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魔導修行

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 次の日、朝早くからユミ姉に起こされ、ソイニーさんによる魔導修行が始まった。

「アスカさん、ユミさんから聞きましたよ。お姫様と結婚するために強くなりたいのですね。
ならばお手伝いしましょう。まずは半年間の試用期間後、私の弟子になっても良いか判断します。そしたら師匠と呼んでもいいですよ。
それでは、始めましょうか。我が占有は、この地を満たし、この場を支配する。非制限結界《アンリミッテドスクエア》」

 ソイニーさんは、杖で地面を三回突いたあと、空中に突き上げる。
 突き上げられた杖から一筋の光線が発出される。
 眩しさゆえ、目を細める。

「さあ、準備ができましたよ」

 ソイニーさんの嬉しそうな声が聞こえてくる。
 恐る恐る目を開けると、そこには彼方まで続く無限の草原が広がっていた。
 心地よく流れる風で芝がなびき、太陽が辺りを暖かく照らす。

「す、すごい‥‥‥」
「やっぱり師匠の結界はいつ見てもすごいですね」
「どうですか?少しは感動しましたか?これは、私の秘儀でもある大規模結界です。魔導士の中でも極少数しか使えないんですよ。魔導も極めるとこんなことや、もっとすごいことだってできるんですよ」

 ユミ姉と僕が褒めたため、ソイニーさんは得意げである。
 まあ、確かにこれほどまでのことができれば、得意げになっても仕方ない。
 だが、少しだけ違和感があった。

「あの、ソイニーさん、あのお菓子でできた家はなんですか?」
「へ?」

 まず、草原には、一本の大樹が生えていた。
 まあ、それだけならば問題ないが、なぜかその横に、お菓子でできた家が建てられていた。

「これですか?これは私の趣味です」

 なんの恥じらいもなしに言い切ったよこの人は。
 今時お菓子の家って、小学生でも欲しがらないでしょ。

「何か問題がありますか?」

 ソイニーさんは、お菓子の家の壁を少しむしり取り、食べながら真顔で聞いてきた。

「じゃあアスカさんは初等魔導から始めましょうか。詠唱するので真似してみてください。
こう手のひらを向けて、『清らかなる大地の息吹よ燃え上がれ 火球《ファイアーボール》」

 ソイニーさんの手のひらから、2 mほどの巨大な火球が限界したかと思うと、勢いよく飛んでいき大樹が一瞬にして焼失した。

「あ~、桜の木が~燃えてしまった~」
 ソイニーさんは自ら植えた木を自ら燃やしてしまい、そのショックで膝から崩れ落ちた。
一体この人は、何をやっているんだ。
 
「ソイニー師匠、また桜の木は生えますよ。後で生やしておきますから。それよりもアスカを鍛えないと」
 ユミ姉がうまくソイニーさんを慰める。さすが一番弟子。

「そ、そうですね。じゃあ、アスカさんやってみてください」
「えっと、『清らかなる、大地、の、息吹よ、燃え上がれ 火球《ファイアーボール》」

 約2 cmほどの火球が手元を明るく灯す。
 そして、若干暖かい。

「おーこれは、冬にホッカイロの代わりになりそうですな」
 ユミ姉が、火球のあまりの小ささに笑う。

「アスカさんはこれまであまり魔導を使ってこなかったんですか?」
「あ、は、はい、実は今日が初めてです」
「え?今日が初めて? 珍しいですね、魔導の素質があるのに魔導を一度も使わないで10歳になるなんて」

 ソイニーさんが物珍しそうな顔で僕を見る。

「それじゃあ、初めはこんなものですよ。
魔導は使えば使うほど上達するのでこれから頑張りましょう。
とりあえずこれから一週間は、火球を大きくし遠くまで飛ばす練習をしましょう」

 それから一週間は火球の練習をした。一週間後には約20 cmの火球を10 m先まで飛ばせるようになった。
 その後は、水球、風球、雷球と初等魔導で習うことを半年かけて習っていった。

 習っていったのだが、水球、雷球、風球、火球を5個同時に出したり、50 mほど遠くに飛ばしたりできるようになったものの、それ以上は上達しなかった。
 全くといっていいほど能力が伸びなくなった。
 普通は、初等魔導は、球態魔導を極める魔導であり、最終的に球体を10個同時に制御し、100 m遠くに飛ばし、1 mほどの大きさの球体を作れるようにならなければならなかった。
 それが、中級魔導へ進む条件でもある。

 が、僕は初等魔導でつまずいた。

 —————
「まあ、落ち込むなって、人間すぐには上達しないこともあるよ」

 ユミ姉が気を使って僕の部屋まで慰めに来た。

「ユミ姉は、いつ初等魔導をクリアしたんですか?」
「私? 私はね、まあ、あれだ6歳の時だけど、小さい頃からずっと練習してたし」
「6歳!?僕より4歳8ヶ月若い、やっぱり僕には素質がないんですね」
「弱気になったダメだよ。アスカ、姫様と結婚するために強くなるんでしょ。
男なら意志を堅く持たなきゃ」
「そうですけど、現実はいつも理想通りとは限らないですよ」

 これは困ったことになったなとユミ姉は、手を頭に当てながらどうしたもんかと考えている。

「そうだ、明日アスカは暇だよね、とっておきの場所に連れて行ってあげよう。
元気になること間違いなしだよ」
「え? それはどこですか?」
「それは内緒です。明日9時に出発するよ」

 そう言うと、ユミ姉は部屋を出て行った。
 一体どこに行くのだろう、そう考えながら僕は、ユミ姉の優しさに感謝しながら眠りについた。
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