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決意
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「さあ、行きなさいアスカ。世界を救うために」
「はい、行ってきますお母さん」
僕は、エレンの方に歩みを進める。
「お母さんとの話はもういいのかい?」
エレンは優しい顔で問いかける。
「ごめん、待っててもらって」
「いやいいよ。嬉しそうなアスカが見れてこっちもほっこりした。じゃあ行こっか」
200m前方に大きな門が聳え立っている。その名も選天門。そこを出れば下界に通じる。そうお母さんが言っていた。
「アスカは、背負うものも多いけど、見守ってくれる仲間や家族もいるだからできるよ世界を救うことが」
「どうしたのエレン急に」
「いや、アスカとお母さんを見ていたら少し昔を思い出して。僕の母さんのことを」
「エレンのお母さん?」
「うん、僕のお母さんは天界大統領に殺されたんだ」
「え!?」
「実の夫にね」
「そ、そうだったんだ……。じゃあ、天国にいるかもしれないよ。僕のお母さんに聞いてみれば」
僕が早口でそういうと、エレンは、静かに首を振る。少し悲しそうな笑顔を向けながら。
「天国にはいないよ。いるとしたら、天界大統領の中。天界大統領は人の魂を喰らい、自らと同化する。だから僕の母さんを救うには、天界大統領を倒すしかないんだ。父を倒すことにためらいはない。だからアスカ頼む」
少し上を向き、涙が漏れることを防ぐエレン。悲しみの溢れる表情の中に、一筋の闘志も垣間見れる。
「僕は倒すよ。必ず」
「ありがとう」
僕らは選天門の前に立つ。ゆっくりと門が開く。後ろを振り返ると大きく手を振る母の姿が視界に入り、涙腺が緩む。
「さあ行こう」
僕の合図で、2人は漆黒の先へと一歩を踏み出す。
「アスカ。日本を頼んだ。王家の野望を果たすのだ」
不意に声がした。門に吸い込まれる寸前。僕は横を見る。そこには、日本王国の正装に身を包んだ男性が立ちながらこちらに向かい敬礼する。アスカは、直感でわかったそれが誰なのか。
「お父さん……」
僕らは、門に吸い込まれ転移していく。父に僕の言葉が届いたかはわからない。
——
「アスカ。起きてアスカ!」
目を開ける。誰だろう、僕の名前を呼ぶのは。確か、転移魔導で、天国から転移してきた………け?
「……は!」
ここはどこ? 勢いよく起き上がると周囲を見回す。どこかの一室のベッドの上に僕は座っていた。
「良かった。アスカ! 生きていてくれて」
いきなり誰かが僕に横から抱きついてくる。甘い香り、僕はこの匂いの人物を知っている。
「姫様!」
僕に抱きついてきたのは姫様だった。姫様は、目に涙を浮かべながら僕の顔を上目遣いで見上げる。かわいい。そんな可愛く見つめられたら理性が……。
「姫様、そんな僕に抱きついては色々と問題が——」
「問題なんてありません。無事に戻ってきてくれて良かった。あなたが天界に連れ去られたと聞いた時は、生きた心地がしなかったから……」
いや、問題があるのは僕の方なんです姫様。離れてもらわないと僕の心臓が破裂してしまう。
「お二方、盛り上がってるところ申し訳ないのだけれど」
声をかけてきたのはエレン。エレンは窓際の椅子に腰掛けて、笑いながらこちらを見ていた。そういえば、エレンも一緒に転移してきたんだったと思い出す。
「あ、エレン、ごめん。エレンも無事で良かった」
僕は、姫様の肩を掴みゆっくり引き離すと、エレンに目を向ける。
「まあいいんだけどね。エリナ姫とアスカのお熱いところを見るのも一興だから、キスぐらいしても大丈夫だよ」
「いや、エレン、それは」
「いや、姫様はまんざらでもないみたいだけど」
姫様を見ると、今度は顔を赤らめて俯いている。——え、本当にキスしてもいいのかな。
「も、もう、恥ずかしいからあまり見ないで」
恥じらう姫様が妙に愛おしい。だが、エレンが側にいることで、なんとか僕の理性は保たれた。
「あ、すみません姫様。エレンも変なことを言わないで」
「変な感情を抱いているのはアスカだろ」
