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3-9 :殺し、救い、嘆いて、覚悟して業を背負い進め
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「えっと……これとこれを……こうか?」
「そうですぞ。中田氏は中々に筋が良いですな」
「あはは……また会えた」
「あん?」
「おや? 何ですかなこの声は?」
中田文兵が鉄田大樹に銃パイプなる物の作り方を学んでいるときにそれは現れた。茶髪で長髪。赤い目をしている。昨日中田文兵が頭部を踏みつぶした少女が。
「私の事覚えてる? 私はねお前の事忘れもしなかったんだよ。ずっとずっと心にお前を刻んでたの。死ね。殺してやるってずっとね」
「鉄田。オメェはちょっと下がってろ。こいつ、昨日俺が殺したガキの1人だ」
「ウイウイ。了解しましたぞ」
「あの後、お父様も殺したんでしょ。私と一緒に育った兄弟姉妹たちも。……私の家族みんなお前のせいで居なくなっちゃった。帰る場所もお前に取られちゃった。
私にはもう、お前を殺す事しか何もないんだよ。お前のせいで、お前のせいで!」
空間におもちゃのような槍が生成され。形作られたその瞬間に中田文兵に向けて発射される。中田文兵は後ろに鉄田大樹がいる事を確認してから、その槍を胴体で受け止め。逃がさないように手でつかんで抑え込むがすると手の中で霧のように消えた。
「爪楊枝みてぇな大きさから玩具みてぇな大きさになってんのか。成長する異能力。そう言うのもあるか? まぁ何はともあれ」
中田文兵は次の瞬間、その座標から消失。少女が殺意ある目で「何所に!?」と口にして探して居ると後ろから地面に向けて押し倒され、煩いと耳障りなので口をふさがれた。
「確保だ。鉄田。拘束できるものをくれ。それと俺が対処できるだろうが他の奴を狙わないために目を隠せる奴」
「ここはレジスタンスの物置ですからな。そんなものは少し探せばほらこの通り。
槍を空間で作成、触らずして操作している様子から俺は触らない方が良い感じでありますな?」
「おう、俺がやっておく。そんでもって楽善か博人を探してこいつをどうするか聞いて来るわ」
「了解しましたぞ。それでは俺の授業はいったん中止と言う事で」
「わるいな」
「いえいえ」
「おーい。楽善、博人ーどっちかいねぇかぁ?」
中田文兵が簀巻きにしてジタバタと蠢く人型のそれを肩に担いで、拠点内を天月博人、または楽善二治を探して回っていた。
「天月さんなら、先ほどあちらで子供と戯れていましたよ」
「そうなのか。ありがとうよ。お礼に俺が担いでるもんを見せてやろうか?」
「いやな予感がするので結構です」
「そうか。そんならあばよ」
レジスタンスの仲間の情報をもとに、中田文兵は天月博人を発見する。天月博人は子供たちの喧嘩ごっこという名の、天月博人をやられ役とするレスリングと化していて、割と容赦のない攻撃を受けていた」
「うわー。やられたがやー」
「いえーい! 俺たちのかちー! リーダーはよえーな!」
「ははは、いやぁまいったまいった。君たちが強いんだでな。おかげでジブンは負け越しとるがん」
「そうかな、へへへ」
「次! 次は私たちとおままごとしよリーダー!」
「いーや、次はポコペンやろうぜ!」
「慌てない慌てない。さっきみたいに誰が何やりたい口にだして、じゃんけんで勝った人の遊びをやろまい。……っとナカタニさん? 何だあれ……みんな、先にやっといて」
「「「はーい」」」
天月博人は手招きする中田文兵が目に入ったので、段取りを子供たちに任せて中田文兵に近づいた。
「何ですか? と言うかなにを担いでいるんですか?」
「これの件でちょっと耳に入れたいことがあってな。ここじゃあ子供達が見てんだし移動するが。いいか?」
天月博人はチラリと子供たちを見てジャンケンのあいこ合戦をしているのを確認する。
