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EX2-10:ピーちゃんと居なくなった人たち
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友人はいなくなった。
兄貴が帰ってきた。
……感情が知っちゃかめっちゃかで、気持ちが悪い。
クマジロウの中の、兄貴の一部が膨れ上がったことで形成された兄貴は現状に困惑の色を示してとても話せる状態じゃない私の背中をポンポンと叩きながら、雛に説明を求めた。
雛が兄貴に事情を説明するこのつかの間、私にとってこの瞬間だけ、久しぶりにに感情をさらし心を休めることができる時間となった。
「そうか。
2人ともよく頑張ったな」
荘厳《そうごん》に佇む大樹に身を預けている様な、そんな感覚の中で、優しく頭を撫でられる。
…………「女の子の髪を気安く触ったらダメなんだよー」なんて言える余裕はまだ無いけれど、ようやく落ち着いた。
「兄貴……」
「んーなんだー? そろそろ行くのか?」
「うん……その前になんで何も言ってくれ無かったの? 私、急に置いていかれて怖かったんだから」
「……なんで? は? 急に何言ってんの? 殺すよ? お兄ちゃんは全部、唯一生き残っただけのお前を守るために頑張ってるのに!」
「雛、落ち着け……あー俺は本体じゃなくて本体から分かれた意識持った生き霊、分霊みたいなもんだから。 俺と再開したとかそう言うにはちょっと違和感があるけど。
そうだな。答えは雛が言った通りお前が怖がると思ったからだよ。
怖い思いしなくていい様にやってきたつもりだけど、不安にさせてたみたいだ。ごめんな」
……落ち着く。
ビンタは50発にしてあげよう。
ビンタは全部が終わった時ね。
「はぁ、雛も小鳥を睨んでないで仲良くしてくれよ」
「「無理」」
「マイスイートシスターズが息の合った仲良し双子姉妹ぐあいで俺は涙がはちきれそうだよ……そろそろ行こうか」
私と雛って双子かよ。魂って成長しないのかな? だったら去年の同級生、全員留年後輩化とか言う謎現象が今になって納得できたわ。
まぁそれは置いておいて感動の再開とやらはここまでか。
まぁ確かに、再開に浸るにはうってつけとは言い難い場所ではあるし。
……シャーちゃんの為にも、早くこの事態を終わらせたいしね。
行きたく無いなあああ、怖いなぁぁあああなんて思うけど
引き返す事は出来ないし、したくないから、先に進もう。
「うん……兄貴、それでどこに行けばいいの?」
「うーん、俺の記憶って人形に魂を入れた時点までなんだよな。
俺の姿を一週間見なかったら小鳥に渡してくれってこっちの世界でできた友人たちに渡す前に、クマの人形に入魂したその段階の記憶だから
雛に教えて貰えないとここでの事はさっぱりなんだ
だから、俺じゃなくて雛、案内してくれるか?
「最終的には小鳥のためってのが業腹だけど。
いいよぉマイスイートお兄ちゃん。あっでもお兄ちゃんこの空間で平気っぽいからわからないかもだけど、私今、体がすっごいだるいから背負ってよね、小鳥じゃあ私に肩を貸すぐらいしか出来ないからさぁ」
「はいはい、仕方がないな」
……若干猫かぶってるな? 雛、お前って兄貴の前だと若干猫かぶってるだろ。
マイスイートとか言ってるし、なんだよマイスイート。
……恥ずかしくないのかと思ったけど、なんか感覚的に察したわ、兄貴と雛の間に私がわからない思い出あるなこれ……むぅ。
「ここまできたら間近だけどね、あそこ」
兄貴に背負われた雛が指差す方向には、駅長室がある。
「元凶は、そこに居る。
余裕こいてるから、突然襲われるなんて事はないと思う」
「そうか……それなら、行こうか。
小鳥は俺の後ろに隠れて後から入れ。
まだ怖いんだろ?」
「……うん」
兄貴に庇われる形で、たどり着いた駅長室。
扉は閉ざされておらずドアノブを握って捻るだけで軽るく開いた。
兄貴の後ろに隠れた私に届いたのは、少女の笑い声だった。
都議に届いたのは、むせかえる様な甘すぎる蜜を思わせる匂い。
恐怖心と合わさって気持ちが悪い。
「残ってたんだ。 こんな強いのが3匹も。
んー? 1人は逃げた子だからわかる。
もう1人は吸収したのになんで居るのかなー? まぁこんな世界であり得ないとかないから意外に思っても無駄かなー?
