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10 スケルトンが増えた
しおりを挟む俺は突然スケルトンのステータスを見ることができるようになった。そして、彼らの用途を変更できることを知ったのだった。それを上手く活用すれば大きな力になるはずだ。
試しにスケルトンの即席パーティーを作り、狩に向かわせたところ、首尾よく鹿を仕留めることができたのだった。
俺たちは手に余るほどの肉を手に入れた。
「ときどき彼らに狩をさせれば、肉に不自由することはなくなるな」
「毎日肉が食べられるなんて、すごいね!」
「どんどん消費しないと腐らせてしまうぞ」
「なんて贅沢なのぉ!」
俺たちの食糧事情はかなり改善されたのだった。
とりあえずは食料の心配をする必要がなくなったので、住環境の整備に力を入れることにした。
まずは、身の安全の確保からだ。この世界に来てすぐに命を狙われた経験があるので、ちょっとしたトラウマになっているのだった。元の世界ではそんなこと考えもしなかったのになぁ。
旧街道から枝分かれした小道が、この小屋の敷地まで続いている。敷地内を入念に調べたが、他には道らしい道はなさそうだった。つまり、あの小道の出入り口を固めておけば、侵入者に対処できるだろう。
「森から直接来られたらあれだけど、結構険しい森だからなぁ」
「天然の防壁ってことだね」
「おぉ! よく分かってるねぇ」
俺はリサの頭をくしゃくしゃにして褒める。
「エヘヘ……」
旧街道からの枝分かれ部分をカモフラージュしておけば、部外者の侵入をかなり防げるはずだ。リサに実りの魔法をかけてもらい、雑草を茂らせることにした。入口から十メートルくらいをびっしり雑草で覆わせておけば、そこに道があるとは分からないだろう。
さらに念を入れて、雑草を抜けて入ってきた者たちへ警告をする。
『これより先は私有地。部外者の立ち入りを禁ず』
こんな感じの看板を小道の両脇に何か所も設置。
小道の中間地点には、スケルトン・レンジャーを配置した。
何かあれば連絡するように命令してある。
スケルトンたちが敷地内を休みなく巡回しているし、以前の俺なら「一体どんな重要施設だよ」と皮肉を言ってただろうな。でもここは異世界、何があるか分らんのだ。
「ねぇ、イチロウ、ちょっと来て」
リサが俺を呼んだ。
部屋の片づけをしているときに、何かを見つけたらしい。
「ここなんだけど……」
床を指さす。
「うん? ちょっとガタガタしてるな」
床板の一部が釘止めされておらず、少し隙間が空いている。
俺はナイフを取り出し、隙間にさし入れてグイっとこじった。
ギギッ、ガパッ
どうやらそこが地下室への入口になっているようだ。地下から、冷たくてかび臭い風が吹いてくる。下へ降りる階段があるが、その先は真っ暗で何も見えない。
「ちょっと待ってろ」
俺は外にいた汎用スケルトンを一体連れて戻ってきた。
「下に降りて探索してきてくれ」
『……カシコマリマシタ、ますたー』
ガシャンガシャンと音をたてながらスケルトンは階段を下りる。
「何があるのかな?」
「普通に考えれば、物置だろ? ガラクタが一杯置いてあると思うが」
……ガシャン、ガシャン。
『……タンサクシュウリョウ、イジョウナシ、ますたー』
「ご苦労、持ち場に戻ってくれ」
『……カシコマリマシタ、ますたー』
「じゃぁ、ちょっと降りてみようぜ」
「うん」
階段を一段一段確かめながら下りる。板が腐ったりはしてない様子だ。地下は真っ暗だ。
「大丈夫そうだ。気を付けて降りてこい」
「分かってるって」
地下に降りてきたリサが、灯りの魔法を使う。だいぶ慣れたようで、今では連続一時間くらいは使えるらしい。リサを中心にぼぅっとあたりが明るくなる。
「ふぅむ……。何もないな」
それほど広くもない地下室なので、ぐるっと見渡せばすぐに状況が分かる。
「なんだぁ、ちょっと残念」
「お前、お宝を期待してたのかよ、ハハハ」
