14 / 38
ナオの決意
「ナオ、あなたはロビンをよく知らないのかも知れないわね。あの子はこの国の守護神と呼ばれるくらいの強者なのよ。戦の経験も豊富なの。だから安心なさい」
お母さまはそう言ってナオを宥めました。
可哀そうに、異世界というところでは戦の経験がなかったのでしょう。
ナオが戦に怯えてしまったのだと思ったお母さまは、ナオを抱き寄せたのでした。
「ありがとうございます。お母さま。私もロビンの噂は聞いています。だからってそれが私が安全なところでロビンを待つ理由にはならないと思うのです。お母さま、私はロビンが危険なところに行くなら、私も一緒に行ってロビンを守りたいんです」
大奥様とアンジェは、驚きでしばらくは声もでませんでした。
この国の者は、ロビンと言えば無敵だと思い込んでいて、そのロビンに助けがいるなんて考えたこともないのです。
それなのにこの華奢で、小さな刀すら振り回すこともできないであろう小娘が、ロビンを守りたいというのです。
さらに言えば、ほんの少し悪意で罵られたぐらいで、青ざめてしまうようなヘタレな女の子が、どうやってロビンを守ろうというのでしょうか?
「お母さま、アンジェ。私にはきっと人を殺すことはできません。人が傷つくのを見るのも苦しいでしょう。だから戦士になりたいと言っているんじゃありません。傷を治療する人だの、食事を用意することだの、戦場にだってそういうところで女の人が働いているんじゃありませんか?」
なるほど。
この少女は兵士というものも、戦場というところも知らないのだとアンジェにも合点がいきました。
「ナオさま。兵士の中には救護兵といって傷ついた兵を治療する者や、炊事兵といって皆の食事を担当する者がおります。しかし彼等も逞しい兵士なのです。戦う力を持たぬ者が戦場にいけば、かえって足手まといになるのですよ」
「それでは戦場には女は一人もいないのですか? 騎士様や兵士以外には、誰も戦場にはいかないのでしょうか?」
ナオの顔は苦しそうにゆがんでいましたから、大奥様は真実をナオに伝えることにきめました。
この少女はどうやら息子を、本当に愛してしまったようです。
「ナオ。確かに戦場にも女性が赴くことがあります。それは王都で組織された魔術師団や、治療魔法の使い手たちです。特に防御魔法師や治癒師には女性が多いのですよ」
「王都で! お母さま、この領地にはそのような女性はいないのですか?」
「ナオ、魔法師というのは特別な力を持った人たちで、それは生まれ持ったものなのです。そういう力を持つ者は、王都で特別な教育を受けて、その力を伸ばすのですよ。今回の小競り合いでも、王都から魔術師や治癒師が派遣されてきていますからね」
「そう言えば、ナオさま。青銀の姫と言われるロッテさまの婚約者はこの国一番の魔術師ですし、ロッテさまも魔法の才能に恵まれていらっしゃるとのことですから、もしかしたらナオさまも魔法が使えるかもしれませんわね」
アンジェの言葉に、そう言えばロッテはあの行方不明事件の時、自分で転移魔法を使ったんだったと、ナオは思い出しました。
ロッテに魔法が使えるのなら、陰陽の姫君の片割れである自分にだって魔法が使える筈です。
ナオはやっと、ロビンを守る方法を見つけることができました。
「お母さま、アンジェ。私も魔法を学びたいのです。どうか私に魔法の教師をつけてください」
大奥様とアンジェは、とても困った顔をしてお互いの顔を見ていましたが、とうとうアンジェがナオを諦めさせる係をかって出ました。
「ナオさま。ナオさまの教育内容や教師の選定は、ロビン辺境伯さまが自ら厳密にお決めになっておいでです。ロビンさまはナオさまをいたく溺愛していらっしゃいますから、魔法の勉強などはお許しにならないでしょうね。ましてその理由が戦場に出るためだなんて」
「ナオ、この場所で私自らナオの教育に当たることも、ナオを教えている教師陣もロビンが考え抜いて決めたことです。あの子はとても頑固ですし、ロビンの目を盗んでなにかを企むなんてことは、考えるだけ無駄なことです。ロビンがナオに魔法は必要ないと判断したならそれを受け入れなさい」
「そうですともナオさま。もしも治癒師や防御魔法師が必要なら、いくらでも雇えばよいのです。実際、こちらの神殿には強力な結界が敷かれておりますしね。ナオさまのお役目は、ロビンさまがおっしゃったように立派な貴婦人になることです」
