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名刀 『一徹』

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 ——ピンポーン

「ごめんください」

 白亜の重厚な玄関の前に、今、僕は立っている。

「はい、どちら様ですか?
 あ、ニベリウム様でしたか。
 ロージェ様がお待ちしております。
 こちらへどうぞ」

 漆黒のドレスに身を包んだメイドが僕を案内してくれる。
 見た目はメイドっぽくないのだが、メイドらしい。

 僕は今日から先代剣豪ロージェに剣術を習うのだ。
 それと魔導具士のことも多分習うのだろう。
 なんだってロージェは魔導具士なのだから。

「ロージェ様、ニベリウム様をお連れしました」
「おーよく来たな、アスカ。さあ中に入りなさい」
「失礼します」

 中に入ると、そこには、来客用の椅子とロージェの執務用のデスクとロージェの剣だけが置いてある部屋の大きさの割にかなり質素な造りの部屋だった。
 そして壁には、世界地図と天界地図と書かれた地図が掛けられていた。

「とりあえず、剣の稽古は後にして、まずは魔導具士のことから話そうか」
「はい、あの、ロージェさん‥‥‥先生が魔導具士だと知っている人はどれくらいいるのですか?」
「名前はなんと呼んでもいいから、まあ、先生でいいか。
 それで、ワシの魔導具士の才を知っている者は2人じゃ。
 今は亡き師匠と、シルベニスタ家現当主であるユーリ様だけじゃ。しかし、ワシのお師匠が言っていたことが本当になるとは」

 ロージェは額に手を当てながら、いつも通りの豪快な笑いを見せる。

「先生の師匠がおっしゃっていたこととは?」
「増幅用魔導具を作製できる魔導具士の才能を持った者となぜか勝手に巡り会うらしい。実際、これまで初代魔導具士から代々そうやってこれまでの知識は受け継がれてきたのだ。まあ、早速自分用の魔導具を作ってみようではないか。どんな魔導具がいいか決めてあるか?」

 いきなり言われても何にも考えていない。
 何にしよう。
 不思議と頭に一本の刀が思い浮ぶ。
 こういった魔導具があればかっこいいな。

「あの、できれば刀がいいです」

 ロージェは、目をかっピラきながら驚いている。

「刀!? そうか刀か。刀はな、難しいのだよ。
 刃が薄いから魔導回路を通す時どうしても折れてしまうのだ。歴代の魔導具士の中でも刀を使っていたのは初代だけだ。
 だけど、初代は別の刀を魔道具として使ってたみたいだが……。まあ、一度試してみるのが良いか。無理そうだと思ったらその時にやめればいい」

 そういうと、ロージェ先生は、足早に部屋を出て行く。
 数分後、先生は戻ってきた。
 そして手には、漆黒の鞘、柄《つか》は赤白い刀がある。

「アスカ、これは約1000年前の名工、楔一徹《くさびいってつ》が打ったと言われている名刀だ。
 本来ならば国宝で博物館にあるはずだが、これも秘密裏に魔導具士の間で代々受け継がれてきた物だ。
 アスカにやるからこれに自分の魔導回路を移植して増幅用魔導具にしてみせよ」

 いきなり、難関を突きつけられる。
 先生はさっき、刀を増幅用魔導具にするのは難しいと言ったのにもかかわらず、いきなり国宝級の名刀をよこして、使えという。
 いや、支離滅裂すぎるだろ。

「それじゃあ工房に案内しよう。そこの方が集中できるだろう」

 先生は僕の気も知らないで、淡々と僕を工房に案内する。
 工房も質素なもので、なんと座敷だった。
 座敷の上に、高価そうな魔導石や器具が置いてあった。
 その道具を見ると、普段は微塵も感じないがやはりロージェ先生は魔導具士なんだなと納得することができる。

「ワシもいた方がいいか?」
「いえ、1人で大丈夫だと思います」
「そうか、それならできたら呼んでくれ」
「分かりました」

 座敷にゆっくり座る。
 刀を前に起き、鞘から刀身を出す。
 綺麗に赤白く光る刀身に心を奪われる。
 刀の反りをなぞりながら、意識を集中させる。
 もし無理そうならすぐに辞めよう、壊したら一大事だ。

 自分の魔導回路を刀に移植して、刀と自分の魔導回路を繋げる。
 そして、魔導を溜め込み増幅させるための領域を刀に作る。強めに移植してしまうと、刀身が粉々になってしまうだろう。
 かといって、甘めに作れば、この前みたいに魔導具が魔導量を支えきれず粉々になってしまう。
 加減が難しい。
 しかし、やるしかない。

 移植を開始するとすぐに頭に見知らぬ映像が浮かんできた。
 見知らぬ男が、荒野に両手に刀を持って立っている。
 目に涙を浮かべながら。
 荒野は見渡す限広がっており、数カ所で家や人が燃えている。
 また、女の叫び声、男どもの怒声が聞こえてくる。
 そして言う、「私は誰も救えなかったのか‥‥‥」

 その言葉を聞いた瞬間、僕は目を覚ます。
 大量の汗をかきながら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
「なんだったんだあの夢は」
 気味が悪い夢の影響で、頭が少しクラクラする。

 重たい頭で頑張って、刀を見るとまだ、魔導回路はできていなかった。
「僕は、魔導回路を定着させる前に寝てしまったのか。
 一体何をしてることやら」

 自分で自分が情けなく、呆れる。
 まあ、気を取り直して、再度魔導回路の移植を試みる。
 少し、刀に魔導を通した時、違和感に気づいた。

 この刀、魔導回路の残滓《ざんし》が残っている。かつて誰かが魔導回路を移植した?

 いやそんなことはない。
 先生は初代を除いて歴代の魔導具士は刀を増幅用魔導具とはしなかったと言っていた。
 ‥‥‥初代以外?
 まさか、この残滓は初代の魔導回路か?
 だけど、初代は別の刀を使っていたっていうじゃないか。
 じゃあ、この残滓はなんだ?
 まあ、いい。
 誰の魔導回路の残滓かは分からないが、この魔導回路を参考にすれば、出来上がるかもしれない。

 僕は微かに捉えた希望に少し喜んだ。

 よし、やるぞ。
 慎重に魔導回路の残滓を参考に魔導回路をゆっくり移植していく。
 しかし、おかしい。
 やっぱりおかしい。
 魔導回路を名刀に移植している僕は違和感しか感じていない。

 その違和感とは、魔導回路と僕の魔導回路が完全に一致していたのだ。
 だから、案外簡単に魔導回路の移植は済ますことができた。

 それにしても、なぜ、僕の魔導回路とこの刀にあった魔導回路が一致したのか‥‥‥謎である。

 まあ、考えても今は分からないだろう。
 それよりも、先生に出来上がったことを伝えなければ。

 工房を出ると、先生を探した。
 先生は、中庭に出て、何やら見知らぬ少年と話している。

「先生、移植できました!」
「ほんとかアスカ! それは良かった。その話はまた後でしよう。
 それとちょうどいいところに来たな。紹介しよう。
 こちらの少年はヒビト・シルベニスタだ」
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