異世界ネクロマンサー

珈琲党

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08 マクドーマンの森

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 買い物から家に帰ってくると、もうすでに辺りは暗くなっていた。
 周囲を警戒していたスケルトンたちが出迎えてくれる。

『『……イジョウアリマセンデシタ、ますたー』』

「ご苦労! お前とお前、荷物おろしを手伝ってくれ」

『『……カシコマリマシタ、ますたー』』

 スケルトンたちに買い込んだ食料などを小屋内に運び入れてもらう。

「はぁぁ……、もうクタクタだよぉ」

「やっぱり、あの墓場で一泊した方が良かったかなぁ」

 俺もリサも無理してたくさん歩いたのでヘトヘトだ。
 飯の用意が面倒だったので、干し肉とパンとワインという簡素な食事で済ませた。食欲はなくはないが、あまり入っていかない。
 俺もリサも寝床を用意してすぐに寝ることにした。リサが最後の力を振り絞って、洗濯の魔法をかけてくれる。汗でべたついていた体が、あっという間にサッパリする。なんと便利なことか……。
 リサに感謝して横になると、緊張の糸が切れるようにストンと眠りに落ちてしまった。

 突然、頭の中に一陣の風が吹き抜けた。
 ずっと記憶に被さっていてたモヤが、すぅーっと晴れてゆく。

 俺は遠山一郎という名前だった。
 都内の大学に通っていた。
 バイト帰りに小腹がすいたのでコンビニに寄ったんだ。
 コンビニから出るとなぜか辺りが真っ暗で、急に意識が暗転したのだった。
 
 現代の日本。そうだ、俺はその世界にいたんだな。
 今となってはあまり現実感がないけど、あそこが本来俺のいた場所。
 ここは異世界だが、今となってはこっちが現実だと思える。


『イチロウ、何ぞ思い出したのかぇ?』

『うん、お前が前に言ってたけど、やはり俺は別な世界にいた人間らしい』

『なるほどの』

『といっても、特別な使命を帯びてここに来たわけじゃないからなぁ。まぁボチボチ死なないように生きて行くだけだよ』

『死なないように生きる、か。これは生きとし生ける者に、神より与えられた究極の使命じゃからの。これに勝るものはないのじゃ、フフフ……』

『俺としては、平和にのんびりくらしたいところなんだが、この世界だと難しいのかな』

『やりようによるじゃろ。それに、お主はなかなか恵まれておるではないか。私もおるし、大魔導師の思念もまだ現世に漂っておるし、あの娘もおる、スケルトンどももおるしの、フフフ……』

『そういえば聞いてなかったけど、クロゼルは何かしたいことがあるのか?』

『ふ~む……、特にはないの。私は肉体がないからの、それ由来の欲もない。お主たちがすることを見ておれば、十分に楽しめるわぃ』

『そうなのか? じゃぁこれからも、よろしく頼むよ』

『フフフ……』



 目を覚ますと、リサが自分の寝床から身を起こして、俺をじっと見ている。

「おはよう。どうした?」

「やっぱり誰かいた」

「どんな奴?」

「女の人」

「それはお前に魔法を教えてくれた人か?」

「ううん、違う」

 やっぱり、リサにはクロゼルが時々見えるらしいな。

「そいつだったら気にするな。俺の守護霊みたいなものだから、何も怖いことはないよ」

「ふ~ん」

「さぁて、顔を洗って飯を食うか」

「うん!」


 井戸の水を汲みに小屋の外に出る。
 何の気なしに畑の様子を見てギョッとした。もう芽を出している。それに茎もニ十センチほど伸びているのだ。確か種をまいたのが二日前のはずだから、いくらなんでも早すぎるだろ。