「手短にお願いします」
「おしきた」
中田文兵が天月博人の肩に触れたその瞬間、視界に映る大きな巣穴の様な光景が、茂る大自然へと一転する。拠点の外へと瞬間移動したのだ。
天月博人が移動したことを認識すると。中田文兵が肩に乗せている簀巻きにされた人形を地面へと放り投げた。
これでもかとじたばた撓るそれの造形は、かすかなふくらみ、曲線から天月博人よりも2、3歳ほど上の少女を思わせる。
「そんじゃあ、簡潔に現状を伝えるとな。俺が昨日の育成施設で殺したガキの1人が、俺の目の前で浮かび上がるように生き返った」
天月博人はその言葉に何ら驚きは少なかった。ジブンだって甦る異能を持っているのだから、ほかの誰かが、類似した異能力を持っていてもおかしくはない。
問題はそれが敵対者であり。甦った場所が中田文兵の目の前、つまりは拠点の中ということである。
「うーん。能力に情報がなさすぎますね。ジブンの甦る異能に類似したものだと思いますけど」
「一回処理して、様子を見るか?」
「そのほうがいいかも知れません……一応、出現してレジスタンスの仲間たちに紛れ込んでも探し出せるように素顔を写真で取っておきましょう」
天月博人は簀巻きにされたそれの顔に、巻かれた布をはがそうとすると。中田文兵がそれを止めた。
「危ねぇぞ。そいつ槍を宙に作って飛ばしてくるからな。当初は爪楊枝見てぇな大きさだったのが玩具見てぇな大きさに成長してるときた。俺は微塵も痛かねぇえどよ。普通なら突き刺さりそうなんでな。一応言っておく」
「そうなのか……じゃあ代わりに布をはがしてください」
「あいよ」
中田文兵がそれの顔に巻き付かれた布を剥がそうと手を掛ける。すると空間に小さな槍が1本出現して中田文兵に向けて発射される。
それは躱される事無く、布を剥がそうとする手の甲にぶち当たるが刺さる気配はない。中田文兵はそれを心底邪魔そうな顔をしながら布を剥がした。少女はずっと呼吸がしづらかったのだろう。布を剥がし、口に詰められた布を取ると、空気を求めるように「ぷはぁ」と雑に深く息を吸った。
状況を確認しようと動かしたであろう目が、中田文兵に向くとすぐに目はほかに向くのを止めて震えた。
「ナカタブンペイ! 殺す! お前は殺す!」
「あちゃー。道行く人に名前呼ばれたからか。フルネームで覚えられてんな。別に構いはしねぇが。どうだ博人?」
『オーケー! 写真も撮ったからばっちりなんだよ!』
「それでは、処理をお願いします」
「私を無視するな!」
「槍がチクチクうっぜぇな。今、強烈にかまってやるから堪能しやがれ」
中田文兵は天月博人の「処理をお願いします」と言う言葉からすぐに立ち上がり少女の頭に足をのせ浮かべる。
「ひっ。や、やめて……」
「わりぃが。俺もオメェらロロ=イアをぶっ殺す以外になんもねぇんだ。両想いって奴だな。そんなわけでだ大人しく殺されてけ」
そして少し前のめりに、全体重を乗せて少女の頭部を踏みつぶした。血が飛び散る。それが服について中田文兵が「しまった。血が落ちないってまた選択登板に愚痴言われるよ」と言って飛び散るような殺し方に後悔していると服に着いた血も肉片も。少女だったものも霧のようにし消滅していった。
「容赦ないですねナカタニさん。それで、一度処理したら消滅したわけですが。これでどうなるのかしばらく置いておきましょう。このことは一応、楽善さんに伝えておきます」
「おう助かる」
天月博人のものとは根本的に何かが違って居そうな甦る異能、空間に槍の生産及び発射する異能。異能を少女は既に2つ持っている。1つは自身のもつべき力として覚醒したものだと、天月口成から得た知識を参考にするなら確定として。もう1つもまたそうなのか、それとも外部からのものなのかはわからない。だが知らないより知って居た方がこっちの対応力は大きく変わるのは確かだろうと信じて。天月博人は中田文兵の力で拠点へと帰った。
