14 / 38
ナオの決意
しおりを挟む
「ナオ、あなたはロビンをよく知らないのかも知れないわね。あの子はこの国の守護神と呼ばれるくらいの強者なのよ。戦の経験も豊富なの。だから安心なさい」
お母さまはそう言ってナオを宥めました。
可哀そうに、異世界というところでは戦の経験がなかったのでしょう。
ナオが戦に怯えてしまったのだと思ったお母さまは、ナオを抱き寄せたのでした。
「ありがとうございます。お母さま。私もロビンの噂は聞いています。だからってそれが私が安全なところでロビンを待つ理由にはならないと思うのです。お母さま、私はロビンが危険なところに行くなら、私も一緒に行ってロビンを守りたいんです」
大奥様とアンジェは、驚きでしばらくは声もでませんでした。
この国の者は、ロビンと言えば無敵だと思い込んでいて、そのロビンに助けがいるなんて考えたこともないのです。
それなのにこの華奢で、小さな刀すら振り回すこともできないであろう小娘が、ロビンを守りたいというのです。
さらに言えば、ほんの少し悪意で罵られたぐらいで、青ざめてしまうようなヘタレな女の子が、どうやってロビンを守ろうというのでしょうか?
「お母さま、アンジェ。私にはきっと人を殺すことはできません。人が傷つくのを見るのも苦しいでしょう。だから戦士になりたいと言っているんじゃありません。傷を治療する人だの、食事を用意することだの、戦場にだってそういうところで女の人が働いているんじゃありませんか?」
なるほど。
この少女は兵士というものも、戦場というところも知らないのだとアンジェにも合点がいきました。
「ナオさま。兵士の中には救護兵といって傷ついた兵を治療する者や、炊事兵といって皆の食事を担当する者がおります。しかし彼等も逞しい兵士なのです。戦う力を持たぬ者が戦場にいけば、かえって足手まといになるのですよ」
「それでは戦場には女は一人もいないのですか? 騎士様や兵士以外には、誰も戦場にはいかないのでしょうか?」
ナオの顔は苦しそうにゆがんでいましたから、大奥様は真実をナオに伝えることにきめました。
この少女はどうやら息子を、本当に愛してしまったようです。
「ナオ。確かに戦場にも女性が赴くことがあります。それは王都で組織された魔術師団や、治療魔法の使い手たちです。特に防御魔法師や治癒師には女性が多いのですよ」
「王都で! お母さま、この領地にはそのような女性はいないのですか?」
「ナオ、魔法師というのは特別な力を持った人たちで、それは生まれ持ったものなのです。そういう力を持つ者は、王都で特別な教育を受けて、その力を伸ばすのですよ。今回の小競り合いでも、王都から魔術師や治癒師が派遣されてきていますからね」
「そう言えば、ナオさま。青銀の姫と言われるロッテさまの婚約者はこの国一番の魔術師ですし、ロッテさまも魔法の才能に恵まれていらっしゃるとのことですから、もしかしたらナオさまも魔法が使えるかもしれませんわね」
アンジェの言葉に、そう言えばロッテはあの行方不明事件の時、自分で転移魔法を使ったんだったと、ナオは思い出しました。
ロッテに魔法が使えるのなら、陰陽の姫君の片割れである自分にだって魔法が使える筈です。
ナオはやっと、ロビンを守る方法を見つけることができました。
「お母さま、アンジェ。私も魔法を学びたいのです。どうか私に魔法の教師をつけてください」
大奥様とアンジェは、とても困った顔をしてお互いの顔を見ていましたが、とうとうアンジェがナオを諦めさせる係をかって出ました。
「ナオさま。ナオさまの教育内容や教師の選定は、ロビン辺境伯さまが自ら厳密にお決めになっておいでです。ロビンさまはナオさまをいたく溺愛していらっしゃいますから、魔法の勉強などはお許しにならないでしょうね。ましてその理由が戦場に出るためだなんて」
「ナオ、この場所で私自らナオの教育に当たることも、ナオを教えている教師陣もロビンが考え抜いて決めたことです。あの子はとても頑固ですし、ロビンの目を盗んでなにかを企むなんてことは、考えるだけ無駄なことです。ロビンがナオに魔法は必要ないと判断したならそれを受け入れなさい」
「そうですともナオさま。もしも治癒師や防御魔法師が必要なら、いくらでも雇えばよいのです。実際、こちらの神殿には強力な結界が敷かれておりますしね。ナオさまのお役目は、ロビンさまがおっしゃったように立派な貴婦人になることです」
ナオは思った以上に領主の権限というものが大きいことを知って驚きました。
例え妻や母親であっても、領主の命令には逆らえません。
身分制度の厳しいこの世界では、プレシュス辺境領でロビンに逆らう者がいる筈もないのでした。
「わかりました。我儘を言いましたね。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。私はロビンが戦場に行くと聞いて動揺してしまったようです。」
「いいのですよ。そこまで息子を愛してくれてとても嬉しいわ。それよりあなたがプレシュス辺境伯夫人になるまで、たった2週間しか猶予がないのよ。これからのお勉強はずっと厳しくなりますからね。今日はお部屋でゆっくりと休みなさい」
もちろん、ナオがこれくらいのことで、魔法を諦める訳がありません。
そういう意味ではナオもロッテも、平等主義の日本からやってきたので、命令といわれてもそれほど大層には考えられないのでした。
部屋に戻るとすぐにナオは自分に与えられている、図書室に行ってみました。
隅々まで見渡しても、見事なぐらいに魔法書も魔術書も見当たりません。
なるほど。
ここにある本は全てロビンの検閲済みという訳です。
「これって言論の自由とか思想信条の自由を侵しているわよね。あっそうか。この世界にはそんなものはないんだった」
ナオはロビンの完璧主義を恨めしく思いながら、それでもあきらめきれずに書棚をもう一度未練がましく眺めていました。
「あれ? この童話ってもしかして?」
それはこの国では誰でも知っている異界渡りの姫君をモチーフにした童話でした。
あまりにも有名な童話だったので、当たり前のようにこの図書室におかれたのでしょうが、その挿絵には確かに魔法使いらしい姿が描かれています。
ナオはその本を手にすると、いそいそと自分のベッドに隠し込んでしまいました。
そうして今日は疲れたから早く休みたいと言えば、侍女たちは速やかにナオに湯あみをさせて、寝間着に着替えさせると、ベッドに押し込んでくれました。
ナオはドキドキとしながら、その童話を読み進めていきます。
もしかしてほんの欠片でもいいから、魔法について何か知ることができるかも知れません。
やがてそれは見つかりました。
子供用の童話なので、詳しい説明はありませんが、魔法と言うのは呼吸に集中することで、自分の中にあるマナに気づくことが大事みたいです。
そうして魔法の発動にはイメージ力が必要だとも書いてありました。
たったこれだけのヒントでもナオには十分でした。
だってナオは本やアニメが大好きで、魔法少女に憧れてステッキを振り回しているような子供だったのですから。
ナオはベッドに座り込むと、丹田を意識してゆっくりと深く呼吸をしていきます。
すって、はいて。
ゆっくり、ゆっくり。
そのうちに身体の中に、何か暖かな固まりがあるのに気づきました。
ナオはそれを、さらに慎重に血流を巡らせるように、じっくりと手の平に集めていきます。
手の平に確かに、魔力の元になるものが、集まったと思った時、ナオはじりじりとナオの周囲に張り巡らされた結界に気が付きました。
ナオがここで魔法を発動させれば、すぐにこの結界はそれを感知するでしょう。
今まで気づけなかった魔法結界に気づけたことで、ナオはロビンがどれほど厳重にナオを守っているかわかりました。
ナオはすぅーと集めたマナを体内に戻します。
ここでうっかりロビンに気づかれたら、もう二度と魔法を学ぶチャンスはなくなるでしょう。
ここは慎重にいくべきです。
王都に行けば、ロッテに魔法を教えて貰うことができます。
そして強力な魔法師になれれば、ロビンを説得することができるでしょう。
だからここでバレる訳にはいかないのです。
それからのナオは、気を自在に操る事だけに集中しました。
気のコントロールをすることで、今まではちょっと悪口を言われるだけで、凹んでいたのに、それもなくなりました。
それに今までいい気になって、ナオにちょっかいをかけてきた人たちも、何も言わなくなってきました。
最初ナオは、それは自分がロビンと結婚することが決まったからだろうと思っていましたが、どうやらそうではありません。
ナオは気をコントロールすることで、気配を絶ったり威圧をしたりできるようになっていたのです。
しかも気配に敏感になって、魔術が施されているのにもすぐに気が付くようになりましたし、気を凝らすことでその魔法の内容も読み取れるようになっていました。
ナオは全くしりませんが、そんなことができるのは一流の中でもトップクラスの人たちだけで、それも長い修行の結果たどり着くことのできる境地でした。
それを軽々と実現したのですから、異界渡りの姫には神の恩寵が宿っているのかもしれません。
こうしてナオは、着々と魔法使いになる準備を整えていったのです。
もちろんスパルタ教師と化したお母さまや教授陣のおかげで、ナオは貴婦人としても大いに成長していました。
ナオが勉強が苦手だったのは、その必要を感じなかったからでしょう。
今や必死に学ばないと、連れ合いとなるロビンに赤っ恥をかかせることになるとあって、ナオも真剣だったのです。
そんなある日、とうとうロビンが帰ってきました。
先ぶれを貰っていたナオやお母さまは、今や遅しとロビンの帰りを待っていたのです。
神殿の入り口に入ってきたロビンはナオを見て、目を細めました。
武人として名高いロビンは、たった2週間で、ナオの気配が怖ろしく研ぎ澄まされていることに気がついたのです。
ロビンは獰猛な顔をして笑いました。
全く私の番は、いつだって私を驚かせてくれるじゃぁないか。
まぁ、それもよかろう。
お手並み拝見といこうじゃないか。
ロビンがそんなことを考えているとは知らないナオは、いきなりロビンに抱き着きました。
「ロビン、お帰りなさい。待ってたのよ!」
そのあまりにも無邪気な好意に、ロビンは胸が熱くなりました。
ちょっとばかりじゃじゃ馬でも、これほど愛らしい娘は他にいないでしょう。
ロビンはナオを高々と抱き上げると、そのままナオを肩にのせて堂々と部屋に入っていくのでした。
お母さまはそう言ってナオを宥めました。
可哀そうに、異世界というところでは戦の経験がなかったのでしょう。
ナオが戦に怯えてしまったのだと思ったお母さまは、ナオを抱き寄せたのでした。
「ありがとうございます。お母さま。私もロビンの噂は聞いています。だからってそれが私が安全なところでロビンを待つ理由にはならないと思うのです。お母さま、私はロビンが危険なところに行くなら、私も一緒に行ってロビンを守りたいんです」
大奥様とアンジェは、驚きでしばらくは声もでませんでした。
この国の者は、ロビンと言えば無敵だと思い込んでいて、そのロビンに助けがいるなんて考えたこともないのです。
それなのにこの華奢で、小さな刀すら振り回すこともできないであろう小娘が、ロビンを守りたいというのです。
さらに言えば、ほんの少し悪意で罵られたぐらいで、青ざめてしまうようなヘタレな女の子が、どうやってロビンを守ろうというのでしょうか?
