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3-10 :殺し、救い、嘆いて、覚悟して業を背負い進め
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今日も今日とて襲撃、部隊の編制は相も変わらず天月博人と中田文兵の2人。狙う施設の種類を変えて見ようという一端の動きの目標は変わらず。今回襲撃する施設は、現在レジスタンスが把握して居る3種類の最後の1つ。生産施設である。
『何某の研究、何某の生産、何某の向上。その生産部分に手を出すわけだね』
「戦利品なんてのは技術が奪えれば、有効活用する。どうしようもなければバラして持ってる技術で別のものに作り替える、どうあれこっちは力がついて、向こうは気には止めねぇくらいでも確かに力が削げる。もはやいつも通りの奴だ。さて、アレだな。着いたぞ」
「では、襲撃開始です」
この施設は扉が厳重に閉ざされていた。だがどれだけ扉が強固であろうと、中田文兵がそれの存在意義を無為にする。
玄関から出現すると靴も履いていない素足の青年が1人、門番をするように椅子に座っていた
「唐突に出現した知らない顔…………来たか、来たか……此度はここなのか、そうか……お前らか、お父様の、俺の、俺たちの敵は」
『やっぱり何かしらの通信手段はありそうなんだよ』
「そこら辺は追々探してみようぜ。それじゃあ、俺はいつも通り上から侵攻するぞ」
「はい、わかりました」
天月博人と中田文兵はこれを無視して端的な会話をする。会話が終われば中田文兵の姿はこの場から消失した。
「さて、アキレス腱を切って情報を差し出すか、命を差し出すかして欲しいんだけど」
『ヒロ、伏せて!』
装着したゴーグル型携帯端末から聞こえるニコの言葉のままに天月博人が「やっぱり無理か!」と言いながら伏せると、頭上を橙色の棘が振るわれるように通過した。
目をやると、間合いを詰めていた青年、その拳の第三関節から突き出た棘のような形状が見えた。
(異能力者か、でも通常速度なら)
特異な肉体の変異から天月博人は、今目の前にいる青年は異能力者だと断定し、2倍弱ほど加速する。
メスのような刃物をポケットに入れた入れ物から取り出し、頭上で拳を振るって次の行動に移ろうとしている青年の首を流れるように切り裂いた。
(父上より授かった加速の異能で容易に対応できる)
青年は出血する首を手で押さえて、暫く悶えた後に動かなくなる。早々に異能力者を1人倒し。よし侵攻するかと移動しようとすると『熱源消失、早すぎる! ヒロ! さっきの人を見るんだよ!』と告げる。天月博人は指示通り、倒したはずの青年の遺体に目をやると。青年の遺体は消失していた。
「嫌な予感」
『後ろ!』
「死んでしまえ」
先ほどの流れ、回避してそのまま急所を切り裂く。を繰り返して対処する。この時、天月博人は1度首を切り裂いたはずの刃物に血が付着していないことを確認した。
悶絶し死に絶える青年がどうなるか観察、すると霧が晴れるように消滅していった。
『熱源消失……なんか見たことあるんだよ。具体的には昨日のナカタニさん案件』
「すごい既視感だなぁ」
『熱源出現、右の死角に居るんだよ!』
左へと飛んで、天月博人は右を確認する。そこには戦闘態勢の青年がさも当然のように居た。
手ごたえはあった。青年が傷つき苦しみ生き絶えたのも見た。確かに倒したはずだ。それでも青年はそこにいるのだ。
(何度倒しても湧いてくるのは至極面倒だ。ならば)
今度は天月博人が攻撃を仕掛ける。青年と接触する寸前に姿勢を極度に下げて青年の又を通り抜け、振り返り際にアキレス腱を切り裂いた。
(倒しても湧くなら、動けなくしてしまえばいい。…………これ、ジブンにも適応されるな)
天月博人はこれで青年がまともに動けなくなったと考えたが、青年は苦しみながらも霧が晴れるようにして消滅し、そして再度、青年を形成した。
「無駄だ……俺は。決してお前に負ける事はない」
『ニコ、このままじゃあ体力の無駄なんだよ。対応を変えたほうがいいと思うな』
「だな」
天月博人はキリが無いとみて、青年を一旦無視することにした。
「邪魔くせぇなぁ……」
中田文兵は天月博人が相対している青年と同じような能力を持つロロ=イアの子供、複数人と遭遇し、殺しても現在意味がないと判断、ロロ=イアの子供達が攻撃しても対して効果が皆無と理解して組みつき拘束しようとしてくる中を無視するように振り切って、ロロ=イア人員を見つけては「やめろ!」「やめて」「殺さないで」という言葉に囲まれる中で、その命を蹂躙する。
ロロ=イアの子供達がどう足掻こうと中田文兵は止まらない。何をやっても意味をなさず。着実にロロ=イアに属する命を潰していくその様は、必死に守ろうとするロロ=イアの子供達にとっては悪夢でしかなく、酷い無力感を与えている事だろう。
「だぁ! マジで鬱陶しぃな! なんとかなんねぇのかコイツら」
当の中田文兵は苛立っていた。瞬間移動で引きはがすが数分後には探し回っているその1人に見つかり。一々拘束しにかかってくるため行動に制限が入る。また、彼らから敵が来たのだと伝えられているのかロロ=イア人員は逃げ、隠れ手間がかかっているためである。
「逃げても隠れても糞みてぇな勇気を振り絞って抵抗しても意味がねぇんだよ! 諦めて無様に死に晒せや!」
「ふん、鬼畜生はどこまでも鬼畜生ね」
ただでさえ、苛立っている中田文兵を逆なでする様な少女の声が近づく。中田文兵は声が聞こえた途端、面倒臭さから逃げる様に瞬間移動した。
「よし、撒いたな」
少女の声が聞こえず。見渡しても居ない事に安堵して残滅作業に戻ろうとすると廊下をドタバタと走り抜け、勢いよく扉が開かれる。
「ちょっと!? ナカタブンヘイ! 私を無視して逃げないでよ!」
扉を開いたのは先程湧いた少女であった。中田文兵はそれを確認すると心の底から面倒臭そうな顔をした。
「ゲェ……見つけるの早くねぇ……?」
「人の顔を見るなり、ゲェですか、そうですか。でも残念だったね。私にはお前がどこに行こうとわかるんだよ! フン!」
玩具のような槍が空間に1振り出現しては中田文兵に発射されるが、命中することもなく掴まれてへし折られる。
少女はへし折られ「あっ」っと言葉を漏らすが、次の瞬間には組み伏せられ、首もへし折られ、消滅するのだった。
「はぁー……変な呪い食らっちまったみてぇだなぁ」
「見つけたぞ! 侵入者!」
「湧いてくる間がある分、直ぐに湧くコイツらよりはマシか?」
中田文兵は自分に言い聞かせるように呟いて、少女によって開けっ放しにされた扉から入ってきたロロ=イアの子供の頭部にヤケクソ気味な蹴りをかまして瞬間移動した。
『ヒロ! 来たんだよ!』
「わかってる!」