僕の回答に対して、返答したのはエレンではなかった。真後ろから幼い感じの聞き慣れた声。
——コツ
木の棒のような硬い何かで頭を軽く叩かれた。
「イテテ」
「アスカ、拉致されたならばもっと早く救援を呼ばんかね」
僕の後ろに立っていたのは、ソイニー師匠だった。
「ソイニー師匠! ご無事ですか!」
「無事に決まってるじゃないか。私を誰だと思っているのアスカ。それとせっかく自分で999魔導具《スリーナイン》を作ったのに、肝心の自分が使わないなんて」
「すみません。急なことだったので、身につけていませんでした」
「まあ、そんなことだとは思いました」
「ソイニー師匠、天界大統領は……どうなったのですか?」
「天界大統領を殺すことはできないから、呪縛魔導で天界大統領を捕縛して、その後『メテオバースト』で隕石を大量に落としてきたわ。さすがの天界大統領も回復に時間を要するはずよ。だから、今から数日が私たちに与えられた最後の猶予。数日後には、必ず天界大統領は地球に攻めてきて、滅ぼすはず。私たちは天界大統領の怒りを買ったからね。そしてアスカは初代魔導具士の生まれ変わりであることもバレてしまった。あなたは、天界大統領の唯一の天敵。必ずアスカを殺しにくるわ」
ソイニー師匠の言葉によって、室内に緊迫感が流れる。ついに決戦の時が来る。僕の実力は、まだ天界大統領には遠く及ばない。しかし、魔導具は揃った。天界大統領を倒すためのパーツは。これまで数々の茨の道を歩んできた。母親を亡くし、奴隷同然の仕打ちを受けた時もあった。ソイニー師匠やユミ姉、ヒビトやナオミ、マミとも出会えた。エレンや姫様にも。人生いいことと悪いことの比率は一緒らしい。確かにそうかもしれない。僕は不幸も幸福も十分味わうことができた。そして今言えることは、生きていて良かったということ。僕はこの世界を未来に残したい。
——アスカ。日本を頼んだ。王家の野望を果たすのだ
父の言葉が頭の中にこだまする。
僕は必ず倒す。天界大統領を。
「はい、行ってきますお母さん」
僕は、エレンの方に歩みを進める。
「お母さんとの話はもういいのかい?」
エレンは優しい顔で問いかける。
「ごめん、待っててもらって」
「いやいいよ。嬉しそうなアスカが見れてこっちもほっこりした。じゃあ行こっか」
200m前方に大きな門が聳え立っている。その名も選天門。そこを出れば下界に通じる。そうお母さんが言っていた。
「アスカは、背負うものも多いけど、見守ってくれる仲間や家族もいるだからできるよ世界を救うことが」
「どうしたのエレン急に」
「いや、アスカとお母さんを見ていたら少し昔を思い出して。僕の母さんのことを」
「エレンのお母さん?」
「うん、僕のお母さんは天界大統領に殺されたんだ」
「え!?」
「実の夫にね」
「そ、そうだったんだ……。じゃあ、天国にいるかもしれないよ。僕のお母さんに聞いてみれば」
僕が早口でそういうと、エレンは、静かに首を振る。少し悲しそうな笑顔を向けながら。
「天国にはいないよ。いるとしたら、天界大統領の中。天界大統領は人の魂を喰らい、自らと同化する。だから僕の母さんを救うには、天界大統領を倒すしかないんだ。父を倒すことにためらいはない。だからアスカ頼む」
少し上を向き、涙が漏れることを防ぐエレン。悲しみの溢れる表情の中に、一筋の闘志も垣間見れる。
「僕は倒すよ。必ず」
「ありがとう」
僕らは選天門の前に立つ。ゆっくりと門が開く。後ろを振り返ると大きく手を振る母の姿が視界に入り、涙腺が緩む。
「さあ行こう」
僕の合図で、2人は漆黒の先へと一歩を踏み出す。
「アスカ。日本を頼んだ。王家の野望を果たすのだ」
不意に声がした。門に吸い込まれる寸前。僕は横を見る。そこには、日本王国の正装に身を包んだ男性が立ちながらこちらに向かい敬礼する。アスカは、直感でわかったそれが誰なのか。
「お父さん……」
僕らは、門に吸い込まれ転移していく。父に僕の言葉が届いたかはわからない。
——
「アスカ。起きてアスカ!」
目を開ける。誰だろう、僕の名前を呼ぶのは。確か、転移魔導で、天国から転移してきた………け?
