エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百三十六話『移り変わる日常2』

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 裏庭につくと切り株の上に座るガーブランドを見た。服装はマントと鎖かたびらから黒色のコートに変わっており、豪気さと静謐さを内包した雰囲気が漂っている。

「それ、着てくれたんですね」
「贈り物を無下にできぬしな」
 コートは俺とルルニアからの贈り物だ。

 数日前に起きたクレアの群れとの戦いで深手を負い、絶対安静を言い渡した。だが当の本人は聞く耳を持たず、包帯を巻いたまま修行に出かけてしまった。

 療養のために部屋を貸す提案をしたが、断られた。家が嫌なら納屋を開けると言ったが、これもダメだった。どうにかできないか悩んだ末、コートを贈ることになった。

「おー……、おじさんカッコいい。渋くていい」
「服などどれを着ても変わらぬと思うが」
「そんなことない。もっと他の服、見てみたい」

 喋りながらニーチャが背中に寄り添うが、以前のように困った反応をされることがなくなった。あの夜に仲を進展させる何かがあったようだ。

 離れて二人の会話を眺めていると、木で作られた剣が投げ渡された。ガーブランドは同じ物を片手で持ち、好きに打ち込んでくるように言った。

「時間だ。怪我人とは思わず、全力で攻めてくるがいい」

 いいんですか、とは聞かなかった。俺の技量では闘気込みでも実力不足だからだ。一発当てることを目標として果敢に切り掛かるが、すべて紙一重で回避されてしまった。

「どうした! 踏み込みが甘いぞ!」
「はい!」
「大振りに頼らず、もっと突きを織り交ぜよ!」
「はい!!」

 連撃の速度を上げるが、コートの裾を掠ることすら叶わなかった。
「ん、ニーチャもやる。お兄さん、手伝う」

 途中からニーチャも参戦し、拳と蹴りでガーブランドを追った。殴り掛かりの後に回転蹴りを行い、勢いのまま翼で宙に浮いて踵を打ち下ろした。

 二人で挟み込むように攻撃を繰り出して行くが、結果は変わらなかった。首に胸に腰と木剣の刃をトントンと当てられ、完全敗北で地に伏した。

「むー……、自信あったけど、ダメだった」
「こっちは闘気……使ってるのに、こんなに差……出るんです、ね」
「いくら剣速や威力を上げようとも、愚直な一撃ならば身を引くだけでかわせる。一対一の戦いをする時は、本命とそれ以外を使い分けるがいい」

 息を切らさずに立っている姿を見て、圧倒的な実力差を痛感した。
 同時にガーブランドを傷つけてきた魔物の強さに恐れおののいた。

(……トリエルは別として、あの大蛇は相当強かったんだな。よく人里に降りず大人しくしてたな)

 気を取り直して打ち込みを再開しようとするが、足腰が立たなかった。ガーブランドは休憩を挟むと言い、木剣を置いて切り株に座り直した。

「初日と比べれば見違えるような動きであった。以前言った通りこのまま修行を続けていけば、いずれ吾輩を越えることも不可能ではないはずだ」

 嬉しい言葉ではあったが、『いずれ』ではルルニアを守れなくなる可能性がある。頭を下げて短期間で強くなれる方法がないか聞くと、ガーブランドは短く頷いた。

「────ならば一つ、お主に合った戦い方を試すとしよう」

 それから二時間ほど稽古をつけてもらい、ガーブランドと別れた。家に戻ると玄関先でルルニアが待っており、濡らした布巾で顔の汚れを拭いてくれた。

「窓から様子を見ていましたが、昨日までとはずいぶん変わりましたね。剣の打ち込みは最初だけで、走り込みばかりしていたような」
「修行方法を変えてもらったんだ。せっかく膨大な精気があるんだから、それを十全に活かした戦い方をした方がいいって言われてな」

 俺が行っていたのは往復の走り込みだ。全身に闘気を巡らせて加速し、決められた地点を行ったり来たりする。それをひたすら繰り返した。

 一時間が経過した辺りで木の杭が用意された。中心付近に十字の傷がつけられ、そこ目掛けて木剣の刃を当てるように言われた。終わり際には数回に一回命中させられるようになった。

「剣の刃は添えるだけ、素早く重い一撃で目標を倒す。一から剣技を覚えようとしたら数年掛かるが、これなら半月程度で実戦使用できるらしい」
「ほぼ突進ですしね。確かに技量は必要なさそうです」
「もし一撃で倒せなくても、往復の走り込みの要領で二撃目を繰り出せばいい。それでも倒せない相手だったら、迅速に逃げるべきって言われた」

 一撃ごとに距離を取るため、投げナイフを無理なく使えるという点も俺に合っている。こちらは一発も命中させられなかったが、手ごたえを掴むことはできた。

「お兄さん、頑張ってた。明日からは本物の剣使わせるって、言ってた」
 身体の汗を拭き終わったところでニーチャが戻ってきた。

「朝食だけでも一緒に摂ろうって話、聞き入れてもらえなかったか」
「うん、ダメだった。残念」
「そろそろ雪が降るし、どうにか屋内で暮らして欲しいんだがな……」

 秋も深まってきたのに野宿を続けている。さすがに冬の厳しい寒さは越えられないだろうと言うと、断崖にある洞窟に案内された。世捨て人過ぎる生活様式に絶句した。

「………アストロアス内の家は難民で埋まってるし、どうしたもんかな」

 用意してもらった着替えに袖を通していると、食堂から良い香りが漂ってきた。聞けば今日の朝食はルルニアとプレステスで作ったらしく、楽しみな思いで移動した。
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