ナオは思った以上に領主の権限というものが大きいことを知って驚きました。
例え妻や母親であっても、領主の命令には逆らえません。
身分制度の厳しいこの世界では、プレシュス辺境領でロビンに逆らう者がいる筈もないのでした。
「わかりました。我儘を言いましたね。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。私はロビンが戦場に行くと聞いて動揺してしまったようです。」
「いいのですよ。そこまで息子を愛してくれてとても嬉しいわ。それよりあなたがプレシュス辺境伯夫人になるまで、たった2週間しか猶予がないのよ。これからのお勉強はずっと厳しくなりますからね。今日はお部屋でゆっくりと休みなさい」
もちろん、ナオがこれくらいのことで、魔法を諦める訳がありません。
そういう意味ではナオもロッテも、平等主義の日本からやってきたので、命令といわれてもそれほど大層には考えられないのでした。
部屋に戻るとすぐにナオは自分に与えられている、図書室に行ってみました。
隅々まで見渡しても、見事なぐらいに魔法書も魔術書も見当たりません。
なるほど。
ここにある本は全てロビンの検閲済みという訳です。
「これって言論の自由とか思想信条の自由を侵しているわよね。あっそうか。この世界にはそんなものはないんだった」
ナオはロビンの完璧主義を恨めしく思いながら、それでもあきらめきれずに書棚をもう一度未練がましく眺めていました。
「あれ? この童話ってもしかして?」
それはこの国では誰でも知っている異界渡りの姫君をモチーフにした童話でした。
あまりにも有名な童話だったので、当たり前のようにこの図書室におかれたのでしょうが、その挿絵には確かに魔法使いらしい姿が描かれています。
ナオはその本を手にすると、いそいそと自分のベッドに隠し込んでしまいました。
そうして今日は疲れたから早く休みたいと言えば、侍女たちは速やかにナオに湯あみをさせて、寝間着に着替えさせると、ベッドに押し込んでくれました。
ナオはドキドキとしながら、その童話を読み進めていきます。
もしかしてほんの欠片でもいいから、魔法について何か知ることができるかも知れません。
やがてそれは見つかりました。
子供用の童話なので、詳しい説明はありませんが、魔法と言うのは呼吸に集中することで、自分の中にあるマナに気づくことが大事みたいです。
そうして魔法の発動にはイメージ力が必要だとも書いてありました。
たったこれだけのヒントでもナオには十分でした。
だってナオは本やアニメが大好きで、魔法少女に憧れてステッキを振り回しているような子供だったのですから。
ナオはベッドに座り込むと、丹田を意識してゆっくりと深く呼吸をしていきます。
すって、はいて。
ゆっくり、ゆっくり。
そのうちに身体の中に、何か暖かな固まりがあるのに気づきました。
ナオはそれを、さらに慎重に血流を巡らせるように、じっくりと手の平に集めていきます。
手の平に確かに、魔力の元になるものが、集まったと思った時、ナオはじりじりとナオの周囲に張り巡らされた結界に気が付きました。
ナオがここで魔法を発動させれば、すぐにこの結界はそれを感知するでしょう。
今まで気づけなかった魔法結界に気づけたことで、ナオはロビンがどれほど厳重にナオを守っているかわかりました。
ナオはすぅーと集めたマナを体内に戻します。
ここでうっかりロビンに気づかれたら、もう二度と魔法を学ぶチャンスはなくなるでしょう。
ここは慎重にいくべきです。
王都に行けば、ロッテに魔法を教えて貰うことができます。
そして強力な魔法師になれれば、ロビンを説得することができるでしょう。
だからここでバレる訳にはいかないのです。
それからのナオは、気を自在に操る事だけに集中しました。
気のコントロールをすることで、今まではちょっと悪口を言われるだけで、凹んでいたのに、それもなくなりました。
それに今までいい気になって、ナオにちょっかいをかけてきた人たちも、何も言わなくなってきました。
最初ナオは、それは自分がロビンと結婚することが決まったからだろうと思っていましたが、どうやらそうではありません。
ナオは気をコントロールすることで、気配を絶ったり威圧をしたりできるようになっていたのです。