それで、もう1人は……生きた人間」
兄貴の後ろから少しだけ顔を出して覗き込んでみる。
そこには声そのままに想像できる小柄の少女がいた。
駅長室、その机の上に置かれた大きな木箱の上に怠惰に横たわる少女がいた。
少女は私たちをその水色がかった瞳で私たちを鑑定する様に観るとニヤリと笑う。
「良い糧糧かな」
少女は体を起こして、木箱の蓋に手をかける。
「おい、何してるんだ! 早くあの木箱に振れろ! 生きてるお前なら容易に近づける。
お兄ちゃんも近づけるけど、生きてるお前なら触れれば浄化できる」
雛の叫びに意味がわからないけれど。
少女がクルリと一回転させて一度押し込む、そしてさらに半周すると不思議と開いたその蓋は円盤状の凹みしかなく、赤い雫が大量についていた。
「早く! 全部無駄にして糧になる気かお前!」
「……雛の言い方も悪いけど。
確かにそうなんだよ小鳥、お前が触れればいい代物だアレは」
そうは言われても体が震える。
無理だって、だってあの木箱からなんか脈動する水に近いほど不定形な肉塊が溢れてる。
なんだかアレは、怖い。
「さぁ、坊や全部を欲しがって。
侵食して、飲み込んで、力を溜め込みなさい」
少女がそう言うと溢れ出る肉塊は形成する。
気持ち悪い、甘い匂いと鉄臭い匂いが混ざって、言葉が思いつかない感覚に落とされる。
そして吐き気を堪えている内に、兄貴が雛を下ろして番傘片手に近づくけれど、道半ばで体が重くなっていくのか動きが鈍くなって、笑う少女から出た影の様な、幽霊の様な認識するにはあまりにもおぼろげな腕が、兄貴を殴り飛ばして、私たちの方向に転がってくる。
「「兄貴(お兄ちゃん!)」」
「だい……じょうぶ。 だけど体が重く………なってたけど、直った。
どう言うことだ」
「……そう言う事。
お兄ちゃん! お兄ちゃんは縁から霊力を得てるから、クマの人形……チッ、多分小鳥から離れると力が抜けるんだ! この空間への抵抗力も無くなるんだよ!
てか、お前、早く行けよ! お兄ちゃんの本体は私を逃がすために残って……多分力に変換されて消えてる! 分霊だろうと一部だろうと、あのお兄ちゃんが消えたら……生まれ変わって再開とか、そんな希望も、何も無くなるんだよ!
もう二度と会えなくなるんだよ! 死ぬよりもっと酷いことになるから!
そうなったら殺される前にお前を殺すからな!」
そうしている間に、肉塊は形を作り終える。
赤いエキスを滴らせながら、ゆっくりと目を開くのは。
赤い肉のミンチを粘土の様に捏《こ》ねて作ったかの様な巨大な赤子だった。
兄貴の声が背中を押すけれど、雛の声が急かすけれど。
私はそれを見て震えが止まらなくなっていた。
「あんの女ぁ、使いもんにならないなら殺してやる」
「やめろ雛!」
子供が、少しだけ時間をかけてひょっこりと物陰から出てくる。
ハサミが大きく開かれて首元に伸びてくる。
……これは仕方がないことかもしれない。だって私、すっごく足を引っ張ってるだけで、役立たずもいいところだもん。
全部を無駄にしようとしてるもん。
「何、仲間割れしてるのかな?