「お母さま、アンジェ。私にはきっと人を殺すことはできません。人が傷つくのを見るのも苦しいでしょう。だから戦士になりたいと言っているんじゃありません。傷を治療する人だの、食事を用意することだの、戦場にだってそういうところで女の人が働いているんじゃありませんか?」
なるほど。
この少女は兵士というものも、戦場というところも知らないのだとアンジェにも合点がいきました。
「ナオさま。兵士の中には救護兵といって傷ついた兵を治療する者や、炊事兵といって皆の食事を担当する者がおります。しかし彼等も逞しい兵士なのです。戦う力を持たぬ者が戦場にいけば、かえって足手まといになるのですよ」
「それでは戦場には女は一人もいないのですか? 騎士様や兵士以外には、誰も戦場にはいかないのでしょうか?」
ナオの顔は苦しそうにゆがんでいましたから、大奥様は真実をナオに伝えることにきめました。
この少女はどうやら息子を、本当に愛してしまったようです。
「ナオ。確かに戦場にも女性が赴くことがあります。それは王都で組織された魔術師団や、治療魔法の使い手たちです。特に防御魔法師や治癒師には女性が多いのですよ」
「王都で! お母さま、この領地にはそのような女性はいないのですか?」
「ナオ、魔法師というのは特別な力を持った人たちで、それは生まれ持ったものなのです。そういう力を持つ者は、王都で特別な教育を受けて、その力を伸ばすのですよ。今回の小競り合いでも、王都から魔術師や治癒師が派遣されてきていますからね」
「そう言えば、ナオさま。青銀の姫と言われるロッテさまの婚約者はこの国一番の魔術師ですし、ロッテさまも魔法の才能に恵まれていらっしゃるとのことですから、もしかしたらナオさまも魔法が使えるかもしれませんわね」
アンジェの言葉に、そう言えばロッテはあの行方不明事件の時、自分で転移魔法を使ったんだったと、ナオは思い出しました。
ロッテに魔法が使えるのなら、陰陽の姫君の片割れである自分にだって魔法が使える筈です。
ナオはやっと、ロビンを守る方法を見つけることができました。
「お母さま、アンジェ。私も魔法を学びたいのです。どうか私に魔法の教師をつけてください」
大奥様とアンジェは、とても困った顔をしてお互いの顔を見ていましたが、とうとうアンジェがナオを諦めさせる係をかって出ました。
「ナオさま。ナオさまの教育内容や教師の選定は、ロビン辺境伯さまが自ら厳密にお決めになっておいでです。ロビンさまはナオさまをいたく溺愛していらっしゃいますから、魔法の勉強などはお許しにならないでしょうね。ましてその理由が戦場に出るためだなんて」
「ナオ、この場所で私自らナオの教育に当たることも、ナオを教えている教師陣もロビンが考え抜いて決めたことです。あの子はとても頑固ですし、ロビンの目を盗んでなにかを企むなんてことは、考えるだけ無駄なことです。ロビンがナオに魔法は必要ないと判断したならそれを受け入れなさい」
「そうですともナオさま。もしも治癒師や防御魔法師が必要なら、いくらでも雇えばよいのです。実際、こちらの神殿には強力な結界が敷かれておりますしね。ナオさまのお役目は、ロビンさまがおっしゃったように立派な貴婦人になることです」
ナオは思った以上に領主の権限というものが大きいことを知って驚きました。
例え妻や母親であっても、領主の命令には逆らえません。
身分制度の厳しいこの世界では、プレシュス辺境領でロビンに逆らう者がいる筈もないのでした。
「わかりました。我儘を言いましたね。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。私はロビンが戦場に行くと聞いて動揺してしまったようです。」
「いいのですよ。そこまで息子を愛してくれてとても嬉しいわ。それよりあなたがプレシュス辺境伯夫人になるまで、たった2週間しか猶予がないのよ。これからのお勉強はずっと厳しくなりますからね。今日はお部屋でゆっくりと休みなさい」
もちろん、ナオがこれくらいのことで、魔法を諦める訳がありません。
そういう意味ではナオもロッテも、平等主義の日本からやってきたので、命令といわれてもそれほど大層には考えられないのでした。
部屋に戻るとすぐにナオは自分に与えられている、図書室に行ってみました。
隅々まで見渡しても、見事なぐらいに魔法書も魔術書も見当たりません。
なるほど。
ここにある本は全てロビンの検閲済みという訳です。
「これって言論の自由とか思想信条の自由を侵しているわよね。あっそうか。この世界にはそんなものはないんだった」
ナオはロビンの完璧主義を恨めしく思いながら、それでもあきらめきれずに書棚をもう一度未練がましく眺めていました。