「もぅ、別に良いじゃない!」
リサが俺の脇腹をつねりあげる。
「ぎゃぁ! やめろよぉ」
意外と握力があって、普通に痛い。まったく……。
ふと、地下室の壁に目が行く。
「おやおや、これは何だ?」
「え!? なになに?」
近づいてきたリサの両脇腹をグワシと掴んでやる。お返しだ。
「きゃぁ! 何するのよ!」
神速のかかと蹴りが俺の脛に返ってきた。
「ぐぇ! お、お前、容赦ないな……。まぁ、それはおいといて、そこの壁を見て見ろよ」
俺の指さすところには、何やら文字が書いてあり。その下には左手の手形が描かれている。
「う~ん、私には読めない文字ねぇ。あの文字だわ」
そこにはこう書かれてあった。
チュートリアルダンジョン
資格ある者のみ入るがよい
「訓練用のダンジョンがこの先にあるらしいよ」
「へぇ、じゃぁその手形が鍵ってことよね。早速入りましょうよ」
「いや、待て待て。何の準備もなく突っ込むのは危険だ」
俺はファイターとランサー、メイジ、プリーストを連れてきて、壁の前に配置した。レンジャーとアーチャーは小屋周辺の警戒に残してある。
「慎重ねぇ……」
「こういうのは、石橋を叩いて叩いて、叩き壊すくらいがちょうど良いんだよ」
「何よそれぇ、意味わかんない」
俺はスケルトンたちに、万が一攻撃が来たら俺たちを守るように命じて、手形に左手をかざす。俺の左手の紋様がぼぅっと光って、ゴリゴリと音を立てて壁に入口が開いた。真っすぐな通路があって、奥の方は暗くてよく見えない。
……カッシャン、カッシャン、カッシャン
何かが暗闇からやってくる。
音からして予想はついていたが、やはりスケルトンだ。
スケルトンが一体走って突っ込んで来た。
リサがきゃっと悲鳴を上げる。
ファイターが盾になって、ガッチリとスケルトンを抑える。
俺はファイターに奴を抑え込んでおくように命じて、奴のステータスを確認した。
術者:なし
名前:なし
種類:スケルトン
用途:汎用
状態:良好
熟練:小
特記:なし
「ふ~ん、なるほど。じゃぁここを変更っと」
術者:イチロウ・トオヤマ
名前:なし
種類:スケルトン
用途:汎用
状態:良好
熟練:小
特記:なし
術者の項目に俺の名前を書き入れた。
暴れていたスケルトンが大人しくなって俺を見た。
「よし、お前出てこい」
『……カシコマリマシタ、ますたー』
「よっしゃ、スケルトン一体ゲット!」
俺は入口の手形に左手をかざして、入口を閉じる。ゴリゴリと音を立てて壁の入口が閉まった。
「え!? えっ? なんで?」
リサが唖然とする。
俺はまた入口の手形に左手をかざして、入口を開く。ゴリゴリと音を立てて壁の入口が開いた。
「え!? えっ? なんでよ!」
……カッシャン、カッシャン、カッシャン
何かが暗闇からやってくる。
予想はついていたが、やはりスケルトンだ。
スケルトンが一体走って突っ込んで来た。
リサは呆然としている。
ファイターが盾になって、ガッチリとスケルトンを抑える。
俺はファイターに奴を抑え込んでおくように命じて、奴のステータスを確認した。
「はい、ここを変更っと」
さっきと同じく、術者の項目に俺の名前を入れる。
「よっしゃ、スケルトン二体目ゲット!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! いったい何やってんのよ?」
「このダンジョンは、入口を開け閉めするたびに、スケルトンを自動生成してるようなんだ。だから、これを繰り返せば無限にスケルトンが手に入る!」
「えぇ~! ちょっとズルくない?」
「良いの! 安全に攻略できるなら俺は何でもやるのだ!」
結局、入口のスケルトンはニ十体で打ち止めとなった。
俺はダンジョンの入口を閉じる。
「先に進まないの?」
「まだ進まない。今日はここまでだ」
俺はホクホク顔で地上に戻った。
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