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~高校生編~
第15章 王子さまと呼ばれる
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修学旅行の日になりました!
だけど数日前から風邪を引き、だるくて仕方ありません。出発の日の朝、熱を測ったら37.2℃。お母さんは心配したけどせっかくの修学旅行です、絶対に行きたい!薬を飲んで無理はしないって約束して、養護の石田先生に事情を伝え羽田空港に集合しました。
飛行機に乗っている間も寒気が止まず、震えていたら隣りに座っていた千夏ちゃんが心配して毛布を掛け背中を撫でてくれました。
長崎空港に着き、荷物を受け取ろうと待っていると、一佳がスッと横に立ちました。
「七海、具合悪いの?」
「う、うん、風邪を引いちゃって……」
「お前の荷物は俺が運ぶから、先にバスに乗ってろ。」
そう言うと、私の分と自分の荷物を抱え、さっさと歩いて行ってしまいました。
「藤原くん、七海の荷物も運んでくれたんだ!優しいねー!」
このみちゃんが驚いて、一佳の後ろ姿に見惚れていました。そうです、意外と優しいんですよ!
修学旅行の目的は『平和学習』です。最初に訪れたのは原爆資料館、その後、爆心地公園や平和公園もまわりました。その頃には頭が割れそうに痛くて震えも止まらなくなり歩くのがやっと。千夏ちゃんやこのみちゃんが付き添ってくれてやっと移動出来たけど、すぐにも横になりたかったです。
ホテルに着いて熱を測ったら39.4℃。石田先生に付き添われ市内の病院で診察を受けました。熱はあるけれどインフルエンザでは無く風邪だと言うことで、次の日は大事を取ってホテルで安静にしていることになりました。丸一日、班別自由行動で市内観光をする予定だったのに、残念です……
「行ってきます。買ってきて欲しいものがあったらメールしてね!」
「無理しちゃダメだよ、寝ているんだよ!」
「分かった、楽しんできてね。」
次の日、千夏ちゃんやこのみちゃんは心配そうに自由行動に出掛けて行きました。
「じゃあ、私は部屋にいるから、何かあったら内線を掛けて。」
石田先生もそう言い残し、部屋を出て行きました。
ホテルの部屋で、窓の外の青空を恨めしく眺めました。今日は一佳と一緒に行動出来たのに……学校以外で遊ぶことはほとんど無いから凄く楽しみだったのです。止まらない悪寒に苦しみながら、ぎゅっと目を閉じました。
一時間くらいウトウトしていたのでしょうか、急に携帯電話が震えました。千夏ちゃんから電話が掛って来たのです。
「大変よ!藤原君が居なくなっちゃった!」
「え、え!」
「出発前の点呼をした時は確かに居たのよ!なのに、路面電車に乗って、駅で降りて、歴史文化博物館に行こうとしたらもういなくて……私たち、誰も藤原君のメアドも携帯の番号も知らないの、どうしよう?」
「分かった、一佳に連絡してみる!迷子とかじゃないと思うよ!」
「お願いね!私たちは予定通りのコースで、このあと中華街に行くから!」
千夏ちゃんに約束をして、電話を切ってため息を吐きました。あーあ、中華街でチャンポンを食べて、出島に行って、大浦天主堂に行って、最後に集合場所のグラバー園に行くはずだったのに!事前学習した時の画像が次々頭の中を過ぎりました。なんで風邪なんか引いちゃったんだろう……
いや、そんなことは置いといて、今は一佳と連絡を取らなきゃ!だけど一体どこに行っちゃったの?
トントンとドアがノックされました。石田先生が様子を見に来たのかな?私はガウンを羽織ってドアを開け、驚きました。
一佳がそこにいたのです!
