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EX1-13:大沢先生と変わり行く日常
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海の指揮官を討ち倒し、2人は浮遊都市へと向かう中、互いの話を聞いては語る。
互いの名前を知っていたのは、どっちも早乙女桃花経由か、だから木下芳奈はここまで来たんだな。早乙女桃花の種畜情報の多さに対して情報秘匿能力低いなオイ。色々と大丈夫か。何て思いながら、木下芳奈と天城蜜柑は暫く大丈夫そうだと判断して別の画面に目をやる。
『クリア……ウー・チーが暴れている効果は大きいな。遭遇率が低い。ここも大丈夫だ。行くぞ』
昔みた、何かしらの部隊がクリアリングしながら進んでいく光景と類似しているななんて思いながら。六十二式の擬人、河村亜美を加えた3人組を見る。今のところ、危機的な状況に陥りそうな空気はない。
『積極的に前へ前へと進んでいくなあの人……なんか、こう、カッコいいな。引っ張ってくれるお姉ちゃん。的なそんな感じで』
『それ、本人に聞こえるように言わないでよ。調子に乗るから。うん、さっき倉庫に入るときに察したけれど。ズンズン進む姿勢は細かいこと考えてないからだと思う。わたしもあんまり考えない人だから言える立場じゃあないけどね。後、ヴァーニャは引っ張ってくれるお姉ちゃんと言うよりは……感情豊かな威張りたがりで世話焼きで純粋なお母さんかなぁ、イメージ的には』
『マジ? 属性盛りすぎでしょ』
『マジ。補足するとヴァーニャはわたしたちとそんなに年齢変わらないんだよ。あの身体で』
『マジで??』
『マジもマジ』
ここは一応戦場だぞ? なんで雑談しているんだ? ……緊迫した状況なら、心の余裕を得るための一手段として雑談はありか。
『オイ、何をコソコソ話してる。行くぞ。それとも疲れたのか? それなら休憩するが?』
『あっ、そうじゃないよ。まだまだ行けるよ。うん、ちょっと気が抜けてただけだから。ねー亜美ちゃん』
『お、おう。なー茶々ちゃん』
『そうか、なら行くぞ』
『『了解』』
……暫くは何もなさそうだ。そう思って目をイヴァンナ・マハノヴァ達からうー・チーに移そうとしたときふと嫌な予感を感じた。
陸の指揮官が、唯一素肌をさらす口元を愉快そうに歪めており、ウー・チーが空の指揮官と競り合っている場所が付近の建物からイヴァンナ・マハノヴァ達と近いことが分かったからだ。
「流れ弾と言う言葉がある。それは不幸なことであり那賀それでも誰にだってあり得ることなのだ。たとえば、私と実りの民が競り合った結果、周囲が巻き込まれている。このような惨事も周囲の者たちから見れば流れ弾が飛んできたという言葉は当てはまるのだよ
陸の指揮官がそう言うと、同時に、空の指揮官が動きを変えてウー・チーを掴んで建物に向かって諸共衝突。建物を貫いて物陰に隠れていたイヴァンナ・マハノヴァ達を襲った。
瓦礫が弾け、少なからず身体に浴び、装甲越しに打撃を与える。
『おっと失礼、後進の邪魔をしてしまったかね? 詫びを入れておきたいところだが、残念なことにわた島現在実りの民と闘っている。故にそうだな、桜、もてなしてやれ。数名率いてもいいぞ』
『……了解』
おっと失礼じゃないよ、絶対わざとだろアレ。……しかし嫌なことになった。空の指揮官が呼んだことにより橘桜がイヴァンナ・マハノヴァ達の前に宙を舞うようにして現れる。
「うむ、絵面が地味だと思ってたところだ。これで盛り上がるぞ」
……何か指示しただろ陸の指揮官。なんてことを思いながら深刻になっていくイヴァンナたちの事態に気分が悪くなっていく。敵がイヴァンナ・マハノヴァ達を相手にするためだけに橘桜によって召集されていく。腹部の鈍いであろう痛みを手で押さえた気になりながら見たイヴァンナ・マハノヴァの心境はどんな感じなのだろうか。きっと僕では想像できない気分なのであろう。