天月博人は逃げ回りながら通り魔が如く、目に入ったロロ=イア人員を切り裂いていく。
だが、中田文兵とは打って変わって余裕はなかった。まず第1要因として倒しても即時復活して追いかけてくる追跡者が進むにつれて増える事。第2の要因として、天月口成から与えられた加速の異能が使用すれば少なからず体に負荷が掛かるためである。
着実に磨耗する体力、増えた分だけ挟み撃ちを狙ったりする追跡者達。
「だぁああ! これならニコと髪留めを置いて行くんだった!」
『ヒロ! それは酷いんだよ!』
「ジブンとしてはニコと髪留めは絶対に奪われたくないんだよ!」
『んぬぅ…………ぬぬぬ! じゃあニコは置いて行かれない様にもっともーと頑張るんだよ!』
「無理しなくてもいいんだぞ?」
『ヒロにはその言葉を言われたくないんだよ!? いいから見てて! そして襲撃が終わったらしばらく起動しないで! 必死に充電しなきゃだから。それじゃあ…… 現在状況を確認、データベースから必要データの抽出………………【動作解析】をベースとします。データーベース、ファイル名【異常】から異能力に関する情報を導入……アップデートします………………完成しました。呼称……【アナライザー】…………うへぇ……ふぅ、できた! 【アナライザー】を起動するんだよ! 情報の獲得に必要だから少し戦ってくれると嬉しいんだよ』
「体力がだいぶ辛いんだが…………わかった。やってみよう」
天月博人は踵を返し、灰の中の空気を全部吐いてから深く息を吸い、素手で構える。
『えっ素手で?!』
「本命の次に得意なのは素手なんだよ。つまり……通り魔戦法で致命傷を負わせるのならともかく、こと戦闘においてはこっちのほうが楽だ」
「観念した…………訳ではなさそうだ…………皆、気を付けろ。何か仕掛けてくる」
相手は勿論、天月博人の行動に警戒。だが天月博人はそんなものを意にも介さず敵のその1人、その懐へと入り込む。体に思い出させるかのように教えられた言葉を思い出す。『頭部、首、心臓、男性なら股間、女性なら下腹部。
人間の一般的に知られている急所と言うとこれ位ッスね。博人君、狙うべきは何所だと思うッスか? ……正解ッス。頭部は近代武器でもない限り硬く死に至りにくいッス。性による身体的急所はショック死を狙えるッスけど確実性はないッスね。
戦いに賭けの要素は少ない方が良いッス。であるならば____』それは、誰もが知っている確実な急所、野生動物だって知っているその急所、首の気管をつかみ。握りつぶしながら押し倒す。これだけで現状どうやっても死に至る。
「なっ!? 此奴……」
1人が天月博人に燃え盛る腕でつかみかかるが、超低姿勢と言える現状の天月博人に届くには時間がかかりすぎ。天月博人はバランスを保ちがたいその1人を足払いし、飛び掛かる。
バランスが完全に崩壊し、馬乗りになったその状態。灼熱の腕を警戒して両足で地面に押し付け。力負けする前に片腕で喉を守ろうとする顎を無理やりあげさせて、もう片手で喉を殴りつける。
「何だ此奴……まるで獣だ……」
「ふん……だが、時間の問題だ。体力はいつか尽きる……だが……弟たちよ此奴を囲む様に廊下の四隅を作れ。決して一掃されるな。休む暇を与えることになる」
「「「「おう」」」」
四方を囲むように位置取りし、天月博人を閉じ込める。勇逸動かなかったのは最初に玄関で門番が如く遭遇した青年であった。青年は指、歯、肘、膝、髪が鋭利になり、目に見えて硬化。拳の第三関節から橙色の棘が突き出ると構えた。
「いざ……参る」
2度、膝を動かしてリズムを刻んだのち3度目で間合いを詰める。それは別に加速したわけではなく振るわれた腕を容易に天月博人は躱し、その首に手を伸ばす。吸い込まれて行くかのように容易、首を顎で隠すこともなくなんの警戒もないのかと疑問を抱かせたまま首に手がたどり着くと。次の瞬間激痛が走った。
「あ゛ぁ?!」
痛みに反応して反射的に手を引っ込めると、首をつかんだ手には穴が空いていた。刺々しくなる青年に目をやる。状況的に想像通りであった。青年の喉仏が鋭利に硬化し突出していたのだ。天月博人の血で濡れた棘を元に戻して、手で汗を拭うかのように首を拭った。
「傷ついたな……これで痛みで万全な動きはできないだろ……ここからは、此奴の消耗は早いぞ」
青年は「追い詰めたぞ」と言わんばかりの笑みを浮かべ、弟分と思わしき四方に位置取りしているその他がつられるように笑う。
(素手は危険、メスで……)
刃物を穴の空いていない方の手で装備し飛び掛かり、もはや癖で喉を狙う。だが直ぐに棘が硬かったのを身をもって先程知ったのを思い出し。やってしまったと思った時には喉から棘が出っ張って刃物を弾く。
(やってしまった……)
弾かれて空に隙を晒した腕を青年が掴む。棘と化している指が食い込み反射的な苦痛の声が上がる。
「捕まえたぞ」
持ち上げられる、抵抗しても食い込みが酷くなるだけで引きはがせる気はしない。
片手で宙ずりにされ、青年が勝ちを確信した顔で棘を出っ張らせた拳を作る。数瞬後には天月博人の身体が抉れるだろう。
『ヒロ、ヒロ! 大丈夫!?』
ニコの声が聞こえた。生身であれば申し訳なくて泣きそうな声で、心配する声が聞こえた。今、敗北してしまえば。この声はどうなるのだろうか。 記憶にない死体の装備として奪われる? もしくは死体ごと破棄される? 聞こえなくなる? それは___受け入れたくない。
「これぐらい、大丈夫だ」
天月博人は身体に大きな負荷がかかる限界倍率3倍にまで加速し、激痛は知る穴の開いて右手を懐へ突っ込んで拳銃を取り出す。ゼロ距離。引き金を引けば外れるわけもなく頭部を銃弾が貫いた。腕に食い込んでいた棘が抜かれ、元の形状へと戻っていく。倒せば棘は引っ込むようだ。
『ヒロ! そのまま逃げるんだよ!』
「はいよ」
逃走経路に居る者たちへ向けて拳銃に込められた残り5発を発砲。かすかな怯みの間に通り抜け、逃走する。
『後で治療するんだよ。それで、アナライズ結果なんだけど。アップデート前の動作解析の時に獲得したデータと比べると。棘の人、最初より断然反応と動きが速くなってるんだよ。ここでニコから1つ。希望的観測が真実になることを願って提案。ヒロとナカタニさんが入って来た玄関口にまで逃げ帰るんだよ。そこで棘の人に追いつかれるまで休んでほしいな』
「ふー……ふー……わかった」
天月博人は言われたとおりに出入り口へと逃げ込む。座り込んで休憩がてら今着こんで居る白衣の裾を破いて、それを包帯代わりに傷に巻く。
「帰ったら、色んな人に怒られそうだ……」
『ごめんなさい』
「いや、ニコのせいじゃない。あの時動かなかったら結局体力が尽きて何もできないところだった。結局は何かしら行動しなければいけなかったんだからそのタイミングを与えてくれただけ助かってるよ」
『ん、んぬぅ……なんかムズムズする』