「具合どう?」
「どうしたの?一佳が居なくなったって千夏ちゃんが心配していたよ!」
「ああ、自由行動なんてめんどくせーからサボった。七海を看病していたことにしといてよ。」
しれっと笑顔を浮かべ、持っていたコンビニ袋を私の頭にコツンと当てました。ひんやりする、何だろうと中を覗いたら、カップのバニラアイスと健康飲料水のペットボトルが入っていました。
「食欲ある?アイスだったら食べられるだろ?」
「ありがと!ホテルの人がお粥を作ってくれたけど、あんまりお粥は好きじゃなくて……アイスは凄く嬉しいよ!」
「とりあえず、ベッドに戻って寝ろ。」
私を促しベッドに潜らせ、カップのアイスを食べさせてくれました。
「いいの?自由行動に行かなくて。」
「あのコース、行き飽きているんだ。俺のお袋が九州出身で、小さい頃に帰省すると長崎ならあそこらへんばっかり連れて行かれたから。もっと面白いところ、沢山あるのに。」
「だったら、コースを決めるとき、言えば良かったじゃない?」
「みんながオーソドックスなコースを行きたがっていたから、七海の言うことを聞いて、みんなに合わせただけ。」
「一佳らしくない!」
「どっちにしろ、お前がいないんじゃ、行く気しないけど。」
そう言って、一佳は私の額にぺたりと手のひらを当てました。
「一佳の手、ひんやりして気持ちいい……」
「『絶対零度』だからな。」
ニヤリと笑って、私を寝かしつけるようにポンポンと布団を叩きました。
私は千夏ちゃんに一佳が見つかったことを伝え、先生には内緒にしてもらうように頼みました。
「分かったわ、ラブラブなんだね!」
「え、え?何がラブラブ?」
「んもー、照れなくていいわよぉ!」
千夏ちゃんは何を勘違いしているんだろう、一佳は私を口実にしてサボっているだけなのに……
「七海、もう寝ろ。気分が悪くなったらすぐに言えよ。俺、そばにいるから。」
「ありがとう……私、一佳と長崎の街を歩きたかったな。チャンポンも食べたかったな。」
「またいつか来ればいい。俺のお勧めコースを案内してやるよ。チャンポンなら、お袋が作ってくれるぜ?本格的だから結構美味いんだ。」
「うん、一佳の家でご馳走になる!」
一佳はひんやりする手で私の手を握ってくれました。凄く安心して、そのまま眠りに就きました。
心配して、途中でホテルに戻ってきた千夏ちゃんとこのみちゃんが部屋に入った時、私と一佳は手を繋いだまま頭をくっつけて寝入っていました。ちょうど石田先生が見まわりに来て、三人で私の様子を見に来たと慌てて言い訳し、お咎めなしで済みました。
だけどすっかり誤解され、このみちゃんには「キュンキュンしたー!」と萌えられ、一佳の評価は一変し人気急上昇になったのです。
次の日には熱も下がり、飛行機で沖縄に移動しました。まだフラフラするけれど、平和祈念公園、ひめゆり資料館などを見てまわったのです。その間なぜかみんなに冷やかされ、私は一佳に近づくことが出来ません。私と一佳が付き合っているという噂が、あっという間に広まっていたのです。
最終日、美ら海水族館で見学していた時、一佳がやってきてちょこっと話が出来ました。その様子を千夏ちゃんたちが面白がって写真を撮って、それが唯一、修学旅行で一佳との思い出の一枚になりました。散々だったけど、でも一佳の優しさに救われた修学旅行になりました!
そして、学校に戻ってから大騒動に発展しました。
「ねえ、山城さんって、藤原くんと付き合っているの?」
キレイ系の同級生たちが次々私にそう質問するのです。
「違います!付き合ってはいませんよ!」
「だよねー!」
彼女たちは大抵高笑いして去って行きます。そして一佳に「付き合って!」と告白し、次々玉砕していったのです。
お昼休み、第二準備室で薫ちゃんとお弁当を食べていたら、一佳がムッと顔をしかめてやって来ました。
「ったく、お前が風邪なんか引くからだ!」
ドカリと私の目の前に座ると、私をギロリと睨みました。
「ど、どうして!?」
「お前のせいで、なんか噂になって、俺に告って来る女があとを絶たないんだよ。」
「それは、七海のせいではない。一佳が勝手に看病に行ったりするからだ。自由行動をサボった罰だろう。」
薫ちゃんが一刀両断してくれ、「グッ!」と一佳は唸りました。
「だけど、七海と一佳が付き合っているって噂なのに、なんで一佳に突撃してくる女がそんなにいるの?」
「付き合っていないよ!みんなにそう説明しているから!」
そばにいた潤くんと薫ちゃんは目を合わせた途端、ブハっと吹き出し笑い転げました。
「ククク、分かってないの、七海だけなんだな。」
「そう言えば、一佳のあだ名、『絶対零度の王子さま』になったらしいよ。」
二人はいつまでも笑っていて、一佳はムッとしたままです。分かってないって何のこと?