『一か所に集まるのか、好都合だ』
男の声、空の指揮官の足元から赤い竹が何本も生えて、集おうとする兵士を追いかけ貫き命をえぐる。同時に空の指揮官を蹴り飛ばして瓦礫払いながらウー・チーが体を起こす。
『クソ、1人取りこぼした。……またお前か』
『……殺します』
『いや駄目だ桜。君では実りの民を相手に戦いにすらならない可能性が大きい。私以外ではまともに相手ができないのだよ。だから君は、彼らの相手をしておきなさい』
『……はい』
橘桜はウー・チーを睨みつけながら、少し躊躇った後に銃口をイヴァンナ ・マハノヴァたちに向けた。
『思い通りにさせると思うか?』
それを止めようとウー・チーが構えるが空の指揮官がウー・チーの腕を掴んで『なるとも。そうなるために私は努力していたのだから。さぁ、無駄話は置いておいて、踊ろうではないか』と有無を言わさず連れ去っていく。
『ここで降伏してこっちに戻ってきなさい。私が指揮官に取り計ってあげるから』
あぁ、僕は今この時に理解した。指揮官と言う人間と思わしき害悪は何所までも戦いが好きな畜生で、そして兵器として生み出されたものに心を与えてはいけないと言う事を。本当に、気分が悪い。
『君は善い人だな。私を置いて行くような者ばかりではなかったのか。捨てたものではなかったようだ。だが……すまんなそっちにはもう戻れん』
『本当にごめんね。君とはもっと早く会って仲良くなりたかった』
『私にとって仲間と言えるのは茶々だけでね。そっちに情はないし兵器として生まれたからか自身の命に執着はない。だから以下同文と言う奴だ』
『…………とても残念です』
陸の指揮官がにたりと笑って「殺し合え」と言ったのを皮切りにしたように。銃声が鳴り響き。同時に四人が四人共、射線から逃れようと四方に飛び込むような動きをする。
負傷者は1人。橘桜の様に空を舞うことができるわけでもなく、その実、紅茶々と、茶々と仲がいい河村亜美の様に身軽にすばしっこいわけでもなかった。イヴァンナ・マハノヴァが右肩に1発被弾。装備の装甲と自身の耐久度が相まってか肉が抉られるなんてことはなかったが、痛みで顔がゆがむほどのダメージを受けた。
『グッ……退避! 退避だ。撃って牽制しながら退避だ! ここは身を隠せるポイントが少ない!』
右肩を抑えながらそう叫ぶイヴァンナ・マハノヴァの指示に従って。銃弾を乱舞させながら後退、物陰へと姿を消した。
橘桜は回避しきった後に、逃げ行く3人を見て追いかけるわけでなく上昇。3人の動向を上空から追いかけ攻撃する。
『ぬぅ、動き回りおって……止まらないのはアレか、戦闘機。飛行機系統の形だからか。ヘリコプター系統と違って空中で静止できないのか』
『ヴァーニャ、大丈夫?』
『被弾したことについてか? であれば大丈夫だ。身を隠し続けるのも危険だ。とどまり続けいつかハチの巣にされるくらいなら、せめて前進するぞ』
『了解』
前進、イヴァンナ・マハノヴァ達は物陰から物陰へと移動し。橘桜が攻撃したとしてもそれを防げる場所を転々としながら、僕が居るのであろう場所を目指す。その道中、銃を持つ擬人たちと遭遇し戦闘へと突入する。空を舞い追尾し続けてくる橘桜の存在に上から鉛の雨が降ってくるかもしれないという恐怖を覚えながら、慎重に奮闘。イヴァンナ・マハノヴァが更に1発被弾、紅茶々が橘桜の空襲により5発被弾、通常戦闘により16発被弾、河村亜美は通常戦闘により10発被弾した。
『同胞に思いっきり殴られた感じで痛い……』
『防弾は弾丸を肉をえぐらせ、体内の中へと入りこませず。衝撃を幾分だけ吸収すると聞いた。つまり中々の衝撃が生身を襲うわけだ。ならば当たれば少なからず痛いというのは変わらないとも。……退避して休憩するか?』
『だい……じょぶ。わたしはまだまだ行けるよ』
『本当? 無理してない?』
『大丈夫だって……ふぅ、何人残ってる?』
『……一見、なさそうだな行けるか?』
『だーかーらー大丈夫だって』
