エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百五十八話『王都の街並み1』

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 夜のうちに襲撃はなく、無事に朝を迎えた。山あいから朝日が差すのに合わせて騎士団は行動を開始し、予定より一時間早い道程で王都に着いた。

「ったく、長い旅路だったぜ」

 王都の外周には高い壁があり、それが視界の先まで続いている。街道には旅人や馬車による長蛇の列が伸びていて、横を素通りする形で門に向かった。

 騎士団は門番とやり取りし、立ち往生することなく先に進んだ。堅牢な造りな門を越えた先に見えてきたのは、別世界とでも表現するべき世界だった。

「────これが王都、『ベルスフィア』なんですね」

 門前にあった道は放射状に三つ伸びており、正面のものが広かった。狭いものでも他の町の大通りと同等か、それ以上の規模となっていた。

 大半の建物が三階から四階建ての構造で、建材の多くはレンガとなっていた。まるで街そのものが城、とでも表現すべき迫力が感じられた。

(……門を通過する前後でひと悶着あると思ったが、問題なかったな。魔力を流し込む以外に、人を操るための制約があるのか?)
 ヴァンパイアの伝承を思い返していると、フェイが珍しく本を置いた。腰を上げて窓に移動し、大通りを行き交う人々を眺めた。

「……人間にしては大したものですね。……少しだけ評価します」
「ふふ、そう言う割に身体がソワついてますよ」
「……ルルニア様の気のせいです。……わたしは常に平静ですので」

 目に好奇心の光りがあり、説得力がなかった。大通りを進むうちに通りがかったのは、十字路の中心に造られた噴水だ。そこには繊細な造りの彫刻が何体も並んでいた。

「これ以上の街が他所にあるんですか?」
「いや、たぶんベルスフィアが最大だな。この国は他国と比べて魔物の発生件数が少ないから、ここまでの発展ができたって話だ」
「どうして魔物の数が少ないんでしょうか? 人が増えたところに魔物あり、アレスタのように魔物災害が起きてもいいのでは?」
「そこに関しては俺もよく分からないな」

 最も有力な説は『数百年前の天使の加護が今も続いている』というものだ。前日に立ち寄った村の広場にあった石像も、そういった天使信仰を元に建てられている。

(……天使の正体がヴァンパイアだとして目的は何だ? 俺たちを王都にこさせたくないなら本人が出向けばいいだけなのに、道中では散発的な妨害を仕掛けてきた)
 俺は椅子に座り直し、これまでの情報を整理してみた。

(……旅の発端はロアからの手紙だ。記載されていた内容は次期国王になるから帰れないという、誰の目にも不可解な内容だった)
 王城関係者の策謀も疑ったが、その線は消えた。主犯と目されるヴァンパイアはロアを操り、俺たちとの繋がりを断とうとした。

(……何らかの理由でロアは選ばれた。街にいる人間を操っているのは、戦力を増強するためか? あり得そうな話ではあるが……)
 不可解なのは『その必要がない』という点だ。ヴァンパイアは魔物の中でも最上位におり、夜においてはドラゴンを凌ぐ力を持つ。

(……人間に、この街に固執しなければいけない何かが起きた。ヴァンパイアが数百年前の天使と同一人物なら、そこに因果関係が?)
 ヴァンパイアとは千年という悠久の時を生きる怪物だ。存命であってもおかしくはないが、いきなり人を襲い始めた理由が謎だった。

「ヴァンパイアと言えば、傷が異常な速度で回復することも有名だよな。腕や足を切り落としても、瞬時に再生するってのは本当なのか?」
「本当ですよ。私の場合は同族の又聞きですが」
「太陽の光に当たると身を焼かれるってのは?」
「半分嘘です。太陽の光を浴びたヴァンパイアは身を焼かれるのではなく、目に見えて弱体化します。夜に特化した代償とでも言いますか」

 サキュバスの能力が昼に弱まるのと同じ理屈らしい。ヴァンパイアごとにも個人差はあるが、基本は人間と同等までに弱くなるのだとか。傷を治すこともできなくなると、フェイが補足してくれた。

「……銀の杭が効果的という話もありますが、誤りです。……ヴァンパイアを倒すなら太陽の下に引きずり出すしかありません。……囮が必要な場合にはわたしを使って下さい」

 申し出は嬉しかったが、丁重に断らせてもらった。
 フェイはコクリと会釈し、大人しく引き下がった。

「ルルニアとヴァンパイアが全力で戦えば王都に被害が出る。最初は説得できないか試して、無理なら打倒のための方法を探るつもりだ」
「私の拘束術が効けば朝を待つだけなんですけどね」
「楽観視しても良いことはないし、常に最悪を想定しよう。夜になったら俺とルルニアで街に繰り出して、幽霊騒動の真相を調べてくる」

 不在時のミーレの護衛はフェイに頼んだ。

「……承知しました。……代わりと言うのは傲慢ですが、何か起きたらそこに関する話をしていただけると助かります」
 当然だと言うと、フェイは安心した。今後の行動について漏れがなかったか確認していると、ミーレが真剣な声で言った。

「────皆、あたしたちの旅の最終目的地が見えてきたわよ」
 王城は街の中央に位置する丘上に建っていた。巨大さと荘厳さを兼ね備えた造りとなっており、圧倒されると同時に畏怖した。
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