異世界ネクロマンサー

珈琲党

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44 復旧作業

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 スケルトンたちの防衛体制には、それなりの自信があった。
 二百の兵を一瞬で壊滅させた経験もあるしな。

 しかし、今回の大イナゴの襲撃を受けて、その認識を見直さざるをえなくなった。
 一応、駆除できたとはいえ、住処までの侵入を許してしまったのだ。


『やっぱり、数は力なのか……』

 百や二百なら対応できても、千となると物理的に追いつかなかった。
 スケルトンをもっと増やすべきなのかな。

『大イナゴの襲撃は人知を超えたものじゃ。竜巻や大嵐に見舞われたようなものなのじゃ。
 お主が心配すべきは、人による襲撃ではないのかぇ?』

『まぁ、確かにそうだけど……』

 俺のこれまでの地道な調査で、周辺貴族の兵力はだいたい把握できている。
 どんなに多く見積もっても、それぞれ兵士百名程度だ。
 王族、貴族全てが結集しても、おそらく千には届かないだろう。
 王には求心力がないし、貴族たちはそれぞれの打算で行動するから、一枚岩ではない。
 つまり、千の兵が一斉にこの森に攻め入る、などということはまず考えられないのだ。


「とりあえずは、復旧に専念しよう」

 防衛力の強化は、追々考えることにする。

「うん、私は畑をやり直すよ!」

 リサは畑の惨状に落ち込んでいたが、一晩でケロッと回復していた。
 スケルトンたちを引き連れて、元気よく畑に向かっていった。

「じゃあ頼む」

 俺は家と工場こうばの修理にとりかかった。
 大イナゴが衝突した壁は、見た感じはボロボロだったが、ダメージはそれ程でもない様だ。

 工場はレンガ造りだったのが幸いしてほとんど無傷だった。
 ボロボロに見えたのは大イナゴの体の断片が付着していたためだ。
 汚れを落として、大きなヒビの入ったところにはモルタルを詰めて完了。

 家の壁はあちこち漆喰が剥がれてしまったが、躯体そのものは無事だった。
 ちょっと大イナゴにかじられた跡もあったが、問題ないレベルだな。
 家の西面に窓がなかったのも運が良かった。
 剥がれた漆喰を塗り直せば大丈夫。
 漆喰が手元にないので、今日は壁や家の周辺を掃除しただけだ。


『敷地の周りを、ぐるっと防壁で囲むってのもありじゃないかな』

 手がすくと、また余計なことを考えてしまう。

『うむ。有効といえば有効じゃが、手間暇と利益が釣り合わん。
 お主の言葉でいうところの費用対効果が薄いというやつじゃ。
 ここまで侵入できるものがどれだけおるのじゃ?
 大イナゴの襲撃など、私も長年生きておるが遭遇したのは初めてじゃ。
 動揺するのも、分からんでもないが、心配し過ぎじゃ』

『そうか……』

 確かにクロゼルの言うように、思った以上に俺は動揺しているのかもしれない。
 畑の様子でも見て気を紛らわせよう。


「調子はどうだ?」

「やっぱり作物は全滅だった。
 でも実りの魔法を使えば、ひと月もあれば元通りだよ」

「そうか。甜菜の備蓄はあるのか?」

「ううん。だから砂糖とお酒の生産はしばらく無理だね」

「卸所にまだ在庫があるから、それでなんとかするか……」

「家は?」

「あぁ、見た目ほどは大したことなかった。漆喰を塗りなおしたら直るよ。工場は問題なし」

「よかった!」


 俺は行商人の情報網にアクセスしてみた。
 やはり、ヘッセルバッハ伯領の町や村に、少なからぬ被害が出ている様子だ。
 大イナゴがどこから来襲したのかは不明だ。
 ヘッセルバッハ伯領内ではなく、もっと西の方からやって来たものらしい。
 農村部では死傷者も多くでたようだ。
 行商人たちには被害がないようでなによりだ。

 それにしても情報の伝播の早いこと。
 昨日の今日なのに、東の方へ行商へ行った連中も皆、大イナゴのことを知っていた。
 たぶんカステルハイム伯も知っているだろうが、一応報告しておくかな。


「行商人たちも無事らしいし、とりあえず商売にも支障はなさそうだ」

「一安心ね。でも、西の方の人たちは大変」

「まぁな。あぁ、それから伯爵に大イナゴの件を報告するけど、なにか要望とかあるか?」

「報告は分かるけど、要望って?」

「俺たちの奮戦があったから、カステルハイム伯領は無事だったんだぞ。
 あのまま大イナゴを素通しにしてたら、どうなったと思う?」

「そうねぇ。でもとくに要望はないよ。私たちは無事だったし」

「そうか」

「ベロニカには聞かないの?」

「いい。どうせ宝石とかだろ? あいつは今回は活躍してないしな」
 

――――――――――――――――――――――――――――――――


同日。カステルハイム伯城。


「ふむ。大イナゴの群れは、ただの噂などではなかったようじゃな」

「ははっ! ヘッセルバッハ伯領においては被害が多数、
 いまだ混乱の最中とのことでございます」

「その大イナゴの群れがマクドーマンの森に侵入して、そこで消えたと」

「さようでございます――ん?」

 使用人が一礼して入室してきて、スッと執事に紙を手渡す。

「森の魔導師殿より、報告が届いております」

「どれ、見せてみよ。ふむ……。
 どうやらまた貸しを作ってしまった様じゃのぉ。
 大イナゴ千匹あまりを駆除したとあるわぃ」

「せ、千匹ですと! 失礼ながら誇張では?」

「実際にヘッセルバッハ伯領で大きな被害が出ておるのだ。
 大群であったことには違いないではないか。
 千であろうと百であろうと同じことよ。
 あの森が防壁になったおかげで、我が領は無事だったのじゃ。
 それにしても、どうしたものか……」

「いかがなさいましたか?」

「うむ。馬の骨をよこせと、そう要求しておる」

「は? う、馬の骨ですと? 文字通りの馬の骨でございますか?」

「そうじゃ。馬の骨を丸々二頭分くれと書いてある。
 いずれにせよ、イチロウ殿には褒美をとらせねばなるまい。
 馬の骨なら安い物じゃが……」



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