今日は何回、嫌な予感を感じればいいのだろう。世の中にはヤバいと言っている奴は大丈夫の対義語がる。つまりは大丈夫大丈夫と言っている奴は何かがヤバいことになっていることが多い。
『証拠見せるからね!』
紅茶々が「私は親愛ないよ」と言わんばかりに率先して前に出始める。見た目相応の子供のような意地を張っているように見えるその姿勢に僕はどうしても不穏、不穏を感じてしまう。
そしてその不穏は物陰から不意を打つように形を得て現れた。
しばらく進んでみた光景、薄く冷たい鋼を中心のオブジェにした血の噴水。それが紅茶々の背中にあった。イヴァンナ・マハノヴァと河村亜美が紅茶々の名を呼ぶ。だが自身の状態をよくわかっていない様子の紅茶々は自信の胸を貫くものをなぞるように見て、刀を持つ男を見た。
刃が引き抜かれ、男によって紅茶々がイヴァンナ・マハノヴァと河村亜美に向かって投げられる。イヴァンナ・マハノヴァが紅茶々を受け止め、河村亜美が『こんのやろう』と男に銃口を向けるがそのころには男は姿を消していた。『クソぉ!』と河村亜美が怒声を吐いた後、紅茶々に駆け寄った。深い、深い悲しみの声が聞こえる。同時に隣で聞こえる「よくやったぞ鶴丸」とあの男であろう人物の名前を呼んでほめる陸の指揮官がボクの気分を害する。
何かを語り合っているようだが、あまりにも小さい声で何も聞こえない。そしてしばらくしてイヴァンナ・マハノヴァと河村亜美が悲痛な表情のまま紅茶々をおいて先へと進んだ。
……紅茶々の声が聞こえる。
『近づきなよ、声……聞こえにくいでしょ……』
画面が拡大される、息遣いすらも聞こえてい来る。
『へ、へへへ。大沢先生……みてるー? ……わたし、やられちゃった。でも、指揮官が使うはずだった命を大沢先生に使ってあげられたって考えたら。わたし、まだマシな最期だと思うんだよね…………えっと、何を言おうとしたんだっけ……あぁ、そうだ。わたしね、あの日常が今でも帰りたいって思うくらい好きだった。蜜柑とヴァーニャと大沢先生と一緒に居られる時間が好きだった…………わたし、大沢先生のこと、好きになってたんだよ。気づいてた?』
……そんな素振りなかっただろ、気が付くわけがないだろ。なぁ、やめろよ、嫌でも君との今までの記憶を思い返してしまうじゃないか、どうしてもこの記憶の子が次の瞬間には見られなくなるなんて思っちゃうじゃないか。
『鹵獲されなければこんな目に合わなかったのに、残念でなりません』
橘桜の声が聞こえて、カメラが引いて紅茶々の目の前に着地していたのを知る。しばらくしてそれに気が付いたのか紅茶々が手を伸ばし、橘桜が後ろへと反射的に後退してそれを拒む。
『生きていましたか、お辛いでしょう』
『死にたくない……まだ生きたいよ』
掠れた。救いを求める言葉を紅茶々は絞り出すように口に出す。すると橘花は哀れに思ったのか近づいて『だ、大丈夫です。今すぐ治療をすれば生存はできます。その程度の傷、擬人であるなら我慢できます。どうか、一言、降伏して……』
陸の指揮官が「終わったな」と言ってウー・チーと空の指揮官の戦いを見始める。何が終わったのかと思っていると指揮官が語る。
「それは、どこに向かってくるかが不確定で凍結されたもの。もしかしたら自陣に向かって突っ込んでくるかもしれないと懸念されたものだ。当時、自陣に返ってくるかもしれないと懸念した者よ。そいつの懸念は正しいものとして今、立証される」
どう言う事だろうか、そう思っていると紅茶々が橘花の手を握りしめ『もう助からないよ」と口にする。諦めてはなりませんと励ます橘桜に紅茶々は悲しそうな表情で手を強くつかみ。膝から、肘から炎を吹き出す。
『本当にいい人だね。おかげでようやく捕まえられた』
『えっ……なっ!?』
橘桜は、嫌な予感を感じたのか空へと逃げようとした。だが紅茶々は手を離すことはなく。肘や膝から噴き出る炎の勢いが空を飛ぶ感覚を狂わせているようで、しばらく不規則に空中で暴れ回った跡、紅茶々が橘桜諸共自爆した。
死んだ。紅茶々が死んだ。己が死ぬのは怖くはない。だけれど僕の人生譚に登場しておいて死んでしまえば、これからは登場することはもうないのだなと考えると途轍もなく寂しい。
寂しい、苦しい、気分が悪い、吐きそうだ。ここまで、気分を害し、吐き出せないままでいるのは初めてだ。
______死ぬほど、気持ちが悪い。据えて目の前にいる男のせいだ。そう思ったとき、僕の頬は自然と笑みを浮かべていた。まるでタガが外れたように。「狂ったのか?」と陸の指揮官が尋ねる。
狂っているだって? 狂っているのは現状だ。
社会の様に、運命の様に理不尽の極みだ。どこに至って何処と無く感じられる絶望のど真ん中だ。
世界が僕達を苦しめる。だからと言って僕が泣き喚くのは、絶望に駆られるのは。まるで僕たちを苦しめようとする世の中に負けてしまう様で気に入らない。
気に入らないからこうやって指で口を無理やり釣り上げてでも笑って、俺はこんなに狂って理不尽な絶望の中でも笑っていられるんだぞと、負けていないんだぞと、それらが意思を持っていたとしたら気に入らないであろう笑顔を作ろうって対抗しているのさ。
体が痛い、熱い、痺れる。何かがあふれそうだ。だからどうした。僕は、もういつでも死んでいいと思っている身だ最後まであらがってやる。あぁ、でも……そうだな、木下芳奈には申し訳ない。どうやら、僕は自分から君をおいていくことになりそうだ。
絆を紡いだ者の死、度重なる不幸のストレスが淀みとなり大沢先生の中で溢れんばかりに溜まる。そして指揮官と言う敵を確かな倒すべき敵だと認識したとき。大沢先生の魂が燃え上がる。
、燃え盛る魂の炎の火は淀みにガソリンのごとく点火、更に燃え盛り、大きな炎となった。そして炎は力となって意味を持つ。
手枷が溶けて落ちる。鉄格子に触れれば腐り落ちる。
「ほう、友の死に異能とやらに覚醒したか。だが、身をそのままの意味で削っていることに気が付いているかな?」
「そうだろうとも、すごく痛い。だが理解できる。僕は毒、無機物すらも溶かしうる浸食毒となった。お前だけは道連れにしてやるぞクソ野郎」
大沢先生は多くのものを支払い異能者となった。
互いの名前を知っていたのは、どっちも早乙女桃花経由か、だから木下芳奈はここまで来たんだな。早乙女桃花の種畜情報の多さに対して情報秘匿能力低いなオイ。色々と大丈夫か。何て思いながら、木下芳奈と天城蜜柑は暫く大丈夫そうだと判断して別の画面に目をやる。
『クリア……ウー・チーが暴れている効果は大きいな。遭遇率が低い。ここも大丈夫だ。行くぞ』
昔みた、何かしらの部隊がクリアリングしながら進んでいく光景と類似しているななんて思いながら。六十二式の擬人、河村亜美を加えた3人組を見る。今のところ、危機的な状況に陥りそうな空気はない。
『積極的に前へ前へと進んでいくなあの人……なんか、こう、カッコいいな。引っ張ってくれるお姉ちゃん。的なそんな感じで』
『それ、本人に聞こえるように言わないでよ。調子に乗るから。うん、さっき倉庫に入るときに察したけれど。ズンズン進む姿勢は細かいこと考えてないからだと思う。わたしもあんまり考えない人だから言える立場じゃあないけどね。後、ヴァーニャは引っ張ってくれるお姉ちゃんと言うよりは……感情豊かな威張りたがりで世話焼きで純粋なお母さんかなぁ、イメージ的には』
『マジ? 属性盛りすぎでしょ』
『マジ。補足するとヴァーニャはわたしたちとそんなに年齢変わらないんだよ。あの身体で』
『マジで??』
『マジもマジ』
ここは一応戦場だぞ? なんで雑談しているんだ? ……緊迫した状況なら、心の余裕を得るための一手段として雑談はありか。
『オイ、何をコソコソ話してる。行くぞ。それとも疲れたのか? それなら休憩するが?』
『あっ、そうじゃないよ。まだまだ行けるよ。うん、ちょっと気が抜けてただけだから。ねー亜美ちゃん』
『お、おう。なー茶々ちゃん』
『そうか、なら行くぞ』
『『了解』』
……暫くは何もなさそうだ。そう思って目をイヴァンナ・マハノヴァ達からうー・チーに移そうとしたときふと嫌な予感を感じた。
陸の指揮官が、唯一素肌をさらす口元を愉快そうに歪めており、ウー・チーが空の指揮官と競り合っている場所が付近の建物からイヴァンナ・マハノヴァ達と近いことが分かったからだ。
「流れ弾と言う言葉がある。それは不幸なことであり那賀それでも誰にだってあり得ることなのだ。たとえば、私と実りの民が競り合った結果、周囲が巻き込まれている。このような惨事も周囲の者たちから見れば流れ弾が飛んできたという言葉は当てはまるのだよ
陸の指揮官がそう言うと、同時に、空の指揮官が動きを変えてウー・チーを掴んで建物に向かって諸共衝突。建物を貫いて物陰に隠れていたイヴァンナ・マハノヴァ達を襲った。
瓦礫が弾け、少なからず身体に浴び、装甲越しに打撃を与える。
『おっと失礼、後進の邪魔をしてしまったかね? 詫びを入れておきたいところだが、残念なことにわた島現在実りの民と闘っている。故にそうだな、桜、もてなしてやれ。数名率いてもいいぞ』
『……了解』
おっと失礼じゃないよ、絶対わざとだろアレ。……しかし嫌なことになった。空の指揮官が呼んだことにより橘桜がイヴァンナ・マハノヴァ達の前に宙を舞うようにして現れる。
「うむ、絵面が地味だと思ってたところだ。これで盛り上がるぞ」
……何か指示しただろ陸の指揮官。なんてことを思いながら深刻になっていくイヴァンナたちの事態に気分が悪くなっていく。敵がイヴァンナ・マハノヴァ達を相手にするためだけに橘桜によって召集されていく。腹部の鈍いであろう痛みを手で押さえた気になりながら見たイヴァンナ・マハノヴァの心境はどんな感じなのだろうか。きっと僕では想像できない気分なのであろう。
『一か所に集まるのか、好都合だ』
男の声、空の指揮官の足元から赤い竹が何本も生えて、集おうとする兵士を追いかけ貫き命をえぐる。同時に空の指揮官を蹴り飛ばして瓦礫払いながらウー・チーが体を起こす。
『クソ、1人取りこぼした。……またお前か』
『……殺します』
『いや駄目だ桜。君では実りの民を相手に戦いにすらならない可能性が大きい。私以外ではまともに相手ができないのだよ。だから君は、彼らの相手をしておきなさい』
『……はい』
橘桜はウー・チーを睨みつけながら、少し躊躇った後に銃口をイヴァンナ ・マハノヴァたちに向けた。
『思い通りにさせると思うか?』
それを止めようとウー・チーが構えるが空の指揮官がウー・チーの腕を掴んで『なるとも。そうなるために私は努力していたのだから。さぁ、無駄話は置いておいて、踊ろうではないか』と有無を言わさず連れ去っていく。
『ここで降伏してこっちに戻ってきなさい。私が指揮官に取り計ってあげるから』
あぁ、僕は今この時に理解した。指揮官と言う人間と思わしき害悪は何所までも戦いが好きな畜生で、そして兵器として生み出されたものに心を与えてはいけないと言う事を。本当に、気分が悪い。
『君は善い人だな。私を置いて行くような者ばかりではなかったのか。捨てたものではなかったようだ。だが……すまんなそっちにはもう戻れん』
『本当にごめんね。君とはもっと早く会って仲良くなりたかった』
『私にとって仲間と言えるのは茶々だけでね。そっちに情はないし兵器として生まれたからか自身の命に執着はない。だから以下同文と言う奴だ』
『…………とても残念です』
陸の指揮官がにたりと笑って「殺し合え」と言ったのを皮切りにしたように。銃声が鳴り響き。同時に四人が四人共、射線から逃れようと四方に飛び込むような動きをする。
負傷者は1人。橘桜の様に空を舞うことができるわけでもなく、その実、紅茶々と、茶々と仲がいい河村亜美の様に身軽にすばしっこいわけでもなかった。イヴァンナ・マハノヴァが右肩に1発被弾。装備の装甲と自身の耐久度が相まってか肉が抉られるなんてことはなかったが、痛みで顔がゆがむほどのダメージを受けた。
『グッ……退避! 退避だ。撃って牽制しながら退避だ! ここは身を隠せるポイントが少ない!』
右肩を抑えながらそう叫ぶイヴァンナ・マハノヴァの指示に従って。銃弾を乱舞させながら後退、物陰へと姿を消した。
橘桜は回避しきった後に、逃げ行く3人を見て追いかけるわけでなく上昇。3人の動向を上空から追いかけ攻撃する。
『ぬぅ、動き回りおって……止まらないのはアレか、戦闘機。飛行機系統の形だからか。ヘリコプター系統と違って空中で静止できないのか』
『ヴァーニャ、大丈夫?』
『被弾したことについてか? であれば大丈夫だ。身を隠し続けるのも危険だ。とどまり続けいつかハチの巣にされるくらいなら、せめて前進するぞ』
『了解』
前進、イヴァンナ・マハノヴァ達は物陰から物陰へと移動し。橘桜が攻撃したとしてもそれを防げる場所を転々としながら、僕が居るのであろう場所を目指す。その道中、銃を持つ擬人たちと遭遇し戦闘へと突入する。空を舞い追尾し続けてくる橘桜の存在に上から鉛の雨が降ってくるかもしれないという恐怖を覚えながら、慎重に奮闘。イヴァンナ・マハノヴァが更に1発被弾、紅茶々が橘桜の空襲により5発被弾、通常戦闘により16発被弾、河村亜美は通常戦闘により10発被弾した。
『同胞に思いっきり殴られた感じで痛い……』
『防弾は弾丸を肉をえぐらせ、体内の中へと入りこませず。衝撃を幾分だけ吸収すると聞いた。つまり中々の衝撃が生身を襲うわけだ。ならば当たれば少なからず痛いというのは変わらないとも。……退避して休憩するか?』
『だい……じょぶ。わたしはまだまだ行けるよ』
『本当? 無理してない?』
『大丈夫だって……ふぅ、何人残ってる?』
『……一見、なさそうだな行けるか?』
『だーかーらー大丈夫だって』
今日は何回、嫌な予感を感じればいいのだろう。世の中にはヤバいと言っている奴は大丈夫の対義語がる。つまりは大丈夫大丈夫と言っている奴は何かがヤバいことになっていることが多い。
『証拠見せるからね!』
紅茶々が「私は親愛ないよ」と言わんばかりに率先して前に出始める。見た目相応の子供のような意地を張っているように見えるその姿勢に僕はどうしても不穏、不穏を感じてしまう。
そしてその不穏は物陰から不意を打つように形を得て現れた。
しばらく進んでみた光景、薄く冷たい鋼を中心のオブジェにした血の噴水。それが紅茶々の背中にあった。イヴァンナ・マハノヴァと河村亜美が紅茶々の名を呼ぶ。だが自身の状態をよくわかっていない様子の紅茶々は自信の胸を貫くものをなぞるように見て、刀を持つ男を見た。
刃が引き抜かれ、男によって紅茶々がイヴァンナ・マハノヴァと河村亜美に向かって投げられる。イヴァンナ・マハノヴァが紅茶々を受け止め、河村亜美が『こんのやろう』と男に銃口を向けるがそのころには男は姿を消していた。『クソぉ!』と河村亜美が怒声を吐いた後、紅茶々に駆け寄った。深い、深い悲しみの声が聞こえる。同時に隣で聞こえる「よくやったぞ鶴丸」とあの男であろう人物の名前を呼んでほめる陸の指揮官がボクの気分を害する。
何かを語り合っているようだが、あまりにも小さい声で何も聞こえない。そしてしばらくしてイヴァンナ・マハノヴァと河村亜美が悲痛な表情のまま紅茶々をおいて先へと進んだ。
……紅茶々の声が聞こえる。
『近づきなよ、声……聞こえにくいでしょ……』
画面が拡大される、息遣いすらも聞こえてい来る。
『へ、へへへ。大沢先生……みてるー? ……わたし、やられちゃった。でも、指揮官が使うはずだった命を大沢先生に使ってあげられたって考えたら。わたし、まだマシな最期だと思うんだよね…………えっと、何を言おうとしたんだっけ……あぁ、そうだ。わたしね、あの日常が今でも帰りたいって思うくらい好きだった。蜜柑とヴァーニャと大沢先生と一緒に居られる時間が好きだった…………わたし、大沢先生のこと、好きになってたんだよ。気づいてた?』
……そんな素振りなかっただろ、気が付くわけがないだろ。なぁ、やめろよ、嫌でも君との今までの記憶を思い返してしまうじゃないか、どうしてもこの記憶の子が次の瞬間には見られなくなるなんて思っちゃうじゃないか。