しかも気配に敏感になって、魔術が施されているのにもすぐに気が付くようになりましたし、気を凝らすことでその魔法の内容も読み取れるようになっていました。
ナオは全くしりませんが、そんなことができるのは一流の中でもトップクラスの人たちだけで、それも長い修行の結果たどり着くことのできる境地でした。
それを軽々と実現したのですから、異界渡りの姫には神の恩寵が宿っているのかもしれません。
こうしてナオは、着々と魔法使いになる準備を整えていったのです。
もちろんスパルタ教師と化したお母さまや教授陣のおかげで、ナオは貴婦人としても大いに成長していました。
ナオが勉強が苦手だったのは、その必要を感じなかったからでしょう。
今や必死に学ばないと、連れ合いとなるロビンに赤っ恥をかかせることになるとあって、ナオも真剣だったのです。
そんなある日、とうとうロビンが帰ってきました。
先ぶれを貰っていたナオやお母さまは、今や遅しとロビンの帰りを待っていたのです。
神殿の入り口に入ってきたロビンはナオを見て、目を細めました。
武人として名高いロビンは、たった2週間で、ナオの気配が怖ろしく研ぎ澄まされていることに気がついたのです。
ロビンは獰猛な顔をして笑いました。
全く私の番は、いつだって私を驚かせてくれるじゃぁないか。
まぁ、それもよかろう。
お手並み拝見といこうじゃないか。
ロビンがそんなことを考えているとは知らないナオは、いきなりロビンに抱き着きました。
「ロビン、お帰りなさい。待ってたのよ!」
そのあまりにも無邪気な好意に、ロビンは胸が熱くなりました。
ちょっとばかりじゃじゃ馬でも、これほど愛らしい娘は他にいないでしょう。
ロビンはナオを高々と抱き上げると、そのままナオを肩にのせて堂々と部屋に入っていくのでした。
お母さまはそう言ってナオを宥めました。
可哀そうに、異世界というところでは戦の経験がなかったのでしょう。
ナオが戦に怯えてしまったのだと思ったお母さまは、ナオを抱き寄せたのでした。
「ありがとうございます。お母さま。私もロビンの噂は聞いています。だからってそれが私が安全なところでロビンを待つ理由にはならないと思うのです。お母さま、私はロビンが危険なところに行くなら、私も一緒に行ってロビンを守りたいんです」
大奥様とアンジェは、驚きでしばらくは声もでませんでした。
この国の者は、ロビンと言えば無敵だと思い込んでいて、そのロビンに助けがいるなんて考えたこともないのです。
それなのにこの華奢で、小さな刀すら振り回すこともできないであろう小娘が、ロビンを守りたいというのです。
さらに言えば、ほんの少し悪意で罵られたぐらいで、青ざめてしまうようなヘタレな女の子が、どうやってロビンを守ろうというのでしょうか?
「お母さま、アンジェ。私にはきっと人を殺すことはできません。人が傷つくのを見るのも苦しいでしょう。だから戦士になりたいと言っているんじゃありません。傷を治療する人だの、食事を用意することだの、戦場にだってそういうところで女の人が働いているんじゃありませんか?」
なるほど。
この少女は兵士というものも、戦場というところも知らないのだとアンジェにも合点がいきました。
「ナオさま。兵士の中には救護兵といって傷ついた兵を治療する者や、炊事兵といって皆の食事を担当する者がおります。しかし彼等も逞しい兵士なのです。戦う力を持たぬ者が戦場にいけば、かえって足手まといになるのですよ」
「それでは戦場には女は一人もいないのですか? 騎士様や兵士以外には、誰も戦場にはいかないのでしょうか?」
ナオの顔は苦しそうにゆがんでいましたから、大奥様は真実をナオに伝えることにきめました。
この少女はどうやら息子を、本当に愛してしまったようです。
「ナオ。確かに戦場にも女性が赴くことがあります。それは王都で組織された魔術師団や、治療魔法の使い手たちです。特に防御魔法師や治癒師には女性が多いのですよ」
「王都で! お母さま、この領地にはそのような女性はいないのですか?」
「ナオ、魔法師というのは特別な力を持った人たちで、それは生まれ持ったものなのです。そういう力を持つ者は、王都で特別な教育を受けて、その力を伸ばすのですよ。今回の小競り合いでも、王都から魔術師や治癒師が派遣されてきていますからね」
