異世界ネクロマンサー

珈琲党

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57 行商人たち

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 大イナゴの襲来から一ヶ月くらいたったころのこと。

 行商人たちが言うには、王都やその周辺の治安が悪化してきているらしい。
 西のほうの町や村が大イナゴによって荒らされて、食えなくなった連中が押し寄せて来ているのが原因だということだ。そういえば、こないだの山賊もどきも、バンパイアハンターもよそ者だったな。

 それで護衛が欲しいというので、量産したゴーレムを貸し出したのだった。
 貸し出したゴーレムはハイプリーストにクラスチェンジしていて、鉄壁の防御魔法と回復魔法が使える。月に銀貨二十枚というなかなのレンタル料を取っているが、それだけの働きはしてくれるだろう。

 俺も時々ゴーレムたちの様子を見ているのだが、今のところ問題はなさそうだ。
 まぁ何か問題があれば、行商人たちから文句がでるだろうしな。



「ゴーレムの調子はどうだ?」

「今のところは、守ってもらうような事態にはなってないんですが……」

「うん?」

「いえ、こないだ重い荷物を抱えたときに、ちょっと足首を痛めましてね、
 それでゴーレムさんに治療してもらったんですよ。
 そしたら、足首だけじゃなくて長年の悩みだった腰痛まで直りまして、ハハハ」

 ハイプリーストは完全回復の魔法を使えるが、そういえば俺はまだ試してなかった。
 そこまで使える魔法だったとはね……。

「こんなスゴイものを、貸してもらって良いものかと思いましたよ。
 月に銀貨二十枚は安いかもしれませんね」

「ほぉ、そうか。それは良かった」

「実は私も、持病の痔を直してもらいまして、本当にありがたいと……」

「私は娘の肺の病を直してもらいました」

 俺は護衛としてゴーレムを貸し出したんだがな……。
 とはいえ、護衛としての仕事がないというのは平和だということで悪いことではない。

「この際言っておくが、ゴーレムを利用して商売をするのはナシだからな。
 まぁ、身内の病気くらいなら目をつぶってやるが、赤の他人の病気や怪我を金とって治療とかするなよ。あくまでもお前たちの護衛として貸してるんだから。
 あんまり外れた使い方をするんだったら返してもらうぞ」

「「「わかりました」」」

 俺たちのやり取りを見て、幾人かの行商人たちが、うらやましそうな顔をする。

「私もいつかそのうちにお借りしようと思っています」

「おぉ、必要になったらいつでも言ってくれよ」


 俺のところに出入りしている行商人は、人数がキッチリ決まっている。出入り管理を徹底していて、むやみやたらと知らない人間を入れないようにしているのだ。
 行商人の仕事はハイリスクなので、ある程度金を貯めるとやめる奴がでて来る。貯めた金を元手に街で店を開くとか、単に引退するとか理由はいろいろだが、一般の認識として、行商というものは長く続けるものではないらしい。なので人の入れ替わりもそれなりにあるのだった。

 それで、空きができるとほぼ同時に新しい奴が入ってくる。やめた奴の伝手というか、行商人仲間の横のつながりみたいなものがあって、一定レベルの信頼できる人物が紹介されて来る。今ではその順番待ちまでできているらしい。