『鹵獲されなければこんな目に合わなかったのに、残念でなりません』
橘桜の声が聞こえて、カメラが引いて紅茶々の目の前に着地していたのを知る。しばらくしてそれに気が付いたのか紅茶々が手を伸ばし、橘桜が後ろへと反射的に後退してそれを拒む。
『生きていましたか、お辛いでしょう』
『死にたくない……まだ生きたいよ』
掠れた。救いを求める言葉を紅茶々は絞り出すように口に出す。すると橘花は哀れに思ったのか近づいて『だ、大丈夫です。今すぐ治療をすれば生存はできます。その程度の傷、擬人であるなら我慢できます。どうか、一言、降伏して……』
陸の指揮官が「終わったな」と言ってウー・チーと空の指揮官の戦いを見始める。何が終わったのかと思っていると指揮官が語る。
「それは、どこに向かってくるかが不確定で凍結されたもの。もしかしたら自陣に向かって突っ込んでくるかもしれないと懸念されたものだ。当時、自陣に返ってくるかもしれないと懸念した者よ。そいつの懸念は正しいものとして今、立証される」
どう言う事だろうか、そう思っていると紅茶々が橘花の手を握りしめ『もう助からないよ」と口にする。諦めてはなりませんと励ます橘桜に紅茶々は悲しそうな表情で手を強くつかみ。膝から、肘から炎を吹き出す。
『本当にいい人だね。おかげでようやく捕まえられた』
『えっ……なっ!?』
橘桜は、嫌な予感を感じたのか空へと逃げようとした。だが紅茶々は手を離すことはなく。肘や膝から噴き出る炎の勢いが空を飛ぶ感覚を狂わせているようで、しばらく不規則に空中で暴れ回った跡、紅茶々が橘桜諸共自爆した。
死んだ。紅茶々が死んだ。己が死ぬのは怖くはない。だけれど僕の人生譚に登場しておいて死んでしまえば、これからは登場することはもうないのだなと考えると途轍もなく寂しい。
寂しい、苦しい、気分が悪い、吐きそうだ。ここまで、気分を害し、吐き出せないままでいるのは初めてだ。
______死ぬほど、気持ちが悪い。据えて目の前にいる男のせいだ。そう思ったとき、僕の頬は自然と笑みを浮かべていた。まるでタガが外れたように。「狂ったのか?」と陸の指揮官が尋ねる。
狂っているだって? 狂っているのは現状だ。
社会の様に、運命の様に理不尽の極みだ。どこに至って何処と無く感じられる絶望のど真ん中だ。
世界が僕達を苦しめる。だからと言って僕が泣き喚くのは、絶望に駆られるのは。まるで僕たちを苦しめようとする世の中に負けてしまう様で気に入らない。
気に入らないからこうやって指で口を無理やり釣り上げてでも笑って、俺はこんなに狂って理不尽な絶望の中でも笑っていられるんだぞと、負けていないんだぞと、それらが意思を持っていたとしたら気に入らないであろう笑顔を作ろうって対抗しているのさ。
体が痛い、熱い、痺れる。何かがあふれそうだ。だからどうした。僕は、もういつでも死んでいいと思っている身だ最後まであらがってやる。あぁ、でも……そうだな、木下芳奈には申し訳ない。どうやら、僕は自分から君をおいていくことになりそうだ。
絆を紡いだ者の死、度重なる不幸のストレスが淀みとなり大沢先生の中で溢れんばかりに溜まる。そして指揮官と言う敵を確かな倒すべき敵だと認識したとき。大沢先生の魂が燃え上がる。
、燃え盛る魂の炎の火は淀みにガソリンのごとく点火、更に燃え盛り、大きな炎となった。そして炎は力となって意味を持つ。
手枷が溶けて落ちる。鉄格子に触れれば腐り落ちる。
「ほう、友の死に異能とやらに覚醒したか。だが、身をそのままの意味で削っていることに気が付いているかな?」
「そうだろうとも、すごく痛い。だが理解できる。僕は毒、無機物すらも溶かしうる浸食毒となった。お前だけは道連れにしてやるぞクソ野郎」
大沢先生は多くのものを支払い異能者となった。
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