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強さを求め

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「ただいま~」

 玄関を開けると、そこにはすでに3組のスリッパが並んでいた。
 昼前にソイニー師匠に、今日の放課後チームメイトを連れて家に行くと連絡に入れておいたのだが、準備は万端らしい。

「「お邪魔します」」

 僕の後に続いて、ヒビトやナオミ、マミが家の中に入る。
 みんな恐る恐る家の中に入り、リビングに着くと、台所からソイニー師匠が出てくる。

「みなさんようこそ。今日は楽しんでいってね。あ、もうすぐ夕飯もできるから食べってってね」
「あ、ソイニー様、初めまして! ナオミ・ミハマと申します」

 ソイニー師匠の横に立っていたナオミが緊張のあまり、カタコトな挨拶をする。

「そんな緊張しなくても大丈夫よ。それにソイニーさんとかでいいわよ。ナオミさん。後そちらがマミさんね」

「はい、マミ・ユフゲルと申します」

 マミは、背筋を伸ばし、礼儀正しい挨拶をする。

「先日は大変だったわね」
「あ、いえ、警戒していなかった私も悪いので。それにアスカ君やみんなに助けてもらえたので‥‥‥大丈夫です」
「大丈夫そうならいいんだけど。アスカが暴走してしまってごめんなさいね。怖かったでしょ」
「とんでもないです。あの時のアスカ君は確かに荒々しかったですけど、私を助けようとしてくれて一生懸命で、その‥‥‥かっこよかったです」

 マミは顔を紅潮させながら俯く。
 かっこいい‥‥‥。
 あれ、なんだか雰囲気がおかしいな。
 ナオミやヒビト、ソイニー師匠はマミの予想外の言葉に目を丸くする。

 そんな、少し気まづい雰囲気のところに、二階からナオミの本命が降りてきた。

「みんないらっしゃ~い」

 ユミ姉が一階が騒がしくなってきたことに気づき自室から出てきて、下りてくる。
 下りてきたユミ姉を視認したナオミは、俊足でユミ姉に近づき、両手でユミ姉の手を握る。

「あ、あの、ユミ・クルルギさん、私、私、ユミさんの大ファンで、その、ユミさんに憧れて防御魔導士を目指してます」

 憧れのユミ姉を目の前にして、ナオミの理性は彼方へと飛んでいってしまっていた。

「あなたがナオミさんね、アスカから話は聞いてるわ。絶対防壁を習いたいですって?」
「はい! もっと強くなって、誰の攻撃も通さない全ての人を守り抜く強い防御魔導士になりたくて!」
「良い心構えね。まあ、座って話しましょ」

 そういうと、ユミ姉は皆をリビングのソファーに座らせた。
 ソイニー師匠はお茶や、お茶菓子を皆に出してから、台所で調理の続きを始める。

「さてと、じゃあ何から聞きたい?」
「あの、なんでユミさんはそんなに可愛いんですか?」
「え? ナオミさん、それが聞きたかったの?」
「いや、すみません、間違えました。ちょっと興奮してしまい、考えていることと口から出た言葉が違いました」

 ナオミのテンパリ具合に、一同は笑う。
 とても心地よい雰囲気。

「あの、どうやれば絶対防壁を習得できますか?」
「絶対防壁ね。これはね、実際どうやれば習得できるかはわからないのよ。ただね。私が習得した時はね、まあ、少し特殊な状況だったのだけど、絶望的な状況下でも人を守るという強く思った時だったわ」
「絶望的な状況下でも人を守るという強い意志が、絶対防壁の習得に必要ということですか?」
「まあ、そういうことになるわね。だけどね、絶対防壁って万能ではないのよ」

 ユミ姉はそう告げながら、ソイニー師匠が用意したコーヒーを飲み、さらにソファーに深く腰掛ける。

「ユミさん、それはどういう意味ですか?」
「絶対防壁もね、強い相手に破られてしまうことだってあるのよ」
「え? そうなんですか? だけど絶対防壁は3つある最強防御魔導の中の一つですよね」
「そうよ。言い方を変えるならば、絶対防壁は使う魔導士によって弱くも強くもなるのよ。例えば、堅牢防壁はどんなに魔導をつぎ込もうとも盾の強度は一定以上には上がらないでしょ。だけど、絶対防壁は魔導を注げば注ぐほど、堅く強い盾になるわ。要は、魔導士の基礎魔導力が重要な魔導なのよ」
「そうだったんですね。じゃあ、もし今私が習得したとしても、簡単に破られてしまうかもしれないですね」
「だから、まずは基礎魔導力を上げることに集中したほうがいいわ。目指せ帝級防御魔導士! そうすれば、運よく絶対防壁を習得しても、うまく使いこなすことができると思うわ」

 絶対防壁が万能だと思っていた僕らにとっては、目からウロコの話をユミ姉はしてくれた。
 その後は、ユミ姉の魔専時代の話や、ユミ姉が今通っている魔導軍学校の話など、面白おかしく話を聞いた。