ニコはまだ複雑な感情がわからないのか、それを言葉にできずまどろっこしそうな表情になる。天月博人はそんな様子のニコに笑う。
そんな体力を癒すための小さな幕間の時間、ニコが途端に真剣な表情になる。
『生体反応……来るんだよ』
「よし、ふー……スゥ……」
「ポタリ……ポタリ……溢れた血潮を辿れば……ほら、虫の息づかいが聞こえる……見つけたぞ」
肺の中の空気を入れ替えて、待ち構える。相手は分散する必要はなし、天月博人の血痕を辿って集団でやってくる。
『さっきの戦闘の時の速度で攻撃して!』
ニコの言葉と共に歯を食いしばり、体を強張らせてバネのように飛んで間合いを詰める。
刃物、1本は落としてしまった。現在、腕を後ろの腰に回す体力すら惜しい。であれば素手だ。
左腕を伸ばし、その首を掴む。流れるままに握りつぶす。
『見たいものの確認が取れた! 逃げて! 上の階へ! ナカタニさんのところまで!』
逃走しながら描いた地図を参照し生体探知を用いて、右へ曲がって、さらに右へ曲がって。突き当たるまでまっすぐ。左に曲がると階段があるから登って。と指示するニコの言葉のままに天月博人は動居ていると、敵というハズレを3度引いて遠回りしつつも中田文兵との再会が叶った。
「あん? 誰かと思ったら博人じゃねぇか……腕が赤いぞどうしたんだ」
天月博人は中田文兵を視認すると、体力を使い切ったのか倒れ伏した。
『ヘッドホンモードから耳栓モードへ移行。スピーカ機能オン。あー、あー! ナカタニさん聞こえる? ニコだよ!』
「お、おう聞こえるぞ」
『ヒロの状況説明はあと。今は体力が無いから担いで休ませてほしいんだよ! それで情報を共有したいからニコを装着して!』
「オーケー、理解した」
中田文兵はニコの指示のままに従って、天月博人を担ぎ、ゴーグル型携帯端末を装着する。
『スピーカー機能オフ、耳栓モードからヘッドホンモードへ移行。……とりあえず敵に関して何かわかったことある? 無いなら無いってとっとと言って欲しいんだよ』
「慌てんなって。まぁ敵に関しちゃあ倒しても霧のように湧いてくる異能と、また別の異能の複合が基本ってのは戦っててわかった。これぐらいだな」
『上の階にも居るんだ……えーとニコの解析によると。少なくとも1人は場所によって反応速度、強さが変わったんだよ。それでいくつかの可能性を見たけどもうちょっと絞りたいから、ナカタニさんには何度かいろんなところでできれば同じ個体と戦闘して欲しいんだよ』
中田文平は天月博人をチラリと見て「博人を護りながらか?」とやりにくそうな表情で尋ねる。これに対しニコは『安全地帯って言い切れる場所を見つけたならそこに安静にさせて欲しいんだよ』と言った。
「ここは初見もいいところな敵地だぞ? 安全地帯なんて有ってもワカンねぇよ」
至極もっともである。分かるわけがない。ニコはこう言われることを想定していたのか、中田文兵が安全地帯がどこにあるのか知らないと答えると即座に『じゃあ少なくとも下手な場所で敵が来ないことを祈るより、瞬間移動ができて攻撃が効かない中田文兵に護られて居た方が安全だよね』といい声で言った。
中田文兵は「まぁ確かになぁ。じゃあしょうがねぇな」とニコの意見に納得して天月博人を担ぎながら戦闘データを収集する事にした。
ニコはそんな中田文兵が天月博人を護りながら戦う事を承諾したのを見て「ありがとうなんだよ!』と感謝の言葉を送りながら、天月博人の安全を保証しろという要件を通すため、延々と聞かせる脅しまがいの嫌がらせに取り出した【音声ファイル:男女の口論集】をデータベースの底へと気がつかれない内に放り投げたのであった。
そこからは階の中央を起点に、1時から12時の方角でワザと敵を呼び寄せて、戦闘に次ぐ戦闘、検証に検証を重ねる。結果としてそれはニコの想定した結果を出した。
棘の青年以外のロロ=イアの子供達も場所、おおよそ南東方面へ行けば能力が上昇し、おおよそ北西方面方面へ行けば下降することがわかった。それも、個体によって上下する場所が異なるわけではないことがわかったのだ。
『選択肢を提示するんだよ。1、弱体化する方角へ行って有るのか無いのかわからないロロ=イアの子供達が弱体化する理由を探す。2、強化される方角へ行って有るのか無いのかわからないロロ=イアの子供達が強化される理由を探す。
ナカタニさんは先にどっち行きたいかな?』
「そりゃあオメェ、男なら強え方だろ。」
そう行って中田文兵は5時の方向へと瞬間移動した。
『敵の強さを測って行く方角を決めるんだよ』
「オーケーオーケー、面倒クセェがわかりやすい。戦って強くなる方向へと進めばいいんだろ。それくらい余裕だ」
戦いを繰り返しながら瞬間移動を行使して移動する。下の階へ。下の階へ。下の階へ、圧倒的な土の集まりによる質量差に負けて元の階にまで弾かれて、5時の方向をしばらく探索する。───何度目かの戦闘、敵の1人を顔面から壁に打ち付けた時、壁の向こう側に空洞があることに気がついた。開き方がわからなかったので瞬間移動で壁を無視して進むと空洞には下へと続く階段が存在した。階段をしばらく降りていると鉄製の扉が立ちふさがる。律儀に開こうとしたが鍵がかかっていたため瞬間移動で無視され扉の奥へと中田文兵は進んだ。
すると目にしたのは大きな部屋に敷き詰められるように並べられたベッド、それも、その全てに誰かが横たわって眠っているようであった。
「なんじゃこりゃあ……」
見て回る。眠っている人間を1人見る。
「こんな顔のやつ、さっき見たぞ」
『棘の人も居るんだよ…………』
今、目の当たりにして居るのは先ほどまで戦っていた敵たちの寝顔。今ここで眠っている存在は何か、先ほどまで戦っていた存在は何か。頂上では理解できない存在に中田文兵は困惑したが、異能の一環なのだろうと結論付けて深く考えることはやめた。
『うーん……ナカタニさん。1人捕まえて、ここにいる人を1人、倒してみて』
「座標は覚えたが……探し出すほうが面倒だな」
『じゃあ、棘の人。1階の玄関に大体いると思うから。こっちにいる棘の人も確認できたし』
「よし来た」
中田文兵はニコに言われるまま中田文兵を探し回っていたのだろう棘の青年を拉致し、地下の大部屋へと戻る。
「瓜二つか、今まで相手してたのは夢か現か幻か。まぁ、想像はついたがな」
「いつの間に……なぜ……ここが」
信じられない状況に対面したかのような棘の青年の震える瞳と声に、中田文兵は半ば確信をもって背負っていた天月博人をおろし、空いた腕で眠っている棘の青年と瓜二つのそれの首に手をかける。
「やめろ……やめろ!」
棘の青年は指、歯などを棘のように鋭利にし自信を拘束する腕を掴み、噛み付くが中田文兵は涼しい顔をして眠っているほうの棘の青年を地面にたたきつけて、何度も踏みつけた。腕に噛み付いている棘の青年がひどく繰り染み出す。それでも中田文兵は踏むつけ続け、眠っている棘の青年の体がつぶれ始めると、噛み付いていた棘の青年は霧が晴れるように消滅した。