お前たちの全部、糧にするんだから死なれたら困るのよ。
坊や、やりなさい」
赤子は吠える様に泣く、するとハサミを持った子供は痺れた様に痙攣して動きを止めた。
赤子は机から降りて、触れた地面を侵食される様に肉々しく脈動する自身に体の様に侵食させながら私に這い寄って来る。
「ひっ、来ないで!」
「小鳥!」
赤子が腕を上げて、今にも私に降るわんとした時。
兄貴が私をかばって前に出た。
番傘を盾に、振るわれた腕を防ぐ。
「兄貴!」
「ぐっ……だ、大丈夫だって。
俺は徹頭徹尾、俺は如月家を護る者、その本体が切り出して小鳥を護る為に残してった部分だ。
何があっても、何が来ても護ってやる。
だから怖がってないで安心しやがれマイスイートシスター!」
兄貴はそう言って、キツそうな顔をして笑って強がった。
滴る赤い液体が、兄貴に触れて侵食されながらも、番傘が肉塊に取り込まれそうになりながらも、笑ってみせた。
雛が兄貴の身を案じて叫んでいるのがわかる。
……血が床に滴る音、兄貴が目の前にいる状況が記憶を刺激する。
雨の中、学校か何かのイベントで遠足から帰る頃には雷雲が大雨を降らせていた。
暗くて傘もなくて、音も響いてとても怖くてバス停から動けず泣いていたっけ。
……迎えがやってくるのは当然の流れだったと思う。
それが、お父さんかもしれないし、お母さんかもしれなかったかもしれないけれど。
その時は、兄貴が来てくれたっけ。
兄貴、兄貴……兄貴は私が怖い思いをしているとやって来てくれる。
お父さんもお母さんもやって来ようとするけど一番に動くのはいつも兄貴で、だから私は兄貴に一番助けられて、背中を見て、手を繋いで、安心していたっけ。
───なんだ。だから雨の音を聞くと安心する気がするんだ。
番傘を持った兄貴が来る気がして。
兄貴が怖いにから私を守ってくれる気がするから。
気がつけば、私の震えは止まっていた。
怖い? と聞かれたらまだ怖いと答えちゃうけれど。まだちょっと泣きそうだし、なんなら吐きそうでもあるんだけど。
大丈夫、怖いのは私に触れることもできないから。
ねえ、そうでしょ? 兄貴。
「……ぷっ、何よマイスイートシスターって」
「お、おぉう? ここで聞くか? そう言うのは後で教えるからさ……もう、頑張れるか? 小鳥」
「うん、ちゃんと護ってよ兄貴」
「おうよ」
少しだけ残った、恐怖は。
これくらいの感情ならならシャーちゃんがやっていた様に飲み込める。
大丈夫、動けるよ。
取り敢えず、あの木箱に触ればいいんだよね。
頑張るよ、私ってば超頑張るよ。
「ふぅ……行くよ!」
箱との距離は数メートルも無い。
大丈夫、すぐに辿り着く。
「何しようとしてるのかな? まぁやらせないけどね」
おぼろげな腕がに狙いを定めるけれど、大丈夫。
兄貴がなんとかしてくれるはず。お願いしますなんとかしてください。
結局不安になっている心持ちの中で、兄貴は私の背後で赤子の汁に侵食され、体の一部が血管浮き出て脈動する肉塊になりつつも、私の背後で番傘を開き、おぼろげな腕と赤子の飛沫を防ぐ。
その番傘、そんなに硬いのねと思いつつ、そのお陰で私はあっさりと箱に触れることができて、箱に触れた途端、赤子が泣き喚きながら暴れ出す。
えっなんで? と振り返り、「手を離すなバカ!」と雛に怒られてちょっとムッとなりながら、木箱を触りつつ後ろを番傘から覗き込む様に見た。
番傘は腕を防ぎながら暴れ狂う赤子をこちらにこない様にしてくれているからゆっくりと観察できる。