「盛り上がっているわね。そろそろご飯ができますよ」

 ソイニー師匠がテーブルに夕ご飯を並べ始める。
「あ、私手伝いますよ」と、マミとナオミ、ヒビトが立ち上がろうとするが、「いいからいいから」とソイニー師匠は彼らをもう一度ソファーに座らせた。

 夕飯の準備が整い、各々席に座る。
「「いただきます」」と唱えてから、夕ご飯を食べ始める。
 皆口々に、「おいしい」と連発する。
「アスカ、毎日こんなに美味しい料理を食べてるの?」

 ヒビトが目を丸くしながら僕に訊く。

「うんそうだよ、ソイニー師匠のご飯って本当に美味しいよね」

 これが確かに美味しいのである。ソイニー師匠はもともと料理が得意で、僕は毎日こんなにも美味しい料理を食べているのである。

 和気藹々と楽しい夕食のひと時を過ごしていると、おもむろにヒビトが話し始めた。

「そういえば、気になってたんだけど、ナオミとマミって魔専入学前から仲が良かったの?」

 確かに‥‥‥、チームが決定した日も、すでに仲が良さそうであった。
 ナオミとマミは互いに見つめ合い、少し苦笑いをしてから、僕やヒビトの方を見る。
 そして、ナオミが話し始める。

「実はね、マミの両親が、私の家の使用人だったのよ」
「え? そうだったの?」

 ヒビトは再び目を丸くして驚く。一体今日、彼は何回驚くのだろうか。

「それで、5歳くらいまでは、歳も近かったから、マミのご両親がマミを屋敷に連れてきてくれたから、毎日一緒に遊んでたのよ」
「5歳くらいまでってそれ以降はどうしたの?」

 今度は僕が質問した。

「5歳の時ね、マミに魔導の素質があることが分かったの。マミのご両親は魔導士ではなく、普通の家庭で、そういう家庭から魔導の素質がある子どもが生まれることって本当に稀だから5歳まで気づかなかったのよ」
「だけど、それが問題だったんだよね。ナオミちゃん」

 マミが、少し目線を落としながらナオミの話に相槌を打つ。

「私の地域の魔導士って上昇志向というかエリート意識がすごく強くて、いつも誰かを蹴落としてでも一番になろうとする人たちばかりなの。あと、貴族と平民の差別もすごいのよ。私の両親ももれなくそうで、マミに魔導士の素質があると知ってからは、万が一、貴族の私が平民のマミに魔導の素質で負けたりしたならば、家に傷がつくということで、マミと接することを禁じられてしまったの」
「え? そんな」

 僕は、そんな厳しい処遇にさらされてきた事実を知り絶句する。

「私もそんなって思ったわよ。だけどね、私にはそれに刃向かうほどの力はなかったの。私はその状況に目を瞑るしかなかった。だけど、マミはそんな私のことを見守ってくれていたの‥‥‥」
「うん、ナオミちゃんの境遇はよくわかってたから、友達だから、また会える日が来ると思って信じてたの」
「それで、魔専でね、偶然マミと会ってね。まさか同じチームになるとは思わなかったけど」

 マミとナオミは互いに目を合わせ、嬉しそうに笑う。

「あの、いいですか?」
 ナオミの話がひと段落してから、今度はマミが話し始める。

「ソイニーさん、あの、藪から棒で申し訳ないんですが、私、もっと治癒魔導が強くなりたくて‥‥‥、ですが、平民出身で知り合いの魔導士もナオミちゃんくらいしか知らないので‥‥‥その‥‥‥」

 どんどんナオミの歯切れが悪くなってくる。
 かなり言いづらそうにしている。
 マミの様子を見て、ソイニー師匠はマミの考えを汲み取る。

「マミさんは、治癒魔導を誰かから習いたいのね?」
「あ、はい、そうです。そうなんですが‥‥‥」
「いいわ、いい人を紹介してあげる! 治癒魔導を教育するのに長けてる人を知ってるから」
「本当ですか!?」
「もちろんよ、アスカのチームメイトですし。私、強くなりたいって人好きですから」
「あ、ありがとうございます」

 マミは今日一番の笑顔を見せる
 絶世の美女の笑顔、なんという破壊力なのだろう。
 僕の意識が一瞬吹っ飛ぶような感覚に陥る。

 そんな悦に浸る僕を尻目に、ソイニー師匠は思い出したかのように話し出す。
「あ、そういえば、あと1ヶ月くらいで、魔専恒例行事があるんじゃない?」

「確かに、もうそんな時期か」

 ユミ姉も、ソイニー師匠の言葉に頷く。

 一体、恒例行事ってなんだ?
 ロージェ先生も他の生徒からも一度もそのようなことを聞いたことがない。
 ヒビトやマミ、ナオミも互いに目配せしながら、なんの話なのかと考えている。

「ソイニー師匠、恒例行事って一体なんですか?」
「あれ、アスカ知らないんですか? これって言ってよかったのかしら」
「言っていいんじゃないですか、師匠。どうせアスカ達はそのうち知ることになるわけですし」
「そうですね、ユミさん。アスカ、恒例行事というのはですね、日本と仲の悪い米帝への魔導研修旅行ですよ」
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