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第百二十四話『邂逅5』
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玄関口へと歩き出すガーブランドをニーチャが慌てて追いかけた。揺れる右腕に全力で抱き着き、引きずられてでも引き止めようとした。
「離せ、ニーチャ。吾輩が出張ればそのトリエルというサキュバスは出てくるのであろう。ならばここに留まる理由はない」
「まだ皆でお話し、してない。それが終わってからで、いい!」
「本当にリゼットの魂を宿したサキュバスか、見極めねばならんのだ。ここまで言っても離さぬなら、手荒な真似をするぞ」
ガーブランドは左手を持ち上げ、拳を作った。だがニーチャは右腕から手を離さず、目をキツく閉じて殴打を受ける構えに入った。
廊下に沈黙が流れ、ガーブランドはため息をついた。薄目を開けたニーチャの頭を撫で、壁に寄り掛かって話を聞く姿勢を取った。
「…………確かに作戦を立てる前に動くのは早計だったな。話がまとまるまではここにいるとしよう。それなら良いな、ニーチャ」
ニーチャはホッと息をつき、床にへたれ込んだ。謝罪と共に差し伸べられた手を取らず、翼を生やしてガーブランドの首に抱き着いた。
「おじさん、怖かった。抱き着かせてくれなきゃ、許さない」
むむ、と唸ってガーブランドは抱擁を受け入れた。
プレステスの方に視線を戻すが、状況は変わっていなかった。ルルニアのなだめにも反応せず、未だ荷物の隙間に顔を突っ込んだままだった。
「困りましたね。プレステスには聞きたいことがあったんですが」
「……前みたいに淫紋を介して快楽を打ち込むのはどうだ?」
「もうやりました。ですが怯えが上回っているようで効果なしです。もっと強い刺激を与えて気を紛らわすことができれば何とかなりそうですが……」
俺からも声を掛けるが、半狂乱な返事がくるだけだ。強引に引き剥がすわけにもいかず手をこまねていると、ルルニアはとても嫌そうに言った。
「緊急事態ですし、あなたの精気を流し込みましょう。足……は個人的に嫌ですし、尻……は浮気になるからなしですし、背中でお願いします」
俺はプレステスの背中に手を添え、闘気を送り込んだ。すると少しずつ震えが治まっていき、腰がピクピクと跳ねた。精気の量を増やすとすすり泣きが止まり、艶のある声が聞こえた。
「うぅ……ひぐ、く……ぅぅん♡ えぐっ……ぇう、んにゃぅ♡♡ そ、そんなのされても嫌で、あぅ♡♡ わたし出ませ……ふぇぇぇう♡♡」
快感が怯えを上回るが、それでも出てこなかった。時間もないので背中をさすってやると、プレステスは身体を大きくのけ反らせた。
今ので軽めに絶頂したらしく、下着が愛液で濡れていた。ようやく引っ張り出されてくれるが、そこで第二の試練が立ちはだかった。
「プ・レ・ス・テ・ス? あなたもしかして、途中から怯えているフリをしてグレイゼルの精気を味わってませんでしたか?」
「し、しししし、してません! 不可抗力です! 不慮の事故でぇぇす!!」
「今はそういうことにしておきましょう。私たちの手を煩わせたこと含め、今回は大いに働いてもらいますよ。いいですね?」
「ひゃひぃ!? 頑張ります! 奥様のために身を粉にして働きまぁす!!」
床に頭を擦りつけて謝罪するプレステスを見つつ、気持ちを切り替えた。食堂に移動する手間も惜しかったため、廊下で作戦会議を行った。
真っ先にクレアの名が議題にあがるが、こちらはルルニアが対処を行うことになった。まだ聞きたい話があるらしく、一対一で会うと言った。
「何があっても要求を受け入れることはないと約束します。酒場では久しぶりの再会なのもあって動揺しましたが、もう迷いません」
「説得に応じなかった場合はどうする?」
「できる限り拘束を狙いますが、それが叶わないようなら殺します。アストロアスの女神になる道を選んだ以上、覚悟はしていました」
次にトリエルの名が議題に上がり、ガーブランドがニーチャを床に降ろしながら答えた。相当な激戦が予想されるため、断崖で接敵を待つと言った。
「わざわざ槍を愛用しているということは、リゼットの技を高い精度で模倣できるのであろう。全力で迎え討たねば吾輩の方が負ける」
「リゼットさんの魂を宿しているというなら、それを呼び起こすことはできないんですか。上手くいけばガーブランドさんの望みも……」
「それが可能ならとっくにやっているはずだ。トリエルとやらは相当に強力なサキュバスなのであろう。うろんな望みを抱く気はない」
それに、と前置きしてガーブランドは語った。バーレスクの一件があった以上、リゼットが自らの死因である乗っ取りを他者にすることはないと言った。
「……刻印が反応しないことが気掛かりだが、それは後でよかろう」
ニーチャが一緒に戦うと言うが、それを叶えさせてやることはできなかった。クレアとトリエルの他、八人の下っ端サキュバスが控えている。
「……こういう時にロアがいてくれれば助かったんだがな」
今朝の野盗騒動もあり、アストロアス全域には警備が敷かれている。だがいくら下っ端といえど相手は強力な力を持ったサキュバス、武装した騎士であっても勝ち目は薄い。
被害を抑える方法がないか聞くと、ガーブランドは先手必勝と答えた。何かされる前に危険の芽を摘めば、被害そのものが起きない。だがそれには敵の配置情報が必要だった。
「たぶんですが、そこは何とかなりますよ。幸運にも私たちの中には、誰よりも探知能力に長けた優秀な戦力がいますから」