「……は!」
ここはどこ? 勢いよく起き上がると周囲を見回す。どこかの一室のベッドの上に僕は座っていた。
「良かった。アスカ! 生きていてくれて」
いきなり誰かが僕に横から抱きついてくる。甘い香り、僕はこの匂いの人物を知っている。
「姫様!」
僕に抱きついてきたのは姫様だった。姫様は、目に涙を浮かべながら僕の顔を上目遣いで見上げる。かわいい。そんな可愛く見つめられたら理性が……。
「姫様、そんな僕に抱きついては色々と問題が——」
「問題なんてありません。無事に戻ってきてくれて良かった。あなたが天界に連れ去られたと聞いた時は、生きた心地がしなかったから……」
いや、問題があるのは僕の方なんです姫様。離れてもらわないと僕の心臓が破裂してしまう。
「お二方、盛り上がってるところ申し訳ないのだけれど」
声をかけてきたのはエレン。エレンは窓際の椅子に腰掛けて、笑いながらこちらを見ていた。そういえば、エレンも一緒に転移してきたんだったと思い出す。
「あ、エレン、ごめん。エレンも無事で良かった」
僕は、姫様の肩を掴みゆっくり引き離すと、エレンに目を向ける。
「まあいいんだけどね。エリナ姫とアスカのお熱いところを見るのも一興だから、キスぐらいしても大丈夫だよ」
「いや、エレン、それは」
「いや、姫様はまんざらでもないみたいだけど」
姫様を見ると、今度は顔を赤らめて俯いている。——え、本当にキスしてもいいのかな。
「も、もう、恥ずかしいからあまり見ないで」
恥じらう姫様が妙に愛おしい。だが、エレンが側にいることで、なんとか僕の理性は保たれた。
「あ、すみません姫様。エレンも変なことを言わないで」
「変な感情を抱いているのはアスカだろ」
僕の回答に対して、返答したのはエレンではなかった。真後ろから幼い感じの聞き慣れた声。
——コツ
木の棒のような硬い何かで頭を軽く叩かれた。
「イテテ」
「アスカ、拉致されたならばもっと早く救援を呼ばんかね」
僕の後ろに立っていたのは、ソイニー師匠だった。
「ソイニー師匠! ご無事ですか!」
「無事に決まってるじゃないか。私を誰だと思っているのアスカ。それとせっかく自分で999魔導具《スリーナイン》を作ったのに、肝心の自分が使わないなんて」
「すみません。急なことだったので、身につけていませんでした」
「まあ、そんなことだとは思いました」
「ソイニー師匠、天界大統領は……どうなったのですか?」
「天界大統領を殺すことはできないから、呪縛魔導で天界大統領を捕縛して、その後『メテオバースト』で隕石を大量に落としてきたわ。さすがの天界大統領も回復に時間を要するはずよ。だから、今から数日が私たちに与えられた最後の猶予。数日後には、必ず天界大統領は地球に攻めてきて、滅ぼすはず。私たちは天界大統領の怒りを買ったからね。そしてアスカは初代魔導具士の生まれ変わりであることもバレてしまった。あなたは、天界大統領の唯一の天敵。必ずアスカを殺しにくるわ」
ソイニー師匠の言葉によって、室内に緊迫感が流れる。ついに決戦の時が来る。僕の実力は、まだ天界大統領には遠く及ばない。しかし、魔導具は揃った。天界大統領を倒すためのパーツは。これまで数々の茨の道を歩んできた。母親を亡くし、奴隷同然の仕打ちを受けた時もあった。ソイニー師匠やユミ姉、ヒビトやナオミ、マミとも出会えた。エレンや姫様にも。人生いいことと悪いことの比率は一緒らしい。確かにそうかもしれない。僕は不幸も幸福も十分味わうことができた。そして今言えることは、生きていて良かったということ。僕はこの世界を未来に残したい。
——アスカ。日本を頼んだ。王家の野望を果たすのだ
父の言葉が頭の中にこだまする。
僕は必ず倒す。天界大統領を。
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