23 / 83
魔導具士の書
しおりを挟む
『白紙のこの書に、どのような物語が紡がれていくのか楽しみで仕方ない。魔導具士の才はこの世界では貴重なものである。そして、魔導具士は多くの人を幸せに導く力を秘めているし、一方、人を不幸にしてしまうこともできる。故に、魔導具士の自らの責務を自覚しなければならない。継承者である弟子達よ。どうか正しき正義の道を歩むことを望まん』
初代魔導具士から代々受け継がれてきた魔導具士の書の冒頭には、魔導具士としての心意気が記載されていた。
これが初代の筆跡、言葉‥‥‥とても感慨深かったが、それと1000年前の文章だから読めないと思ったが、意外に判読可能なことにも同時に驚いた。
ページをめくるとそこには、2代目の生い立ちや初代との出会いなどが、記載されており、サインは2代目によって書かれたものだった。。
あれ?初代については何も書かれていない?
「先生これは」
「アスカ、違和感に気づいたか。その書は全て2代目以降の継承者達によって書かれたものだ。冒頭の言葉は、初代の言葉らしいが、書いたのは2代目らしい。
つまり、初代については我々継承者もわからんのだよ」
「そんな‥‥‥、あの、初代について書かれていないのは、初代が本に残せないようなことをしたからですか‥‥‥?」
「いや、それは違う。実は、口頭伝承もあるのだ。
今後ゆっくり覚えてもらおうと思ったが、今日は一つだけ伝えよう。
いいかい?伝承はこうだ。『師匠(初代)は常に臣民を慈しみ、臣民を信頼し、臣民のために生きた』だ」
常に臣民を慈しみ、臣民を信頼し、臣民のために生きた‥‥‥
世間のイメージと全然違う。
やはり、おとぎ話の初代魔導具士は本当は優しい人だったのでは‥‥‥。
「あの、先生、なぜこの口頭伝承は本に記載されていないのですか?」
「なぜだかはわからんが、初代から禁止されているのだ。
恐らく、文字として残しておくにはあまりんも危険な内容なのだろう」
常に臣民を慈しみ、臣民を信頼し、臣民のために生きた‥‥‥これが、危険な内容?
そんなこと絶対ない。
しかし、世間では初代魔導具士は忌み嫌われる存在。
となると、初代が心優しいと困る者が、わざと異なる情報をおとぎ話として流布したのか?
あー考えてもキリがない。何が真実なんだ。
混乱している僕を見かねて先生が口を開く。
「アスカ、ワシも昔はよく考えたものだ。
初代魔導具士は本当はいい人で、世間の認識が間違っているのではないかとな。
ただ、真実はわからんのじゃ。それならば、過去には囚われず、ワシらがしっかり誠実に生きることの方が重要じゃないか? 魔導具士であることはすぐには世間に開かせないが、いづれ魔導具士が世間に認められる日が来た時に、ワシらの生き方は必ず注目される。
その時に、胸を張って堂々とできるように生きるのが大切だとは思わんか?」
ロージェ先生は、優しく僕を見つめる。
確かに、そうだ。
分からない過去より、未来の魔導具士のために今をしっかり生きる。
「そうですね。先生」
僕はそっと本を閉じ先生に返した。
「それじゃあ、アスカ、剣術稽古の続きをしよう」
それから、2年間は死に物狂いで剣術稽古はロージェ先生、魔導修行はソイニー師匠に習った。
魔導修行は時々ユミ姉と一緒にやった。
ユミ姉は、僕を本当の弟のように可愛がってくれた。
実は、増幅用魔導を使って、上級魔導なども出せるようになるにつれて、基礎魔導も上がり、魔導具なしで中級魔導まで使えるようになった。
まだ、認定試験を受けていないから、初級魔導士なのだけれども。
ソイニー師匠も、徐々に魔導が上達していく僕のことを全身全霊で喜んでくれた。
あ、後、しっかり学校にも休まず行っていたからね。
剣の稽古は、思ったよりすんなり上達した。
そりゃ、伸び悩んで大変な時もあったけれど、ヒビトと共に励まし合いながら、幾つもの壁を乗り越えてきた。
魔導では流石に上級魔導士の天才ヒビトにはかなわないが、剣術はヒビトを凌ぐ程度までに急成長を遂げた。
———————
——アスカ、ヒビト12歳のある日‥‥‥
「アスカは、剣術の才能がすごいよな。
僕をあっという間に追い抜いちゃったよ」
「いやいや、ヒビトなんてわずか10歳で上級魔導士になって、今では帝級にもそろそろなれるのではないかと噂されているじゃないか」
「噂は噂だよ。まだまだ僕は帝級にはなれないよ。資格も満たしてないし。
あんまりその資格も満たしたくないんだよな」
帝級になるための資格ってなんだっけ?と考えていると、ロージェ先生がやってきた。
「お主達、来年13歳になるだろ。」
「「はいそうです」」
僕らは、声を合わせて答える。
「13歳からは、魔導専門学校、通称「魔専《ません》」に入学することができる。もちろん入学するには試験を突破しなければならないが、ここに入学できれば、さらに専門的な魔導訓練を受けることができ、さらには様々な人脈だってできる。後、今後、王国魔導軍の指揮官など、王国防衛のための要職に就くことだってできる。どうだ? 行ってみないか?」
「はい!」とヒビトは間髪入れずに答えた。
そもそもヒビトはこの王国の英雄ユーリ・シルベニスタの嫡男である、父親のように王国のために身を捧げることを目指している。
だから、ヒビトは行くに決まってるじゃないか。
ただ、僕は‥‥‥。
魔導具士で、素の力は中級魔導士、増幅用魔導具を使ったって上級魔導が関の山である。
そりゃ、強くなって沢山の人を守りたいし、前世のようなことを起こしたくない。
決めあぐねていると、ロージェ先生は、僕にこっそり耳打ちした。
「魔専で成績優秀者は姫様の護衛任務を命令されることもあるが、どうするアスカ?」
姫様の護衛任務!?
