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第百三十七話『移り変わる日常3』
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テーブルの上にあったのは見慣れぬ黄色いスープだった。聞けば『コォン』という異国の食材が使われているらしく、壺に入った粒を見せてもらった。
「……色が黄色い以外は普通の種みたいだな」
コォンは夏に収穫できる野菜であり、一つの房に大量の実がつく。生の場合は数日で痛むが、天日干しにすることで長期の保存が可能となる。
お湯で戻した後に細かく刻み、いくつかの食材と混ぜて煮る。港町の市場に売られていたらしく、冬の定番メニューとして出していたそうだ。
「この辺りでは見かけませんでしたが、先日出店に並んでいました。アストロアスが発展したことで販路の拡大がはかられたようです」
「甘い香りだな。砂糖も入ってるのか?」
「これそのものに強い甘みがあるんです。味つけは塩を少々いれたぐらいですが、それなりに美味しく仕上がっていると思いますよ」
席について食前の祈りを捧げると、斜め向かいから視線を感じた。どうやらプレステスがこれを担当したらしく、とても緊張していた。スプーンですくって飲むと、粒々した食感が舌を打った。
「うん、よくできてる。なめらかで甘くて温かくて、寒い季節にぴったりだ」
「よ、良かったです。お、お口に合わなかったらどうしようかと」
「これ美味しい、好き。まだ壺に残ってたけど、明日も作れる?」
「作れはしますが、その前に別の料理を試すつもりです」
見かけたら定期的に買うつもりとルルニアが言い、ニーチャが喜んだ。
「プレステスには調理の補佐をしてもらって、ゆくゆくは家事全般を任せます。今のうちから準備しておけば、動けなくなった後に家を任せられますから」
「は、はい! 頑張ります!」
「あくまで動けない時の話ですので、そう気負うことはありませんよ。もしもプレステスが似たような状況に直面したら、今度は私が助けになりますので」
良さそうな相手が見つかったかと問われ、プレステスは紙の束を取り出した。淫夢を利用しての吸精は今も継続中であり、かなりの枚数となっていた。
「旦那様のような精気を持った方はいないので、どなたを選ぶか悩み中です。お顔や性格より、個人的には性欲が強い人の方が好みではあるんですが……」
現時点では決め手に欠けるそうだ。淫夢の中では天使として振舞っているため、触れ合いには遠慮が混ざる。もっと身を食い合うようなエッチがしたいと語っていた。
「話を聞く限り、まだ処女は捧げていないんですね」
「む、無理です。淫夢の中だから緊張せずいられるだけで、直接顔を合わせたら恥ずかしくなってしまいます。と、当分はこのままでいいです!」
「でもそれならプレステ、どうやって吸精してる?」
「………ひ、秘密です。旦那様もいますので、えと」
テーブルの上に紙の束を広げ、三人であれやこれやと話を続けていった。
俺は黙して皿を片づけていき、サキュバスたちの猥談が終わるのを待った。
その後は四人で家事を分担し、お昼まで自由時間となった。俺は食堂の隅に置いていた薪を暖炉にくべ、棒でつついて火力の調整を行った。するとプレステスが声を掛けてきた。
「あの、旦那様。ちょっと外に出てきます、です」
用件を聞くと、新人サキュバスの様子を見てくると言った。元はクレアの群れにいた子たちであり、話し合いの結果アストロアスに残留を決めてくれた。
つい先日までこの家にいたが、今は中央区画にいる。ミーレに詳しい経緯を説明した結果、『使用人見習い』として屋敷に住み込みで働くことになった。
「使用人のお爺さんが腰を痛めて、働き手を探してて助かったな」
「は、はいです。さすがにこの家に七人は狭かったですので」
「あれはあれで賑やかで良かったけどな。まぁでも、監視の観点からも一箇所にいてくれると助かる。ミーレなら俺たちの事情にも明るいからなおさらだ」
俺は暖炉の前から離れ、服についたススを払った。プレステスは三人が粗相をしてないか不安で仕方ないらしく、山を下りる覚悟を決めたようだった。
「…………ですが、その」
「大通りを一人で歩くのは怖いか」
「…………う、図星です」
「分かった。俺もミーレに用事があったから、一緒に出掛けるか?」
いいのかと聞かれるが、もちろん行くのは俺一人じゃない。ちょうど食堂に入ってきたのは、茶色のコートの上に赤いケープを羽織ったルルニアだった。
「これからミーレの家でマフラー作りをするんだったよな」
「えぇ、プレステスにも言ったはずですが」
「わ、忘れてました。そういえば前に言われたような……」
いっそニーチャも連れて行くべきかと思った。暖炉の火はもったいないが、帰ってきたらまた燃やせばいい。この程度は大した労力でも無いと、そう思った時に閃いた。
「…………そうか、この方法なら」
俺はニーチャに声を掛け、ガーブランドを呼んでもらった。
近くの森で軽く修行をしていたらしく、すぐにきてくれた。
日暮れまで留守を任せたいと言うと、迷わず承諾してくれた。家に入らず玄関先で待つと言われるが、そこは読んでいた。俺は暖炉の火を見て欲しいとお願いした。
「この時期ですし、なるべく家は温かい状態にしておきたいんです」
「……ふむ、そういうことなら仕方あるまい」
「それとこちらの毛布は自由に使ってくれて構いません。お茶もさっき淹れたので、よろしければどうぞ。簡単な食事もテーブルに置いておきますので」