どうやら赤子は体が崩れ始めて居る様だ。
背中には子供がしがみついている。……雛は雛なりに頑張っていた様だ。
赤子はひとしきり暴れると、腕が溶けて、足が溶けて動けなくなり、ドロリとなって床に赤い広がっていく赤い液体となって、そして跡形もなく蒸発していく。
……赤子が蓄えていた巨大な空の魂の塊が箱の中に戻って、箱から伝って私に入り込んでくる。
「ちょちょっ!? 困るんだけど!」
ここでようやく少女が慌てるが、殆どが侵食されてようとしていたのにもかかわらずその部分が溶けて剥がれ、元に戻っていく兄貴がそれを阻む。
すると少女はため息を吐いて「ちぇー、坊っちゃまの糧が……失敗したなぁ……回収できる分だけ回収して帰ろ」と言って手を空にかざす。
すると空間に穴ができて、少女がその中に入ると、穴は閉じた。
「……ダルさが消えた」
幽霊がだるくなる原因はあの少女にあった様だ。
……それに周囲の脈動する生々しい光景も気がつけば消えていて。
そのまま脱出すると、外は、空は、なんの変哲も無い光景がそこにあった。
どうやら解決したらしい。
「……何があったの?」
「お前、と言うか神社然り、お寺然り、教会然り。
そう言うところを預かる代々続く家系として生まれたら、だいたい持ってる性質。
穢れの浄化だよ。
清められ続けて血がもはや聖水の領域に、その血が運ぶ美濃で体が形成されてるから浄化作用がある身体ってだけ
幽霊になると失われるから、お前にしかできないってこと」
「……聞いてる感じ、私ってやっぱり神社の家系?」
「おうとも、この街北方面のな。
現世じゃあ、ぶらりとやってきた殺人者集団に目をつけられて壊滅したけど……はぁ、悪霊はともかく生きてる殺人者は専門外だったなぁ」
私の家系はやはり神社に出らしい。
……殺人旅団って現世の実話かよ。そに被害者私たち入ってんのかよ。
マジかー。
「あっそうだ。
マイスイート何ちゃらは、雛とアニメ見てた時。
なんかのキャラがそう呼びあってて雛が気に入ってな。
そっからなんか流れで使ってる」
今の流れぶった切って、ちょっと前の約束果たしのね兄貴。
まぁいいけどさ。
それにしても……ちらりと雛を見ると、クッソ腹たつ自慢げな顔になって「そうだよー。
ねー? マイスイートブラザー?」兄貴の背中に抱きつくように乗る。
マジでどっちが腐れブラコンだか……ムカっとするなぁ。
それになんだかんだ気にしない兄貴も兄貴だ。
どんだけシスコンだよ。
「そうだなー。
だけどさ」
……ふと、兄貴が雛を私の隣に立たせて、私と雛の頭を撫でた。
「そろそろ兄離れの時期だな」
「「えっ? 嫌」」
そう言われて、こんな時だけ雛と息のあった否定をする。
「わがまま言うなって。
どの道お別れなんだから」
「なっ、なんで? 嫌だよ兄貴……」
「小鳥がここが霊界ってわかちゃったし、保護してくれそうな組織の伝手がこっちで出来たから、そろそろ現世に小鳥を送らないとって思ってたんだよ
そんで俺は小鳥の縁から霊力得てようやく存在できる分霊だから、小鳥を現世に返したらもれなく消滅だ。
だから兄離れだ」
そう言って笑って見せる兄貴に、私は笑って返すことができなかった。
「現世に幽霊は存在しないほうがいいように。
霊界は生きている者が存在していい場所じゃ無い。
だから、現世に送る。
2年も俺が守ってなかったら、体を欲しがってる他の幽霊に奪われようとして狙われかねなかったんだぞ?
