エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第三十九話『精気と闘気2』

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 発言の内容を理解しきれない俺を見つめ、ガーブランドは兜の奥で苦笑らしき息をついた。

「言葉も出ぬか、狂人の戯言でしかないから無理もない」
「……いえそんなことは」
「魔物と添い遂げようとする大バカ者が他にもいるとは思わんかった。これまで色んな人間と会ってきたがな、同じ志の者と出くわすのは初めてだぞ」

 しみじみと語り、ガーブランドは腰に差した水筒を手に持った。

「サキュバスを娶ったというのは、その」
「うむ。我らは長き時間を共に過ごし、夫婦となった」
「愛していたと言うのは……」
「死んだ。寿命こそ人間の何倍もあるが、共に暮らすとなると厄介事がつき纏う。吾輩の力ではあいつを守ってやれなかった。それだけの話だ」

 人間に殺されたのかと聞くと、「間違いではない」と曖昧な返事があった。死因の詳細は語られなかったが、憎しみを抱いている雰囲気はなかった。

(……仇討はとっくに済ませた後ってことか)
 俺は妻となったサキュバスの人物像を聞いてみた。

「名は『リゼット』と言う。吾輩の寝込みを襲おうとしたところを逆に抱き潰し、精気を与える代わりに身の回りの世話をさせる契約を交わした」
「そ、それはなかなか豪気な」
「リゼットは青空と夜空の境界線のような髪色をしたサキュバスでな。癖のある強気な性格が吾輩の肌に合っていた。あれ以上の女はおらんよ」

 ガーブランドとリゼットは七年もの歳月を共に過ごした。流れの傭兵として戦場を渡り歩き、『戦鬼と美姫』という二つ名で呼ばれていたと語った。

「サキュバスなのに戦っていたんですか?」
「卓越した技巧の槍使いであった。翼で夜の空に飛び立って敵の本陣に奇襲を掛けたり、娼婦として敵地に潜入したりした。とかく血を見るのが好きな奴であったな」
「……この地域では想像も出来ないお話ですね」
「はははは、であろうな。吾輩たちの戦地はここより遥か東方、大陸の端の大地だ。生まれてこの方戦乱を渡り歩く日々だったが、こんな平和な国は初めてだ」

 そう言い、ガーブランドは水筒の中身を飲み干した。

「あいつと共に歩めた時間こそ、吾輩の全盛期であった」
「…………」
「闘気は日々の性行為で発現させた。精気を与える時に体内から流れる力の波動を感じ取り、その使い方を学んだ。リゼットの身体に初めて流し込んだ時の顔は忘れられん」

 数年に渡る交流の積み重ねと戦友としての情、加えて上質な食事の提供を可能とする闘気。それらの要素が重なった結果、リゼットはガーブランドを殺すことを諦めた。

「闘気を習得すれば性行為は単なる食事ではなくなる。その意味と価値がお主には分かるはずだ」
 応えるまでもない。闘気は今の俺に必要な力だ。

「精気は人の命の源だが、お主や吾輩のような者の身体からは余った分が常に体外へと放出される。闘気はそういった本来捨てるはずの精気を操り再利用する技法だ」

 俺の身体からはとんでもない量の精気が無駄に放出されているという。視認されていない状態でアリの魔物が近寄って来たのもそれが理由と教えてくれた。

「お主はろくに鍛えないでその肉体を維持してるのではないか?」
「当たりです。何もしなくても筋肉がつくから不思議とは思っていました」
「それが尋常ならざる精気の力だ。体内で生成される精気が肉体を最良の状態に保とうとするため、寝て起きているだけでも常人より強くなれる」

 そう言い、ガーブランドは俺の心臓辺りに武骨な手を置いた。次第に心臓の奥深くが熱くなり始め、俺の手や足の先へと温かさがじんわり移動していった。

「……これは?」
「お主の中に闘気を流し込んでいる状態だ。今身体の中で感じている感覚を掴むことが出来れば、吾輩の数年を数ヵ月に短縮することが出来るであろう」
「いいんですか?」
「お主以外に上質な精気持ちと会ったのは二度だけだ。そのどちらも魔物を恨んでおり、まともな話は出来なかった。先達としてお節介を焼きたくもなろうよ」

 目を閉じるように言われて従い、より慎重に自分の中にある精気の流れを感じ取った。そこでガーブランドが手を離した。

「きっかけは掴めたようだな。後は吾輩の闘気を送っても意味はない。日々の性行為で使い方を学んで行けばよかろう」
 早速闘気を扱えるか試してみた。さすがにガーブランドのようにはいかなかったが、意識を集中させれば指の先端に限定して精気を放出することができた。

「……これならルルニアを苦しめずに済む、かもしれない」
 ガーブランドは中指と薬指を立て、最初は手でイカせてやるのがいいと言った。同じように指を動かして調子を確かめていると、ガーブランドは大剣を肩に置いて崖の方角に歩いた。

「吾輩はさっきの魔物の巣を撲滅してくる。しばらくはこの近辺におるつもりだから、闘気の話がしたくなったら来るがよい。ではな」

 別れを言う暇もなくガーブランドは颯爽と岩場を跳んでいなくなった。
 俺も森の方角を目指して歩き、覚えた感覚を反復しながら帰路についた。
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