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少年と猫
3話
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「猫を全力疾走で追い掛け回すやつがあるか!!」
物凄く真っ当なお叱りを受けている。猫に。
猫に追い付けなかったのは仕方がないと思う。今にして思えば追い付けると思うほうがどうかしてる。ただ、木箱に下敷きにされた挙句に説教を受けるとは、なんだか情けなくなってしまう。
とぼとぼと歩きながら、先導する猫の背中を見る。
見た目は普通の猫に見えるが、この子は魔術師の使い魔らしい。となると、猫探しの依頼を出したのもその魔術師なのだろう。飼い主——って言い方はしないのかな。
依頼書に書いておいてくれればいいのに……と、心の中で愚痴る。知っていれば最初から声をかければ済んだ話なのだ。
「それで?」
いつの間にか横に並んでいた猫が、不機嫌そうな目を向けてくる。相手は小さな猫なのに、逆らえる気が全くしないのが不思議だった。
「お前はこの後どうするんだ?」
「そりゃ、キミを探すよう依頼が出てるんだから。キミを連れて傭兵ギルドまで戻りたいよ」
僕の言葉を聞いて、猫は鼻で笑った。
こういう仕草はちょっと人間っぽいなと思った。使い魔と話すなんて初めてで、ちょっと新鮮だ。
「悪いがそれは断るぞ。オレにはオレのやることがある」
「けど、キミのご主人が探してるんだろ?」
「やることが終わるまで戻るつもりはない。主はどうせ手伝ってくれないからな」
何か事情があるんだろうか。今もどこに向かっているのかわからないけれど、何か目的があって移動しているみたいだった。
どうやら、この猫がずっと不機嫌そうなのは、僕に追い掛け回されたからってだけではないらしい。
けど、たしか魔術師と使い魔っていうのは常にリンクと呼ばれる繋がりを持っており、感覚を共有したりすることができるって聞いたことがある。それがあれば猫探しの依頼なんて必要ないと思うんだけど……、使い魔のほうから一方的に切ったりできるのだろうか。
実際に探されているということはそういうことなのだろう。込み入ったことを聞く気にもなれず、ひとまずそう思っておくことにした。
「仲間が人間に捕まってな。助けに行かなきゃならん」
僕の視線に気付いたのか、自分から説明してくれる。
言い終えるや、僕の背丈くらいある塀をひらりと乗り越えて向こう側に行ってしまった。慌てて見まわしたが、向こう側に行けそうな道は見当たらない。ちょっとみっともないけれど、塀をよじ登ってなんとか追いかける。
猫は塀の向こうで待っていた。僕が塀を乗り越えたのを見て、鼻を鳴らしてまた歩き出す。
「そんなわけだから、オレを連れて行くのは待て。手柄にしたいのなら後で合流してやる」
「さっきの、仲間が捕まってるって話だけど」
猫が足を止めてこちらを振り返る。僕も足を止めた。
「僕も手伝うよ」
猫は訝しげな視線をこちらに向け、品定めするみたいにあちこちをジロジロと見てくる。
なんだか居心地が悪かったけど、努めて平静に声を出す。
「手伝いがあったほうがいいだろ。僕も、ただ待ってるだけじゃ落ち着かないし」
飼い猫にしようと思ってこの子の友達を捕まえたとか、そんなところだろう。だとすれば人間である僕がいたほうが話はスムーズにいくかもしれない。
それに、この子が本当に後で合流してくれる保証もない。ここで別れるのはちょっと不安だった。自分でやっておいてなんだけど、あれだけ追い掛け回した後だし。
――しばらく間があった。沈黙が降り、微かな風の音と、遠くから鳥の唄が聞こえる。
「……いいだろう。オレを手伝わせてやる」
沈黙の後、猫は尊大な態度でそう言った。不思議と生意気だとは思わなかった。
「良かった。僕の名前はアシェルっていうんだ。キミは?」
握手はできないだろうけど、一応、身を屈めて手を差し出してみる。
猫は僕の指を嗅ぎ、こちらに合わせてくれたのだろう、指に肉球を重ねてきた。
指を嗅ぐ仕草は猫らしかった。
「フェリドール・ルーン・グリモワールだ。長いからフェルでいいぞ」
