自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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7-5:治すための旅へ

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「ロシアの拠点を得られたのは良いが、精神的ダメージから考えて割りにあってない……」
『それは自業自得だから割りにあってるも何も無いんだよ、全く。
 利益的には割にあってると言ってもいいかな。
 ロシアの活動拠点は得られたわけだし。
 レジスタンスの活動範囲が増えたと思えば長い目で見たら上々なんだよ。
 ロシアで知り合った女の子、ソフィアちゃんっていう大きくなったらヒロのお嫁さん候補になりそうな子とも知り合えたしね』
 
「やーめろ、年の差的に光源氏計画になる。倫理的にどうなんだそれは」
『年の差結婚とかあるし倫理的には問題ないと思うんだよ。強いて問題をあげるなら世の中の目が若干冷たいくらい。
 と言うか敵や悪人を割と非道にらしめてるのに倫理とか言うんだー』
 
「言うわい、そこらへんの罪の清算は全部終わったらやるつもりだよ。方法は現在模索中だがね。
 それにだ。ジブンは生涯、結婚するつもりはないぞ。
 ナッちゃんが忘れられてないからな。一々、脳裏で初恋の子をチラつかれても、結婚した相手が可哀想だろ。
 そしてもう1つ。自分自身、3Cu_59に汚されてるのと、そのせいで割とトラウマになってるから、誰かと夫婦になって相手が欲しがっても子が成せない致命的な状況になり得るからな。
 ネトラって言ったっけ? それされても、まぁ、文句は言えないよな?」
『いやいやいや。言えるから! ……ヒロってその状況になったら、愛した人がそれで幸せだったらそれで良いやって受け入れる挙句に姿を眩ませるよね!? と言うか誰!? ヒロにそのクッソ最悪な知識与えた人!?』
 
「えーと、あれは確か、ピンキーがオリジナルの昔馴染みである【原則への乱逆者】が人間だった時のはなしで、ふとこう言うのが好きでとか何とか言ってて、ジブンがどう言う事か詳しい事聞いたのが大まかな流れだった様な」
『ピンキーとその昔馴染みさんバッカじゃないのかな!? 倫理観が終わってるんだよ!』
 
「ピンキーの悪口を言ってやるな、あの人はオリジナルと違って人間だった時がないからか、その当たりフワフワしてるから。
 それとニコ? あんまり怒ってると禿げるらしいぞー」
『ニコはデータ! ストレス云々の身体的異常なんて知った事じゃないんだよ!……はぁ、このまま最低な話題を続けるのもなんだから話題を戻すけれど。
 結婚しないの? 汚されて云々は大丈夫大丈夫。世の中、初物以外認めないとかそう言う風にできてるわけじゃあないからね。
 ニコとかだったらヒロが汚れてても気にしないんだよ?』
 
「データのニコには関係ないから気にしないのは当然なんじゃ?」
『……確かにニコはデータだもんねー、さっきニコ自身が言った事だもんねー、ぶーだ。
 でさ、ナッちゃんがチラつくのは……今だからしょうがないけど、人は過去より未来に向かう今。
 ヒロなら過去を乗り切れるはずだからヒロなら行けるんだよ! じゃないとほら、口也や二治、とくに亜里沙に孫を見せてあげられず悲しまれるんだよ』
 
「まだ高校1年生で、その三十路ごろに独身だと、親に言われそうなことをニコから言われるとは思わなんだ。
 まぁその辺りはその時その時の流れかなぁ。ジブン的には無理だけど」
 
 ロシア帰り、白雉島を開けていた間に溜まった仕事を消化してグデリと机に重心を預けてニコと駄弁って居ると、話題をへし折る形で瞬間的に中田文兵が出現する。
 
「アメリカの兵器擬人を処理して終わったぜー。そんで帰るついでに瑠衣子さんとロシアで活動してぇって言ってる奴らをロシアに送って置いたぞ。更についでにピンキーに組織名なげぇよって苦情入れたら『リーダー君にも言われたよそれ。だから短く考えてみたよ。改名したこの組織の新たな名前は【鏡な糸】でいこう!』だってよ、鏡と糸に拘りすぎだろ」
「お疲れ様です。鏡な糸ですねありがとうございます。名乗りやすくなりました」
 
「そんで、えーと。次は博人をギリシアに連れて行けば良いんだっけか?」
「はい、よろしくお願いします」
 
「オーケーオーケー、の前に掲示板を確認させてくれ」
 
 中田文兵は携帯端末を取り出して、レジスタンスとその協力者用の掲示板を覗き込む。
 
「ドイツに居た魔王軍は別個の奴らが解決したか、そんじゃあ俺はイギリスに行くかねぇ。たしか、アレだろ? 世界を救えるかもしんねぇ腕輪があるとこ」
 
「うい、そこです」 
「はぁ、情報収集面倒クセェなぁ。ちょくちょくニコが手助けしてくれるとは言えな、外人とのやり取りは面倒くさくてよ。辞典を読みながらってのも面倒臭さに拍車をかけやがる」
 
「まぁまぁ、ジブンもギリシアが終わり次第、合流しますから」
「はぁ、マジで早く頼むぜ? 俺の情報源って痛めつけた不良っぽい何かぐらいだからよ」
 
「ベテランっぽい物乞いとかホームレスが存外に知ってたりしますよ。知らなくても割高ではありますが前払いして、報酬を出すと提示すれば働いてくれます。ちょっとした情報屋代わりですね」
「へぇ……ロシアでやったのか?」
 
「異世界、異能力関係に詳しそうで、尚且つ情報を持ってそうな人間を探すためにやりました。
 イベントがあって黒字ではあるもののお金が心許ねぇ!」
 
「成る程ねぇ」
「ほーら見なさいよ文兵、やっぱりもうちょっと穏便なやり方があったじゃない。黴菌を持ってそうな人に近寄るのは私的にマイナス点だけど、弾けた血肉を浴びるよりは遥かにマシなやり方が!」
 
「なんかうるさいのがさえずり始めたから行こうぜ」
「ちょっと!?」
 
 相変わらず、ある意味で仲が良いなと思いつつ。天月博人は「お、おう」と中田文兵が差し出した。
 
「いざギリシアへ」
 
 天月博人は兵器擬人を討伐するべく、また天月口也の病気を治せるかもしれない進化の果実を求めてギリシアへと向かう。
 
 
 

 
 ───天月博人は奇跡的なまでに不幸である。
 また、天月博人が会いたくて、巻き込みたくないが故に会いたくなくて仕方がない人物は奇跡的なまでに幸運である。
 
「意外とお、重いっス」
「姉ちゃんにしては珍しくいっぱい買ったもんねー」
「セールもやってたしね。お姉ちゃん張り切って1週間分は買っちゃった。帰ったら一緒にチョコレート食べようね」
 
「そのチョコレートって荷物持ちとして駆り出されたウチにも報酬で頂けるんスかね?」
「……えー」
 
「えーって何スか!?」
「大丈夫だよ師匠、ウチの分、わけてあーげる」
 
「お、おぉ。ウチの愛弟子……マジ良い子で可愛いっス~! ウリウリィ ……ん? 福引きやってるみたいっスね。5000円の買い物したら1回できる見たいっスよ。一等は……おぉ!……おぉ? こう言うので一等はハワイ旅行と相場が決まっているんじゃないんスか……」
「せっかくだしやってみようよ。2回はできるよ!」
「やりたいの? じゃあハイ、レシート。当たると良いわね。できれば五等のサランラップとキッチンペーパーのセット」
 
「何さりげなく要望を言ってるんスか」
 
「おぉ金の玉! 一等賞! 一等賞が出ました!」
「わ、わっ……えっと、もう1回引けるんですけど。良いですか?」
 
「あっはい、どうぞどうぞ!…………え、嘘だろ」
「え、えーと。ごめんなさい」
 
「……マジパネェッス。ウチの愛弟子」
「我が妹ながらに恐ろしいわ。どうすんのアレ。売れる?」
 
「いやいやいや駄目ッスよ行きましょうよ! 1組2名様ッスよ!? できれば片方はウチにくださいッス。ウチ、雉丸兄さんを誘いますから! チョコレートいらねぇッスから!」
「必死かお前。その辺はあの子次第ね」
 