「これって普通なのかな?」

「えぇ!? おかしいでしょ、これって」

 リサもやっぱりびっくりしている。

「あれか、実りの魔法が効いたってことで良いんだな」

「……たぶん。こっちのはニャガ芋で、あっちのはナースだと思うから、うまく育てば食べるのには困らなくなるね」

「うひょー! 偉いぞリサ」

 俺はリサの頭をくしゃくしゃにした。

「エヘヘ……」

 リサは少し顔を赤して、まんざらでもない表情をしてる。


「別な魔法も、もう少し覚えたんだよ」

「へぇ、どんなの?」

「灯りと修復の魔法」

 灯りの魔法を使うと、リサを中心に周囲がぼぉっと明るくなる。
 光源がどこにあるのかわからないが、まんべんなく明るいのが不思議だ。
 ただ制限時間というか、灯りをともしたままだと疲れるらしく、数分が限界。

 修復の魔法は、文字通り壊れたものを直す魔法。
 ヒビの入った陶器をきれいに直したり、ちょっとした怪我なども直すことができるらしい。ただ、この魔法は消費する魔力が膨大で、魔法一発でボロが新品同様になったりはしない。魔力と経験がものを言うのだ。

 試しに、錆だらけの農具に魔法をかけてもらったが、錆が少し落ちたあたりで魔力切れになり、リサがへたり込んでしまった。まだまだ練習がいるとのこと。

「それでも凄いじゃないか。大魔導師パウムの本当の後継者は、俺じゃなくてお前なんじゃないか?」

「えぇ~、それはないよ。魔法を教わった時に、私の後継者を助けてあげてねって言われているんだから」

「そうなんだ? じゃぁ、今後もよろしく頼むぜ、リサ」

 俺はまたリサの頭をくしゃくしゃにした。

「エヘヘ……」


――――――――――――――――――――――――――


 カステルハイム城。


「領主様、ご報告いたします」

「うむ、申せ」

「ははっ、マクドーマンの森の――」

「スケルトンどもの件なら放っておけ」

「し、しかし……」

「しかしもかかしもないわ! お主もマクド村の一件は知っておろう? あのスケルトンどもの持ち主も知っておろうが。あれに関わってはならん!」

「いえ、領主様そうではなく、そのスケルトンどもの姿がここ数日見えなくなっておりまして……」

「なにぃ!? あやつめ! ついにくたばりおったか、ハハハ!
 ……む! いやいや、油断してはならぬ。マリーナを呼んで参れ」

「ははっ」



「領主様、ご機嫌麗しゅう」

「うむ。マリーナ、元気そうで何よりじゃ。早速ですまぬが、マクドーマンの森は今はどうなっておるのじゃ?」

「ははっ。先日より、森の中心部の魔素の濃度が急激に変化しております。これは、何らかの大魔法が行使された痕跡こんせきと思われます。スケルトンどもは恐らく、その準備のために中心部に結集したものと考えられます」

「あのパウムめは、まだ生きておるのか? もう百をとうに超えておるはずじゃが……」

「私めが考えますに、代替わりをしたのではないかと……」

「まさか! あやつに匹敵するような魔導師がまだおったのか?」

「三十年前からこちら、あの周辺はずっと小康状態を保っておりました。そのあいだに育成したのではないかと愚考いたします」

「ぐぬぅ……。マクドーマンの森の監視をより強化するわけにはいかんのか?」

「お言葉ですが、領主様。私の部下は幾人もこの監視任務によって命を落としております。これ以上の監視となりますと、貴重な魔導師のさらなる損耗はさけられません。どうかよろしくご再考のほどを……」

「……ふぅむ。わかった、これまで通りの監視でよい」

「ありがとうございます、領主様」

「マリーナよ、知っておるか? あの森はの、元々は隣のヘッセルバッハ伯領だったのじゃ。わしの祖父が、その当時のヘッセルバッハ伯に賭けで負けての、押し付けられたのじゃ。ババ抜きのババを引かされたというわけじゃな、ハハハ!」

「では、もう一度賭けをおやりになって、お返しになれば……」

「ハハハ、無駄じゃ。当代のヘッセルバッハ伯はそのことをよぉく知っておる。わしとは絶対に賭けをせんのじゃ。賢明じゃのぉ……」
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