触れたところで浄化はされるけど、その前に傷つけようとする意思はしっかりと小鳥をその体ごと傷つけられてボロボロにする。
他人になってでも生き返りたいって言うある種の本能が働くんだ」
「兄貴……い、嫌」
大丈夫だと。
組織に下で護られるから怖いのは無いぞと頭を撫でる兄貴。
違う、違うんだよ兄貴。
私は兄貴が護ってくれるから怖いにが和らぐんだよ? そんなよくわからない組織とか、組織そのものが怖いって。
そう言って伝えようとしたけど、兄貴と繋がってる縁からその意思の強さを感じて、無駄だとわかって私は愕然とした。
雛も魂なのに魂が抜けた抜け殻みたいになっている。
気がつけば私は、街にたどり着いて家の中で雛となんお会話もなくボーっとしている。
すると兄貴がいろんな人を連れてやってきた。
なんか背の高い金髪外国人と女性と、赤毛の女子を引き連れてなんでか瑞々しい大根を生で齧《かじ》ってる目が腫れぼったい人と、しょぼくれた眠たげな男。
そして、透き通る様な肌と薄い水色のオカッパ、深い海のようなの様な青く穏やかな目の女が居た。
なんだ最後の絶対に人じゃ無いんだけど。
「やあ、小鳥ちゃん。
今日は散々だったね。
でもお手柄だよ。
私じゃあどうにかするの難しいからあの箱の中の赤ちゃん。
肉片飛び散っちゃったらそこから侵食されて大変なことになるし。
私じゃあ触ったら大変なことになるし」
なんか人間じゃ無いっぽいのが話しかけてくる。
「えっ……えっ」
「あぁうっかり……そうだ。自己紹介しないと。
私はこの世界から貴女を出しに来ました。
友達と意見が分かれて今では1人、人間を巻き込まず世界を救う方法がないか探し回ってるちょっと人間超えちゃった系の者ですはい。
名前は……えーと。
ほぼほぼ無いみたいなものだけど友達には【虚像に身を隠し才能を探す者】って呼ばれてました。
ハイ、長いのでNo.8でいいからね。
それで後ろにいるのが、現世で貴女がこれからお世話になる人の関係者。
伝言があるから会えたら伝えて欲しいって話ですね、はい」
そう言って紹介された腫れぼったい目の男は、齧っている顎を止めて大根を飲み込み。
「僕はお「大沢先生だよ!」……はぁ、えーそんん感じです。
でこの赤い髪の子供が紅茶々、こっちのどう見ても女性なのに年齢はこの茶々と同じの子供がイヴァンナ ・マハノヴァ。
えー僕はまず組織とのつながりの作り方を……、茶々、地図をお願いします」
「はーい」
赤毛の少女が地図を……大いなる田舎の地図を取り出して、机の上に広げる。
すると大沢先生とやらが指を指す。
「この地点にある木下千鶴って人が運用してるマンションがある。
そこの二丸五号室に住んでる天城蜜柑って女の子に俺たちの名前と組織に名前……えーと名前なんだっけ「カガミナイトだぞ大沢先生」あーそうそう、カガミナイトに入りたいと言えばを言えば、その組織とのつながりはできる。
でさ、天城蜜柑の信用度稼ぎを兼ねて伝言を頼みたいんだけど……俺たちはずっと見守ってるって言ってやってくれ。
特に天城とよくつるんでる木下芳奈って人に。
ちょと気が滅入ってるみたいだから」
……おい勝手に託すなよ。
「では私ですね。
私は……色々と言う義理は薄くなってしまってますけど。
それでも父親として……もし、会えたなら、組織のリーダーに届けられるのなら。
愛しているよ。
無理をしないでねと伝えて欲しいです」
やめてよ、霊界から追い出されるみたいじゃん。
意地でもでないからな。
「……覚えてくれたかな?