『生体反応、双方共に消滅を確認。……発生する気配もなし。うん、こっちが本体って感じなんだよ。本体から離れるから通信状況が悪くなったとかそういう風に考えれば強さが上下するのに納得がいくんだよ』
「よーし、ここで寝てるやつらを潰せばひたすらに面倒くせぇあいつらは退治できるってことだな」
『人数的に、量産する手段がありそうだからサンプルに1人残してほしいかもって思ったけど、好きな場所に分身を発生できるみたいだし抵抗されるよねぇ……うん、ナカタニさん、人数が多いけどお願いするんだよ』
「おうよ、散々、邪魔されて鬱憤がたまってたんだ。せいぜい発散させてもらうぜ」
中田文兵は肩を鳴らし、天月博人を棘の青年が眠っていたベッドに安静にさせてからロロ=イアの子供たちを処理していった。
血生臭さと洗剤のさわやかさが混ざり、鼻の中で混沌を生み出す。そんな想像だにしない体に驚いて目が覚める。枕の隣にはゴーグル型携帯端末、ニコが居て『おはようなんだよヒロ!』と目覚めの挨拶をしてくれたので、「おはよう」と寝ぼけながらも返す。
身体を起こすと新品の衣類に着替え、モップを手に床を掃除している中田文兵がこちらに気がつく。
「おっ、起きたか。おはよう博人」
まるで何も無かったが如く、日常の朝に交わすようなノリで挨拶され、目が冴えつつある天月博人は「おはようございます」と返してベッドから降りて周囲を見渡す。
「ここは?」
『ヒロが倒れてる間にナカタニさんが見つけたロロ=イア専属の生産施設、その地下なんだよ』
天月博人はニコと中田文兵から倒れてからの経緯を聞いた。天月博人が眠っている間にこの施設にいた敵は狩り尽くしたとの事だ。
「成る程。えーと、つまり今日の襲撃は終わったという事ですね?」
「あー、そうなるが……ちょいとちげぇかな。博人、あっちに階段があるだろ」
中田文兵が指差した方向には、下の階へと続く階段が見える。
『あっちに、ちょっと……その、ヒロの意見が聞きたいものがあるんだよ』
「ジブンの意見? そんな価値があるのか怪しいものを聞いてどうしたいんだ……いいけどさ」
「よっしゃ、じゃあ俺が先導するぜ」
天月博人はニコを装着し、壁にモップを立てかけた中田文兵に先導されるがまま、階段を降りる。
照明に照らされず薄暗い階段を静けさの中に足落ちを響かせて降りていると。緑の薄ら明かりを放つ部屋に出た。
「何だこれ……」
天月博人はその光景に驚愕する。緑色の薄い明かりを放っていたのは部屋の照明ではなく、地面から天井にかけて固定され、左右の壁に並べられているている容器だった。その中は、年齢が赤子から成人まで様々な人が、液体と共に入っているのか容器の中で浮遊しているのが見える。へその緒が存在し、容器の下へと繋がっている。
『容器には英数字の書かれたマスキングテープが貼られているんだよ。その英数字の並びから察するに、中に入ってる人はロロ=イアの子供達だと思われるんだよ……』
「生産施設言うわけだからなぁ、上の階は器具やら液体やらが箱詰めされてっからその辺りを量産してんだろうけど。ロロ=イアはこんなのも量産してんのか……」
『さっきの大部屋には、ヒロとナカタニさんが戦ってた奴らの本体が眠っていたんだけど。ナカタニさんが処分中に何人か眼を覚ましてね、必死の抵抗を受けたんだ。多分、配置的な役割はここを守るためかな……ヒロ、どうするべきだと思う?』
容器の中にいるそれはよくよく観察してみると、脈動していることがわかり、確かな命が容器の中に生きていることが分かった。その状態のそれを可哀そうだとは思わない、どんな形であれこうやって生きている命を憐れむ資格を自分には無いと思ったからだ。
強いて憐れむとするのなら、こうやってレジスタンスという命を脅かす存在に見つかったことだ。
「何で操作するのかを探す。それを見つけ出せたら1人だけ中から取り出してを様子を見るんだ。それを3人ほど繰り返して記録。記録が終わったら、楽善さんのロロ=イアに所属しているのなら倒す方針を尊重し、現状、ロロ=イアのものであるこれらは殺処分とする。
今できることはこれくらいだ。この襲撃以降の襲撃で同じものを発見した場合の取り扱いは、会議にて記録を見ながら話し合って決めることにしよう」
『わかったんだよ』
「あいよ、わかった」
どんな代物かわからない現状、警戒し、害を及ぼす敵としての可能性を考えたほうがいい。天月博人はそう考えて、今、初めて出会った命にはどうあっても死んでもらう選択をした。
中田文兵とて手分けして機会を操作できるものであろう何かを探そうかと相談しながら奥へ奥へと進んでいると、部屋の奥、壁一面が機械と化しているその中心。パネル状の液晶ディスプレイを発見した。探さないでもよかったかもしれなかったかと思いながらも、液晶ディスプレイの隣にあった何かの差込口だと思わしき穴に、ゴーグル型携帯端末、その蟀谷部分に収納された。万能コードを取り出して押し込んだ。万能コードの差し込む部分は形状記憶能力を持ったゲル状であり、押し込めば押し込むほどに穴にはまる形へと変形する。
《よし、ヒロは操作しないでね。代わりにニコが弄ってくるんだよ!』
そう言ってニコはゴーグル型携帯端末から姿を消す。しばらく待つと、奥から1番目の右側、その容器から液体が無くなっていき中に居たそれは浮遊感を失う。中の液体が無くなると容器の前方部分が開いて中にいるそれに配慮してか、開いた部分が滑り台の様になる。
《ただいまー。帰ったんだよ』
「おかえり、もう引っこ抜いて大丈夫か?」
『大丈夫、コードを抜いても大丈夫なんだよ』
ニコが戻ってきたのを確認して、コードを抜いて収納し、開かれた容器に近寄る。
「完全に生きてんな……おーい、動けるかー?」
中田文兵が果敢にも話しかけると、解き放たれたそれは反応し、声が聞こえた方向、中田文兵を生まれたての小鹿の様に震えながら体を起こして、ゆっくりと目を開いてみた。
「女の子だな……その、なんだ。目のやり場に困る」
容器の中にいるそれは例外なく服を着ていない。
「おい、喋れるか?」
中田文兵が尋ねる。すると容器の中に居たそれは。「あ……あー……」と言葉として成り立っていない声を出した。
『喋ることができないのかな? 状態的には生まれたてって感じなのかな》
「そうか……辛い……」
胸が痛む、中田文兵もその表情に余裕はなく真顔で容器の中に居たそれを見つめる。
「さすがに俺もキツイ……だが、やらねぇとだ」
中田文兵はゆっくりと少女の頭に触れる。少し撫ると少女はほんのり喜んだように見えた。
「レジスタンスは無知なんだ。オメェですら脅威に見える。だから、死んでくれ」
頭からなぞるように頬を撫でる。確かな生命の熱が肌に伝わる。少女はハイハイする形で中田文兵に近寄る。頬から首に、手をかける。少女は、最後まで、中田文兵を見ていた。
天月博人は、声が聞こえる間、何度も心の中で謝罪をし続け、見届けた。
『何某の研究、何某の生産、何某の向上。その生産部分に手を出すわけだね』
「戦利品なんてのは技術が奪えれば、有効活用する。どうしようもなければバラして持ってる技術で別のものに作り替える、どうあれこっちは力がついて、向こうは気には止めねぇくらいでも確かに力が削げる。もはやいつも通りの奴だ。さて、アレだな。着いたぞ」
「では、襲撃開始です」
この施設は扉が厳重に閉ざされていた。だがどれだけ扉が強固であろうと、中田文兵がそれの存在意義を無為にする。
玄関から出現すると靴も履いていない素足の青年が1人、門番をするように椅子に座っていた
「唐突に出現した知らない顔…………来たか、来たか……此度はここなのか、そうか……お前らか、お父様の、俺の、俺たちの敵は」
『やっぱり何かしらの通信手段はありそうなんだよ』
「そこら辺は追々探してみようぜ。それじゃあ、俺はいつも通り上から侵攻するぞ」
「はい、わかりました」
天月博人と中田文兵はこれを無視して端的な会話をする。会話が終われば中田文兵の姿はこの場から消失した。
「さて、アキレス腱を切って情報を差し出すか、命を差し出すかして欲しいんだけど」
『ヒロ、伏せて!』
装着したゴーグル型携帯端末から聞こえるニコの言葉のままに天月博人が「やっぱり無理か!」と言いながら伏せると、頭上を橙色の棘が振るわれるように通過した。
目をやると、間合いを詰めていた青年、その拳の第三関節から突き出た棘のような形状が見えた。
(異能力者か、でも通常速度なら)
特異な肉体の変異から天月博人は、今目の前にいる青年は異能力者だと断定し、2倍弱ほど加速する。
メスのような刃物をポケットに入れた入れ物から取り出し、頭上で拳を振るって次の行動に移ろうとしている青年の首を流れるように切り裂いた。
(父上より授かった加速の異能で容易に対応できる)
青年は出血する首を手で押さえて、暫く悶えた後に動かなくなる。早々に異能力者を1人倒し。よし侵攻するかと移動しようとすると『熱源消失、早すぎる! ヒロ! さっきの人を見るんだよ!』と告げる。天月博人は指示通り、倒したはずの青年の遺体に目をやると。青年の遺体は消失していた。
「嫌な予感」
『後ろ!』
「死んでしまえ」
先ほどの流れ、回避してそのまま急所を切り裂く。を繰り返して対処する。この時、天月博人は1度首を切り裂いたはずの刃物に血が付着していないことを確認した。
悶絶し死に絶える青年がどうなるか観察、すると霧が晴れるように消滅していった。
『熱源消失……なんか見たことあるんだよ。具体的には昨日のナカタニさん案件』
「すごい既視感だなぁ」
『熱源出現、右の死角に居るんだよ!』
左へと飛んで、天月博人は右を確認する。そこには戦闘態勢の青年がさも当然のように居た。
手ごたえはあった。青年が傷つき苦しみ生き絶えたのも見た。確かに倒したはずだ。それでも青年はそこにいるのだ。
(何度倒しても湧いてくるのは至極面倒だ。ならば)
今度は天月博人が攻撃を仕掛ける。青年と接触する寸前に姿勢を極度に下げて青年の又を通り抜け、振り返り際にアキレス腱を切り裂いた。
(倒しても湧くなら、動けなくしてしまえばいい。…………これ、ジブンにも適応されるな)
天月博人はこれで青年がまともに動けなくなったと考えたが、青年は苦しみながらも霧が晴れるようにして消滅し、そして再度、青年を形成した。
「無駄だ……俺は。決してお前に負ける事はない」
『ニコ、このままじゃあ体力の無駄なんだよ。対応を変えたほうがいいと思うな』
「だな」
天月博人はキリが無いとみて、青年を一旦無視することにした。
「邪魔くせぇなぁ……」
中田文兵は天月博人が相対している青年と同じような能力を持つロロ=イアの子供、複数人と遭遇し、殺しても現在意味がないと判断、ロロ=イアの子供達が攻撃しても対して効果が皆無と理解して組みつき拘束しようとしてくる中を無視するように振り切って、ロロ=イア人員を見つけては「やめろ!」「やめて」「殺さないで」という言葉に囲まれる中で、その命を蹂躙する。
ロロ=イアの子供達がどう足掻こうと中田文兵は止まらない。何をやっても意味をなさず。着実にロロ=イアに属する命を潰していくその様は、必死に守ろうとするロロ=イアの子供達にとっては悪夢でしかなく、酷い無力感を与えている事だろう。
「だぁ! マジで鬱陶しぃな! なんとかなんねぇのかコイツら」
当の中田文兵は苛立っていた。瞬間移動で引きはがすが数分後には探し回っているその1人に見つかり。一々拘束しにかかってくるため行動に制限が入る。また、彼らから敵が来たのだと伝えられているのかロロ=イア人員は逃げ、隠れ手間がかかっているためである。
「逃げても隠れても糞みてぇな勇気を振り絞って抵抗しても意味がねぇんだよ! 諦めて無様に死に晒せや!」
「ふん、鬼畜生はどこまでも鬼畜生ね」
ただでさえ、苛立っている中田文兵を逆なでする様な少女の声が近づく。中田文兵は声が聞こえた途端、面倒臭さから逃げる様に瞬間移動した。
「よし、撒いたな」
少女の声が聞こえず。見渡しても居ない事に安堵して残滅作業に戻ろうとすると廊下をドタバタと走り抜け、勢いよく扉が開かれる。
「ちょっと!? ナカタブンヘイ! 私を無視して逃げないでよ!」
扉を開いたのは先程湧いた少女であった。中田文兵はそれを確認すると心の底から面倒臭そうな顔をした。
「ゲェ……見つけるの早くねぇ……?」
「人の顔を見るなり、ゲェですか、そうですか。でも残念だったね。私にはお前がどこに行こうとわかるんだよ! フン!」
玩具のような槍が空間に1振り出現しては中田文兵に発射されるが、命中することもなく掴まれてへし折られる。
少女はへし折られ「あっ」っと言葉を漏らすが、次の瞬間には組み伏せられ、首もへし折られ、消滅するのだった。
「はぁー……変な呪い食らっちまったみてぇだなぁ」
「見つけたぞ! 侵入者!」
「湧いてくる間がある分、直ぐに湧くコイツらよりはマシか?」
中田文兵は自分に言い聞かせるように呟いて、少女によって開けっ放しにされた扉から入ってきたロロ=イアの子供の頭部にヤケクソ気味な蹴りをかまして瞬間移動した。
『ヒロ! 来たんだよ!』
「わかってる!」
天月博人は逃げ回りながら通り魔が如く、目に入ったロロ=イア人員を切り裂いていく。
だが、中田文兵とは打って変わって余裕はなかった。まず第1要因として倒しても即時復活して追いかけてくる追跡者が進むにつれて増える事。第2の要因として、天月口成から与えられた加速の異能が使用すれば少なからず体に負荷が掛かるためである。