答えは言うまでもなかった。
全員から視線を向けられ、プレステスはポカンとした。
「────さっき身を粉にして働くと言いましたよね? この戦いを勝利に導くのはあなた、第二の天使であるプレステス・フォルライアです」
「離せ、ニーチャ。吾輩が出張ればそのトリエルというサキュバスは出てくるのであろう。ならばここに留まる理由はない」
「まだ皆でお話し、してない。それが終わってからで、いい!」
「本当にリゼットの魂を宿したサキュバスか、見極めねばならんのだ。ここまで言っても離さぬなら、手荒な真似をするぞ」
ガーブランドは左手を持ち上げ、拳を作った。だがニーチャは右腕から手を離さず、目をキツく閉じて殴打を受ける構えに入った。
廊下に沈黙が流れ、ガーブランドはため息をついた。薄目を開けたニーチャの頭を撫で、壁に寄り掛かって話を聞く姿勢を取った。
「…………確かに作戦を立てる前に動くのは早計だったな。話がまとまるまではここにいるとしよう。それなら良いな、ニーチャ」
ニーチャはホッと息をつき、床にへたれ込んだ。謝罪と共に差し伸べられた手を取らず、翼を生やしてガーブランドの首に抱き着いた。
「おじさん、怖かった。抱き着かせてくれなきゃ、許さない」
むむ、と唸ってガーブランドは抱擁を受け入れた。
プレステスの方に視線を戻すが、状況は変わっていなかった。ルルニアのなだめにも反応せず、未だ荷物の隙間に顔を突っ込んだままだった。
「困りましたね。プレステスには聞きたいことがあったんですが」
「……前みたいに淫紋を介して快楽を打ち込むのはどうだ?」
「もうやりました。ですが怯えが上回っているようで効果なしです。もっと強い刺激を与えて気を紛らわすことができれば何とかなりそうですが……」
俺からも声を掛けるが、半狂乱な返事がくるだけだ。強引に引き剥がすわけにもいかず手をこまねていると、ルルニアはとても嫌そうに言った。
「緊急事態ですし、あなたの精気を流し込みましょう。足……は個人的に嫌ですし、尻……は浮気になるからなしですし、背中でお願いします」
俺はプレステスの背中に手を添え、闘気を送り込んだ。すると少しずつ震えが治まっていき、腰がピクピクと跳ねた。精気の量を増やすとすすり泣きが止まり、艶のある声が聞こえた。
「うぅ……ひぐ、く……ぅぅん♡ えぐっ……ぇう、んにゃぅ♡♡ そ、そんなのされても嫌で、あぅ♡♡ わたし出ませ……ふぇぇぇう♡♡」
快感が怯えを上回るが、それでも出てこなかった。時間もないので背中をさすってやると、プレステスは身体を大きくのけ反らせた。
今ので軽めに絶頂したらしく、下着が愛液で濡れていた。ようやく引っ張り出されてくれるが、そこで第二の試練が立ちはだかった。
「プ・レ・ス・テ・ス? あなたもしかして、途中から怯えているフリをしてグレイゼルの精気を味わってませんでしたか?」
「し、しししし、してません! 不可抗力です! 不慮の事故でぇぇす!!」
「今はそういうことにしておきましょう。私たちの手を煩わせたこと含め、今回は大いに働いてもらいますよ。いいですね?」
「ひゃひぃ!? 頑張ります! 奥様のために身を粉にして働きまぁす!!」
床に頭を擦りつけて謝罪するプレステスを見つつ、気持ちを切り替えた。食堂に移動する手間も惜しかったため、廊下で作戦会議を行った。
真っ先にクレアの名が議題にあがるが、こちらはルルニアが対処を行うことになった。まだ聞きたい話があるらしく、一対一で会うと言った。
「何があっても要求を受け入れることはないと約束します。酒場では久しぶりの再会なのもあって動揺しましたが、もう迷いません」
「説得に応じなかった場合はどうする?」
「できる限り拘束を狙いますが、それが叶わないようなら殺します。アストロアスの女神になる道を選んだ以上、覚悟はしていました」
次にトリエルの名が議題に上がり、ガーブランドがニーチャを床に降ろしながら答えた。相当な激戦が予想されるため、断崖で接敵を待つと言った。
「わざわざ槍を愛用しているということは、リゼットの技を高い精度で模倣できるのであろう。全力で迎え討たねば吾輩の方が負ける」
「リゼットさんの魂を宿しているというなら、それを呼び起こすことはできないんですか。上手くいけばガーブランドさんの望みも……」
「それが可能ならとっくにやっているはずだ。トリエルとやらは相当に強力なサキュバスなのであろう。うろんな望みを抱く気はない」
それに、と前置きしてガーブランドは語った。バーレスクの一件があった以上、リゼットが自らの死因である乗っ取りを他者にすることはないと言った。
「……刻印が反応しないことが気掛かりだが、それは後でよかろう」
ニーチャが一緒に戦うと言うが、それを叶えさせてやることはできなかった。クレアとトリエルの他、八人の下っ端サキュバスが控えている。
「……こういう時にロアがいてくれれば助かったんだがな」
今朝の野盗騒動もあり、アストロアス全域には警備が敷かれている。だがいくら下っ端といえど相手は強力な力を持ったサキュバス、武装した騎士であっても勝ち目は薄い。
被害を抑える方法がないか聞くと、ガーブランドは先手必勝と答えた。何かされる前に危険の芽を摘めば、被害そのものが起きない。だがそれには敵の配置情報が必要だった。
「たぶんですが、そこは何とかなりますよ。幸運にも私たちの中には、誰よりも探知能力に長けた優秀な戦力がいますから」
答えは言うまでもなかった。
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