エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

文字の大きさ
38 / 170

第三十八話『精気と闘気1』

しおりを挟む
 今回は茸の群生地に寄らず、前回とは別の道に折れ進んだ。いくつかの段差を登って降りて獣道を歩いて行くと、次第に砂利が増えて木々が減り始めた。
 葉っぱの天井が消えると断崖絶壁が姿を現した。一帯にあるのは岩と土ばかり、足の踏み場を間違えると滑り転ぶ。今日の目的はここにしかない薬草の回収だ。

「……いつ来てもここは命がけだな」

 風が強い日は速攻で立ち寄るのをやめる。もっと楽な場所に薬草があれば良かったのだが、こういった過酷な環境にしか生えてくれない植生だ。
 慎重に成長しきった葉っぱだけを摘み取っていると上から小石が落ちてきた。落石かと思って岩陰に身を隠すと同時、奇怪な影が足場に伸びた。

「ギチギチギギチ、ギギギッ」

 やや上の壁面に虫型の魔物がいた。形状はアリに似ているが、幼児一人分ほどの体長がある。甲殻がくすんだ赤色なのも不気味だ。
 ここらではよく見る魔物だが、岩場で遭遇するのは初めてだ。一応投げナイフで倒せはするものの、平地ではないので無視すべきだ。

「どこかに行ってくれると良いんだが……」

 崖際の細道なため迂回路はない。俺は壁面に背を預けて横歩きし、念のためポーチから投げナイフを取り出した。道幅が広くなったところで刃に毒を塗布すると、上から別の影が落ちてきた。

「────こいつ、もう一匹!?」

 アリの魔物は二体いた。俺を見るなり大きな鳴き声を発し、太顎をガチガチ打ち鳴らして飛び掛かってくる。紙一重で初撃を回避し、刃を胴に刺した。
 毒のおかげで動きが鈍ったため、足の蹴り上げで崖下に落とせた。一難去って息をつくのも束の間、もう一難が壁を伝って俺の目前へと迫ってきた。

「……ちっ、仲間を呼ばれたか」
 追加で五体アリの魔物がどこからともなく現れる。さっき刺した投げナイフは回収しておくべきだったと、ポーチに残った四投分の柄に触れて悔やんだ。

「ギヂッ ギギチ! ギチギチギチ!」
「ギッギッギッ、ギチ! ギチギッ!」

 悪路では相手のが素早い。一投一殺でも残り一匹は腕っぷしで倒さねばならない。冷や汗を垂らして打開策を探っていると、上から小石が複数降ってきた。

 落石なら攻撃を受ける覚悟で逃げるべきだったが、違かった。
 落下してきたのは大きな影で、直下にいたアリの魔物を圧し潰した。

「なっ!?」

 崖際の空間に着地したのは傷だらけの大剣を持った男性だ。はためくマントに骨折した腕を巻いた布、前に俺とルルニアが助けた人物だった。
 男性は片手で大剣を持ち上げ、二匹三匹とアリの魔物を屠った。俺が投げナイフで一匹倒すと、足の踏みつけで最後の一匹を容易く殺してみせた。

「……凄い」
 人間の膂力では無かった。大剣は村の大男でも持ち上げるのが精いっぱいな重量感だが、片手で持ってなおも重さに苦しむ素振りがない。

「久しぶりであるな。お主、いつぞやの医者であろう?」
「は、はい。名はグレイゼル・ミハエルと申します」
「吾輩はガーブランドだ。あの時の借りを返せたようで嬉しいぞ」

 頭全体を覆う兜のせいで表情が分からない。あの時聞けなかった話をと思うが、声を発する前に上から奇怪な鳴き声が複数聞こえた。

「あいつらまだいるのか……」
「吾輩一人ならどうとでもなるが、お主を守りながらではキツイな。吾輩がしんがりを務めるとしよう」

 俺は後方から響く戦闘音を背に崖を抜けた。少しすると虫の魔物の体液を浴びたガーブランドが帰還し、大剣を土の壁に刺して拭ってこびりついた汚れを落とした。

「怪我は無いか?」
「一応は……」
「なればよかろう」
 ガーブランドは大剣を岩に立てかけ、手頃な岩の上に座った。

「にしても意外であるな。常人の十数倍もの精気を持っているというのに、あの程度の魔物に苦戦するとは。言葉を選んだ上で宝の持ち腐れだぞ」
「……俺の精気の多さが見えるんですか?」
「うむ。お主ほどではないが吾輩も生まれつきそういう肉体なのだ。強靭な精気を持つ者は得てして武勇にも優れる。だからこんなことも出来る」

 座ったままで大剣を軽々と持ち上げ、地面に突き立てた。

「精気とは命の源、あればあるだけ強くなれる。吾輩は精気の扱いを数多の戦場を駆け抜けることで鍛え、『闘気』と呼べる技にまで昇華させた」
 人体の回復に関わる薬屋としては興味深い話だ。俺にも闘気とやらが使えるか聞くと、ガーブランドは自信を持った声で「無論だ」と言い切った。

「闘気は戦い以外でも使い道がある。怪我の回復を早めたり筋肉の成長を促したり、意中のサキュバスを闘気の力で骨抜きになるまでイカせられる」
「サキュ……え? 今なんと?」
「サキュバスをイカせれると言ったのだ。奴らは性行為なら何でも気持ち良くなる生き物だが、それは生まれつき備わっている機能だ。外から別の刺激を与えねば、真の絶頂は訪れない」

 何故そんなことを知っているのか。ルルニアに言った「良いもの見せてもらった」の真意は何か、その回答は予想も出来ぬ形で告げられた。

「────吾輩は過去に一人、サキュバスを愛していた。お主が目指しているであろう未来の先達、サキュバスを妻として娶っていた男だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...