理解できない三人を放っておいて、私は黙々とお弁当を食べ続けたのでした。
だけど数日前から風邪を引き、だるくて仕方ありません。出発の日の朝、熱を測ったら37.2℃。お母さんは心配したけどせっかくの修学旅行です、絶対に行きたい!薬を飲んで無理はしないって約束して、養護の石田先生に事情を伝え羽田空港に集合しました。
飛行機に乗っている間も寒気が止まず、震えていたら隣りに座っていた千夏ちゃんが心配して毛布を掛け背中を撫でてくれました。
長崎空港に着き、荷物を受け取ろうと待っていると、一佳がスッと横に立ちました。
「七海、具合悪いの?」
「う、うん、風邪を引いちゃって……」
「お前の荷物は俺が運ぶから、先にバスに乗ってろ。」
そう言うと、私の分と自分の荷物を抱え、さっさと歩いて行ってしまいました。
「藤原くん、七海の荷物も運んでくれたんだ!優しいねー!」
このみちゃんが驚いて、一佳の後ろ姿に見惚れていました。そうです、意外と優しいんですよ!
修学旅行の目的は『平和学習』です。最初に訪れたのは原爆資料館、その後、爆心地公園や平和公園もまわりました。その頃には頭が割れそうに痛くて震えも止まらなくなり歩くのがやっと。千夏ちゃんやこのみちゃんが付き添ってくれてやっと移動出来たけど、すぐにも横になりたかったです。
ホテルに着いて熱を測ったら39.4℃。石田先生に付き添われ市内の病院で診察を受けました。熱はあるけれどインフルエンザでは無く風邪だと言うことで、次の日は大事を取ってホテルで安静にしていることになりました。丸一日、班別自由行動で市内観光をする予定だったのに、残念です……
「行ってきます。買ってきて欲しいものがあったらメールしてね!」
「無理しちゃダメだよ、寝ているんだよ!」
「分かった、楽しんできてね。」
次の日、千夏ちゃんやこのみちゃんは心配そうに自由行動に出掛けて行きました。
「じゃあ、私は部屋にいるから、何かあったら内線を掛けて。」
石田先生もそう言い残し、部屋を出て行きました。
ホテルの部屋で、窓の外の青空を恨めしく眺めました。今日は一佳と一緒に行動出来たのに……学校以外で遊ぶことはほとんど無いから凄く楽しみだったのです。止まらない悪寒に苦しみながら、ぎゅっと目を閉じました。
一時間くらいウトウトしていたのでしょうか、急に携帯電話が震えました。千夏ちゃんから電話が掛って来たのです。
「大変よ!藤原君が居なくなっちゃった!」
「え、え!」
「出発前の点呼をした時は確かに居たのよ!なのに、路面電車に乗って、駅で降りて、歴史文化博物館に行こうとしたらもういなくて……私たち、誰も藤原君のメアドも携帯の番号も知らないの、どうしよう?」
「分かった、一佳に連絡してみる!迷子とかじゃないと思うよ!」
「お願いね!私たちは予定通りのコースで、このあと中華街に行くから!」
千夏ちゃんに約束をして、電話を切ってため息を吐きました。あーあ、中華街でチャンポンを食べて、出島に行って、大浦天主堂に行って、最後に集合場所のグラバー園に行くはずだったのに!事前学習した時の画像が次々頭の中を過ぎりました。なんで風邪なんか引いちゃったんだろう……
いや、そんなことは置いといて、今は一佳と連絡を取らなきゃ!だけど一体どこに行っちゃったの?
トントンとドアがノックされました。石田先生が様子を見に来たのかな?私はガウンを羽織ってドアを開け、驚きました。
一佳がそこにいたのです!