着実に磨耗する体力、増えた分だけ挟み撃ちを狙ったりする追跡者達。
「だぁああ! これならニコと髪留めを置いて行くんだった!」
『ヒロ! それは酷いんだよ!』
「ジブンとしてはニコと髪留めは絶対に奪われたくないんだよ!」
『んぬぅ…………ぬぬぬ! じゃあニコは置いて行かれない様にもっともーと頑張るんだよ!』
「無理しなくてもいいんだぞ?」
『ヒロにはその言葉を言われたくないんだよ!? いいから見てて! そして襲撃が終わったらしばらく起動しないで! 必死に充電しなきゃだから。それじゃあ…… 現在状況を確認、データベースから必要データの抽出………………【動作解析】をベースとします。データーベース、ファイル名【異常】から異能力に関する情報を導入……アップデートします………………完成しました。呼称……【アナライザー】…………うへぇ……ふぅ、できた! 【アナライザー】を起動するんだよ! 情報の獲得に必要だから少し戦ってくれると嬉しいんだよ』
「体力がだいぶ辛いんだが…………わかった。やってみよう」
天月博人は踵を返し、灰の中の空気を全部吐いてから深く息を吸い、素手で構える。
『えっ素手で?!』
「本命の次に得意なのは素手なんだよ。つまり……通り魔戦法で致命傷を負わせるのならともかく、こと戦闘においてはこっちのほうが楽だ」
「観念した…………訳ではなさそうだ…………皆、気を付けろ。何か仕掛けてくる」
相手は勿論、天月博人の行動に警戒。だが天月博人はそんなものを意にも介さず敵のその1人、その懐へと入り込む。体に思い出させるかのように教えられた言葉を思い出す。『頭部、首、心臓、男性なら股間、女性なら下腹部。
人間の一般的に知られている急所と言うとこれ位ッスね。博人君、狙うべきは何所だと思うッスか? ……正解ッス。頭部は近代武器でもない限り硬く死に至りにくいッス。性による身体的急所はショック死を狙えるッスけど確実性はないッスね。
戦いに賭けの要素は少ない方が良いッス。であるならば____』それは、誰もが知っている確実な急所、野生動物だって知っているその急所、首の気管をつかみ。握りつぶしながら押し倒す。これだけで現状どうやっても死に至る。
「なっ!? 此奴……」
1人が天月博人に燃え盛る腕でつかみかかるが、超低姿勢と言える現状の天月博人に届くには時間がかかりすぎ。天月博人はバランスを保ちがたいその1人を足払いし、飛び掛かる。
バランスが完全に崩壊し、馬乗りになったその状態。灼熱の腕を警戒して両足で地面に押し付け。力負けする前に片腕で喉を守ろうとする顎を無理やりあげさせて、もう片手で喉を殴りつける。
「何だ此奴……まるで獣だ……」
「ふん……だが、時間の問題だ。体力はいつか尽きる……だが……弟たちよ此奴を囲む様に廊下の四隅を作れ。決して一掃されるな。休む暇を与えることになる」
「「「「おう」」」」
四方を囲むように位置取りし、天月博人を閉じ込める。勇逸動かなかったのは最初に玄関で門番が如く遭遇した青年であった。青年は指、歯、肘、膝、髪が鋭利になり、目に見えて硬化。拳の第三関節から橙色の棘が突き出ると構えた。
「いざ……参る」
2度、膝を動かしてリズムを刻んだのち3度目で間合いを詰める。それは別に加速したわけではなく振るわれた腕を容易に天月博人は躱し、その首に手を伸ばす。吸い込まれて行くかのように容易、首を顎で隠すこともなくなんの警戒もないのかと疑問を抱かせたまま首に手がたどり着くと。次の瞬間激痛が走った。
「あ゛ぁ?!」
痛みに反応して反射的に手を引っ込めると、首をつかんだ手には穴が空いていた。刺々しくなる青年に目をやる。状況的に想像通りであった。青年の喉仏が鋭利に硬化し突出していたのだ。天月博人の血で濡れた棘を元に戻して、手で汗を拭うかのように首を拭った。
「傷ついたな……これで痛みで万全な動きはできないだろ……ここからは、此奴の消耗は早いぞ」
青年は「追い詰めたぞ」と言わんばかりの笑みを浮かべ、弟分と思わしき四方に位置取りしているその他がつられるように笑う。
(素手は危険、メスで……)
刃物を穴の空いていない方の手で装備し飛び掛かり、もはや癖で喉を狙う。だが直ぐに棘が硬かったのを身をもって先程知ったのを思い出し。やってしまったと思った時には喉から棘が出っ張って刃物を弾く。
(やってしまった……)
弾かれて空に隙を晒した腕を青年が掴む。棘と化している指が食い込み反射的な苦痛の声が上がる。
「捕まえたぞ」
持ち上げられる、抵抗しても食い込みが酷くなるだけで引きはがせる気はしない。
片手で宙ずりにされ、青年が勝ちを確信した顔で棘を出っ張らせた拳を作る。数瞬後には天月博人の身体が抉れるだろう。
『ヒロ、ヒロ! 大丈夫!?』
ニコの声が聞こえた。生身であれば申し訳なくて泣きそうな声で、心配する声が聞こえた。今、敗北してしまえば。この声はどうなるのだろうか。 記憶にない死体の装備として奪われる? もしくは死体ごと破棄される? 聞こえなくなる? それは___受け入れたくない。
「これぐらい、大丈夫だ」
天月博人は身体に大きな負荷がかかる限界倍率3倍にまで加速し、激痛は知る穴の開いて右手を懐へ突っ込んで拳銃を取り出す。ゼロ距離。引き金を引けば外れるわけもなく頭部を銃弾が貫いた。腕に食い込んでいた棘が抜かれ、元の形状へと戻っていく。倒せば棘は引っ込むようだ。
『ヒロ! そのまま逃げるんだよ!』
「はいよ」
逃走経路に居る者たちへ向けて拳銃に込められた残り5発を発砲。かすかな怯みの間に通り抜け、逃走する。
『後で治療するんだよ。それで、アナライズ結果なんだけど。アップデート前の動作解析の時に獲得したデータと比べると。棘の人、最初より断然反応と動きが速くなってるんだよ。ここでニコから1つ。希望的観測が真実になることを願って提案。ヒロとナカタニさんが入って来た玄関口にまで逃げ帰るんだよ。そこで棘の人に追いつかれるまで休んでほしいな』
「ふー……ふー……わかった」
天月博人は言われたとおりに出入り口へと逃げ込む。座り込んで休憩がてら今着こんで居る白衣の裾を破いて、それを包帯代わりに傷に巻く。
「帰ったら、色んな人に怒られそうだ……」
『ごめんなさい』
「いや、ニコのせいじゃない。あの時動かなかったら結局体力が尽きて何もできないところだった。結局は何かしら行動しなければいけなかったんだからそのタイミングを与えてくれただけ助かってるよ」
『ん、んぬぅ……なんかムズムズする』
ニコはまだ複雑な感情がわからないのか、それを言葉にできずまどろっこしそうな表情になる。天月博人はそんな様子のニコに笑う。
そんな体力を癒すための小さな幕間の時間、ニコが途端に真剣な表情になる。
『生体反応……来るんだよ』
「よし、ふー……スゥ……」
「ポタリ……ポタリ……溢れた血潮を辿れば……ほら、虫の息づかいが聞こえる……見つけたぞ」
肺の中の空気を入れ替えて、待ち構える。相手は分散する必要はなし、天月博人の血痕を辿って集団でやってくる。
『さっきの戦闘の時の速度で攻撃して!』
ニコの言葉と共に歯を食いしばり、体を強張らせてバネのように飛んで間合いを詰める。
刃物、1本は落としてしまった。現在、腕を後ろの腰に回す体力すら惜しい。であれば素手だ。
左腕を伸ばし、その首を掴む。流れるままに握りつぶす。
『見たいものの確認が取れた! 逃げて! 上の階へ! ナカタニさんのところまで!』
逃走しながら描いた地図を参照し生体探知を用いて、右へ曲がって、さらに右へ曲がって。突き当たるまでまっすぐ。左に曲がると階段があるから登って。と指示するニコの言葉のままに天月博人は動居ていると、敵というハズレを3度引いて遠回りしつつも中田文兵との再会が叶った。
「あん? 誰かと思ったら博人じゃねぇか……腕が赤いぞどうしたんだ」
天月博人は中田文兵を視認すると、体力を使い切ったのか倒れ伏した。
『ヘッドホンモードから耳栓モードへ移行。スピーカ機能オン。あー、あー! ナカタニさん聞こえる? ニコだよ!』
「お、おう聞こえるぞ」
『ヒロの状況説明はあと。今は体力が無いから担いで休ませてほしいんだよ! それで情報を共有したいからニコを装着して!』
「オーケー、理解した」
中田文兵はニコの指示のままに従って、天月博人を担ぎ、ゴーグル型携帯端末を装着する。
『スピーカー機能オフ、耳栓モードからヘッドホンモードへ移行。……とりあえず敵に関して何かわかったことある? 無いなら無いってとっとと言って欲しいんだよ』
「慌てんなって。まぁ敵に関しちゃあ倒しても霧のように湧いてくる異能と、また別の異能の複合が基本ってのは戦っててわかった。これぐらいだな」
『上の階にも居るんだ……えーとニコの解析によると。少なくとも1人は場所によって反応速度、強さが変わったんだよ。それでいくつかの可能性を見たけどもうちょっと絞りたいから、ナカタニさんには何度かいろんなところでできれば同じ個体と戦闘して欲しいんだよ』
中田文平は天月博人をチラリと見て「博人を護りながらか?」とやりにくそうな表情で尋ねる。これに対しニコは『安全地帯って言い切れる場所を見つけたならそこに安静にさせて欲しいんだよ』と言った。
「ここは初見もいいところな敵地だぞ? 安全地帯なんて有ってもワカンねぇよ」
至極もっともである。分かるわけがない。ニコはこう言われることを想定していたのか、中田文兵が安全地帯がどこにあるのか知らないと答えると即座に『じゃあ少なくとも下手な場所で敵が来ないことを祈るより、瞬間移動ができて攻撃が効かない中田文兵に護られて居た方が安全だよね』といい声で言った。
中田文兵は「まぁ確かになぁ。じゃあしょうがねぇな」とニコの意見に納得して天月博人を担ぎながら戦闘データを収集する事にした。
ニコはそんな中田文兵が天月博人を護りながら戦う事を承諾したのを見て「ありがとうなんだよ!』と感謝の言葉を送りながら、天月博人の安全を保証しろという要件を通すため、延々と聞かせる脅しまがいの嫌がらせに取り出した【音声ファイル:男女の口論集】をデータベースの底へと気がつかれない内に放り投げたのであった。
そこからは階の中央を起点に、1時から12時の方角でワザと敵を呼び寄せて、戦闘に次ぐ戦闘、検証に検証を重ねる。結果としてそれはニコの想定した結果を出した。
棘の青年以外のロロ=イアの子供達も場所、おおよそ南東方面へ行けば能力が上昇し、おおよそ北西方面方面へ行けば下降することがわかった。それも、個体によって上下する場所が異なるわけではないことがわかったのだ。
『選択肢を提示するんだよ。1、弱体化する方角へ行って有るのか無いのかわからないロロ=イアの子供達が弱体化する理由を探す。2、強化される方角へ行って有るのか無いのかわからないロロ=イアの子供達が強化される理由を探す。
ナカタニさんは先にどっち行きたいかな?』
「そりゃあオメェ、男なら強え方だろ。」
そう行って中田文兵は5時の方向へと瞬間移動した。
『敵の強さを測って行く方角を決めるんだよ』
「オーケーオーケー、面倒クセェがわかりやすい。戦って強くなる方向へと進めばいいんだろ。それくらい余裕だ」
戦いを繰り返しながら瞬間移動を行使して移動する。下の階へ。下の階へ。下の階へ、圧倒的な土の集まりによる質量差に負けて元の階にまで弾かれて、5時の方向をしばらく探索する。───何度目かの戦闘、敵の1人を顔面から壁に打ち付けた時、壁の向こう側に空洞があることに気がついた。開き方がわからなかったので瞬間移動で壁を無視して進むと空洞には下へと続く階段が存在した。階段をしばらく降りていると鉄製の扉が立ちふさがる。律儀に開こうとしたが鍵がかかっていたため瞬間移動で無視され扉の奥へと中田文兵は進んだ。
すると目にしたのは大きな部屋に敷き詰められるように並べられたベッド、それも、その全てに誰かが横たわって眠っているようであった。
「なんじゃこりゃあ……」
見て回る。眠っている人間を1人見る。
「こんな顔のやつ、さっき見たぞ」
『棘の人も居るんだよ…………』
今、目の当たりにして居るのは先ほどまで戦っていた敵たちの寝顔。今ここで眠っている存在は何か、先ほどまで戦っていた存在は何か。頂上では理解できない存在に中田文兵は困惑したが、異能の一環なのだろうと結論付けて深く考えることはやめた。
『うーん……ナカタニさん。1人捕まえて、ここにいる人を1人、倒してみて』
「座標は覚えたが……探し出すほうが面倒だな」
『じゃあ、棘の人。1階の玄関に大体いると思うから。こっちにいる棘の人も確認できたし』
「よし来た」
中田文兵はニコに言われるまま中田文兵を探し回っていたのだろう棘の青年を拉致し、地下の大部屋へと戻る。
「瓜二つか、今まで相手してたのは夢か現か幻か。まぁ、想像はついたがな」
「いつの間に……なぜ……ここが」
信じられない状況に対面したかのような棘の青年の震える瞳と声に、中田文兵は半ば確信をもって背負っていた天月博人をおろし、空いた腕で眠っている棘の青年と瓜二つのそれの首に手をかける。
「やめろ……やめろ!」
棘の青年は指、歯などを棘のように鋭利にし自信を拘束する腕を掴み、噛み付くが中田文兵は涼しい顔をして眠っているほうの棘の青年を地面にたたきつけて、何度も踏みつけた。腕に噛み付いている棘の青年がひどく繰り染み出す。それでも中田文兵は踏むつけ続け、眠っている棘の青年の体がつぶれ始めると、噛み付いていた棘の青年は霧が晴れるように消滅した。
『生体反応、双方共に消滅を確認。……発生する気配もなし。うん、こっちが本体って感じなんだよ。本体から離れるから通信状況が悪くなったとかそういう風に考えれば強さが上下するのに納得がいくんだよ』
「よーし、ここで寝てるやつらを潰せばひたすらに面倒くせぇあいつらは退治できるってことだな」
『人数的に、量産する手段がありそうだからサンプルに1人残してほしいかもって思ったけど、好きな場所に分身を発生できるみたいだし抵抗されるよねぇ……うん、ナカタニさん、人数が多いけどお願いするんだよ』
「おうよ、散々、邪魔されて鬱憤がたまってたんだ。せいぜい発散させてもらうぜ」
中田文兵は肩を鳴らし、天月博人を棘の青年が眠っていたベッドに安静にさせてからロロ=イアの子供たちを処理していった。
血生臭さと洗剤のさわやかさが混ざり、鼻の中で混沌を生み出す。そんな想像だにしない体に驚いて目が覚める。枕の隣にはゴーグル型携帯端末、ニコが居て『おはようなんだよヒロ!』と目覚めの挨拶をしてくれたので、「おはよう」と寝ぼけながらも返す。
身体を起こすと新品の衣類に着替え、モップを手に床を掃除している中田文兵がこちらに気がつく。
「おっ、起きたか。おはよう博人」
まるで何も無かったが如く、日常の朝に交わすようなノリで挨拶され、目が冴えつつある天月博人は「おはようございます」と返してベッドから降りて周囲を見渡す。
「ここは?」
『ヒロが倒れてる間にナカタニさんが見つけたロロ=イア専属の生産施設、その地下なんだよ』
天月博人はニコと中田文兵から倒れてからの経緯を聞いた。天月博人が眠っている間にこの施設にいた敵は狩り尽くしたとの事だ。
「成る程。えーと、つまり今日の襲撃は終わったという事ですね?」
「あー、そうなるが……ちょいとちげぇかな。博人、あっちに階段があるだろ」
中田文兵が指差した方向には、下の階へと続く階段が見える。
『あっちに、ちょっと……その、ヒロの意見が聞きたいものがあるんだよ』
「ジブンの意見? そんな価値があるのか怪しいものを聞いてどうしたいんだ……いいけどさ」
「よっしゃ、じゃあ俺が先導するぜ」
天月博人はニコを装着し、壁にモップを立てかけた中田文兵に先導されるがまま、階段を降りる。
照明に照らされず薄暗い階段を静けさの中に足落ちを響かせて降りていると。緑の薄ら明かりを放つ部屋に出た。
「何だこれ……」
天月博人はその光景に驚愕する。緑色の薄い明かりを放っていたのは部屋の照明ではなく、地面から天井にかけて固定され、左右の壁に並べられているている容器だった。その中は、年齢が赤子から成人まで様々な人が、液体と共に入っているのか容器の中で浮遊しているのが見える。へその緒が存在し、容器の下へと繋がっている。
『容器には英数字の書かれたマスキングテープが貼られているんだよ。その英数字の並びから察するに、中に入ってる人はロロ=イアの子供達だと思われるんだよ……』
「生産施設言うわけだからなぁ、上の階は器具やら液体やらが箱詰めされてっからその辺りを量産してんだろうけど。ロロ=イアはこんなのも量産してんのか……」
『さっきの大部屋には、ヒロとナカタニさんが戦ってた奴らの本体が眠っていたんだけど。ナカタニさんが処分中に何人か眼を覚ましてね、必死の抵抗を受けたんだ。多分、配置的な役割はここを守るためかな……ヒロ、どうするべきだと思う?』
容器の中にいるそれはよくよく観察してみると、脈動していることがわかり、確かな命が容器の中に生きていることが分かった。その状態のそれを可哀そうだとは思わない、どんな形であれこうやって生きている命を憐れむ資格を自分には無いと思ったからだ。
強いて憐れむとするのなら、こうやってレジスタンスという命を脅かす存在に見つかったことだ。
「何で操作するのかを探す。それを見つけ出せたら1人だけ中から取り出してを様子を見るんだ。それを3人ほど繰り返して記録。記録が終わったら、楽善さんのロロ=イアに所属しているのなら倒す方針を尊重し、現状、ロロ=イアのものであるこれらは殺処分とする。
今できることはこれくらいだ。この襲撃以降の襲撃で同じものを発見した場合の取り扱いは、会議にて記録を見ながら話し合って決めることにしよう」
『わかったんだよ』
「あいよ、わかった」
どんな代物かわからない現状、警戒し、害を及ぼす敵としての可能性を考えたほうがいい。天月博人はそう考えて、今、初めて出会った命にはどうあっても死んでもらう選択をした。
中田文兵とて手分けして機会を操作できるものであろう何かを探そうかと相談しながら奥へ奥へと進んでいると、部屋の奥、壁一面が機械と化しているその中心。パネル状の液晶ディスプレイを発見した。探さないでもよかったかもしれなかったかと思いながらも、液晶ディスプレイの隣にあった何かの差込口だと思わしき穴に、ゴーグル型携帯端末、その蟀谷部分に収納された。万能コードを取り出して押し込んだ。万能コードの差し込む部分は形状記憶能力を持ったゲル状であり、押し込めば押し込むほどに穴にはまる形へと変形する。
《よし、ヒロは操作しないでね。代わりにニコが弄ってくるんだよ!』
そう言ってニコはゴーグル型携帯端末から姿を消す。しばらく待つと、奥から1番目の右側、その容器から液体が無くなっていき中に居たそれは浮遊感を失う。中の液体が無くなると容器の前方部分が開いて中にいるそれに配慮してか、開いた部分が滑り台の様になる。
《ただいまー。帰ったんだよ』
「おかえり、もう引っこ抜いて大丈夫か?」
『大丈夫、コードを抜いても大丈夫なんだよ』
ニコが戻ってきたのを確認して、コードを抜いて収納し、開かれた容器に近寄る。
「完全に生きてんな……おーい、動けるかー?」
中田文兵が果敢にも話しかけると、解き放たれたそれは反応し、声が聞こえた方向、中田文兵を生まれたての小鹿の様に震えながら体を起こして、ゆっくりと目を開いてみた。
「女の子だな……その、なんだ。目のやり場に困る」
容器の中にいるそれは例外なく服を着ていない。
「おい、喋れるか?」
中田文兵が尋ねる。すると容器の中に居たそれは。「あ……あー……」と言葉として成り立っていない声を出した。
『喋ることができないのかな? 状態的には生まれたてって感じなのかな》
「そうか……辛い……」
胸が痛む、中田文兵もその表情に余裕はなく真顔で容器の中に居たそれを見つめる。
「さすがに俺もキツイ……だが、やらねぇとだ」
中田文兵はゆっくりと少女の頭に触れる。少し撫ると少女はほんのり喜んだように見えた。
「レジスタンスは無知なんだ。オメェですら脅威に見える。だから、死んでくれ」
頭からなぞるように頬を撫でる。確かな生命の熱が肌に伝わる。少女はハイハイする形で中田文兵に近寄る。頬から首に、手をかける。少女は、最後まで、中田文兵を見ていた。
天月博人は、声が聞こえる間、何度も心の中で謝罪をし続け、見届けた。
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