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第一話『吸えないサキュバス1』〇
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甘やかな香りで目を覚ますと、視界の先に絶世の美少女がいた。
ふわりと長い桃色の髪を揺らし、翡翠の瞳で俺を見下ろしている。
「あ、もう目覚めちゃったんですか」
桃毛の美少女は俺の腹に腰を据え、撫でるように尻を回す。お互いに素っ裸となっており、密着した肌と肌が熱を帯びている。「お前は誰だ」と問いかけようとしたが、口も腕も足も満足に動かせなかった。
(何だこの状況は)
混乱した思考を落ち着けるため、自分自身の記憶を辿った。俺の名は『グレイゼル・ミハエル』、僻地の村で暮らす薬屋だ。年齢は今年で二十五となる。
昼のうちに薬の納品を済ませ、夕方に村の酒場へと立ち寄った。付き合いで多めに飲みはしたが、こんな見ず知らずの相手を家に連れ込むほど酔った記憶はない。
(そもそもこいつは人間か?)
小柄な体型に似合わず美人な顔つきだ。注目すべきはくびれある腰の裏側、そこに細い尻尾が生えている。視線を上に向けるとコウモリ似の翼が目に入った。どちらも作り物ではない質感だ。
注目していると桃毛の美少女は舌なめずりした。身の危険を感じて逃げようとすると、前かがみになって寄り添ってきた。俺の胸に冷たい手を乗せ、耳に顔を近づけて吐息と共にささやいた。
「どうです? どんどん身体が熱くなってきたのでは?」
「…………ぐ、が」
「あ、忘れてました。では少しだけ自由を差し上げます」
指鳴りに合わせて声が出せるようになった。
少女の素性を問うと『ルルニア』と名乗った。
「私はあなた方が言うところの魔物、サキュバスです。人間の寝込みを襲い、肉欲による快楽を与え、心の隙間に入り込んで精気を吸い取ります」
魔物とはこの地上にはびこる凶悪な生物の総称だ。強さの幅はピンからキリまであるが、人間のみを襲い喰らうという性質を持っている。
「サキュバスはもっと豊満な身体だろうが」
「人間にも個人差はあるものでしょう?」
「俺を誘惑したいならもっと肉をつけてこい」
ルルニアの容姿は整っているが、俺の好みではなかった。
胸は若干のふくらみがあるぐらいで薄く、身長も俺の頭一つ以上も小さい。女性的な包容力は皆無、間違っても欲情などしない。はずだった。
「ふふっ、自信満々な割にここは元気ですね」
「……それはっ、お前が変な術を使うからだろ!」
「本当に術のせいでしょうか? 疑わしいですねぇ?」
クスクスと嗤い、ルルニアは俺の胸板に触れた。表面をじっくり指でなぞり、突起物に舌を這わせる。身体の熱が際限なく高まるのを感じた。
(くっ、これ以上は不味い……!)
ルルニアは暴れる俺の胴体を太ももで挟み込んだ。
美しい翡翠の瞳に覗かれ、視線を外せなくなった。
「ふふっ、怖いですねぇ。寝不足で濃い目元のクマに手入れ不足でボサボサな髪の毛、同年代の女性には怖がられる日々だったのでは? 憐れなあなたに私が最上の快楽を差し上げて殺します」
一か八かで大声を上げようとするが、口を口で塞がれた。
ルルニアの舌が口内を這いずり、妙な快感が湧き上がる。
反撃で舌を嚙み千切ろうとするが、また力が入らなくなった。動けるうちに枕元のナイフを掴んでいればと、粘り気のあるキスを受けながら後悔した。
「……う、んく、ふぅ……ふふふ」
口が離れ、唾液が艶やかな橋を作って落ちた。
「もしお望みの癖や体位があればお聞きしますよ」
「殺すならさっさと殺せ」
「嫌われたものですね。最期なら楽しみませんと」
俺は目を閉じ、情けない死に顔だけは晒さないと決めた。
しかしどれだけ待っても動きがなかった。恐る恐る目を開けると、そこには口元を両手で抑えるルルニアがいた。何故か絶世の美貌は苦悶で歪んでいた。
「……うぶ、やっぱごれ、きつ……うぐっ」
「え」
「何で……いづも……ごごで……おぅぶっ」
急過ぎる展開に「大丈夫か?」と言ってしまった。
ルルニアはフルフルと首を振り、部屋の隅へ駆け込んだ。そこで身体の自由が戻り、俺は枕元のナイフを手に取った。警戒しながら歩き寄ると、ルルニアの口からせき止めていたものが吐き出された。
「うっ、ごふっ、オロロロ」
「おいおい、マジかよ……」
ルルニアは吐き終えた後も咳き込み、目に涙を浮かべて苦しんでいる。俺は背をさすろうとした手を引っ込め、鞘から刃を出して突きつけた。
「……動くな。抵抗するなら殺す」
突然の嘔吐のせいでイマイチ場面が締まらなかった。
「……ふっ、ぐっ、それで有利を取ったつもりで……うぶ」
「水ならやる。だからそれ以上吐くな」
「……ごめんなざい。ちょっとだけ待って……──きゅう」
変わった断末魔を発し、ルルニアは床に倒れた。
油断を誘っての行動かと思うが、しばらく経っても目を覚まさなかった。仕方ないのでベッドに寝かせて縄で縛り、脱力感と共に椅子に座り込んだ。
「はぁ、急に何だってんだ」
ひとまず危機は脱したが問題があった。ルルニアはサキュバスであり、俺はその術中にいた。結果、股下のアレのそそり立ちが健在なままだったのだ。
「今日は厄日だな……」
ーーーーーーーーーー
執筆のリハビリもかねて投稿します。エロは初挑戦なのでドキドキです。
エッチなシーンがある話には見直ししやすいよう〇を付けてます。『皆の』とタイトルに記載していますが、他の男性とは一切しません。基本は一対一の恋愛作品となります。
ふわりと長い桃色の髪を揺らし、翡翠の瞳で俺を見下ろしている。
「あ、もう目覚めちゃったんですか」
桃毛の美少女は俺の腹に腰を据え、撫でるように尻を回す。お互いに素っ裸となっており、密着した肌と肌が熱を帯びている。「お前は誰だ」と問いかけようとしたが、口も腕も足も満足に動かせなかった。
(何だこの状況は)
混乱した思考を落ち着けるため、自分自身の記憶を辿った。俺の名は『グレイゼル・ミハエル』、僻地の村で暮らす薬屋だ。年齢は今年で二十五となる。
昼のうちに薬の納品を済ませ、夕方に村の酒場へと立ち寄った。付き合いで多めに飲みはしたが、こんな見ず知らずの相手を家に連れ込むほど酔った記憶はない。
(そもそもこいつは人間か?)