昔ユミ姉が言っていたことはこれか!?
確かに、ユミ姉は魔専をトップクラスの成績で卒業したらしいが、だから知っていたのか。
姫様に会えるのか。それは何事にも変えられないよな。
姫様に会いたいもん。
まだ、ベッドの脇には姫様との唯一の繋がりであるピンクのバラを飾っている。
メンテナンスを時々施していたから、まだまだ綺麗に香っている。
僕は、王宮から逃げ出した日のことを思い出す。
ああ、あの日僕は約束したっけな。必ずまた会いに行くと。
ならば、行かなければなるまい。
「先生、僕も受けます、魔導専門学校を!」
「アスカそうこなくっちゃ。僕はずっとアスカと一緒に居たいからさ」
横で、ヒビトがかなり喜んでいる。
本当に裏表のないいいヤツめ。
「魔専を受けるには、2人の魔導士の推薦が必要なのだが、ヒビトは、ワシとユーリ様の推薦でいいだろう。アスカはワシとソイニー隊長の推薦がいいと思うぞ。帰ったらソイニー隊長に頼みなさい」
「分かりました先生。ありがとうございます」
今日の稽古はここまでとなり、僕はヒビトと街中に行きハンバーガーを食べながら、魔専について調べたり、雑談をしたりしてから帰路に着いた。
初代魔導具士から代々受け継がれてきた魔導具士の書の冒頭には、魔導具士としての心意気が記載されていた。
これが初代の筆跡、言葉‥‥‥とても感慨深かったが、それと1000年前の文章だから読めないと思ったが、意外に判読可能なことにも同時に驚いた。
ページをめくるとそこには、2代目の生い立ちや初代との出会いなどが、記載されており、サインは2代目によって書かれたものだった。。
あれ?初代については何も書かれていない?
「先生これは」
「アスカ、違和感に気づいたか。その書は全て2代目以降の継承者達によって書かれたものだ。冒頭の言葉は、初代の言葉らしいが、書いたのは2代目らしい。
つまり、初代については我々継承者もわからんのだよ」
「そんな‥‥‥、あの、初代について書かれていないのは、初代が本に残せないようなことをしたからですか‥‥‥?」
「いや、それは違う。実は、口頭伝承もあるのだ。
今後ゆっくり覚えてもらおうと思ったが、今日は一つだけ伝えよう。
いいかい?伝承はこうだ。『師匠(初代)は常に臣民を慈しみ、臣民を信頼し、臣民のために生きた』だ」
常に臣民を慈しみ、臣民を信頼し、臣民のために生きた‥‥‥
世間のイメージと全然違う。
やはり、おとぎ話の初代魔導具士は本当は優しい人だったのでは‥‥‥。
「あの、先生、なぜこの口頭伝承は本に記載されていないのですか?」
「なぜだかはわからんが、初代から禁止されているのだ。
恐らく、文字として残しておくにはあまりんも危険な内容なのだろう」
常に臣民を慈しみ、臣民を信頼し、臣民のために生きた‥‥‥これが、危険な内容?
そんなこと絶対ない。
しかし、世間では初代魔導具士は忌み嫌われる存在。
となると、初代が心優しいと困る者が、わざと異なる情報をおとぎ話として流布したのか?