――略すのは許さないとか言われたら、どうしようかと思った。
物凄く真っ当なお叱りを受けている。猫に。
猫に追い付けなかったのは仕方がないと思う。今にして思えば追い付けると思うほうがどうかしてる。ただ、木箱に下敷きにされた挙句に説教を受けるとは、なんだか情けなくなってしまう。
とぼとぼと歩きながら、先導する猫の背中を見る。
見た目は普通の猫に見えるが、この子は魔術師の使い魔らしい。となると、猫探しの依頼を出したのもその魔術師なのだろう。飼い主——って言い方はしないのかな。
依頼書に書いておいてくれればいいのに……と、心の中で愚痴る。知っていれば最初から声をかければ済んだ話なのだ。
「それで?」
いつの間にか横に並んでいた猫が、不機嫌そうな目を向けてくる。相手は小さな猫なのに、逆らえる気が全くしないのが不思議だった。
「お前はこの後どうするんだ?」
「そりゃ、キミを探すよう依頼が出てるんだから。キミを連れて傭兵ギルドまで戻りたいよ」
僕の言葉を聞いて、猫は鼻で笑った。
こういう仕草はちょっと人間っぽいなと思った。使い魔と話すなんて初めてで、ちょっと新鮮だ。
「悪いがそれは断るぞ。オレにはオレのやることがある」
「けど、キミのご主人が探してるんだろ?」
「やることが終わるまで戻るつもりはない。主はどうせ手伝ってくれないからな」
何か事情があるんだろうか。今もどこに向かっているのかわからないけれど、何か目的があって移動しているみたいだった。
どうやら、この猫がずっと不機嫌そうなのは、僕に追い掛け回されたからってだけではないらしい。
けど、たしか魔術師と使い魔っていうのは常にリンクと呼ばれる繋がりを持っており、感覚を共有したりすることができるって聞いたことがある。それがあれば猫探しの依頼なんて必要ないと思うんだけど……、使い魔のほうから一方的に切ったりできるのだろうか。
実際に探されているということはそういうことなのだろう。込み入ったことを聞く気にもなれず、ひとまずそう思っておくことにした。
「仲間が人間に捕まってな。助けに行かなきゃならん」
僕の視線に気付いたのか、自分から説明してくれる。
言い終えるや、僕の背丈くらいある塀をひらりと乗り越えて向こう側に行ってしまった。慌てて見まわしたが、向こう側に行けそうな道は見当たらない。ちょっとみっともないけれど、塀をよじ登ってなんとか追いかける。
猫は塀の向こうで待っていた。僕が塀を乗り越えたのを見て、鼻を鳴らしてまた歩き出す。
「そんなわけだから、オレを連れて行くのは待て。手柄にしたいのなら後で合流してやる」
「さっきの、仲間が捕まってるって話だけど」
猫が足を止めてこちらを振り返る。僕も足を止めた。
「僕も手伝うよ」
猫は訝しげな視線をこちらに向け、品定めするみたいにあちこちをジロジロと見てくる。
なんだか居心地が悪かったけど、努めて平静に声を出す。
「手伝いがあったほうがいいだろ。僕も、ただ待ってるだけじゃ落ち着かないし」
飼い猫にしようと思ってこの子の友達を捕まえたとか、そんなところだろう。だとすれば人間である僕がいたほうが話はスムーズにいくかもしれない。
それに、この子が本当に後で合流してくれる保証もない。ここで別れるのはちょっと不安だった。自分でやっておいてなんだけど、あれだけ追い掛け回した後だし。
――しばらく間があった。沈黙が降り、微かな風の音と、遠くから鳥の唄が聞こえる。
「……いいだろう。オレを手伝わせてやる」
沈黙の後、猫は尊大な態度でそう言った。不思議と生意気だとは思わなかった。
「良かった。僕の名前はアシェルっていうんだ。キミは?」
握手はできないだろうけど、一応、身を屈めて手を差し出してみる。
猫は僕の指を嗅ぎ、こちらに合わせてくれたのだろう、指に肉球を重ねてきた。
指を嗅ぐ仕草は猫らしかった。
「フェリドール・ルーン・グリモワールだ。長いからフェルでいいぞ」
――略すのは許さないとか言われたら、どうしようかと思った。
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