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9-1:ニコは触れ合いたい
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「……カガミナイトに天城蜜柑経由で1名……2名? を保護。
名前は如月小鳥……2年の間行方不明だった大いなる田舎、北の神社に住んでいた如月一家殺人事件の今更出てきた生存者。
ナカタニさんがピンキーを連れて面談したことで記憶喪失ではあったものの本人である事を確認積み。
そんでピンキー曰く、なんかお兄ちゃんなる幽霊みたいな存在を捕まえて離さないと。
人にはそれぞれ物語があると思うけど、これまた難儀な物語を綴ってそうだなぁ。
それに霊界ねぇ……夢の世界みたいにこの世界の中に発生した世界だったりしない?」
『ピンキーが知ってると思うからちょっと連絡してみるんだよ……来たよ』
「はっや、速いなオイ。
あの島に漸く広まった携帯電話にかじりついてんのか。
それで、どう返信がきた?」
『えーとね』と言ってニコがピンキーの声に声色を変えて『そうだね。
この世界の中で生まれた世界。
この世界と親と子の関係にある世界だね。
と言っても霊界はほかとも親と子の関係を持ってるけどそれは置いておいて、私の昔馴染みは基本的にそう言った親と子の関係にある世界に司ると言うかなんというかxー、干渉できる力を持ってるからね。
私の昔馴染みの1人であるNo.8、つまりは【虚像に身を隠し才能を探す者】が居たって事はそういう関係の世界って認識でいいよ』と、ピンキーが送ってきた文を読み上げた。
「成る程ねぇ……オレって何度も死んでるのに霊界の出入り口さえ行った事ないんだけど」
『行っちゃあ嫌なんだよ』
「お、おぉ。
わかってるって、行きそうになっても無理矢理にでも踵《きびす》を返して戻ってくるから。
そんな泣きそうな顔をするなって。
……で、脱線しかけたから戻すけど、もしかしてこの世界と親と子の関係にある世界って8つはある事が確定してたり?」
『ピンキーに確認するんだよ』
ニコが確認を取ると直ぐにピンキーから返信が来る。
やっぱり携帯端末にかじりついてるだろと思いつつ、ニコの読み上げに耳を傾ける。
『【遥か高みへの先導者】は人がちょっとでも関係してたらどこにでも行けるし干渉できるから抜くとして。
【幸福に満たす者】、【原則への乱逆者】、【背中を押す
蛮勇者】には特にそういうのはなくて。
ピンキーこと私、【想いの海に佇む者】が行き来できて干渉できる、現状、現世のお空でその一端が開張中の、夢や意識が集まった【精神世界】。
【善性を見出す者】が居るネット回線やら電波やらで形成された【電子世界】。
【体験し焼き付ける者】が人類が今まで獲得した知恵や知識、今では失われたり、秘匿されているものも含めた情報すらも概念となって形成された【人類獲得叡智保管世界】。
【虚像に身を隠し才能を探す者】が干渉できるあらゆる“あの世”に繋がる【霊界】と鏡に映る反転した【虚像世界】。
【精神世界】【電子世界】【人類獲得叡智保管世界】【霊界】【虚像世界】の5つの世界が、私が知ってる現世と子の関係にある世界だよ』
ピンキーが知覚しているもので、最低でも5つの世界がある事がわかる。
【電子世界】と聞いてふと疑問になった事をニコに尋ねる。
「電子世界って、これかなって感じのある?」
するとニコは腕を組んで悩み始める。
『うーん、強いて言えばニコが居る場所? とか。
……ごめん、ちょっと難しいんだよ』
「そうかー……、その【虚像に身を隠し才能を見出す者に】に協力を仰げたりはしない?」
『それならピンキーからあらかじめ答えをもらってるんだよ! えーっとねー。
『これは人に課すにはあまりにも酷で、私たちのような超常的な存在が人間を巻き込まないよう解決に取り組むべきです』
って言って人間と協力すべきって意見の私と道を違えてるから協力を得るのは難しいからね』
とのことなんだよ』
「まじかー」
『まじだー』
「……はい、それじゃあ次の記事に行こうか」
『はーい』
ニコが画面内を腕いっぱい動かしてスワイプする事で次の記事が出る。
そこにはカガミナイトが拠点としている島の、島の割合から見る制圧率が7割を突破したこと、カガミナイトの総員が506名になった事。
新たに増えた拠点を記した地図。
子供達、また屋宮亜里沙と鬼童世界が寂しさを訴えて居るからたまには帰って来いの要請に。
本土にて家族との再会報告。
カガミナイトメンバーの結婚
報告等が載せられていた。
「上手くいってるなー」
『ねー』
カガミナイトは現状問題なく目的に向かって進んでいる。
だけれど天月博人はそれを見ると頭が痛くなり溜息を吐いてしまう。
「制圧できたら島主と名乗れる様に、島を買わないと……若干インフラ整備したし、というか一部インフラはカガミナイトのみんなで自力でやったやつだし……うーん開拓された島って割高になるかな……話詰めていかないとなぁ。
お金かき集めないと……」
『いっそのこと、誰もその島を開拓していいなんて言ってないだろうがー! とかケチつけてくれたら楽なのにね』
「……なんで?」
『えっだって、それを言った人と家族、その友達とその家族をナカタニさんとヒロで皆殺しにしたら、後は何も考えず、踏ん反り返ってお金払わなくてよくなるよ?』
「世界を救いたいのに世界と敵対する事になるわ!
ナカタニさんに染まりすぎだろ」
『えー、いい考えだと思うのになー
カガミナイトって人数はまだ少ないけど核兵器よりも脅威なの居るし……あっでもそうすると広範囲無差別兵器を打ち込まれてヒロとナカタニさん以外やられちゃうか……うーん、ニコが各国の核兵器のシステムをの乗っ取って、権限握ってこようか?
そしたら世界は迂闊に手を出せなくなるし、交渉の時も優位に「ニコ、ちょっと落ち着きなさい」なる、んだよ………はーい……次の記事に行く?』
「ウイ、たのむ」
次々と読み上げられる文月見世が手がけた記事を再び耳にしながら、通信教育及び白雉島時期島主として処理すべき書類が片付いて、ようやくひと段落して楽にしている天月博人の膝に、窓から小さなスズメが飛び込んで来て。
タンスを開けてはその中にある一着の服を鷲掴みにして天月博人の膝の上に運び、落とすとその着の中に入る。
服の中に入ったスズメは衣類越しに姿形を変えて大きくなり、少女くらいの大きさになると、一部分は鳥の要素が混ざる少女の顔が頭を出して、しっかりと袖を通し、天月博人の膝の上を陣取った。
鳥元鈴だ。
「ヒーロートー。
かまってー」
鳥元鈴、彼女は現在、天月博人の手伝いをする以前に、雀ゆえにそもそもの教養が足りないと言う事になり、カガミナイトが拠点とする島で鬼童世界と子供たちと共に勉学に励むように言ってある。
言ってある筈なのだが どうやら海をとんで渡って来てしまったようだ。
「今回の課題は終わらせた?」
「終わったわよ」
「カガミナイトで任されたであろう仕事も?」
「当然終わらせたわよ」
「こっちに来る際に、なんで鈴だけと不満を漏らしてそうな神子っちゃんを納得させられる大義名分は?」
「……えーと」
「考えてなかったな。
後で巫女っちゃんにグチグチ言われても知らねえぞー?」
鈴は少しの間だけ嫌な顔をしたが、直ぐに吹っ切れたように天月博人に身を寄せる。
「じゃあさー、来てよかったって思うくらいにかまって欲しいわ」
「えー……テーブルゲームとか」
「それはあっちでも出来るし、少し飽きてきたから嫌。 他に無いの?」
ここで無いといえば良いものを。天月博人は勝手に来るなと縛った訳でもないので、せっかく来たのだからと律儀に何で遊ぶかを考える。
