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07 生活魔法
しおりを挟む俺たちは、大魔導師パウムの家に住むことに決めた。
家そのものは特に傷みはないので、そこに住むには何の問題もなさそうだ。食器や家具などもまだまだ使える。シーツや服にはカビが生えていて、これはダメそうだなぁ。
備蓄されていた食料は腐っていたが、植物の種が何種類か瓶に詰められ保管されていた。
「何か買い足すか?」
「いいよ、今のままでも十分だし、お金も節約しないと」
「そうは言っても、食料はいるだろ」
「そうねぇ……、試しにあの種を今のうちにまいておく? あれが何の種かは知らないけど、野菜の種なら夏ごろまでには何かできると思うけど」
「ひょっとして、今は春なのか?」
記憶をなくしたまま放り出された俺は、この世界のことをほとんど何も知らない。なんとなく春っぽいなとは思っていたが、間違いではなかったようだ。
「もぅ、何言ってるのよ! 当たり前じゃない……」
リサが呆れたような顔をする。
「あぁ、ごめんそうっだったか。じゃぁ、種をまく前に畑をなんとかしないといけないな」
小屋の南側にはちょっとした畑があったが、作物の代わりに雑草が生い茂っていたのだった。
裏の物置には錆びた農具がたくさん置いてあったので、スケルトンたちに仕事を割り振って畑を再生せることにした。
甲冑を着たスケルトンたちが慣れた様子で文句も言わず農作業をしている。
同じ農具が複数個あるということは、大魔導師パウムもこんなふうにスケルトンたちに農作業をやらせていたのかもしれない。
肥料代わりに刈った雑草と森の腐葉土をすき込ませてやると、なんとなく良い感じの土になった。
「俺は良く知らないけど、畑ってこんな感じだったよな?」
「うん、たぶん……」
リサは行商人の娘だし、俺も農業をやったおぼえがない。なんとなく見よう見真似というか、どこかで見た記憶を頼りに畑に畝を作った。
「それじゃあ、種まきをしよう」
「うん!」
畝に等間隔にくぼみを作って、種を数粒ずつ埋めて行く。
「食えるものだったら助かるんだけど……」
「そうねぇ。でも、たぶん大丈夫」
「あれが作物の種だったとしても、収穫までには何カ月もかかる。その間の食料を確保しないといけないよな」
「行商人から何か買うのが早いと思う。でも、ちゃんと値段を交渉しないとダメよ」
「分かってるって。今からだとちょっと遅いから、明日の朝早くに買い物に出かけるかな」
俺は裏庭にあった小ぶりな荷車を引っ張り出してきた。車輪も車軸も木で出来ていて、ちょっとガタがきていたが、それでも無いよりはよっぽどマシだ。
ホコリをはらって、車軸に油をさして簡単に手入れをしてやった。
「おい、ちょっとこの上に乗ってみろよ」
リサを荷台に乗せて荷車を引っぱる。ガタピシいいながらも、それでも意外と滑らかに荷車は動いた。リサは荷台できゃぁきゃぁ言ってはしゃいでいる。
「お前を乗せても動くんだから、大丈夫そうだな」
「何よそれぇ!」
何だかんだと軽口をたたき合いながら、明日の準備をする。
「今日も一日良く働いたな」
「うん、お腹減った」
俺たちはいつもと同じ飯を食って早めに床に就いた。
この間と同じような夢を見た。
不思議なことにリサもいて、誰かから何かを教わっている。
俺はその様子を横から見物している。
リサは真剣な顔でうんうんと頷いているが、俺には話の内容がさっぱりだった。
そうそう、俺もこの人にあれを教わったんだ。
翌朝。
「見てみて! すごいでしょう!」
リサは俺に向かって、洗濯の魔法をかけた。
砂ぼこりや何かで汚れていた俺の服は新品同様にきれいになり、俺自身もなんとなくサッパリした気がする。
リサは自分にも洗濯の魔法をかける。おぉ!確かに服も体も綺麗になって行くぞ。すすけていた肌も髪も綺麗にツヤツヤになっている。洗いたての良い匂いまでしてくる。
「すごいな! ちょっとだけ美人さんになったじゃないか」
「もぅ、何でちょっとだけなのよ!」
「ハハハ。でもすごいのは確かだ」
リサは例の人物に生活魔法を教わったらしい。
生活魔法とは、生活に役立つちょっとした魔法。
リサが教わったのは、「洗濯」「実り」「温め」の三つ。他にも「修復」とか「灯り」とかいくつもあるらしいが、他のはまだ難しいらしい。
温めの魔法でスープを作ろうとしたが、それはダメだった。冷たい水がじんわりとぬるくなっただけで調理まではできないようだ。
それでも、スープが冷めないように保温したり、硬いパンを少し柔らかくする程度のことはできた。
「なるほど、生活の魔法って感じだな」
「ちょっと微妙……」
実りの魔法は、作物の生育を早めたり豊作にしたりできるらしい。
リサが畑の前でうんうん唸っているが、見たところ畑に変化はないようだ。
「何よこれぇ」
「さすがに魔法と言えども万能ではないんだな」
結局、洗濯の魔法をリサが連発して、小屋とかスケルトンたちが不必要なほどピカピカになった。確かに目に見えて変化が分かるから面白いが、やりすぎだと思う。
「おいおい、意味もなく使うなよ。魔力がもったいないぞ」
「いいの! 練習だから!」
「それにしても、お前ズルいだろ」
「え? 何がよ?」
「俺なんか左手に焼き印入れられてるんだぜ。なんでお前は何もないんだよ」
「そんなこと知らないよ」
「くそぉ……」
『この娘にも魔法の才能があったとはの』
『やっぱり魔法も才能がないとダメなのか?』
『魔法の種類にもよるが、相応の適正が必要なのじゃ。だいたい一万人に一人あるかどうか、というものなのだがな』
『へぇ、じゃぁ俺とリサが偶然に出会っていること自体珍しいのかな』
『うむ。普通のめぐり合わせでは、まずありえんことじゃのぉ』
俺たちは日の出前に家を出て街道に向かった。
俺が引く荷車の荷台にはリサがちゃっかりと乗り込んでいる。
「リサ、お前も歩けよ。重いんだけど」
「えぇ!? 良いじゃんこれくらい。魔法をたくさん使って疲れたし」
「だから無駄に使うなって言ったのに……」
何だかんだで昼前には街道に到着した。
「リサは物陰に隠れていてくれ」
「えぇ!? 私は何もしなくて良いの?」
「男女二人連れってことで手配されてるから、一緒にいるところを誰かに見られるのはマズイ。なるべく疑われないように行動しないとな」
「そうねぇ……、わかった」
俺は通りがかった何人もの行商人に声をかけて、小麦粉やらワインやら日用品やらを買い込んだ。それなりに順調だったが、買い物のたびにリサから厳しい突っ込みが入って参った。まぁ物価の感覚がなんとなく染みついたのは収穫ではあったが。
「私が交渉した方がだいぶ安くあがったのにぃ」
「いやいや、女一人だと舐められるし、危険だろうが」
「まぁそうだけどぉ……」
「ちゃんと物は買えたんだし、ちょっとくらい良いじゃないか」
「そのちょっとが大事なの!」
リサはぶつくさ言っている。行商人の娘だから、そのあたりの感覚が鋭いのだった。
「じゃぁ、とっとと帰るとするか。暗くなる前に家に帰りつきたい」
「うん、またお墓で野宿はしたくないしね」
「そうだな」
俺としてはお化けなんかよりも、追いはぎとかキチ〇イとかのほうがよっぽど怖い。クロゼルに助けてもらうこともできるが、そのたびに死体が転がるってことだからなぁ。
……ん? クロゼルに死体を作ってもらい、俺はその死体でゾンビを作れば忠実なしもべを増やせるよな……。いやいや、そこまでしなくてもいいか。
『私としてはその考えに賛成じゃがの。手勢は多いにこしたことはないのじゃ。ましてや維持に経費がかからんとなればなおのことよ』
『不死者の軍勢か……』
なんとなくうすら寒くなって、俺はぶるっと身震いをした。
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