あー考えてもキリがない。何が真実なんだ。
混乱している僕を見かねて先生が口を開く。
「アスカ、ワシも昔はよく考えたものだ。
初代魔導具士は本当はいい人で、世間の認識が間違っているのではないかとな。
ただ、真実はわからんのじゃ。それならば、過去には囚われず、ワシらがしっかり誠実に生きることの方が重要じゃないか? 魔導具士であることはすぐには世間に開かせないが、いづれ魔導具士が世間に認められる日が来た時に、ワシらの生き方は必ず注目される。
その時に、胸を張って堂々とできるように生きるのが大切だとは思わんか?」
ロージェ先生は、優しく僕を見つめる。
確かに、そうだ。
分からない過去より、未来の魔導具士のために今をしっかり生きる。
「そうですね。先生」
僕はそっと本を閉じ先生に返した。
「それじゃあ、アスカ、剣術稽古の続きをしよう」
それから、2年間は死に物狂いで剣術稽古はロージェ先生、魔導修行はソイニー師匠に習った。
魔導修行は時々ユミ姉と一緒にやった。
ユミ姉は、僕を本当の弟のように可愛がってくれた。
実は、増幅用魔導を使って、上級魔導なども出せるようになるにつれて、基礎魔導も上がり、魔導具なしで中級魔導まで使えるようになった。
まだ、認定試験を受けていないから、初級魔導士なのだけれども。
ソイニー師匠も、徐々に魔導が上達していく僕のことを全身全霊で喜んでくれた。
あ、後、しっかり学校にも休まず行っていたからね。
剣の稽古は、思ったよりすんなり上達した。
そりゃ、伸び悩んで大変な時もあったけれど、ヒビトと共に励まし合いながら、幾つもの壁を乗り越えてきた。
魔導では流石に上級魔導士の天才ヒビトにはかなわないが、剣術はヒビトを凌ぐ程度までに急成長を遂げた。
———————
——アスカ、ヒビト12歳のある日‥‥‥
「アスカは、剣術の才能がすごいよな。
僕をあっという間に追い抜いちゃったよ」
「いやいや、ヒビトなんてわずか10歳で上級魔導士になって、今では帝級にもそろそろなれるのではないかと噂されているじゃないか」
「噂は噂だよ。まだまだ僕は帝級にはなれないよ。資格も満たしてないし。
あんまりその資格も満たしたくないんだよな」
帝級になるための資格ってなんだっけ?と考えていると、ロージェ先生がやってきた。
「お主達、来年13歳になるだろ。」
「「はいそうです」」
僕らは、声を合わせて答える。
「13歳からは、魔導専門学校、通称「魔専《ません》」に入学することができる。もちろん入学するには試験を突破しなければならないが、ここに入学できれば、さらに専門的な魔導訓練を受けることができ、さらには様々な人脈だってできる。後、今後、王国魔導軍の指揮官など、王国防衛のための要職に就くことだってできる。どうだ? 行ってみないか?」
「はい!」とヒビトは間髪入れずに答えた。
そもそもヒビトはこの王国の英雄ユーリ・シルベニスタの嫡男である、父親のように王国のために身を捧げることを目指している。
だから、ヒビトは行くに決まってるじゃないか。
ただ、僕は‥‥‥。
魔導具士で、素の力は中級魔導士、増幅用魔導具を使ったって上級魔導が関の山である。
そりゃ、強くなって沢山の人を守りたいし、前世のようなことを起こしたくない。
決めあぐねていると、ロージェ先生は、僕にこっそり耳打ちした。
「魔専で成績優秀者は姫様の護衛任務を命令されることもあるが、どうするアスカ?」
姫様の護衛任務!?
昔ユミ姉が言っていたことはこれか!?
確かに、ユミ姉は魔専をトップクラスの成績で卒業したらしいが、だから知っていたのか。
姫様に会えるのか。それは何事にも変えられないよな。
姫様に会いたいもん。
まだ、ベッドの脇には姫様との唯一の繋がりであるピンクのバラを飾っている。
メンテナンスを時々施していたから、まだまだ綺麗に香っている。
僕は、王宮から逃げ出した日のことを思い出す。
ああ、あの日僕は約束したっけな。必ずまた会いに行くと。
ならば、行かなければなるまい。
「先生、僕も受けます、魔導専門学校を!」
「アスカそうこなくっちゃ。僕はずっとアスカと一緒に居たいからさ」
横で、ヒビトがかなり喜んでいる。
本当に裏表のないいいヤツめ。
「魔専を受けるには、2人の魔導士の推薦が必要なのだが、ヒビトは、ワシとユーリ様の推薦でいいだろう。アスカはワシとソイニー隊長の推薦がいいと思うぞ。帰ったらソイニー隊長に頼みなさい」
「分かりました先生。ありがとうございます」
今日の稽古はここまでとなり、僕はヒビトと街中に行きハンバーガーを食べながら、魔専について調べたり、雑談をしたりしてから帰路に着いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
33
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる