自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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6-3:夢幻の様な今

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 襲撃。只々t襲撃を繰り返し、拠点を広げる日々を過ごして居ると、今が夏であることを知らせる煩い蟲の声を聴いた。天月博人がロロ=イアに拉致られたクリスマス間近のあの日からどれだけの時間が経ったのだろう。四季を信じるのならばもう直ぐで、半年だろうか。

「中田君……取れたてピチピチで下処理されているのは助かるんだけどね……このサメ下顎したあご……人の歯型で噛み千切られた跡があって怖いなーって思うんだけど」
「すまん。散策中になんか群れで泳いでたからよ。俺なら海の中で鮫の踊り食いできるんじゃね? って思ったから……なんかやっちまってた」

「やっちゃったかー。使うのは身だからいいけどね。おっと、鮫だったら早く取りかからないと。今日は鮫のフルコースだって伝えておいてね中田君」
「あいよー」

「皆ー。大物が入ったよ! 今日のお昼御飯だから集まって集まってー!」

 レジスタンス拠点内部、厨房として作られた部屋の台にはドドンと下顎を噛み千切られ、腹の中身が空っぽの鮫が置かれ。以前、頭がかち割れ、四肢が引きちぎられた鹿を持ち込まれた前例が出来てしまっているためか、最早動じなくなってきている調理組があわただしく動き始めるのを足音から感じる。

「私ね。幼い頃に鮫をね図巻で見て。
 こんなに怖い魚がいるんだって夢にも出るくらい恐怖したのよ」
「そうなんですか? いつもあの怖いナカタニさんと張り合っているアヤメさんが意外です!」

「……誉め言葉として受け取っておくわね。
 それで今日、私はアイツから一定の距離離れられないから朝の散策に強制的に着いていくことになったんだけど。そこでちょっと可哀想な鮫を見たのよ」
「可愛そうな鮫……ですか?」

「そう、可哀想な鮫。
 アイツが鮫の群れを見つけるや否や、『思えば、鮫って食ったことがねぇんだよなぁ』って私と言う淑女が居る前でパンツ一丁になってね海に飛び込んだのよ。
 これだけで馬鹿なんじゃないの? 羞恥心は捨てたの? 後で聞いたら『あっオメェいたな。眼中になかったわ』ってぶっ殺す案件な流れが有るんだけどそれはさておいて。
 飛び込めば獲物がやって来たと思った1匹の鮫がアイツの頭部にかぶりついたのよ。そこでアイツはやり返すように鮫の下顎を噛み千切ってね。『不味まっず……と言うより、食った場所が悪いなこれ。持ち帰って調理してもらうか』って鮫を生きたまま海の中で下処理し始めたのよ」
「えっと…………ご、ごめんなさい。何で可哀想なんですか?」

「えっ。分からないのお前!? だってご飯かと思って食べたら食べ返されて、内臓を生きたまま引きずり出されるのよ!? 自然界には本来居ないはずの、史上最悪の理不尽に見舞われてかわいそうじゃない!」
「そ、そうでしょうか? ……うぅ。やっぱりわかりません……食べようとして食べられるのは主殿が教えてくれた自業自得……と言う言葉が当てはまっているように思えまして……」

「むっ。そうとらえたのね……そう言われると確かにと思えるけど。……やっぱり私からしたらアイツと言うこの世で存在が許されない位の理不尽が関わってるだけで、やっぱり可哀想で仕方がないわよ!」
「そうかい、じゃあ蝗ィ。テメェは昼飯抜きな」

 第2拠点、天月博人の付き人として着いてきていた鬼童世界と中田文兵から一定距離を離れなれない蝗アヤメが雑談しているところで、垢田文兵が割って入る。

「ちょっと。女の子の会話に何割り込んでるのよ。っというかお昼ごはん抜きは横暴よ? 殺すわよ」
「殺すわよってそんな物騒な言葉があっさりと口から出る奴が女の子なら、世界の男どもは嘆く事に成るな。それと横暴もくそもねぇだろ。テメェは食わなくても大丈夫じゃねぇか」
「もうっ! ……もう! 滅茶苦茶言ってくれるわね! こんなこと言う女の子も普通に居るわよーだ。女の子に幻想見過ぎよこの野郎。それとご飯食べないと私のやる気が下がるわよ」

「心底どうでもいい……」
「私からとったら博人の分を分けてもらうからね!」

「はぁ」? そうしたら博人の分が減るじゃねぇか! テメェ、自分の立場を分かってんのかバーカ!」
「だったら、私の分を抜かなければいいじゃない! 少し考えればわかる事でしょアーホ!」

 中田文兵と蝗アヤメ、2人の口喧嘩にただ苦笑いを浮かべていた鬼童世界がピクリと気配に反応し、「あっるじどのー!」とやってきた天月博人の腹部に人間ロケットかアンタと言いたくなるほどの憩いで飛び込む。不意打ちじみた突進に天月博人は「ぐぉ苦悶の表情になるがひきつらせながらも取り繕って、鬼童世界の頭をなでる。

「み、巫女っちゃんは元気だなぁ!」
「はい、私は元気です!」

「元気でよろしい」と口喧嘩をする2人に目をやる。

「それで、こっちの2人も相も変わらずと……仲がいいですね」
「「仲良くねぇよないわよ!!」」

 天月博人の懸念通り、名物になりつつある口喧嘩をする2人に息の合った否定をされ。天月博人は「あ、はいわかりました」とそのまま名物に轢き釣り困れない様に無難に肯定するのだった。

「ところで主殿。お仕事は終わったのですか?」
「昨日の襲撃結果のレポート提出はとりあえず終わり。次は誠子さんと資料とにらみ合いながら異能力のすり合わせだよ。巫女っちゃんの異能力も見てもらうからおいで」

「は、はい!」

 鬼童世界を連れて、中田文兵t蝗アヤメが喧嘩するその空間を後にして。針城聖子とその仲間たちがロロ=イアの機材を研究している大部屋へと向かう。

「来たね博人君」」
「はい、巫女っちゃんも同伴させていいですか?」

「私は構わない。むしろサンプルが増えて歓迎する」
「有り難うございます。ところで異能のことを話すのはいいですけれど、ジブンもそこまで詳しくないですよ?」

「博人君、君が異能にくわしくないと思っていても。無知な私たちよりも情報を持っていることになる。そして君には加速能力という渡され、本来覚醒できる枠を潰していないと聞く異能力と、身に着けているだけで身体的に強化される花の髪留め。と研究の参考にできる物が君には多くあるからそこを自覚してほしい」
「なるほど……はい、わかりました」

「うん、それじゃあ、自信の能力として定着するものと。定着はしても自身の能力として分類されないものがあるのか。どうして身に着けるだけで恩恵があるのか。色々と話をしよう」

 天月博人と針城誠子は資料を読みながら語り合う。ニコが持ち得る異能の情報をまとめたメモをカンニングペーパーのごとく使いながら、異能への理解を深めていく。

「覚醒条件は十人十色でその理由も、どこの世界由来のものなのかはわからないし、複数の世界の空kが混ざってできたもの由来かもしれない。それは花の髪留めにも言えることで、どこ産の力なのかわからないから断定はできない……博人君」
「はい」

「私、何でもありなこの世界が大っ嫌いだ」
「あ、はは……ジブンも分からなくもないですけど。それでもこの世界に生まれた以上は仕方ないですよ」

「そうだけども人それぞれ異能の原理が違うとなれば言いたくもなる……博人君の甦る異能だって聞いている感じだけど外部的なものだったはずなのに、博人君自身の異能として定着してるみたいだし……むぅ……難しい」
「そりゃあ、ロロ=イアだってきっと膨大な時間をかけて研究していることなので難しいのは予想できたことかと……結局は実験を繰り返すしかないと思うんです」

 ハリシロセイコは既に疲れたような表情で「実験と言っても、小動物相手だからいざ人間に使用するのかと考えると。怖い」と言った。確かに人体実験が行えればいいのだがそれで仲間たちに使用して副作用で苦しんでほしくないし、ロロ=イアの人員をとらえて実験に使うのも力に目覚める可能性が高まると思うと避けたいところである。そこでふと天月博人が。ジブンを日検体として使えないでしょうか。ジブンならば、副作用で死んでも甦れますし」と思いついたことを提案する。

「博人君、君は死んでも甦ると言っても苦しみ辛みがないわけではない。だったら博人君はもう少し、自分を大事にするべきだと私は思う。楽善君や亜里沙ちゃんが今のを聞いたら怒ってるよ」
「そう……でしょうか、でも。それならどうするんですか? 人間の実験はしたいと思いますが」

 天月博人の問いに針城聖子は伸びをして「今ある取り敢えずの問題はそこだけ」と口にししばらく黙った後に。「仕方ない……まずはロロ=イアの資料を信じよう。それで、捕まっている状態じゃあどうしようもない異能力で、ロロ=イア人員に実験をして経過を見ていこうと思う。やっていることがロロ=イアと似ていて……というかまんまだから気に入らないけれど……」と妥協案を考えるに至ったのだった。

「うん、今回は有り難う。参考になった」
「それなら何よりです」

 その後、天月博人は、数度異能力を見せて、あとは話についていけず頭から湯気が出そうになっていた鬼童世界をつれて、針城聖子とがいる場を後にし、第2拠点に行く準備をしていると鮫料理が出ると聞いて待っているとニコが腹正しそうに顔をこわばらせた表情で語り掛ける。

『ニコもさっきのヒロが被検体になる話。すっごく好ましくなかったんだよ。なんでヒロは接戦して犠牲になりに行こうとするのかな?』
「ご、ごめん……でも、何というか。性分なんだよ昔からの」

『納得できないんだよ』
「こ、こればっかりはどうしようも……」

『二治通して亜里沙の刑にしてやるんだよ』
「そんな殺生な!?」

 ニコは、時間がたつほどに感情が形成され。天月博人を心配する感情のあまり、確かな怒りが形成されるようになっていたのであった。
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