疑問を呈される前にごり押し、食堂内の環境を充実させた。俺とニーチャはしたり顔で拳を打って別れ、ルルニアとプレステスを連れて中央区画へと降りていった。
「……色が黄色い以外は普通の種みたいだな」
コォンは夏に収穫できる野菜であり、一つの房に大量の実がつく。生の場合は数日で痛むが、天日干しにすることで長期の保存が可能となる。
お湯で戻した後に細かく刻み、いくつかの食材と混ぜて煮る。港町の市場に売られていたらしく、冬の定番メニューとして出していたそうだ。
「この辺りでは見かけませんでしたが、先日出店に並んでいました。アストロアスが発展したことで販路の拡大がはかられたようです」
「甘い香りだな。砂糖も入ってるのか?」
「これそのものに強い甘みがあるんです。味つけは塩を少々いれたぐらいですが、それなりに美味しく仕上がっていると思いますよ」
席について食前の祈りを捧げると、斜め向かいから視線を感じた。どうやらプレステスがこれを担当したらしく、とても緊張していた。スプーンですくって飲むと、粒々した食感が舌を打った。
「うん、よくできてる。なめらかで甘くて温かくて、寒い季節にぴったりだ」
「よ、良かったです。お、お口に合わなかったらどうしようかと」
「これ美味しい、好き。まだ壺に残ってたけど、明日も作れる?」
「作れはしますが、その前に別の料理を試すつもりです」
見かけたら定期的に買うつもりとルルニアが言い、ニーチャが喜んだ。
「プレステスには調理の補佐をしてもらって、ゆくゆくは家事全般を任せます。今のうちから準備しておけば、動けなくなった後に家を任せられますから」
「は、はい! 頑張ります!」
「あくまで動けない時の話ですので、そう気負うことはありませんよ。もしもプレステスが似たような状況に直面したら、今度は私が助けになりますので」
良さそうな相手が見つかったかと問われ、プレステスは紙の束を取り出した。淫夢を利用しての吸精は今も継続中であり、かなりの枚数となっていた。
「旦那様のような精気を持った方はいないので、どなたを選ぶか悩み中です。お顔や性格より、個人的には性欲が強い人の方が好みではあるんですが……」
現時点では決め手に欠けるそうだ。淫夢の中では天使として振舞っているため、触れ合いには遠慮が混ざる。もっと身を食い合うようなエッチがしたいと語っていた。
「話を聞く限り、まだ処女は捧げていないんですね」
「む、無理です。淫夢の中だから緊張せずいられるだけで、直接顔を合わせたら恥ずかしくなってしまいます。と、当分はこのままでいいです!」
「でもそれならプレステ、どうやって吸精してる?」
「………ひ、秘密です。旦那様もいますので、えと」
テーブルの上に紙の束を広げ、三人であれやこれやと話を続けていった。
俺は黙して皿を片づけていき、サキュバスたちの猥談が終わるのを待った。
その後は四人で家事を分担し、お昼まで自由時間となった。俺は食堂の隅に置いていた薪を暖炉にくべ、棒でつついて火力の調整を行った。するとプレステスが声を掛けてきた。
「あの、旦那様。ちょっと外に出てきます、です」
用件を聞くと、新人サキュバスの様子を見てくると言った。元はクレアの群れにいた子たちであり、話し合いの結果アストロアスに残留を決めてくれた。
つい先日までこの家にいたが、今は中央区画にいる。ミーレに詳しい経緯を説明した結果、『使用人見習い』として屋敷に住み込みで働くことになった。
「使用人のお爺さんが腰を痛めて、働き手を探してて助かったな」
「は、はいです。さすがにこの家に七人は狭かったですので」
「あれはあれで賑やかで良かったけどな。まぁでも、監視の観点からも一箇所にいてくれると助かる。ミーレなら俺たちの事情にも明るいからなおさらだ」
俺は暖炉の前から離れ、服についたススを払った。プレステスは三人が粗相をしてないか不安で仕方ないらしく、山を下りる覚悟を決めたようだった。
「…………ですが、その」
「大通りを一人で歩くのは怖いか」
「…………う、図星です」
「分かった。俺もミーレに用事があったから、一緒に出掛けるか?」
いいのかと聞かれるが、もちろん行くのは俺一人じゃない。ちょうど食堂に入ってきたのは、茶色のコートの上に赤いケープを羽織ったルルニアだった。
「これからミーレの家でマフラー作りをするんだったよな」
「えぇ、プレステスにも言ったはずですが」
「わ、忘れてました。そういえば前に言われたような……」
いっそニーチャも連れて行くべきかと思った。暖炉の火はもったいないが、帰ってきたらまた燃やせばいい。この程度は大した労力でも無いと、そう思った時に閃いた。
「…………そうか、この方法なら」
俺はニーチャに声を掛け、ガーブランドを呼んでもらった。
近くの森で軽く修行をしていたらしく、すぐにきてくれた。
日暮れまで留守を任せたいと言うと、迷わず承諾してくれた。家に入らず玄関先で待つと言われるが、そこは読んでいた。俺は暖炉の火を見て欲しいとお願いした。
「この時期ですし、なるべく家は温かい状態にしておきたいんです」
「……ふむ、そういうことなら仕方あるまい」
「それとこちらの毛布は自由に使ってくれて構いません。お茶もさっき淹れたので、よろしければどうぞ。簡単な食事もテーブルに置いておきますので」
疑問を呈される前にごり押し、食堂内の環境を充実させた。俺とニーチャはしたり顔で拳を打って別れ、ルルニアとプレステスを連れて中央区画へと降りていった。
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