「桑原兄さん! ショウ君が焼き鳥には塩って言ってるの! タレの方が美味しいって言ってやってよ!」
「いいや、リョウちゃんは間違ってる! 塩が一番美味いんだよ! なぁそうだろ? 桑原兄さん!」
「え、えっと……僕はどっちも美味しいと思いますよ?」
「「どっちが美味しいか聞いてるの!」」
「え、えぇ……えっとですね」
「僕はマヨネーズ」
「「キョウちゃんのは日本人じゃない!」」
「ま、まぁ2人とも喧嘩してないで、僕の手品を見て楽しんでいきませんか?」
「見たい」
「キョウちゃんは黙ってようねー。私も桑原兄さんの手品は好きだけどー」
「話題、変えないでくれよ」
天月博人が第一拠点内を時間つぶしに歩き回っていると子供たちの3人が、桑原真司に絡んで困惑されていると。それを少し離れた位置で眺めている鉄田大樹を発見した。
「まだ監視してるのですか?」
「おっと天月氏でしたか。えぇ、はい。ですがもう杞憂である気がしましたぞ」
天月博人は鉄田大樹の隣に座って「どうしてそう思うのですか?」と尋ねた。
「そりゃあもう。天月氏も桑原氏を見れば納得すると思いますぞ……情報を入手するのなら言ってしまうのはなんですが楽善氏、屋宮氏、そして天月氏のように甘い人に近づけばいい。人質が欲しいなら今のように幾らでも機会はあったはずで、時が経つにつれてレジスタンスは成長しておりますので長い間の機を伺うのは悪手だと思うのですぞ。それに」
鉄田大樹は微笑ましそうに子供たちに絡まれている桑原真司を見詰める。
「彼は、ああやって選択を迫られたら優柔不断でどっち付かず。人に指示されて居なければ1人、のんびり手遊びをする様に手品の練習して、それを見にきた子供達と戯れるのが日々の常。それでいて困ってる、泣いている人がいれば楽善氏に勝るとも劣らない速さで駆けつける様なお人好し。これが目に見える彼の人柄ですな。
これが演技と言う可能性はあり、明確な理由はないままですがね。俺は、彼が善い人だと思います。泣きそうな人の涙を拭うあの表情を、俺は知っていますから」
天月博人が納得いかないと思って居そうな表情をしていると、鉄田大樹は「はは、そりゃあ納得いきませんでしょうな」と言った。
「そうですな……このレジスタンスで俺の役目は教えることですものな……いや、これは闘いたくない俺が勝手に決めた物なんだけどね…………博人君、時間はあるかな? 少し自分が足りしようか」
鉄田大樹から感じていた雰囲気が変わる。天月博人はその空気に茶化してはいけないと感じ、息を飲んで頷いた。
「俺はね、桑原さんが困って居る人を助けたときの表情を別の人から見た事有るんだ。あれは俺が当時、小学生だった頃か……少なくともヒーローに憧れていた頃なのは覚えてる。
場所はとあるスーパーマーケット、親が買い物をしている間、ゲームフロアで遊んで待っていた時に地震が起きたんだ。それが酷い地震で大惨事になってね。俺は物の見事に巻き込まれた。本当に物の見事にだ。気が付いた時には奇跡的にできた瓦礫の隙間に俺は居たんだ。
お腹も減って、助けを求めて叫び続けたから喉も痛くて、動けなくて、暗くて、1人ボッチでさ……寂しくて、死ぬのかなって思って、怖くて泣いて……何時間経ったか、もしかしたら日を跨いだ頃にその人は俺を助けてくれたんだ。
桑原さんは、その時に俺を助けてもう大丈夫だぞって言ってくれた名も知らないあの人と同じ表情なんだ。俺のヒーローと同じ、正義の味方がする表情なんだよ」
語りを聞いて、天月博人は桑原真司を全盛の人として疑うのを止めようと考えるのも納得できたところで、黄昏るように呟く。
「俺もあんな表情をしたかったなぁ」
「あんな表情を……ですか? 鉄田さんならできると思いますよ?」
「いや……俺には無理なんだ。俺は、あの表情をするには臆病すぎる。ヒーローと言うには自分も賭けることさえできないくらい、精神が弱すぎるんだよ。君たちの様に強くはない、その行いを勇気が必要が無いくらいに手伝う事しかできないんだよ……話が脱線しましたな」
