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~社会人編~
第67章 春の兆し
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「一佳、その格好、一体どうしたの!?」
驚かずにはいられませんよ。だって、一佳の髪はボサボサで無精ひげも生やし、日に焼けて肌も艶が無く、げっそりやつれて見えるのです。どちらかと言えば、几帳面なくらい身なりに気を使う一佳とは思えません!
「最後の海外研修で南米に行ってて、一ヶ月くらい風呂もまともに入れない生活をしていたんだ……俺、臭くない?」
「臭くはないけど、汚ったねぇ顔だな!」
潤くんが眉を寄せてクククと笑いました。
「一佳と連絡が取れなくて心配していたんだよ……」
「ああ、電気もガスも水道も無くて、携帯なんかもちろん使えねぇ。人もいなくてどんな商売するんだよってツッコミ満載なところで暮らしていたんだ。」
大変だったと言いながら、一佳の瞳は活き活きと輝いていて、面白おかしく研修中の苦労話を聞かせてくれました。現地では支社の方と共にいわゆるレアアースの取引にかかわるお仕事に就き、山奥に行って何週間も過ごしたそうです。私も潤くんも薫ちゃんも唖然として聞き入っていました。
「その研修の、どこが経営戦略になるんだよ?」
「先輩によると度胸試しみたいなものらしい。どこに行っても商売の匂いを嗅ぎつけてこれるようにするんだってさ。参ったよホント。だけど日本に居て、パソコンの画面で数字を追い掛けている時より楽しかった!」
「何か成果はあったのか?」
「成果なんか知るか!一週間以内に報告書を提出しなきゃならないけどな。とにかく日本に無事に帰って来れて良かったよ。」
「帰って来る前に連絡くれればいいのに……」
「いきなり現れて驚かそうと思ったのさ。久しぶりに俺に逢えて、嬉しかっただろ?」
「嬉しいよ……一佳のバカぁ!」
「予想以上の反応だな。」
メソメソしていたら一佳にデコピンを食らいました。痛ーい!潤くんはクククと笑い、薫ちゃんもすっかり面白がっています。
やがて授乳の時間になり、薫ちゃんは病室まで赤ちゃんを連れて来てくれました。私も抱っこさせてもらい、腕の中でおっぱいを探してムニュムニュ動く赤ちゃんの姿にもう感激!
「ちっちゃい!可愛いー!」
「しっかし、薫がママかぁ。まさかだよなぁ、どんな子に育つのかな。」
「相変わらず私を信用していないのだな。潤や一佳が足元にも及ばないようなイイ男に育て上げてみせる!」
「薫ちゃんは何気にスパルタ教育ママになったりして!」
ケラケラと一佳と潤くんは笑い合っていました。薫ちゃんに似ても高尾先生に似てもイケメンになるのは間違い無いですよ!
薫ちゃんがいきなり大きく張ったお乳を出して赤ちゃんに飲ませ始めたので、私たちは慌ててくるりと後ろを向きました。
「薫!いくら幼なじみだからって、俺たちの前で少しは恥ずかしがれよ!」
「そうか?この子はお腹を空かせているのだ。ちょっと失礼!」
そっと振り返って様子を見たら、薫ちゃんはとても幸せそうに赤ちゃんを抱っこしていました。きっとこの先産まれたばかりの赤ちゃんと旦那さまと三人で仲良く幸せに暮らしていくんだろうな。見ているだけでとても優しい気持ちになりました!
赤ちゃんを新生児室に戻してから、再び四人でのんびり話をして、薫ちゃんが退院したらまた逢おうって約束して病室を後にしました。
廊下を歩いていたら、珍しく無言でいた潤くんがポケットに手を突っ込んだまま振り返り、一佳を睨みつけたのです。どうしてそんな怖い顔をするんだろう?
「ところで、一佳と七海はどうなんだ?」
「どうって何が?俺らは何も変わりないよ。」
「一佳は七海を放置して泣かせてばっかりだろ。」
「潤くん!」
ひゃあそんなー!一佳が誤解するじゃないですか!