「姉ちゃーん! 師匠~!」
「行く感じねアレ……はぁ、1週間分の食材はどうしようかな……お前んに買ってもらおうかしら」
「ウチん家に売りつけるんスか!?」
 
「飛行機とホテルのチケット代って考えれば安いもんでしょ」
「そうッスけどぉ……はいはいわかったッスよ。雫姉さんとミコトちゃんにお小言言われながらお小遣い減らされ、当主に笑われる覚悟を今のうちにしておくッス」
 
 
 
 
 そう、天月博人は不幸で、あの子は幸運であった。
 天月博人の不幸が、あの子の幸運がかち合った場所はギリシアの一端であった。
 
「ギロピタ美味いなこれ……ケバブの一種だっけ。ギリシア料理の本買ってくか……」
『ヒロの買った奴はフェタチーズも入ってって、ギリシアと言えばって言われて思いついたのを混ぜた感あるからギロピタかって聞かれたら微妙っぽいらしいんだよ。
 と言うかまたご当地の料理本買うの? ロシア料理の本も買ってたけどさー、家だと仕事仕事で読めないからって亜里沙に送ったよね?』
 
「いいかいニコ? 日本人が財布の満足感とお腹の満足感、どっちを選ぶかなんてのはわかりきった話なんだよ。ここで大多数がお金を取るなら。毒持ってる蒟蒻コンニャク芋、フグ、キノコ類の食べ方は発見されてない。
 コンニャクとかどう言う状況で開発されたんだアレ」
『そこまで食べることに熱心になる? ニコはそこらへんわかんないかなー、データだし。
 ところで食べる方法が見つかるまでの過程は検索かける?』
 
「あー、道中の話題にはなるかよし検索を」
 
 天月博人がもう明確に繋がることが無いと思っていた縁が、お土産が入っている袋の落ちる音と共に繋がる。
 音がなれば、おおよその人が視線を向けるのは仕方がなく。天月博人は音が聞こえた方向をギロピタを食べながら向く。
 
「に、兄ちゃん?」
 
 肩甲骨の辺りまで伸びた金髪で隈が有るツリ目のギリギリ小学生な少女と、同じく金髪で低めのお団子ヘアな天月博人よりも若干年上っぽい女が居た。
 双方とも天月博人を見て驚いている様子であり、その様子を確認した天月博人は、ギロピタを頬張るようにして食べきり、飲み物で無理やり流し込んで一息吐くと。店員にお金を払い。「よう」と言いたげな様子で2人に近づくかと思えば、限界速度にまで加速して逃げ出した。
 
「え、兄ちゃん……師匠……あの人、ウチの兄ちゃんだよね」
「うん、何かとんでもなく早いけど、見た途端に思い出したんだし間違いなくね。はぁ……何で忘れてたんかなぁ、ウチにとっても大事な愛弟子なのに……国際電話って確か……よし…………あっもしもし根々ネネッスけど雫姉さんッスか? ミコトちゃんに変わって欲しいんスけど。
 あい、どもどもッス。……ヤッホーミコトちゃん元気ー? 未だに何かが欠けてる気がするん? 変わってないかー……いやね、今、その欠けたピースっぽいの見つけたんだ。博人君って覚えてる? ……覚えてないかー。あっ、でも何か懐かしいような気がするんスね。それだけわかれば十分。それじゃあねぇ。……はい、電話終わりっと」
 
「師匠?」
さち、どう言う方法をとったかわからないけど。大事な思い出全部消してやがったぽい、あんにゃろうを取っ捕まえるッスよ」
 
 天月博人にとって彼女達と出会うのは不幸であった。欠けらでも巻き込む要素を彼女達に与えたくなかったからだ。
 彼女達にとって天月博人に出会ったのは幸運だった。記憶は失われていても何処か奥底で、天月博人との再会を望んでいたからである。
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