「具合どう?」
「どうしたの?一佳が居なくなったって千夏ちゃんが心配していたよ!」
「ああ、自由行動なんてめんどくせーからサボった。七海を看病していたことにしといてよ。」
しれっと笑顔を浮かべ、持っていたコンビニ袋を私の頭にコツンと当てました。ひんやりする、何だろうと中を覗いたら、カップのバニラアイスと健康飲料水のペットボトルが入っていました。
「食欲ある?アイスだったら食べられるだろ?」
「ありがと!ホテルの人がお粥を作ってくれたけど、あんまりお粥は好きじゃなくて……アイスは凄く嬉しいよ!」
「とりあえず、ベッドに戻って寝ろ。」
私を促しベッドに潜らせ、カップのアイスを食べさせてくれました。
「いいの?自由行動に行かなくて。」
「あのコース、行き飽きているんだ。俺のお袋が九州出身で、小さい頃に帰省すると長崎ならあそこらへんばっかり連れて行かれたから。もっと面白いところ、沢山あるのに。」
「だったら、コースを決めるとき、言えば良かったじゃない?」
「みんながオーソドックスなコースを行きたがっていたから、七海の言うことを聞いて、みんなに合わせただけ。」
「一佳らしくない!」
「どっちにしろ、お前がいないんじゃ、行く気しないけど。」
そう言って、一佳は私の額にぺたりと手のひらを当てました。
「一佳の手、ひんやりして気持ちいい……」
「『絶対零度』だからな。」
ニヤリと笑って、私を寝かしつけるようにポンポンと布団を叩きました。
私は千夏ちゃんに一佳が見つかったことを伝え、先生には内緒にしてもらうように頼みました。
「分かったわ、ラブラブなんだね!」
「え、え?何がラブラブ?」
「んもー、照れなくていいわよぉ!」
千夏ちゃんは何を勘違いしているんだろう、一佳は私を口実にしてサボっているだけなのに……
「七海、もう寝ろ。気分が悪くなったらすぐに言えよ。俺、そばにいるから。」
「ありがとう……私、一佳と長崎の街を歩きたかったな。チャンポンも食べたかったな。」
「またいつか来ればいい。俺のお勧めコースを案内してやるよ。チャンポンなら、お袋が作ってくれるぜ?本格的だから結構美味いんだ。」
「うん、一佳の家でご馳走になる!」
一佳はひんやりする手で私の手を握ってくれました。凄く安心して、そのまま眠りに就きました。
心配して、途中でホテルに戻ってきた千夏ちゃんとこのみちゃんが部屋に入った時、私と一佳は手を繋いだまま頭をくっつけて寝入っていました。ちょうど石田先生が見まわりに来て、三人で私の様子を見に来たと慌てて言い訳し、お咎めなしで済みました。
だけどすっかり誤解され、このみちゃんには「キュンキュンしたー!」と萌えられ、一佳の評価は一変し人気急上昇になったのです。
次の日には熱も下がり、飛行機で沖縄に移動しました。まだフラフラするけれど、平和祈念公園、ひめゆり資料館などを見てまわったのです。その間なぜかみんなに冷やかされ、私は一佳に近づくことが出来ません。私と一佳が付き合っているという噂が、あっという間に広まっていたのです。
最終日、美ら海水族館で見学していた時、一佳がやってきてちょこっと話が出来ました。その様子を千夏ちゃんたちが面白がって写真を撮って、それが唯一、修学旅行で一佳との思い出の一枚になりました。散々だったけど、でも一佳の優しさに救われた修学旅行になりました!
そして、学校に戻ってから大騒動に発展しました。
「ねえ、山城さんって、藤原くんと付き合っているの?」
キレイ系の同級生たちが次々私にそう質問するのです。
「違います!付き合ってはいませんよ!」
「だよねー!」
彼女たちは大抵高笑いして去って行きます。そして一佳に「付き合って!」と告白し、次々玉砕していったのです。
お昼休み、第二準備室で薫ちゃんとお弁当を食べていたら、一佳がムッと顔をしかめてやって来ました。
「ったく、お前が風邪なんか引くからだ!」
ドカリと私の目の前に座ると、私をギロリと睨みました。
「ど、どうして!?」
「お前のせいで、なんか噂になって、俺に告って来る女があとを絶たないんだよ。」
「それは、七海のせいではない。一佳が勝手に看病に行ったりするからだ。自由行動をサボった罰だろう。」
薫ちゃんが一刀両断してくれ、「グッ!」と一佳は唸りました。
「だけど、七海と一佳が付き合っているって噂なのに、なんで一佳に突撃してくる女がそんなにいるの?」
「付き合っていないよ!みんなにそう説明しているから!」
そばにいた潤くんと薫ちゃんは目を合わせた途端、ブハっと吹き出し笑い転げました。
「ククク、分かってないの、七海だけなんだな。」
「そう言えば、一佳のあだ名、『絶対零度の王子さま』になったらしいよ。」
二人はいつまでも笑っていて、一佳はムッとしたままです。分かってないって何のこと?
理解できない三人を放っておいて、私は黙々とお弁当を食べ続けたのでした。
応援ありがとうございます!
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