悲しそうにそう言って、天月博人の頭を撫でる鉄田大樹の笑みは、まるで己自信を嘲笑しているようであった。
「そうですぞ。中田氏は中々に筋が良いですな」
「あはは……また会えた」
「あん?」
「おや? 何ですかなこの声は?」
中田文兵が鉄田大樹に銃パイプなる物の作り方を学んでいるときにそれは現れた。茶髪で長髪。赤い目をしている。昨日中田文兵が頭部を踏みつぶした少女が。
「私の事覚えてる? 私はねお前の事忘れもしなかったんだよ。ずっとずっと心にお前を刻んでたの。死ね。殺してやるってずっとね」
「鉄田。オメェはちょっと下がってろ。こいつ、昨日俺が殺したガキの1人だ」
「ウイウイ。了解しましたぞ」
「あの後、お父様も殺したんでしょ。私と一緒に育った兄弟姉妹たちも。……私の家族みんなお前のせいで居なくなっちゃった。帰る場所もお前に取られちゃった。
私にはもう、お前を殺す事しか何もないんだよ。お前のせいで、お前のせいで!」
空間におもちゃのような槍が生成され。形作られたその瞬間に中田文兵に向けて発射される。中田文兵は後ろに鉄田大樹がいる事を確認してから、その槍を胴体で受け止め。逃がさないように手でつかんで抑え込むがすると手の中で霧のように消えた。
「爪楊枝みてぇな大きさから玩具みてぇな大きさになってんのか。成長する異能力。そう言うのもあるか? まぁ何はともあれ」
中田文兵は次の瞬間、その座標から消失。少女が殺意ある目で「何所に!?」と口にして探して居ると後ろから地面に向けて押し倒され、煩いと耳障りなので口をふさがれた。
「確保だ。鉄田。拘束できるものをくれ。それと俺が対処できるだろうが他の奴を狙わないために目を隠せる奴」
「ここはレジスタンスの物置ですからな。そんなものは少し探せばほらこの通り。
槍を空間で作成、触らずして操作している様子から俺は触らない方が良い感じでありますな?」
「おう、俺がやっておく。そんでもって楽善か博人を探してこいつをどうするか聞いて来るわ」
「了解しましたぞ。それでは俺の授業はいったん中止と言う事で」
「わるいな」
「いえいえ」
「おーい。楽善、博人ーどっちかいねぇかぁ?」
中田文兵が簀巻きにしてジタバタと蠢く人型のそれを肩に担いで、拠点内を天月博人、または楽善二治を探して回っていた。
「天月さんなら、先ほどあちらで子供と戯れていましたよ」
「そうなのか。ありがとうよ。お礼に俺が担いでるもんを見せてやろうか?」
「いやな予感がするので結構です」
「そうか。そんならあばよ」
レジスタンスの仲間の情報をもとに、中田文兵は天月博人を発見する。天月博人は子供たちの喧嘩ごっこという名の、天月博人をやられ役とするレスリングと化していて、割と容赦のない攻撃を受けていた」
「うわー。やられたがやー」
「いえーい! 俺たちのかちー! リーダーはよえーな!」
「ははは、いやぁまいったまいった。君たちが強いんだでな。おかげでジブンは負け越しとるがん」
「そうかな、へへへ」
「次! 次は私たちとおままごとしよリーダー!」
「いーや、次はポコペンやろうぜ!」
「慌てない慌てない。さっきみたいに誰が何やりたい口にだして、じゃんけんで勝った人の遊びをやろまい。……っとナカタニさん? 何だあれ……みんな、先にやっといて」
「「「はーい」」」
天月博人は手招きする中田文兵が目に入ったので、段取りを子供たちに任せて中田文兵に近づいた。
「何ですか? と言うかなにを担いでいるんですか?」
「これの件でちょっと耳に入れたいことがあってな。ここじゃあ子供達が見てんだし移動するが。いいか?」
天月博人はチラリと子供たちを見てジャンケンのあいこ合戦をしているのを確認する。
「手短にお願いします」
「おしきた」
中田文兵が天月博人の肩に触れたその瞬間、視界に映る大きな巣穴の様な光景が、茂る大自然へと一転する。拠点の外へと瞬間移動したのだ。