「潤に心配されるようなことはしてねぇよ。」
「ぶっちゃけ、俺は七海が幸せになるなら、相手が一佳だろうが他の男になろうが構わないんだ。」
潤くんは私の肩を抱き、引きよせたのです。
「もちろん、お前ら二人が仲良く揃って幸せになってくれたら言うことは無いけどな。」
「少しは俺を信用しろ。」
「フフ、一佳に悩まされたらいつでも相談に乗るから連絡して。木谷瀬メンタルクリニックは24時間365日、山城七海のために開業しているから。」
「潤は外科志望じゃねーのかよ。」
「ありがとう潤くん、私は大丈夫だよ!」
「一佳に愛想が尽きたら、いつでも俺が相手になるからな!」
「いい加減にしろよ、潤!」
「じゃあ、俺は院長に話しがあるから。」
この病院を経営している親戚のおじさんに挨拶してから帰ると言って、潤くんは去っていきました。
「ったく、七海は潤に何を吹き込んでいるんだよ。」
一佳はそばにあった待合室のベンチにドカリと座ってふーと深いため息を吐き、私もその横にちょこんと座りました。
「だって、何にも連絡が無いから……心配するでしょ、普通!」
「……そうだな、今年になって全然余裕無くて……悪かったと思っている。」
「お仕事で悩んでいるなら、私にも相談してよ!愛奈ちゃんから聞いたよ。」
「白石に逢ったのか?」
「うん、このまえ料亭で偶然逢って、それから話がしたくて仕事帰りに飲みに行ったの……」
不意に一佳は私の顔を覗きこみ、なぜか頭をポンポンと撫でました。
「俺さ、白石を傷つけてしまった……」
「愛奈ちゃん、一佳に振られたって泣いてた……飲みに誘っても拒否られているって。」
するとスッと背筋を伸ばし、私を見つめて一佳は改めて口を開きました。
「誤解しないで聞いて欲しい……俺は、白石のことが好きだよ。でもそれは女としてじゃなくて友達としてだ。本当は今まで通り飲みに行って愚痴を言い合ったりしたい。だけど、白石が友達以上を望むなら、俺はアイツを遠ざけることしかできなかったんだ……潤みたいに、要領良く立ち回れたら、アイツを悲しませずに済んだのにな……」
その言葉は、分かっていても私の心にグサリと突き刺さりました。
「愛奈ちゃんね、一佳のことは忘れるって言っていた。それでね、飲み会の帰りに浅田くんが愛奈ちゃんを心配して迎えに来て、二人で帰って行ったんだよ。」
「浅田が?ついに行動を起こしたのか!最後まで行ったかなー、追及してやろう!」
クククと一佳は可笑しそうに笑いました。
「一佳……あ、あのね……」
「なんだよ。」
「その……ひげ、触ってイイ?」
「はあ?俺のひげに触ってどーすんだよ。」
「だって、一佳のそんな顔、初めてなんだもの!」
すると一佳はプッと吹き出し、私に顔を差し出しました。オズオズと両手に挟んで無精ひげだらけの彼の頬を撫で回しました。
「わああ!ザラザラするー!」
「……別に珍しがることねーだろ。そのうち毎朝触らせてやるよ。」
ボサボサの髪を指で梳いて、いつもの一佳の髪型に整えました。キリッとした大きな瞳に射抜かれると、ついドキドキしてしまいます。
「私、一佳に逢いたかったよ、そして触って……安心したかった……」
「ったく七海は、どうしてそう俺を煽るんだ……マジで襲うぞ!」
いきなり首の後ろを押さえられ、一佳はキスの雨を降らせました。柔らかな、懐かしい感触にクラクラします。蕩けるように彼の背中にしがみつき、愛撫を受け入れました。
「俺は、この一ヶ月、七海のことばっかり毎晩考えていた。電気の無い真っ暗な家で、星がすげーキレイな夜空を眺めて、どうして俺は七海が好きなんだろうって……」
「どうして一佳は私のことが好きなの?」
「……教えてやらない。」
「一佳のイジワル!」
微笑む一佳の胸を、私はポコポコと叩きました。
「だけど久しぶりにお前に逢って思った、やっぱり七海と一緒に居たいって……上手く言えないけど、俺には俺のやり方しか出来ない。七海を傷つけてばっかりいるかもしれないけど、俺は俺でしか居られない。」
真っすぐな強い瞳に見据えられ、私は芯からぞくりと震えました。ざらざらする一佳の頬を両手で挟み、そしてその柔らかな唇にそっと私の唇を重ねて舌を差しこみ、彼の熱を受け入れました。一佳も背中に手を回し、私をギュッと抱き締めました。
「いいよ、どんなことでも、私は一佳を受け入れるから……ちゃんと信じているから。」
「……七海の胸、残念な大きさだな。薫くらいあればイイのに。」
「ヒドイ、薫ちゃんと比べないでよ!気にしているのに!」
ジタバタと一佳の腕の中で暴れて抵抗したら、彼はやっと謝ってくれました。今日はその……一佳の家にお泊まり出来たらいいなってちょっと考えていたのに……絶対に許せないですよ、もうー!
年度末になり忙しさは加速して行きました。研修が終わった一佳は本格的に活動開始です。早速今度はアメリカに飛ぶことになりました。
「四月まで帰って来れないんだ……連絡はまめにするから安心して。七海の誕生日は戻ってから祝うよ。」
成田から飛行機に乗る寸前、一佳から電話がありました。
「うん、分かった。一佳、お仕事がんばってね。」
「七海もな。宮永さんに気を許すなよ。」
「なんで宮永先輩のことを気にするのよ!全然大丈夫だから!」
プツリと切れた後も、私は一佳の声を求めてスマホを握りしめていました。逢いたい、そばに居たい、でもそれはお互いに忙しく働く私たちにはワガママでしかありません。
大丈夫、一佳以外の人に、寄り掛かったりしないよ。
私はギュッと唇を噛みしめ、鞄を持って陽だまりの中を小走りに次の販売店まで駈け出しました。
驚かずにはいられませんよ。だって、一佳の髪はボサボサで無精ひげも生やし、日に焼けて肌も艶が無く、げっそりやつれて見えるのです。どちらかと言えば、几帳面なくらい身なりに気を使う一佳とは思えません!
「最後の海外研修で南米に行ってて、一ヶ月くらい風呂もまともに入れない生活をしていたんだ……俺、臭くない?」
「臭くはないけど、汚ったねぇ顔だな!」
潤くんが眉を寄せてクククと笑いました。
「一佳と連絡が取れなくて心配していたんだよ……」
「ああ、電気もガスも水道も無くて、携帯なんかもちろん使えねぇ。人もいなくてどんな商売するんだよってツッコミ満載なところで暮らしていたんだ。」
大変だったと言いながら、一佳の瞳は活き活きと輝いていて、面白おかしく研修中の苦労話を聞かせてくれました。現地では支社の方と共にいわゆるレアアースの取引にかかわるお仕事に就き、山奥に行って何週間も過ごしたそうです。私も潤くんも薫ちゃんも唖然として聞き入っていました。
「その研修の、どこが経営戦略になるんだよ?」
「先輩によると度胸試しみたいなものらしい。どこに行っても商売の匂いを嗅ぎつけてこれるようにするんだってさ。参ったよホント。だけど日本に居て、パソコンの画面で数字を追い掛けている時より楽しかった!」
「何か成果はあったのか?」
「成果なんか知るか!一週間以内に報告書を提出しなきゃならないけどな。とにかく日本に無事に帰って来れて良かったよ。」
「帰って来る前に連絡くれればいいのに……」
「いきなり現れて驚かそうと思ったのさ。久しぶりに俺に逢えて、嬉しかっただろ?」
「嬉しいよ……一佳のバカぁ!」
「予想以上の反応だな。」
メソメソしていたら一佳にデコピンを食らいました。痛ーい!潤くんはクククと笑い、薫ちゃんもすっかり面白がっています。
やがて授乳の時間になり、薫ちゃんは病室まで赤ちゃんを連れて来てくれました。私も抱っこさせてもらい、腕の中でおっぱいを探してムニュムニュ動く赤ちゃんの姿にもう感激!
「ちっちゃい!可愛いー!」
「しっかし、薫がママかぁ。まさかだよなぁ、どんな子に育つのかな。」
「相変わらず私を信用していないのだな。潤や一佳が足元にも及ばないようなイイ男に育て上げてみせる!」
「薫ちゃんは何気にスパルタ教育ママになったりして!」
ケラケラと一佳と潤くんは笑い合っていました。薫ちゃんに似ても高尾先生に似てもイケメンになるのは間違い無いですよ!
薫ちゃんがいきなり大きく張ったお乳を出して赤ちゃんに飲ませ始めたので、私たちは慌ててくるりと後ろを向きました。
「薫!いくら幼なじみだからって、俺たちの前で少しは恥ずかしがれよ!」
「そうか?この子はお腹を空かせているのだ。ちょっと失礼!」
そっと振り返って様子を見たら、薫ちゃんはとても幸せそうに赤ちゃんを抱っこしていました。きっとこの先産まれたばかりの赤ちゃんと旦那さまと三人で仲良く幸せに暮らしていくんだろうな。見ているだけでとても優しい気持ちになりました!
赤ちゃんを新生児室に戻してから、再び四人でのんびり話をして、薫ちゃんが退院したらまた逢おうって約束して病室を後にしました。
廊下を歩いていたら、珍しく無言でいた潤くんがポケットに手を突っ込んだまま振り返り、一佳を睨みつけたのです。どうしてそんな怖い顔をするんだろう?
「ところで、一佳と七海はどうなんだ?」
「どうって何が?俺らは何も変わりないよ。」
「一佳は七海を放置して泣かせてばっかりだろ。」
「潤くん!」
ひゃあそんなー!一佳が誤解するじゃないですか!
「潤に心配されるようなことはしてねぇよ。」
「ぶっちゃけ、俺は七海が幸せになるなら、相手が一佳だろうが他の男になろうが構わないんだ。」
潤くんは私の肩を抱き、引きよせたのです。
「もちろん、お前ら二人が仲良く揃って幸せになってくれたら言うことは無いけどな。」
「少しは俺を信用しろ。」
「フフ、一佳に悩まされたらいつでも相談に乗るから連絡して。木谷瀬メンタルクリニックは24時間365日、山城七海のために開業しているから。」
「潤は外科志望じゃねーのかよ。」
「ありがとう潤くん、私は大丈夫だよ!」
「一佳に愛想が尽きたら、いつでも俺が相手になるからな!」
「いい加減にしろよ、潤!」
「じゃあ、俺は院長に話しがあるから。」
この病院を経営している親戚のおじさんに挨拶してから帰ると言って、潤くんは去っていきました。
「ったく、七海は潤に何を吹き込んでいるんだよ。」
一佳はそばにあった待合室のベンチにドカリと座ってふーと深いため息を吐き、私もその横にちょこんと座りました。
「だって、何にも連絡が無いから……心配するでしょ、普通!」
「……そうだな、今年になって全然余裕無くて……悪かったと思っている。」
「お仕事で悩んでいるなら、私にも相談してよ!愛奈ちゃんから聞いたよ。」
「白石に逢ったのか?」
「うん、このまえ料亭で偶然逢って、それから話がしたくて仕事帰りに飲みに行ったの……」
不意に一佳は私の顔を覗きこみ、なぜか頭をポンポンと撫でました。
「俺さ、白石を傷つけてしまった……」
「愛奈ちゃん、一佳に振られたって泣いてた……飲みに誘っても拒否られているって。」
するとスッと背筋を伸ばし、私を見つめて一佳は改めて口を開きました。
「誤解しないで聞いて欲しい……俺は、白石のことが好きだよ。でもそれは女としてじゃなくて友達としてだ。本当は今まで通り飲みに行って愚痴を言い合ったりしたい。だけど、白石が友達以上を望むなら、俺はアイツを遠ざけることしかできなかったんだ……潤みたいに、要領良く立ち回れたら、アイツを悲しませずに済んだのにな……」
その言葉は、分かっていても私の心にグサリと突き刺さりました。
「愛奈ちゃんね、一佳のことは忘れるって言っていた。それでね、飲み会の帰りに浅田くんが愛奈ちゃんを心配して迎えに来て、二人で帰って行ったんだよ。」
「浅田が?ついに行動を起こしたのか!最後まで行ったかなー、追及してやろう!」
クククと一佳は可笑しそうに笑いました。
「一佳……あ、あのね……」
「なんだよ。」
「その……ひげ、触ってイイ?」
「はあ?俺のひげに触ってどーすんだよ。」
「だって、一佳のそんな顔、初めてなんだもの!」
すると一佳はプッと吹き出し、私に顔を差し出しました。オズオズと両手に挟んで無精ひげだらけの彼の頬を撫で回しました。
「わああ!ザラザラするー!」
「……別に珍しがることねーだろ。そのうち毎朝触らせてやるよ。」
ボサボサの髪を指で梳いて、いつもの一佳の髪型に整えました。キリッとした大きな瞳に射抜かれると、ついドキドキしてしまいます。
「私、一佳に逢いたかったよ、そして触って……安心したかった……」
「ったく七海は、どうしてそう俺を煽るんだ……マジで襲うぞ!」
いきなり首の後ろを押さえられ、一佳はキスの雨を降らせました。柔らかな、懐かしい感触にクラクラします。蕩けるように彼の背中にしがみつき、愛撫を受け入れました。
「俺は、この一ヶ月、七海のことばっかり毎晩考えていた。電気の無い真っ暗な家で、星がすげーキレイな夜空を眺めて、どうして俺は七海が好きなんだろうって……」
「どうして一佳は私のことが好きなの?」
「……教えてやらない。」
「一佳のイジワル!」
微笑む一佳の胸を、私はポコポコと叩きました。
「だけど久しぶりにお前に逢って思った、やっぱり七海と一緒に居たいって……上手く言えないけど、俺には俺のやり方しか出来ない。七海を傷つけてばっかりいるかもしれないけど、俺は俺でしか居られない。」
真っすぐな強い瞳に見据えられ、私は芯からぞくりと震えました。ざらざらする一佳の頬を両手で挟み、そしてその柔らかな唇にそっと私の唇を重ねて舌を差しこみ、彼の熱を受け入れました。一佳も背中に手を回し、私をギュッと抱き締めました。
「いいよ、どんなことでも、私は一佳を受け入れるから……ちゃんと信じているから。」
「……七海の胸、残念な大きさだな。薫くらいあればイイのに。」
「ヒドイ、薫ちゃんと比べないでよ!気にしているのに!」
ジタバタと一佳の腕の中で暴れて抵抗したら、彼はやっと謝ってくれました。今日はその……一佳の家にお泊まり出来たらいいなってちょっと考えていたのに……絶対に許せないですよ、もうー!
年度末になり忙しさは加速して行きました。研修が終わった一佳は本格的に活動開始です。早速今度はアメリカに飛ぶことになりました。
「四月まで帰って来れないんだ……連絡はまめにするから安心して。七海の誕生日は戻ってから祝うよ。」
成田から飛行機に乗る寸前、一佳から電話がありました。
「うん、分かった。一佳、お仕事がんばってね。」
「七海もな。宮永さんに気を許すなよ。」
「なんで宮永先輩のことを気にするのよ!全然大丈夫だから!」
プツリと切れた後も、私は一佳の声を求めてスマホを握りしめていました。逢いたい、そばに居たい、でもそれはお互いに忙しく働く私たちにはワガママでしかありません。
大丈夫、一佳以外の人に、寄り掛かったりしないよ。
私はギュッと唇を噛みしめ、鞄を持って陽だまりの中を小走りに次の販売店まで駈け出しました。
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