それじゃあ始めるよ。
霊界、別の名を鏡の世界。
とある一説には鏡は霊界につながると言う。
ハイ、大正解。
鏡は霊界とも繋がってる。
合わせ鏡が幽霊の封印に使えるとか危険とか言われるのは出入り口って事実の延長戦のお話」
No.8は有無を言わせず。背負っていた姿見の鏡、家の中なのに公園のような光景を映し出す鏡を手で持って、手品のように鏡に映る私を消した。
「さあ通してあげる」
No.8に触れられる。
現世に連れ出そうとしているんだ。
「い、嫌!」
抵抗する。だけど人とは思えない力でビクともしない。
眠たげな男は申し訳なさそうにしている。
お前じゃ無い、私が見たいのは……兄貴!
「兄貴、嫌! 嫌!」
「お兄ちゃん! 私も嫌! お兄ちゃんが消えるの嫌」
雛も嫌がる私に同調するけど、兄貴はごめんなと言うだけで止めようとしない。
そして私は、鏡の中の私に邪魔されることなく、鏡の向こう側へとNo.8に入れられた。
『センキューフォープレイング。
クリアおめでとう。
さてさて、クリア特典を気分が乗ったのであげちゃおうと思うよん』
あの世と現世の境目、鏡を通っている間の世界で、少し前に聞いたばかりの声が聞こえる。
嫌だ嫌だと泣く私の前にスーと読めない字で書かれた紙が……小さく空いた穴に通した糸に滑ってやってくる。
これが何になると起こりそうになって払いのけようと触れると、それに綴られた情報が頭の中に入る。
怖い怖い怖い、兄貴! 兄貴助けて!
私は離れ行くあの世の世界に手を伸ばし───気がつけば現世にいて、そして。
「お、おい小鳥? これはどう言う状況なんだ?」
私から飛び出たのであろう常人には見えざるおぼろげな手に拘束される形で兄貴が居た。
「急に鏡にひっぱり込められたんだけど」
私は、目の前に兄貴が居て……安心して泣いた。
兄貴が帰ってきた。
……感情が知っちゃかめっちゃかで、気持ちが悪い。
クマジロウの中の、兄貴の一部が膨れ上がったことで形成された兄貴は現状に困惑の色を示してとても話せる状態じゃない私の背中をポンポンと叩きながら、雛に説明を求めた。
雛が兄貴に事情を説明するこのつかの間、私にとってこの瞬間だけ、久しぶりにに感情をさらし心を休めることができる時間となった。
「そうか。
2人ともよく頑張ったな」
荘厳《そうごん》に佇む大樹に身を預けている様な、そんな感覚の中で、優しく頭を撫でられる。
…………「女の子の髪を気安く触ったらダメなんだよー」なんて言える余裕はまだ無いけれど、ようやく落ち着いた。
「兄貴……」
「んーなんだー? そろそろ行くのか?」
「うん……その前になんで何も言ってくれ無かったの? 私、急に置いていかれて怖かったんだから」
「……なんで? は? 急に何言ってんの? 殺すよ? お兄ちゃんは全部、唯一生き残っただけのお前を守るために頑張ってるのに!」
「雛、落ち着け……あー俺は本体じゃなくて本体から分かれた意識持った生き霊、分霊みたいなもんだから。 俺と再開したとかそう言うにはちょっと違和感があるけど。
そうだな。答えは雛が言った通りお前が怖がると思ったからだよ。
怖い思いしなくていい様にやってきたつもりだけど、不安にさせてたみたいだ。ごめんな」
……落ち着く。
ビンタは50発にしてあげよう。
ビンタは全部が終わった時ね。
「はぁ、雛も小鳥を睨んでないで仲良くしてくれよ」
「「無理」」
「マイスイートシスターズが息の合った仲良し双子姉妹ぐあいで俺は涙がはちきれそうだよ……そろそろ行こうか」
私と雛って双子かよ。魂って成長しないのかな? だったら去年の同級生、全員留年後輩化とか言う謎現象が今になって納得できたわ。
まぁそれは置いておいて感動の再開とやらはここまでか。
まぁ確かに、再開に浸るにはうってつけとは言い難い場所ではあるし。
……シャーちゃんの為にも、早くこの事態を終わらせたいしね。
行きたく無いなあああ、怖いなぁぁあああなんて思うけど
引き返す事は出来ないし、したくないから、先に進もう。
「うん……兄貴、それでどこに行けばいいの?」
「うーん、俺の記憶って人形に魂を入れた時点までなんだよな。
俺の姿を一週間見なかったら小鳥に渡してくれってこっちの世界でできた友人たちに渡す前に、クマの人形に入魂したその段階の記憶だから
雛に教えて貰えないとここでの事はさっぱりなんだ
だから、俺じゃなくて雛、案内してくれるか?
