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秘技伝承
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「米帝への研修留学 ? だけど、日本って米帝と仲が悪いですよね。今でもいざこざが絶えないですし、この前だってあすなろ荘は米帝に襲われかけてたじゃないですか」
僕は、ソイニー師匠から聞かされた、予想外のことがらに驚きながら反応する。
「なにも不思議なことはないわよ。本音と建前、軍事関係ではいざこざはあっても、戦争状態ではないですし、経済では仲良くしているし。あと、表向きには、日本から学生を米帝に送ることで、友好関係を築く努力をしているように見せないといけないのよ」
世界というのは一筋縄ではいかない、本音と建前が重要なのは重々承知の上であるのは理解しているが、やはり歪《いびつ》だ。
「米帝はね、なんでも物量でなんとかしようとする国なのよ。私が行った時はね、戦車とか戦闘機の大量製造に魔導具士が関わっていて、魔導が施されていたのよ。魔導士が戦車や戦闘機に乗って戦うんだからびっくりしちゃった」
ユミ姉が椅子に深く腰掛けながら、懐かしそうに過去の記憶を思い起こしていると、ナオミが質問する。
「ですけど、魔導具士が作る戦車とか怖くないですか? 変な細工とかしてそうで」
ナオミは、やはり魔導具士が作る杖以外の魔導具には抵抗感があるらしい。
「魔導具士って言っても悪い人たちばかりじゃないわ。まあ、そういう風に考えてしまうのも分からなくはないけど‥‥‥。米帝はね、兵器の製造に関わる魔導具士の行動を徹底的に管理することで、そこら辺の不安は払拭しているらしいわ」
「そうなんですね‥‥‥」
ナオミは少しばかりまだ納得できていないようだった。
「まあ、百聞は一見に如かずだから、実際に米帝に行ってみるのがいいわ。研修留学生ならば危害は加えられないはずだし」
危害って、やっぱり米帝に行くのは危険がつきまとうらしい。
一応、日本王国と米帝は国交を結んでいるが、それでもいざこざが絶えない。
つい先日だって、太平洋沖で、米帝のイージス艦隊が領海侵犯し、王国軍や魔導士部隊が緊急出撃する事態が生じていた。
それくらいに日本王国と米帝のいざこざは日常に浸透している。
そんな両国の冷え切った関係の中、研修留学に行くっていうんだから、気が気でないのは分からなくもない。
研修留学の話が終わり、この後、夕飯をみんなで楽しく済ませ、僕らは解散した。
————
それから一週間後、朝のホームルーム
「今日は皆にお知らせがある」
ロージェ先生は連絡事項の最後に、真面目な顔つきで生徒たちに告げる。
「来月から、魔専恒例の米帝への研修留学が今年も行われることになった」
「「お~!」」
生徒たちは、皆歓声をあげる。だけど、米帝への研修留学が一体どんなものなのか全くイメージは付いていない。
研修留学はロージェ先生によると、米帝のmagic school(魔導学校)との交流が主な目的らしい。
滞在中は、模擬試合やレセプション、軍事施設の視察などが予定されているとのこと。
米帝に行ったことがない人がほとんどであるこの日本王国において、米帝に渡航することは、恐怖もあるが少しばかりワクワクするものであった。
米帝への渡航までにパスポートを申請しておくようにと告げてから、ロージェ先生は職員室に消えていった。
放課後
僕はいつも通り、ヒビトと一緒にロージェ先生との稽古に励む。
辺りが完全に暗くなって、稽古を終えると、ロージェ先生は、僕に執務室に来るように告げる。
「先生、失礼します」
「おお来たか。そこに座りなさい」
「はい」
「今日、アスカを呼び出したのはな、そろそろ、必殺技というか秘技を教えようかと思ってな」
「秘技ですか?」
「そうじゃ、強い魔導士というものは最低一つ、秘技を持っているものだ。例えば、ユミの『絶対防壁』のようなものと言えばイメージがわくかな?」
大変わかりやすかった。つまりユミ姉の絶対防壁のような大技を僕も習得する時が来たということか。
僕は、高揚感に包まれる。
「先生、僕も大技を使えるようになるんですか!? 魔導具士なのに」
「そうじゃな、わしもな、アスカと出会った時には、アスカがどれくらいまで魔導士として成長するかわ未知数で分からなかったのだが、お主は中級魔導士にまでなり、さらに成長を遂げている。つまり、アスカ、お主はまだまだ強くなれる素質があるとわしは考えている。」
「ロージェ先生、それは本当ですか? 本当ならば嬉しいです」
僕はまだまだ強くなれる。
魔専で日々、魔導について学んでいるが、他のみんなが順当に色々な魔導を習得しているにもかかわらず、僕は魔導の習得が遅かったのである。
だから僕は、もうこれ以上魔導が伸びないのではないかと、実は不安に駆られていた。
しかし、ロージェ先生は言う。
僕は、まだ上に行く素質があると。
強くなれると。
ロージェ先生に言われると、なんだかまだ魔導が上達しとうな気になる。
強くなれれば、大切な人をさらに守れる。
こんなにも嬉しいことはあるだろうか。
「それで、秘技なんじゃが、これは、魔導士としての秘技というよりは、魔導具士としての秘技でな、魔導具士しか扱えないものなのじゃ。もう少し要約すると、初代から受け継がれてきた、秘技であり、増幅用魔導具を持つ魔導具士しか使えない秘技」
「そのような秘技があるのですね」
「そうじゃ、今からその秘技を習得してもらおうと思う。しかし、一朝一夕に習得できるものではない。この秘技は、基礎魔導力に依存する。つまり、アスカの魔導力が強くなればなるほど、秘技も強くなる。際限はない」
「ユミ姉の『絶対防壁』みたいですね」
「そうじゃ、理論としては一緒だ。それじゃあ、技名を教える。技名は、『カラドボルグ』」
ロージェ先生は技名を教示してくださった。
『カラドボルグ』
その後、口語伝承として伝わっている詠唱を教えてもらった。
「ただな、一つだけ問題があるのじゃ」
ロージェ先生は困った顔をしている。
「先生、一体何は問題なんですか?」
「今、教えた技は、実際に初代が使っていたと二代目の記述に記載されているのだが、初代以降は使える者がいないのじゃ」
「え!?」
二代目以降、この技を使えるものがいない?
「となるとロージェ先生は?」
「恥ずかしながら、わしも使えぬ。何度か練習してみたのだが」
帝級剣豪魔導士ロージェ先生でも、使えない魔導。
それじゃあ、僕に使える見込みなんて皆無ではないか。
「ロージェ先生、先生でも使えないとなると、僕に教えてもらっても、使えないと思いますが」
僕は残念そうに、先生に告げる。
実際、とても残念であった。せっかく、ユミ姉のように必殺技ができるかと思ったのに、期待外れだったため。
「いや、これは代々才ある魔導具士の秘伝、必ず受け継いでいかなければならない。
もし、アスカがこの秘技を使えないとしても、将来アスカの弟子には伝えてほしい。ちなみに、これは門外不出。ソイニー隊長にも言ってはダメだぞ」
将来か。
そこまで僕は大成するのかな。
弟子を取れるまでに。
ロージェ先生の真剣な眼差し。
初代から脈々と受け継がれてきた、誰も現界できない秘技。
ことの重大性は理解できる。
しかし、なんとなく現実味はなかった。
ロージェ先生は、必ず詠唱は覚えておくようにと言ってから、今日の稽古は解散となった。
僕は、ソイニー師匠から聞かされた、予想外のことがらに驚きながら反応する。
「なにも不思議なことはないわよ。本音と建前、軍事関係ではいざこざはあっても、戦争状態ではないですし、経済では仲良くしているし。あと、表向きには、日本から学生を米帝に送ることで、友好関係を築く努力をしているように見せないといけないのよ」
世界というのは一筋縄ではいかない、本音と建前が重要なのは重々承知の上であるのは理解しているが、やはり歪《いびつ》だ。
「米帝はね、なんでも物量でなんとかしようとする国なのよ。私が行った時はね、戦車とか戦闘機の大量製造に魔導具士が関わっていて、魔導が施されていたのよ。魔導士が戦車や戦闘機に乗って戦うんだからびっくりしちゃった」
ユミ姉が椅子に深く腰掛けながら、懐かしそうに過去の記憶を思い起こしていると、ナオミが質問する。
「ですけど、魔導具士が作る戦車とか怖くないですか? 変な細工とかしてそうで」
ナオミは、やはり魔導具士が作る杖以外の魔導具には抵抗感があるらしい。
「魔導具士って言っても悪い人たちばかりじゃないわ。まあ、そういう風に考えてしまうのも分からなくはないけど‥‥‥。米帝はね、兵器の製造に関わる魔導具士の行動を徹底的に管理することで、そこら辺の不安は払拭しているらしいわ」
「そうなんですね‥‥‥」
ナオミは少しばかりまだ納得できていないようだった。
「まあ、百聞は一見に如かずだから、実際に米帝に行ってみるのがいいわ。研修留学生ならば危害は加えられないはずだし」
危害って、やっぱり米帝に行くのは危険がつきまとうらしい。
一応、日本王国と米帝は国交を結んでいるが、それでもいざこざが絶えない。
つい先日だって、太平洋沖で、米帝のイージス艦隊が領海侵犯し、王国軍や魔導士部隊が緊急出撃する事態が生じていた。
それくらいに日本王国と米帝のいざこざは日常に浸透している。
そんな両国の冷え切った関係の中、研修留学に行くっていうんだから、気が気でないのは分からなくもない。
研修留学の話が終わり、この後、夕飯をみんなで楽しく済ませ、僕らは解散した。
————
それから一週間後、朝のホームルーム
「今日は皆にお知らせがある」
ロージェ先生は連絡事項の最後に、真面目な顔つきで生徒たちに告げる。
「来月から、魔専恒例の米帝への研修留学が今年も行われることになった」
「「お~!」」
生徒たちは、皆歓声をあげる。だけど、米帝への研修留学が一体どんなものなのか全くイメージは付いていない。
研修留学はロージェ先生によると、米帝のmagic school(魔導学校)との交流が主な目的らしい。
滞在中は、模擬試合やレセプション、軍事施設の視察などが予定されているとのこと。
米帝に行ったことがない人がほとんどであるこの日本王国において、米帝に渡航することは、恐怖もあるが少しばかりワクワクするものであった。
米帝への渡航までにパスポートを申請しておくようにと告げてから、ロージェ先生は職員室に消えていった。
放課後
僕はいつも通り、ヒビトと一緒にロージェ先生との稽古に励む。
辺りが完全に暗くなって、稽古を終えると、ロージェ先生は、僕に執務室に来るように告げる。
「先生、失礼します」
「おお来たか。そこに座りなさい」
「はい」
「今日、アスカを呼び出したのはな、そろそろ、必殺技というか秘技を教えようかと思ってな」
「秘技ですか?」
「そうじゃ、強い魔導士というものは最低一つ、秘技を持っているものだ。例えば、ユミの『絶対防壁』のようなものと言えばイメージがわくかな?」
大変わかりやすかった。つまりユミ姉の絶対防壁のような大技を僕も習得する時が来たということか。
僕は、高揚感に包まれる。
「先生、僕も大技を使えるようになるんですか!? 魔導具士なのに」
「そうじゃな、わしもな、アスカと出会った時には、アスカがどれくらいまで魔導士として成長するかわ未知数で分からなかったのだが、お主は中級魔導士にまでなり、さらに成長を遂げている。つまり、アスカ、お主はまだまだ強くなれる素質があるとわしは考えている。」
「ロージェ先生、それは本当ですか? 本当ならば嬉しいです」
僕はまだまだ強くなれる。
魔専で日々、魔導について学んでいるが、他のみんなが順当に色々な魔導を習得しているにもかかわらず、僕は魔導の習得が遅かったのである。
だから僕は、もうこれ以上魔導が伸びないのではないかと、実は不安に駆られていた。
しかし、ロージェ先生は言う。
僕は、まだ上に行く素質があると。
強くなれると。
ロージェ先生に言われると、なんだかまだ魔導が上達しとうな気になる。
強くなれれば、大切な人をさらに守れる。
こんなにも嬉しいことはあるだろうか。
「それで、秘技なんじゃが、これは、魔導士としての秘技というよりは、魔導具士としての秘技でな、魔導具士しか扱えないものなのじゃ。もう少し要約すると、初代から受け継がれてきた、秘技であり、増幅用魔導具を持つ魔導具士しか使えない秘技」
「そのような秘技があるのですね」
「そうじゃ、今からその秘技を習得してもらおうと思う。しかし、一朝一夕に習得できるものではない。この秘技は、基礎魔導力に依存する。つまり、アスカの魔導力が強くなればなるほど、秘技も強くなる。際限はない」
「ユミ姉の『絶対防壁』みたいですね」
「そうじゃ、理論としては一緒だ。それじゃあ、技名を教える。技名は、『カラドボルグ』」
ロージェ先生は技名を教示してくださった。
『カラドボルグ』
その後、口語伝承として伝わっている詠唱を教えてもらった。
「ただな、一つだけ問題があるのじゃ」
ロージェ先生は困った顔をしている。
「先生、一体何は問題なんですか?」
「今、教えた技は、実際に初代が使っていたと二代目の記述に記載されているのだが、初代以降は使える者がいないのじゃ」
「え!?」
二代目以降、この技を使えるものがいない?
「となるとロージェ先生は?」
「恥ずかしながら、わしも使えぬ。何度か練習してみたのだが」
帝級剣豪魔導士ロージェ先生でも、使えない魔導。
それじゃあ、僕に使える見込みなんて皆無ではないか。
「ロージェ先生、先生でも使えないとなると、僕に教えてもらっても、使えないと思いますが」
僕は残念そうに、先生に告げる。
実際、とても残念であった。せっかく、ユミ姉のように必殺技ができるかと思ったのに、期待外れだったため。
「いや、これは代々才ある魔導具士の秘伝、必ず受け継いでいかなければならない。
もし、アスカがこの秘技を使えないとしても、将来アスカの弟子には伝えてほしい。ちなみに、これは門外不出。ソイニー隊長にも言ってはダメだぞ」
将来か。
そこまで僕は大成するのかな。
弟子を取れるまでに。
ロージェ先生の真剣な眼差し。
初代から脈々と受け継がれてきた、誰も現界できない秘技。
ことの重大性は理解できる。
しかし、なんとなく現実味はなかった。
ロージェ先生は、必ず詠唱は覚えておくようにと言ってから、今日の稽古は解散となった。
応援ありがとうございます!
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