小柄な体型に似合わず美人な顔つきだ。注目すべきはくびれある腰の裏側、そこに細い尻尾が生えている。視線を上に向けるとコウモリ似の翼が目に入った。どちらも作り物ではない質感だ。
注目していると桃毛の美少女は舌なめずりした。身の危険を感じて逃げようとすると、前かがみになって寄り添ってきた。俺の胸に冷たい手を乗せ、耳に顔を近づけて吐息と共にささやいた。
「どうです? どんどん身体が熱くなってきたのでは?」
「…………ぐ、が」
「あ、忘れてました。では少しだけ自由を差し上げます」
指鳴りに合わせて声が出せるようになった。
少女の素性を問うと『ルルニア』と名乗った。
「私はあなた方が言うところの魔物、サキュバスです。人間の寝込みを襲い、肉欲による快楽を与え、心の隙間に入り込んで精気を吸い取ります」
魔物とはこの地上にはびこる凶悪な生物の総称だ。強さの幅はピンからキリまであるが、人間のみを襲い喰らうという性質を持っている。
「サキュバスはもっと豊満な身体だろうが」
「人間にも個人差はあるものでしょう?」
「俺を誘惑したいならもっと肉をつけてこい」
ルルニアの容姿は整っているが、俺の好みではなかった。
胸は若干のふくらみがあるぐらいで薄く、身長も俺の頭一つ以上も小さい。女性的な包容力は皆無、間違っても欲情などしない。はずだった。
「ふふっ、自信満々な割にここは元気ですね」
「……それはっ、お前が変な術を使うからだろ!」
「本当に術のせいでしょうか? 疑わしいですねぇ?」
クスクスと嗤い、ルルニアは俺の胸板に触れた。表面をじっくり指でなぞり、突起物に舌を這わせる。身体の熱が際限なく高まるのを感じた。
(くっ、これ以上は不味い……!)
ルルニアは暴れる俺の胴体を太ももで挟み込んだ。
美しい翡翠の瞳に覗かれ、視線を外せなくなった。
「ふふっ、怖いですねぇ。寝不足で濃い目元のクマに手入れ不足でボサボサな髪の毛、同年代の女性には怖がられる日々だったのでは? 憐れなあなたに私が最上の快楽を差し上げて殺します」
一か八かで大声を上げようとするが、口を口で塞がれた。
ルルニアの舌が口内を這いずり、妙な快感が湧き上がる。
反撃で舌を嚙み千切ろうとするが、また力が入らなくなった。動けるうちに枕元のナイフを掴んでいればと、粘り気のあるキスを受けながら後悔した。
「……う、んく、ふぅ……ふふふ」
口が離れ、唾液が艶やかな橋を作って落ちた。
「もしお望みの癖や体位があればお聞きしますよ」
「殺すならさっさと殺せ」
「嫌われたものですね。最期なら楽しみませんと」
俺は目を閉じ、情けない死に顔だけは晒さないと決めた。
しかしどれだけ待っても動きがなかった。恐る恐る目を開けると、そこには口元を両手で抑えるルルニアがいた。何故か絶世の美貌は苦悶で歪んでいた。
「……うぶ、やっぱごれ、きつ……うぐっ」
「え」
「何で……いづも……ごごで……おぅぶっ」
急過ぎる展開に「大丈夫か?」と言ってしまった。
ルルニアはフルフルと首を振り、部屋の隅へ駆け込んだ。そこで身体の自由が戻り、俺は枕元のナイフを手に取った。警戒しながら歩き寄ると、ルルニアの口からせき止めていたものが吐き出された。
「うっ、ごふっ、オロロロ」
「おいおい、マジかよ……」
ルルニアは吐き終えた後も咳き込み、目に涙を浮かべて苦しんでいる。俺は背をさすろうとした手を引っ込め、鞘から刃を出して突きつけた。
「……動くな。抵抗するなら殺す」
突然の嘔吐のせいでイマイチ場面が締まらなかった。
「……ふっ、ぐっ、それで有利を取ったつもりで……うぶ」
「水ならやる。だからそれ以上吐くな」
「……ごめんなざい。ちょっとだけ待って……──きゅう」
変わった断末魔を発し、ルルニアは床に倒れた。
油断を誘っての行動かと思うが、しばらく経っても目を覚まさなかった。仕方ないのでベッドに寝かせて縄で縛り、脱力感と共に椅子に座り込んだ。
「はぁ、急に何だってんだ」
ひとまず危機は脱したが問題があった。ルルニアはサキュバスであり、俺はその術中にいた。結果、股下のアレのそそり立ちが健在なままだったのだ。
「今日は厄日だな……」
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執筆のリハビリもかねて投稿します。エロは初挑戦なのでドキドキです。
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