。見たところ人を喰った経験は無いようだが、いつまでも空腹に抗えるものではない。返答次第ではここで始末する」
「しまつ? 死ぬってこと?」

 その問いにガーブランドは頷いた。
 一寸先の死を突きつけられてもニーチャは動じず、刃こぼれした刃を指でつついた。その目に恐怖の色は無く、あろうことか刃の腹に額を乗せて穏やかな目をした。

「……冷たぁい。死ぬって気持ち良いね」
 ガーブランドは肩の力を抜き、一度大剣を引いた。

「ここで吾輩がお主を見逃がしたとしよう。さぁ自由を手にしたお主はどうする? 一緒にいたドーラとかいうサキュバスを追うか?」
「追ったら、どうする?」
「質問を質問で返すでない。吾輩が聞いているのはお主の選択だ。それによってこの手に持った切っ先をどうするか決める。答えよ」

 明確な解答がある問いかけではなかった。
 追うと言うなら切る。逃げると言っても切る。人間に害を成すならばどちらも同じこと、情け容赦なく始末をつける。それでも選択を迫ったのは、第三の道を選ぶことを期待したからだ。

「んー……、じゃああの二人のところ行ってみたい」
「あの二人?」
「うん、人間とサキュバスなのに仲良しだった。こうおんぶしてた。お母さんはただの食料って言ってたけど、たぶん違った。ニーチャ、仲良しの理由知りたい」

 無垢な瞳で見上げられ、ガーブランドは長く黙した。
 大剣を背中に差し戻し、林の先の陽だまりを指で差した。

「そこを抜けた先に一軒家がある。興味があるなら行くが良かろう」
「いいの?」
「見逃すわけではない。もしあの二人がお主を拒絶するならば、人目につかぬところで始末をつける。いわば執行猶予のような措置だ」

 冷徹に告げるが、ニーチャは明るい顔で立ち上がった。危うげだが元気な足取りで走り出し、陽だまりの手前で足を止めて振り返った。

「────ありがとう、おじさん!」
 ブンブンと振られた手に応じかけ、途中まで上げた腕を下ろした。ガーブランドは大木の影に足を踏み入れ、光の先で起きる出来事を静かに見届けた。
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