 ともかく、新しく入って来るのはまだ若くて金のない奴がほとんどだ。
 ゴーレムのレンタルを泣く泣く見送ったのはそういった連中だ。


「しばらくやってればすぐだから」
「まぁ、ここに来れただけでも運が良いわけだしな」
「そうそう、お前は恵まれてるぜ」

 古参の行商人たちが新人を励ましている。
 彼らは最初期からここに出入りしていて、相当に目端が利く。
 機を見るに敏、まさに商売人の鏡みたいな奴らだ。


「砂糖も酒も陶器も、まだ当分は売れるだろうから心配するな。
 それと、これを見て欲しいんだが……」

 俺はこないだ作った鉛筆を取り出す。

「それは?」

「これは新しいペンだ。鉛筆というものだ」

 紙にサラサラと文字を書いて見せ、行商人たちにも鉛筆を渡して、実際に使ってもらった。

「おぉ!」
「なんと……」
「インクが要らないんですね」
「なるほど、これは画期的ですねぇ」

「こ、これを売ってもらえるので?」

「いや、これそのものじゃなくて、これの作り方を売ってやる。
 あとは自分たちで作って売ってもいいし、作り方を別な奴に売ってもいい」

 彼らの目がギラっと光る。
 これは儲かるとふんだ時の顔だ。

「そっ、それでおいくらですか?」

「銀貨五枚だ」

「「「えぇぇぇぇ!?」」」

 彼らは皆唖然とした顔をしている。

「いや、しかし……。本当によろしいので?」

 あまりにも安すぎると言うのだ。

「いいんだよ。
 これは便利な道具だから、世間一般に広めてもらいたいんだ。
 俺自身はこれで儲けるつもりはない」

 鉛筆作りを独占してがめつく儲けることも出来るだろうが、正直面倒くさいしな。

 行商人たちは全員が手を挙げた。
 作り方の詳細を書いた冊子を全員に配り、作りかけの材料と完成した鉛筆も見本として渡した。
 
「作るのはそんなに難しくないから、町の職人なら簡単に作れるはずだ」

 行商人たちは皆大慌てで帰って行った。
 すぐさま心当たりの職人に依頼するつもりなのだろう。
 この世界には専売特許みたいなものはないので、何でも早い者勝ちなのだ。



「鉛筆の作り方は売れたの?」

「あぁ、全員が買って帰った」

「ちょっともったいない気がするけどね」

「いいんだよ。
 あと何年かすれば、安くて質の良い鉛筆が買えるようになる。
 この世界がほんの少しだけ便利になるわけだ。俺としてはそれで十分なんだよ」

「う~ん、分かるような分からないような……」

「まぁそのうち分かるようになるよ」

「ふぅん。
 じゃあ、そろそろお昼にしない?」

「そうだな。ハンバーグでも作るか」

「はんばーぐ?」

「あぁ、肉だ肉。
 鹿肉とイノシシ肉の合挽きミンチと玉ねぎのみじん切りをこねて焼くんだ」

 牛肉が欲しいところだが、買うと高価だし鮮度も悪いのだ。
 その点、鹿やイノシシは捕れたてを使えるしただだからな。

「なにそれ、美味しそう!」

「肉の臭みを消したいから、香草を取って来てくれ」

「分かった!」

 俺は材料をこね合わせて、フライパンでハンバーグを焼く。
 リサは芋やニンジンの皮をむいて、温めの魔法で調理している。
 温めの魔法を使うと電子レンジで調理したように芯から火が通る。
 最初は使えない魔法だったが、リサが上達したおかげで、今では料理にはなくてはならないものになっていた。
 下処理の済んだ芋とニンジンを軽くフライパンで炒めて、焼き目をつけてやる。

「さぁ、出来たぞ」

「わぁ! 美味しそうね」

「もちろん美味いさ」

 最近は俺もリサも食事の時に箸を使うことが多くなった。
 端材で作った簡単なものだが、やはり日本人の俺には箸がしっくりくる。
 リサは最初は俺の冗談だと思って笑っていたが、俺が普通に食事をしているのを見て便利さを理解したらしい。すぐに練習をして使いこなせるようになった。

「むぐむぐ、おいひぃ!」

「うん、美味いなぁ。
 イノシシの脂を多めに混ぜ込んでみたんだ。
 やっぱり肉には特製ソースが合うなぁ」

「はぐはぐ……、ケチャップも合うね」

「まあな。あと、こうやって焼いたパンにはさんで食えばハンバーガーだ。
 むぐむぐ……、うん美味い!」

「もう、行儀が悪いわね。でもそれも美味しそう!」
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