「そう言えば、ナオさま。青銀の姫と言われるロッテさまの婚約者はこの国一番の魔術師ですし、ロッテさまも魔法の才能に恵まれていらっしゃるとのことですから、もしかしたらナオさまも魔法が使えるかもしれませんわね」
アンジェの言葉に、そう言えばロッテはあの行方不明事件の時、自分で転移魔法を使ったんだったと、ナオは思い出しました。
ロッテに魔法が使えるのなら、陰陽の姫君の片割れである自分にだって魔法が使える筈です。
ナオはやっと、ロビンを守る方法を見つけることができました。
「お母さま、アンジェ。私も魔法を学びたいのです。どうか私に魔法の教師をつけてください」
大奥様とアンジェは、とても困った顔をしてお互いの顔を見ていましたが、とうとうアンジェがナオを諦めさせる係をかって出ました。
「ナオさま。ナオさまの教育内容や教師の選定は、ロビン辺境伯さまが自ら厳密にお決めになっておいでです。ロビンさまはナオさまをいたく溺愛していらっしゃいますから、魔法の勉強などはお許しにならないでしょうね。ましてその理由が戦場に出るためだなんて」
「ナオ、この場所で私自らナオの教育に当たることも、ナオを教えている教師陣もロビンが考え抜いて決めたことです。あの子はとても頑固ですし、ロビンの目を盗んでなにかを企むなんてことは、考えるだけ無駄なことです。ロビンがナオに魔法は必要ないと判断したならそれを受け入れなさい」
「そうですともナオさま。もしも治癒師や防御魔法師が必要なら、いくらでも雇えばよいのです。実際、こちらの神殿には強力な結界が敷かれておりますしね。ナオさまのお役目は、ロビンさまがおっしゃったように立派な貴婦人になることです」
ナオは思った以上に領主の権限というものが大きいことを知って驚きました。
例え妻や母親であっても、領主の命令には逆らえません。
身分制度の厳しいこの世界では、プレシュス辺境領でロビンに逆らう者がいる筈もないのでした。
「わかりました。我儘を言いましたね。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。私はロビンが戦場に行くと聞いて動揺してしまったようです。」
「いいのですよ。そこまで息子を愛してくれてとても嬉しいわ。それよりあなたがプレシュス辺境伯夫人になるまで、たった2週間しか猶予がないのよ。これからのお勉強はずっと厳しくなりますからね。今日はお部屋でゆっくりと休みなさい」
もちろん、ナオがこれくらいのことで、魔法を諦める訳がありません。
そういう意味ではナオもロッテも、平等主義の日本からやってきたので、命令といわれてもそれほど大層には考えられないのでした。
部屋に戻るとすぐにナオは自分に与えられている、図書室に行ってみました。
隅々まで見渡しても、見事なぐらいに魔法書も魔術書も見当たりません。
なるほど。
ここにある本は全てロビンの検閲済みという訳です。
「これって言論の自由とか思想信条の自由を侵しているわよね。あっそうか。この世界にはそんなものはないんだった」
ナオはロビンの完璧主義を恨めしく思いながら、それでもあきらめきれずに書棚をもう一度未練がましく眺めていました。
「あれ? この童話ってもしかして?」
それはこの国では誰でも知っている異界渡りの姫君をモチーフにした童話でした。
あまりにも有名な童話だったので、当たり前のようにこの図書室におかれたのでしょうが、その挿絵には確かに魔法使いらしい姿が描かれています。
ナオはその本を手にすると、いそいそと自分のベッドに隠し込んでしまいました。
そうして今日は疲れたから早く休みたいと言えば、侍女たちは速やかにナオに湯あみをさせて、寝間着に着替えさせると、ベッドに押し込んでくれました。
ナオはドキドキとしながら、その童話を読み進めていきます。
もしかしてほんの欠片でもいいから、魔法について何か知ることができるかも知れません。
やがてそれは見つかりました。
子供用の童話なので、詳しい説明はありませんが、魔法と言うのは呼吸に集中することで、自分の中にあるマナに気づくことが大事みたいです。
そうして魔法の発動にはイメージ力が必要だとも書いてありました。
たったこれだけのヒントでもナオには十分でした。
だってナオは本やアニメが大好きで、魔法少女に憧れてステッキを振り回しているような子供だったのですから。
ナオはベッドに座り込むと、丹田を意識してゆっくりと深く呼吸をしていきます。
すって、はいて。
ゆっくり、ゆっくり。
そのうちに身体の中に、何か暖かな固まりがあるのに気づきました。
ナオはそれを、さらに慎重に血流を巡らせるように、じっくりと手の平に集めていきます。
手の平に確かに、魔力の元になるものが、集まったと思った時、ナオはじりじりとナオの周囲に張り巡らされた結界に気が付きました。
ナオがここで魔法を発動させれば、すぐにこの結界はそれを感知するでしょう。
今まで気づけなかった魔法結界に気づけたことで、ナオはロビンがどれほど厳重にナオを守っているかわかりました。
ナオはすぅーと集めたマナを体内に戻します。
ここでうっかりロビンに気づかれたら、もう二度と魔法を学ぶチャンスはなくなるでしょう。
ここは慎重にいくべきです。
王都に行けば、ロッテに魔法を教えて貰うことができます。
そして強力な魔法師になれれば、ロビンを説得することができるでしょう。
だからここでバレる訳にはいかないのです。
それからのナオは、気を自在に操る事だけに集中しました。
気のコントロールをすることで、今まではちょっと悪口を言われるだけで、凹んでいたのに、それもなくなりました。
それに今までいい気になって、ナオにちょっかいをかけてきた人たちも、何も言わなくなってきました。
最初ナオは、それは自分がロビンと結婚することが決まったからだろうと思っていましたが、どうやらそうではありません。
ナオは気をコントロールすることで、気配を絶ったり威圧をしたりできるようになっていたのです。
しかも気配に敏感になって、魔術が施されているのにもすぐに気が付くようになりましたし、気を凝らすことでその魔法の内容も読み取れるようになっていました。
ナオは全くしりませんが、そんなことができるのは一流の中でもトップクラスの人たちだけで、それも長い修行の結果たどり着くことのできる境地でした。
それを軽々と実現したのですから、異界渡りの姫には神の恩寵が宿っているのかもしれません。
こうしてナオは、着々と魔法使いになる準備を整えていったのです。
もちろんスパルタ教師と化したお母さまや教授陣のおかげで、ナオは貴婦人としても大いに成長していました。
ナオが勉強が苦手だったのは、その必要を感じなかったからでしょう。
今や必死に学ばないと、連れ合いとなるロビンに赤っ恥をかかせることになるとあって、ナオも真剣だったのです。
そんなある日、とうとうロビンが帰ってきました。
先ぶれを貰っていたナオやお母さまは、今や遅しとロビンの帰りを待っていたのです。
神殿の入り口に入ってきたロビンはナオを見て、目を細めました。
武人として名高いロビンは、たった2週間で、ナオの気配が怖ろしく研ぎ澄まされていることに気がついたのです。
ロビンは獰猛な顔をして笑いました。
全く私の番は、いつだって私を驚かせてくれるじゃぁないか。
まぁ、それもよかろう。
お手並み拝見といこうじゃないか。
ロビンがそんなことを考えているとは知らないナオは、いきなりロビンに抱き着きました。
「ロビン、お帰りなさい。待ってたのよ!」
そのあまりにも無邪気な好意に、ロビンは胸が熱くなりました。
ちょっとばかりじゃじゃ馬でも、これほど愛らしい娘は他にいないでしょう。
ロビンはナオを高々と抱き上げると、そのままナオを肩にのせて堂々と部屋に入っていくのでした。
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
「お遊戯で子を育てるな」と追放された宮廷養育係——前世の保育士が作った遊びの教育を、王立学院が丸ごと導入した
歩人
ファンタジー
「子供に歌を教え、絵を描かせ、庭で走り回らせる——それが教育だと? ふざけるな」
侯爵令嬢マリカは婚約者にそう嘲笑され、宮廷養育係の職を解かれた。
前世で保育士だった彼女が行っていたのは、遊びに見せかけた発達支援プログラム。数を数える鬼ごっこ、言葉を覚える歌遊び、協調性を育む共同制作——子供たちは「楽しい」と笑いながら、同年代の二年先を進んでいた。
マリカが去り、旧来の家庭教師が戻った途端、子供たちは勉強を拒否し始めた。
王立学院の入学試験で辺境の子供たちが首席を独占したとき——「お遊戯」の本当の意味が明かされる。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。