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少年と猫
11話
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フェル目掛けて迫るナイフ、それに気付いた瞬間は自分は間に合わないと思った。
けれど、そう思った瞬間にはもう身体が動いていた。自分でも驚くほど自然に剣を振り下ろし、視線は縫い付けられたようにナイフを追う。
渾身の力で剣を叩きつけ、ナイフを持った腕ごと弾き飛ばした――。
* * *
目を開けると、木目の色がくすみ、ところどころひび割れた見覚えのある天井が目に入った。
馴染みのある木材の匂いが胸を落ち着かせる。ここは、いつも寝泊まりしている宿じゃない。幼少期を過ごした孤児院だ。
「なんでここに……」
目は開くけれど、身体は上手く動かない。無理やり起き上がる気力も湧かず、力を込めるのを諦めて脱力した。
あの後どうなったのか……僕が生きているということはフェルが決着をつけてくれたのだろうか。
動かせる範囲で視線を彷徨わせるが、部屋には誰もいないようだった。窓が半開きになっており、隙間から心地良い風が入ってくる。窓際に置かれた綺麗な花が風に揺れていた。
……花?
あんな花が飾られているのは初めて見た気がする。白い大きな花弁の、なんだか高そうな花だった。
「おや、目が覚めたのですね」
花について考えを巡らせていると、部屋の扉が開いて院長が入ってきた。
傭兵になって以来会っていなかった。最後に会った時には傭兵になることについてかなり反対されたけれど、院長の態度はいつも通り、穏やかで優しい笑みを浮かべていた。
「僕、なんでここにいるんですか?」
院長は微かに顔をほころばせると、僕がここに運び込まれた経緯を説明してくれる。
「あなたは意識不明のまま病院に運ばれました。ただ、病床に空きがなかったのでお医者様が私に連絡をくださったんですよ。ほら、いつも風邪をひいた時にお世話になっていたあの病院です」
反対を押し切って傭兵になり、何の実績もあげられないままこんな大怪我をして帰ってきてしまった。正直、叱られることも覚悟していたけれど院長は何も言わない。
ただ、僕の体調を気遣って、花瓶の水を入れ替えてくれる。
「その花はどうしたんですか?」
なんだか気まずくなってしまって話題を探した僕は、さっきの花について聞いてみることにした。
「ああ、この花は……」
言葉を溜めて、くすりと笑う。
「あなたに飼い猫を救ってもらった女の子からのお見舞いですよ。自分のお小遣いで買ってくださったそうです」
そう言いながら、本当に微笑ましそうに、愛おしそうに花びらを撫でる。
僕は花の目利きができるわけじゃないけれど、それでもなんとなく高そうだということくらいはわかる。それをお小遣いで……。
さすがは貴族のご令嬢。花をもらえた嬉しさよりも、感心のほうが先に立ってしまった。
「本当に立派になりましたね。アシェル」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
叱られるか、もしくは傭兵を辞めるよう諭されるんじゃないかと思っていた。
驚いて院長の顔を見上げる。
「あなたがここに運ばれるまでの経緯は、フェリドールさんから聞きました。誘拐された猫を助けるために協力して、悪漢たちを倒したとか」
一瞬誰のことかわからなかったけど、そういえばフェルの名前だったか。
ということはフェルも無事みたいだ。良かった。
「傭兵として受けた仕事をこなしたわけではないようですが、それでもこうして生きて帰ってきたのです。あなたによって救われた方がいるのですし、これは立派な行いですよ」
そう言って、院長は僕の頭をゆっくりと撫でる。
小さな頃にしてくれたように。
「よく頑張りましたね」
嬉しくて、照れ臭くて、僕は膝を抱えて顔を逸らした。眉間が熱くなり、堪えるために歯を強く噛み締める。
「子供扱いしないでください」
声が震えないようにするのが、やっとだった――。
けれど、そう思った瞬間にはもう身体が動いていた。自分でも驚くほど自然に剣を振り下ろし、視線は縫い付けられたようにナイフを追う。
渾身の力で剣を叩きつけ、ナイフを持った腕ごと弾き飛ばした――。
* * *
目を開けると、木目の色がくすみ、ところどころひび割れた見覚えのある天井が目に入った。
馴染みのある木材の匂いが胸を落ち着かせる。ここは、いつも寝泊まりしている宿じゃない。幼少期を過ごした孤児院だ。
「なんでここに……」
目は開くけれど、身体は上手く動かない。無理やり起き上がる気力も湧かず、力を込めるのを諦めて脱力した。
あの後どうなったのか……僕が生きているということはフェルが決着をつけてくれたのだろうか。
動かせる範囲で視線を彷徨わせるが、部屋には誰もいないようだった。窓が半開きになっており、隙間から心地良い風が入ってくる。窓際に置かれた綺麗な花が風に揺れていた。
……花?
あんな花が飾られているのは初めて見た気がする。白い大きな花弁の、なんだか高そうな花だった。
「おや、目が覚めたのですね」
花について考えを巡らせていると、部屋の扉が開いて院長が入ってきた。
傭兵になって以来会っていなかった。最後に会った時には傭兵になることについてかなり反対されたけれど、院長の態度はいつも通り、穏やかで優しい笑みを浮かべていた。
「僕、なんでここにいるんですか?」
院長は微かに顔をほころばせると、僕がここに運び込まれた経緯を説明してくれる。
「あなたは意識不明のまま病院に運ばれました。ただ、病床に空きがなかったのでお医者様が私に連絡をくださったんですよ。ほら、いつも風邪をひいた時にお世話になっていたあの病院です」
反対を押し切って傭兵になり、何の実績もあげられないままこんな大怪我をして帰ってきてしまった。正直、叱られることも覚悟していたけれど院長は何も言わない。
ただ、僕の体調を気遣って、花瓶の水を入れ替えてくれる。
「その花はどうしたんですか?」
なんだか気まずくなってしまって話題を探した僕は、さっきの花について聞いてみることにした。
「ああ、この花は……」
言葉を溜めて、くすりと笑う。
「あなたに飼い猫を救ってもらった女の子からのお見舞いですよ。自分のお小遣いで買ってくださったそうです」
そう言いながら、本当に微笑ましそうに、愛おしそうに花びらを撫でる。
僕は花の目利きができるわけじゃないけれど、それでもなんとなく高そうだということくらいはわかる。それをお小遣いで……。
さすがは貴族のご令嬢。花をもらえた嬉しさよりも、感心のほうが先に立ってしまった。
「本当に立派になりましたね。アシェル」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
叱られるか、もしくは傭兵を辞めるよう諭されるんじゃないかと思っていた。
驚いて院長の顔を見上げる。
「あなたがここに運ばれるまでの経緯は、フェリドールさんから聞きました。誘拐された猫を助けるために協力して、悪漢たちを倒したとか」
一瞬誰のことかわからなかったけど、そういえばフェルの名前だったか。
ということはフェルも無事みたいだ。良かった。
「傭兵として受けた仕事をこなしたわけではないようですが、それでもこうして生きて帰ってきたのです。あなたによって救われた方がいるのですし、これは立派な行いですよ」
そう言って、院長は僕の頭をゆっくりと撫でる。
小さな頃にしてくれたように。
「よく頑張りましたね」
嬉しくて、照れ臭くて、僕は膝を抱えて顔を逸らした。眉間が熱くなり、堪えるために歯を強く噛み締める。
「子供扱いしないでください」
声が震えないようにするのが、やっとだった――。
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