「あれ? この童話ってもしかして?」
それはこの国では誰でも知っている異界渡りの姫君をモチーフにした童話でした。
あまりにも有名な童話だったので、当たり前のようにこの図書室におかれたのでしょうが、その挿絵には確かに魔法使いらしい姿が描かれています。
ナオはその本を手にすると、いそいそと自分のベッドに隠し込んでしまいました。
そうして今日は疲れたから早く休みたいと言えば、侍女たちは速やかにナオに湯あみをさせて、寝間着に着替えさせると、ベッドに押し込んでくれました。
ナオはドキドキとしながら、その童話を読み進めていきます。
もしかしてほんの欠片でもいいから、魔法について何か知ることができるかも知れません。
やがてそれは見つかりました。
子供用の童話なので、詳しい説明はありませんが、魔法と言うのは呼吸に集中することで、自分の中にあるマナに気づくことが大事みたいです。
そうして魔法の発動にはイメージ力が必要だとも書いてありました。
たったこれだけのヒントでもナオには十分でした。
だってナオは本やアニメが大好きで、魔法少女に憧れてステッキを振り回しているような子供だったのですから。
ナオはベッドに座り込むと、丹田を意識してゆっくりと深く呼吸をしていきます。
すって、はいて。
ゆっくり、ゆっくり。
そのうちに身体の中に、何か暖かな固まりがあるのに気づきました。
ナオはそれを、さらに慎重に血流を巡らせるように、じっくりと手の平に集めていきます。
手の平に確かに、魔力の元になるものが、集まったと思った時、ナオはじりじりとナオの周囲に張り巡らされた結界に気が付きました。
ナオがここで魔法を発動させれば、すぐにこの結界はそれを感知するでしょう。
今まで気づけなかった魔法結界に気づけたことで、ナオはロビンがどれほど厳重にナオを守っているかわかりました。
ナオはすぅーと集めたマナを体内に戻します。
ここでうっかりロビンに気づかれたら、もう二度と魔法を学ぶチャンスはなくなるでしょう。
ここは慎重にいくべきです。
王都に行けば、ロッテに魔法を教えて貰うことができます。
そして強力な魔法師になれれば、ロビンを説得することができるでしょう。
だからここでバレる訳にはいかないのです。
それからのナオは、気を自在に操る事だけに集中しました。
気のコントロールをすることで、今まではちょっと悪口を言われるだけで、凹んでいたのに、それもなくなりました。
それに今までいい気になって、ナオにちょっかいをかけてきた人たちも、何も言わなくなってきました。
最初ナオは、それは自分がロビンと結婚することが決まったからだろうと思っていましたが、どうやらそうではありません。
ナオは気をコントロールすることで、気配を絶ったり威圧をしたりできるようになっていたのです。
しかも気配に敏感になって、魔術が施されているのにもすぐに気が付くようになりましたし、気を凝らすことでその魔法の内容も読み取れるようになっていました。
ナオは全くしりませんが、そんなことができるのは一流の中でもトップクラスの人たちだけで、それも長い修行の結果たどり着くことのできる境地でした。
それを軽々と実現したのですから、異界渡りの姫には神の恩寵が宿っているのかもしれません。
こうしてナオは、着々と魔法使いになる準備を整えていったのです。
もちろんスパルタ教師と化したお母さまや教授陣のおかげで、ナオは貴婦人としても大いに成長していました。
ナオが勉強が苦手だったのは、その必要を感じなかったからでしょう。
今や必死に学ばないと、連れ合いとなるロビンに赤っ恥をかかせることになるとあって、ナオも真剣だったのです。
そんなある日、とうとうロビンが帰ってきました。
先ぶれを貰っていたナオやお母さまは、今や遅しとロビンの帰りを待っていたのです。
神殿の入り口に入ってきたロビンはナオを見て、目を細めました。
武人として名高いロビンは、たった2週間で、ナオの気配が怖ろしく研ぎ澄まされていることに気がついたのです。
ロビンは獰猛な顔をして笑いました。
全く私の番は、いつだって私を驚かせてくれるじゃぁないか。
まぁ、それもよかろう。
お手並み拝見といこうじゃないか。
ロビンがそんなことを考えているとは知らないナオは、いきなりロビンに抱き着きました。
「ロビン、お帰りなさい。待ってたのよ!」
そのあまりにも無邪気な好意に、ロビンは胸が熱くなりました。
ちょっとばかりじゃじゃ馬でも、これほど愛らしい娘は他にいないでしょう。
ロビンはナオを高々と抱き上げると、そのままナオを肩にのせて堂々と部屋に入っていくのでした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる