エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

文字の大きさ
90 / 170

第九十話『女神の国8』

しおりを挟む
 ドラゴンの登場で戦況は劣勢へと引き戻された。ガーブランドとニーチャの力を持ってしても足止めは叶わず、着実に村へと接近される。到達は時間の問題だった。

「────ゴゥルゴォォォォ!!!」
「────おおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ガーブランドは石の礫の息吹を避け、重い斬撃を足に当てた。だが堅牢な甲殻は砕けず、足踏みで潰されかける。間合いを見計らって立ち回っていると、背後から笛の音が鳴った。

「おじさ……助け……てっ」

 ニーチャは植物型の魔物に襲われ、ツタで身体を絡め取られていた。
 ガーブランドは一直線に駆け、縦方向の回転切りでツタを切り裂いた。
 ケホケホとむせるニーチャを小脇に抱え、一目散に村を目指して逃げた。

「だいぶ身体が縮んだな。よくぞここまで持ちこたえた」
「ま、まだがんばれるよ! もっとおじさんの力に、なれる!」
「まだ、はもう危険なのだ。どちらにせよ吾輩ではドラゴンを抑えることはできぬ、村の状況も気掛かりであるため、一度防衛線まで後退するぞ」

 進路上にいる魔物を足蹴にし、二人は防衛線があった場所まで移動する。すでにそこに人はいなく、魔物の群れは村の囲いの目前にまで歩を進めていた。

「────全員、武器を持って! 今度は私たちが騎士様の盾になるわよ!」
 ミーレの声に従い、武装した村人が前に出る。
 
「く、来るならきやがれ! 痛い目見せてやっど!」
「おぉ! ここはおらたちの故郷だぁ!」
「家族に近づいてみろ! 一匹残らず殺してやる!」

 一箇所二箇所と村の囲いが壊れ、魔物が続々と侵入する。村人は槍や農具を振り回し、一秒でも多く時間を稼ごうと食い下がる。そこにガーブランドとニーチャが到着した。

 今まさに喰い殺さかけていた村人を助け、最終防衛線となる広場への撤退を指示した。ニーチャは身をよじって腕から抜け出し、路地の物陰に隠れながら瞳の拘束術を使った。

「ニーチャちゃん……」
「ミーレ、よくがんばった」
「……ごめん。必ず助けに来るから!」

 村人は声を掛け合い、負傷した騎士を連れて大通りから去った。
 屋根を伝って蛇の魔物が近づくが、ニーチャは接近に気づかない。
 うなじを噛まれそうになった瞬間、ロアが剣の刺突で喉奥を刺した。

「……怪我はないかい?」
「ロア、傷だらけ。大丈夫?」
「この程度、何てことはないさ」

 返り血のついた兜を脱ぎ捨て、ロアはニーチャを護衛した。死角から来た三体のゴブリンを切り捨て、二匹の獣の魔物を切り殺した。すでに息は絶え絶えで手は震えていた。

「…………ふがいないっ! たったの二時間、それしか戦線を維持できないのか僕は! こんな無様を晒して、何が騎士だ王族だ!」
 無力さで奥歯を噛みしめ、それでもめげずに戦い続けた。
 
 三人がかりで大通りを守るが、魔物の群れは四方八方から押し寄せる。息つく暇もなくドラゴンが村の敷地に到達し、広場を狙う。誰もが生存を諦めかけた時、群れの動きが止まった。

「やっと来たか、よほど充実した夜を過ごしたと見える」

 ガーブランドの言葉を受け、ロアとニーチャが顔を上げた。
 月明かりを背に浮かんでいるのは、四枚の白い翼を生やしたルルニアだ。全身を巡る力の波動は空間を蜃気楼のように歪ませ、存在の異様さでこの場すべての視線を釘付けにする。

「────私の不在のうちに、ずいぶん好き放題やってくれましたね?」

 殺意のこもった声に魔物の群れは身をすくませる。ドラゴンすら警戒態勢に入って石の礫の発射を中断した。ルルニアは大通りに降り立ち、歩きながら手を指揮者のように振った。

「ギ? ギ、ギャ…………ァ」
「ガゲ、ガギゴ……グゲ…………ォ」
「ゴルガッ、ゴゲ…………ェ」

 横を通過しただけで魔物が順に倒れ伏す。最初は寝息を立てるのみだったが、二度目の腕の振るいで息の根が止まる。その光景を見て離れた位置の魔物が逃げ出すが、瞳の輝きに捕らわれた。

 登場からものの数分で村内部の魔物が九割がた死に絶えた。脅威を退けようと石の礫が放たれるが、一発たりとも当たらない。正確には命中の瞬間に礫が身体を『透過するように』すり抜けた。

「どこを撃っているんですか? 私はここですよ?」

 翼でふわりと浮かび、瞬速でドラゴンの鼻先へと飛ぶ。すぐに嚙みつきの攻撃がくるが、これも身体をすり抜けて当たらなかった。それは何故か、

 ドラゴンはルルニアの術に惑わされ、意識を半分眠らされていた。瞳に映るルルニアは淫夢の応用で生み出した幻影であり、実体は甲羅の背にいた。

「初めてはグレイゼルに試しましたが、大物相手でも効果ありですね」
 ルルニアは邪悪な笑みを浮かべ、追加で幻影を見せた。

「──この術、格上相手では効果が無いんですよね」
「──でもそれが効いたってことは、答えは一つです」
「──あなたは私より弱い、それを証明して差し上げます」

 ドラゴンの視界にルルニアの幻影が十体映る。幻影たちは村の外へ移動していき、ドラゴンもその後を追う。狙いを定めて石の礫を撃つが、着弾地点には無数の魔物がいた。

「ギ!? ギガギガッ!」
「────ゴルォ!! ゴルオォォォォォォォ!!!」
「グゲッガ!? ゴッ!!?」

 朦朧とした意識のドラゴンの耳に魔物の絶叫は届かない。早く敵を殺さねばと足踏みをし、逃げ惑う魔物を殺し尽くしていく。森に逃げようとする魔物もいたが、それはルルニアが眠らせて殺した。

「さて、ここまで減らせば十分でしょうか」

 ルルニアは正気を失ったドラゴンの後頭部に抱きつき、魔力を一気に流し込んだ。するとドラゴンは絶叫を上げ、陰茎を勃起させて動きを止めた。

 身の昂ぶりを静めようとするドラゴンの元に駆け込んできたのは、馬にまたがったガーブランドだ。屍を踏み越えて前へ前へと進み、馬上から跳んだ。

「────化け物が、死にさらせぇぇぇぇ!!!」

 刃で露出した陰茎の根元を断ち、大量の血を噴出させた。
 ドラゴンは夜の闇を裂く断末魔を上げ、暴れ狂ったのちに死んだ。

 戦いの音が消え去り、広場にいた者たちが動き出す。荒れ果てた村の景色の先には、月明りを浴びて滞空するルルニアがいた。騎士も村人も膝をついて首を垂れ、「女神様」と涙混じりに祈りを捧げた。

「…………死者はいませんか。村は酷い有様ですが、まぁ上出来ですね」
 村の上空を飛び、信仰を捧げるべき相手が誰か見せつける。

「あなた方は私の信徒、今後も大事に騙して守って差し上げます」
 女神の正体が魔物などと、そんな疑いを抱く者はいない。

「────さぁ、今日が女神の国の神話の始まりです」
 長い長い戦いの夜が、ここに幕を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...