天月博人が移動したことを認識すると。中田文兵が肩に乗せている簀巻きにされた人形を地面へと放り投げた。
これでもかとじたばた撓るそれの造形は、かすかなふくらみ、曲線から天月博人よりも2、3歳ほど上の少女を思わせる。
「そんじゃあ、簡潔に現状を伝えるとな。俺が昨日の育成施設で殺したガキの1人が、俺の目の前で浮かび上がるように生き返った」
天月博人はその言葉に何ら驚きは少なかった。ジブンだって甦る異能を持っているのだから、ほかの誰かが、類似した異能力を持っていてもおかしくはない。
問題はそれが敵対者であり。甦った場所が中田文兵の目の前、つまりは拠点の中ということである。
「うーん。能力に情報がなさすぎますね。ジブンの甦る異能に類似したものだと思いますけど」
「一回処理して、様子を見るか?」
「そのほうがいいかも知れません……一応、出現してレジスタンスの仲間たちに紛れ込んでも探し出せるように素顔を写真で取っておきましょう」
天月博人は簀巻きにされたそれの顔に、巻かれた布をはがそうとすると。中田文兵がそれを止めた。
「危ねぇぞ。そいつ槍を宙に作って飛ばしてくるからな。当初は爪楊枝見てぇな大きさだったのが玩具見てぇな大きさに成長してるときた。俺は微塵も痛かねぇえどよ。普通なら突き刺さりそうなんでな。一応言っておく」
「そうなのか……じゃあ代わりに布をはがしてください」
「あいよ」
中田文兵がそれの顔に巻き付かれた布を剥がそうと手を掛ける。すると空間に小さな槍が1本出現して中田文兵に向けて発射される。
それは躱される事無く、布を剥がそうとする手の甲にぶち当たるが刺さる気配はない。中田文兵はそれを心底邪魔そうな顔をしながら布を剥がした。少女はずっと呼吸がしづらかったのだろう。布を剥がし、口に詰められた布を取ると、空気を求めるように「ぷはぁ」と雑に深く息を吸った。
状況を確認しようと動かしたであろう目が、中田文兵に向くとすぐに目はほかに向くのを止めて震えた。
「ナカタブンペイ! 殺す! お前は殺す!」
「あちゃー。道行く人に名前呼ばれたからか。フルネームで覚えられてんな。別に構いはしねぇが。どうだ博人?」
『オーケー! 写真も撮ったからばっちりなんだよ!』
「それでは、処理をお願いします」
「私を無視するな!」
「槍がチクチクうっぜぇな。今、強烈にかまってやるから堪能しやがれ」
中田文兵は天月博人の「処理をお願いします」と言う言葉からすぐに立ち上がり少女の頭に足をのせ浮かべる。
「ひっ。や、やめて……」
「わりぃが。俺もオメェらロロ=イアをぶっ殺す以外になんもねぇんだ。両想いって奴だな。そんなわけでだ大人しく殺されてけ」
そして少し前のめりに、全体重を乗せて少女の頭部を踏みつぶした。血が飛び散る。それが服について中田文兵が「しまった。血が落ちないってまた選択登板に愚痴言われるよ」と言って飛び散るような殺し方に後悔していると服に着いた血も肉片も。少女だったものも霧のようにし消滅していった。
「容赦ないですねナカタニさん。それで、一度処理したら消滅したわけですが。これでどうなるのかしばらく置いておきましょう。このことは一応、楽善さんに伝えておきます」
「おう助かる」
天月博人のものとは根本的に何かが違って居そうな甦る異能、空間に槍の生産及び発射する異能。異能を少女は既に2つ持っている。1つは自身のもつべき力として覚醒したものだと、天月口成から得た知識を参考にするなら確定として。もう1つもまたそうなのか、それとも外部からのものなのかはわからない。だが知らないより知って居た方がこっちの対応力は大きく変わるのは確かだろうと信じて。天月博人は中田文兵の力で拠点へと帰った。
「桑原兄さん! ショウ君が焼き鳥には塩って言ってるの! タレの方が美味しいって言ってやってよ!」
「いいや、リョウちゃんは間違ってる! 塩が一番美味いんだよ! なぁそうだろ? 桑原兄さん!」
「え、えっと……僕はどっちも美味しいと思いますよ?」
「「どっちが美味しいか聞いてるの!」」
「え、えぇ……えっとですね」
「僕はマヨネーズ」
「「キョウちゃんのは日本人じゃない!」」
「ま、まぁ2人とも喧嘩してないで、僕の手品を見て楽しんでいきませんか?」
「見たい」
「キョウちゃんは黙ってようねー。私も桑原兄さんの手品は好きだけどー」
「話題、変えないでくれよ」
天月博人が第一拠点内を時間つぶしに歩き回っていると子供たちの3人が、桑原真司に絡んで困惑されていると。それを少し離れた位置で眺めている鉄田大樹を発見した。
「まだ監視してるのですか?」
「おっと天月氏でしたか。えぇ、はい。ですがもう杞憂である気がしましたぞ」
天月博人は鉄田大樹の隣に座って「どうしてそう思うのですか?」と尋ねた。
「そりゃあもう。天月氏も桑原氏を見れば納得すると思いますぞ……情報を入手するのなら言ってしまうのはなんですが楽善氏、屋宮氏、そして天月氏のように甘い人に近づけばいい。人質が欲しいなら今のように幾らでも機会はあったはずで、時が経つにつれてレジスタンスは成長しておりますので長い間の機を伺うのは悪手だと思うのですぞ。それに」
鉄田大樹は微笑ましそうに子供たちに絡まれている桑原真司を見詰める。
「彼は、ああやって選択を迫られたら優柔不断でどっち付かず。人に指示されて居なければ1人、のんびり手遊びをする様に手品の練習して、それを見にきた子供達と戯れるのが日々の常。それでいて困ってる、泣いている人がいれば楽善氏に勝るとも劣らない速さで駆けつける様なお人好し。これが目に見える彼の人柄ですな。
これが演技と言う可能性はあり、明確な理由はないままですがね。俺は、彼が善い人だと思います。泣きそうな人の涙を拭うあの表情を、俺は知っていますから」
天月博人が納得いかないと思って居そうな表情をしていると、鉄田大樹は「はは、そりゃあ納得いきませんでしょうな」と言った。
「そうですな……このレジスタンスで俺の役目は教えることですものな……いや、これは闘いたくない俺が勝手に決めた物なんだけどね…………博人君、時間はあるかな? 少し自分が足りしようか」
鉄田大樹から感じていた雰囲気が変わる。天月博人はその空気に茶化してはいけないと感じ、息を飲んで頷いた。
「俺はね、桑原さんが困って居る人を助けたときの表情を別の人から見た事有るんだ。あれは俺が当時、小学生だった頃か……少なくともヒーローに憧れていた頃なのは覚えてる。
場所はとあるスーパーマーケット、親が買い物をしている間、ゲームフロアで遊んで待っていた時に地震が起きたんだ。それが酷い地震で大惨事になってね。俺は物の見事に巻き込まれた。本当に物の見事にだ。気が付いた時には奇跡的にできた瓦礫の隙間に俺は居たんだ。
お腹も減って、助けを求めて叫び続けたから喉も痛くて、動けなくて、暗くて、1人ボッチでさ……寂しくて、死ぬのかなって思って、怖くて泣いて……何時間経ったか、もしかしたら日を跨いだ頃にその人は俺を助けてくれたんだ。
桑原さんは、その時に俺を助けてもう大丈夫だぞって言ってくれた名も知らないあの人と同じ表情なんだ。俺のヒーローと同じ、正義の味方がする表情なんだよ」
語りを聞いて、天月博人は桑原真司を全盛の人として疑うのを止めようと考えるのも納得できたところで、黄昏るように呟く。
「俺もあんな表情をしたかったなぁ」
「あんな表情を……ですか? 鉄田さんならできると思いますよ?」
「いや……俺には無理なんだ。俺は、あの表情をするには臆病すぎる。ヒーローと言うには自分も賭けることさえできないくらい、精神が弱すぎるんだよ。君たちの様に強くはない、その行いを勇気が必要が無いくらいに手伝う事しかできないんだよ……話が脱線しましたな」
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