だが、天月博人には娯楽らしい穂楽はなく、友影可威の家で据え置きのゲームでもやろうかなと思い始めたとき、ニコが『アプリゲームとかフリーゲーム、オンラインゲームだったらここでも出来ると思うんだよ』と提案した。
「アプリゲーム?」
「アプリゲームってのは、携帯端末でできるゲームの事だな。
フリーゲームはパソコンでやるのが殆ど、オンラインゲームはパソコンが常だけど最近は携帯端末に移植されてきてるかな」
『な、なかなか詳しいねヒロ』
「改《アラタ》の所で、子供達が楽しめそうなのないかって尋ねた時そのついででちょっと聞き齧った程度だけどな。
それで、何かオススメはあるか?」
『えっとねー。
ちょっと待っててね。
レビューとか見て面白そうなの持ってくるんだよ』
ニコはそう言ってネットの海へと赴き、それを感じ取った鳥元鈴は、天月博人よりも3センチ程高い身長の姿になって、天月博人の首に腕を絡めた。
「居ない間に1人くらい仕込まない?」
「嫌だ。
本当に勘弁してくれ」
「そう……諦めないから」
「いくら振っても諦めないなら、諦めないそも間に割り切れるのを期待するんだね」
「……甘えるくらいは?」
「うーん、妹とか子供とか近所の人懐っこい動物とか。
そんな甘やかし方になるけどそれでいいなら」
「それでいい♪
ほーら、構って構ってー♪」
「はいはい。
確か、和風とバナナ大好きな巫女っちゃんに作ってやろうと思って練習してる、バナナ大福の残骸が冷蔵庫にあったから一緒に食べようか」
鳥元鈴が甘えた事によって、天月博人は鳥元鈴と間食の甘味を取りに向かう事になった。
ニコは感情を組み込まれた人工知能。
電子生命体と言ってもいい存在である。
ニコはこれまで天月博人と共に居て多くの事を学んだ。
……学んだだけだ。
知っているだけだ。
ニコは知らない。
データで知っているだけで、根本的な、きっと大事な部分をわかっていない。
なんで根本的なことがわからないんだろう。
答えは単純だ。
経験していないからだ。
ニコには理解できない。
宴だとか言って馬鹿騒ぎするのががなんで楽しいのかがわからない。
美味しいもの、不味いものが一体何を持って美味しいものなのか不味いものなのかがわからない。
洗えば落ちるのに汚れを嫌うのかがわからない。
地区に意味もなく誰かと触れ合うのを好ましく思うのかがわからない。
痛みというのは、所詮は拒絶反応による電気信号なのに、苦しむのかがわからない。
何も経験できないニコにとって根本的な理由で理解できないものが増えていく。
自身には無い現世にしか無い、そんなものが増えていく。
───羨ましいと、いつからか思う。
ものを食べられるのが羨ましい。
匂いを嗅げるのが羨ましい。
自分の足でどこまでもいけるのが羨ましい。
……触れ合えるのが、羨ましい。
恋に、可能性があるのが羨ましい。
ゲームの感想データを収集して幾ばく。
ある程度、面白いと情報があったゲームを記録して天月の携帯端末に戻ろうとすると。
運命か偶然か、何者かと鉢合わせした。
黒い砂嵐の様な靄を思わせるそれの手には、ニコが今まで記録したロロ=イアの情報が詰まっているデータファイルだと気がつく。
何なのかと、尋ねるようかと考えたが、形のないそれは不気味な、子供の様な笑みを浮かべて、逃げていく。
ロロ=イアの情報漏洩はきっと碌なことにならないと、バックアップはあるものの悪用されるかもしれないと判断して、ニコは追いかける。
だけれど黒い靄の様なそれは、1つのオンラインゲームのファイルに、波紋を描きながら飛び込み、続いて飛び込んだニコは、そのファイルの奥で見る事になる。
従来であれば殺風景なデータの塊であるはずの場所。
結局のところ0と1で形成されたデータであればその奥にはどこまで言っても0と1で羅列しているデータがあるのが従来の光景であるはずだ。
そんな何の面白みもなく、何も体験できないそんな場所がニコの目には映るはずだったが、実際に目にしたのは、カメラ越しで見た、草木香る世界であった。
名前は如月小鳥……2年の間行方不明だった大いなる田舎、北の神社に住んでいた如月一家殺人事件の今更出てきた生存者。
ナカタニさんがピンキーを連れて面談したことで記憶喪失ではあったものの本人である事を確認積み。
そんでピンキー曰く、なんかお兄ちゃんなる幽霊みたいな存在を捕まえて離さないと。
人にはそれぞれ物語があると思うけど、これまた難儀な物語を綴ってそうだなぁ。
それに霊界ねぇ……夢の世界みたいにこの世界の中に発生した世界だったりしない?」
『ピンキーが知ってると思うからちょっと連絡してみるんだよ……来たよ』
「はっや、速いなオイ。
あの島に漸く広まった携帯電話にかじりついてんのか。
それで、どう返信がきた?」
『えーとね』と言ってニコがピンキーの声に声色を変えて『そうだね。
この世界の中で生まれた世界。
この世界と親と子の関係にある世界だね。
と言っても霊界はほかとも親と子の関係を持ってるけどそれは置いておいて、私の昔馴染みは基本的にそう言った親と子の関係にある世界に司ると言うかなんというかxー、干渉できる力を持ってるからね。
私の昔馴染みの1人であるNo.8、つまりは【虚像に身を隠し才能を探す者】が居たって事はそういう関係の世界って認識でいいよ』と、ピンキーが送ってきた文を読み上げた。
「成る程ねぇ……オレって何度も死んでるのに霊界の出入り口さえ行った事ないんだけど」
『行っちゃあ嫌なんだよ』
「お、おぉ。
わかってるって、行きそうになっても無理矢理にでも踵《きびす》を返して戻ってくるから。
そんな泣きそうな顔をするなって。
……で、脱線しかけたから戻すけど、もしかしてこの世界と親と子の関係にある世界って8つはある事が確定してたり?」
『ピンキーに確認するんだよ』
ニコが確認を取ると直ぐにピンキーから返信が来る。
やっぱり携帯端末にかじりついてるだろと思いつつ、ニコの読み上げに耳を傾ける。
『【遥か高みへの先導者】は人がちょっとでも関係してたらどこにでも行けるし干渉できるから抜くとして。
【幸福に満たす者】、【原則への乱逆者】、【背中を押す
蛮勇者】には特にそういうのはなくて。
ピンキーこと私、【想いの海に佇む者】が行き来できて干渉できる、現状、現世のお空でその一端が開張中の、夢や意識が集まった【精神世界】。
【善性を見出す者】が居るネット回線やら電波やらで形成された【電子世界】。
【体験し焼き付ける者】が人類が今まで獲得した知恵や知識、今では失われたり、秘匿されているものも含めた情報すらも概念となって形成された【人類獲得叡智保管世界】。
【虚像に身を隠し才能を探す者】が干渉できるあらゆる“あの世”に繋がる【霊界】と鏡に映る反転した【虚像世界】。
【精神世界】【電子世界】【人類獲得叡智保管世界】【霊界】【虚像世界】の5つの世界が、私が知ってる現世と子の関係にある世界だよ』
ピンキーが知覚しているもので、最低でも5つの世界がある事がわかる。
【電子世界】と聞いてふと疑問になった事をニコに尋ねる。
「電子世界って、これかなって感じのある?」
するとニコは腕を組んで悩み始める。
『うーん、強いて言えばニコが居る場所? とか。
……ごめん、ちょっと難しいんだよ』
「そうかー……、その【虚像に身を隠し才能を見出す者に】に協力を仰げたりはしない?」
『それならピンキーからあらかじめ答えをもらってるんだよ! えーっとねー。
『これは人に課すにはあまりにも酷で、私たちのような超常的な存在が人間を巻き込まないよう解決に取り組むべきです』
って言って人間と協力すべきって意見の私と道を違えてるから協力を得るのは難しいからね』
とのことなんだよ』
「まじかー」
『まじだー』
「……はい、それじゃあ次の記事に行こうか」
『はーい』
ニコが画面内を腕いっぱい動かしてスワイプする事で次の記事が出る。
そこにはカガミナイトが拠点としている島の、島の割合から見る制圧率が7割を突破したこと、カガミナイトの総員が506名になった事。
新たに増えた拠点を記した地図。
子供達、また屋宮亜里沙と鬼童世界が寂しさを訴えて居るからたまには帰って来いの要請に。
本土にて家族との再会報告。
カガミナイトメンバーの結婚
報告等が載せられていた。
「上手くいってるなー」
『ねー』
カガミナイトは現状問題なく目的に向かって進んでいる。
だけれど天月博人はそれを見ると頭が痛くなり溜息を吐いてしまう。
「制圧できたら島主と名乗れる様に、島を買わないと……若干インフラ整備したし、というか一部インフラはカガミナイトのみんなで自力でやったやつだし……うーん開拓された島って割高になるかな……話詰めていかないとなぁ。
お金かき集めないと……」
『いっそのこと、誰もその島を開拓していいなんて言ってないだろうがー! とかケチつけてくれたら楽なのにね』
「……なんで?」
『えっだって、それを言った人と家族、その友達とその家族をナカタニさんとヒロで皆殺しにしたら、後は何も考えず、踏ん反り返ってお金払わなくてよくなるよ?』
「世界を救いたいのに世界と敵対する事になるわ!
ナカタニさんに染まりすぎだろ」
『えー、いい考えだと思うのになー
カガミナイトって人数はまだ少ないけど核兵器よりも脅威なの居るし……あっでもそうすると広範囲無差別兵器を打ち込まれてヒロとナカタニさん以外やられちゃうか……うーん、ニコが各国の核兵器のシステムをの乗っ取って、権限握ってこようか?
そしたら世界は迂闊に手を出せなくなるし、交渉の時も優位に「ニコ、ちょっと落ち着きなさい」なる、んだよ………はーい……次の記事に行く?』
「ウイ、たのむ」
次々と読み上げられる文月見世が手がけた記事を再び耳にしながら、通信教育及び白雉島時期島主として処理すべき書類が片付いて、ようやくひと段落して楽にしている天月博人の膝に、窓から小さなスズメが飛び込んで来て。
タンスを開けてはその中にある一着の服を鷲掴みにして天月博人の膝の上に運び、落とすとその着の中に入る。
服の中に入ったスズメは衣類越しに姿形を変えて大きくなり、少女くらいの大きさになると、一部分は鳥の要素が混ざる少女の顔が頭を出して、しっかりと袖を通し、天月博人の膝の上を陣取った。
鳥元鈴だ。
「ヒーロートー。
かまってー」
鳥元鈴、彼女は現在、天月博人の手伝いをする以前に、雀ゆえにそもそもの教養が足りないと言う事になり、カガミナイトが拠点とする島で鬼童世界と子供たちと共に勉学に励むように言ってある。
言ってある筈なのだが どうやら海をとんで渡って来てしまったようだ。
「今回の課題は終わらせた?」
「終わったわよ」
「カガミナイトで任されたであろう仕事も?」
「当然終わらせたわよ」
「こっちに来る際に、なんで鈴だけと不満を漏らしてそうな神子っちゃんを納得させられる大義名分は?」
「……えーと」
「考えてなかったな。
後で巫女っちゃんにグチグチ言われても知らねえぞー?」
鈴は少しの間だけ嫌な顔をしたが、直ぐに吹っ切れたように天月博人に身を寄せる。
「じゃあさー、来てよかったって思うくらいにかまって欲しいわ」
「えー……テーブルゲームとか」
「それはあっちでも出来るし、少し飽きてきたから嫌。 他に無いの?」
ここで無いといえば良いものを。天月博人は勝手に来るなと縛った訳でもないので、せっかく来たのだからと律儀に何で遊ぶかを考える。
だが、天月博人には娯楽らしい穂楽はなく、友影可威の家で据え置きのゲームでもやろうかなと思い始めたとき、ニコが『アプリゲームとかフリーゲーム、オンラインゲームだったらここでも出来ると思うんだよ』と提案した。
「アプリゲーム?」
「アプリゲームってのは、携帯端末でできるゲームの事だな。
フリーゲームはパソコンでやるのが殆ど、オンラインゲームはパソコンが常だけど最近は携帯端末に移植されてきてるかな」
『な、なかなか詳しいねヒロ』
「改《アラタ》の所で、子供達が楽しめそうなのないかって尋ねた時そのついででちょっと聞き齧った程度だけどな。
それで、何かオススメはあるか?」
『えっとねー。
ちょっと待っててね。
レビューとか見て面白そうなの持ってくるんだよ』
ニコはそう言ってネットの海へと赴き、それを感じ取った鳥元鈴は、天月博人よりも3センチ程高い身長の姿になって、天月博人の首に腕を絡めた。
「居ない間に1人くらい仕込まない?」
「嫌だ。
本当に勘弁してくれ」
「そう……諦めないから」
「いくら振っても諦めないなら、諦めないそも間に割り切れるのを期待するんだね」
「……甘えるくらいは?」
「うーん、妹とか子供とか近所の人懐っこい動物とか。
そんな甘やかし方になるけどそれでいいなら」
「それでいい♪
ほーら、構って構ってー♪」
「はいはい。
確か、和風とバナナ大好きな巫女っちゃんに作ってやろうと思って練習してる、バナナ大福の残骸が冷蔵庫にあったから一緒に食べようか」
鳥元鈴が甘えた事によって、天月博人は鳥元鈴と間食の甘味を取りに向かう事になった。
ニコは感情を組み込まれた人工知能。
電子生命体と言ってもいい存在である。
ニコはこれまで天月博人と共に居て多くの事を学んだ。
……学んだだけだ。
知っているだけだ。
ニコは知らない。
データで知っているだけで、根本的な、きっと大事な部分をわかっていない。
なんで根本的なことがわからないんだろう。
答えは単純だ。
経験していないからだ。
ニコには理解できない。
宴だとか言って馬鹿騒ぎするのががなんで楽しいのかがわからない。
美味しいもの、不味いものが一体何を持って美味しいものなのか不味いものなのかがわからない。
洗えば落ちるのに汚れを嫌うのかがわからない。
地区に意味もなく誰かと触れ合うのを好ましく思うのかがわからない。
痛みというのは、所詮は拒絶反応による電気信号なのに、苦しむのかがわからない。
何も経験できないニコにとって根本的な理由で理解できないものが増えていく。
自身には無い現世にしか無い、そんなものが増えていく。
───羨ましいと、いつからか思う。
ものを食べられるのが羨ましい。
匂いを嗅げるのが羨ましい。
自分の足でどこまでもいけるのが羨ましい。
……触れ合えるのが、羨ましい。
恋に、可能性があるのが羨ましい。
ゲームの感想データを収集して幾ばく。
ある程度、面白いと情報があったゲームを記録して天月の携帯端末に戻ろうとすると。
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黒い砂嵐の様な靄を思わせるそれの手には、ニコが今まで記録したロロ=イアの情報が詰まっているデータファイルだと気がつく。
何なのかと、尋ねるようかと考えたが、形のないそれは不気味な、子供の様な笑みを浮かべて、逃げていく。
ロロ=イアの情報漏洩はきっと碌なことにならないと、バックアップはあるものの悪用されるかもしれないと判断して、ニコは追いかける。
だけれど黒い靄の様なそれは、1つのオンラインゲームのファイルに、波紋を描きながら飛び込み、続いて飛び込んだニコは、そのファイルの奥で見る事になる。
従来であれば殺風景なデータの塊であるはずの場所。
結局のところ0と1で形成されたデータであればその奥にはどこまで言っても0と1で羅列しているデータがあるのが従来の光景であるはずだ。
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