「最終的には小鳥のためってのが業腹だけど。
いいよぉマイスイートお兄ちゃん。あっでもお兄ちゃんこの空間で平気っぽいからわからないかもだけど、私今、体がすっごいだるいから背負ってよね、小鳥じゃあ私に肩を貸すぐらいしか出来ないからさぁ」
「はいはい、仕方がないな」
……若干猫かぶってるな? 雛、お前って兄貴の前だと若干猫かぶってるだろ。
マイスイートとか言ってるし、なんだよマイスイート。
……恥ずかしくないのかと思ったけど、なんか感覚的に察したわ、兄貴と雛の間に私がわからない思い出あるなこれ……むぅ。
「ここまできたら間近だけどね、あそこ」
兄貴に背負われた雛が指差す方向には、駅長室がある。
「元凶は、そこに居る。
余裕こいてるから、突然襲われるなんて事はないと思う」
「そうか……それなら、行こうか。
小鳥は俺の後ろに隠れて後から入れ。
まだ怖いんだろ?」
「……うん」
兄貴に庇われる形で、たどり着いた駅長室。
扉は閉ざされておらずドアノブを握って捻るだけで軽るく開いた。
兄貴の後ろに隠れた私に届いたのは、少女の笑い声だった。
都議に届いたのは、むせかえる様な甘すぎる蜜を思わせる匂い。
恐怖心と合わさって気持ちが悪い。
「残ってたんだ。 こんな強いのが3匹も。
んー? 1人は逃げた子だからわかる。
もう1人は吸収したのになんで居るのかなー? まぁこんな世界であり得ないとかないから意外に思っても無駄かなー?
それで、もう1人は……生きた人間」
兄貴の後ろから少しだけ顔を出して覗き込んでみる。
そこには声そのままに想像できる小柄の少女がいた。
駅長室、その机の上に置かれた大きな木箱の上に怠惰に横たわる少女がいた。
少女は私たちをその水色がかった瞳で私たちを鑑定する様に観るとニヤリと笑う。
「良い糧糧かな」
少女は体を起こして、木箱の蓋に手をかける。
「おい、何してるんだ! 早くあの木箱に振れろ! 生きてるお前なら容易に近づける。
お兄ちゃんも近づけるけど、生きてるお前なら触れれば浄化できる」
雛の叫びに意味がわからないけれど。
少女がクルリと一回転させて一度押し込む、そしてさらに半周すると不思議と開いたその蓋は円盤状の凹みしかなく、赤い雫が大量についていた。
「早く! 全部無駄にして糧になる気かお前!」
「……雛の言い方も悪いけど。
確かにそうなんだよ小鳥、お前が触れればいい代物だアレは」
そうは言われても体が震える。
無理だって、だってあの木箱からなんか脈動する水に近いほど不定形な肉塊が溢れてる。
なんだかアレは、怖い。
「さぁ、坊や全部を欲しがって。
侵食して、飲み込んで、力を溜め込みなさい」
少女がそう言うと溢れ出る肉塊は形成する。
気持ち悪い、甘い匂いと鉄臭い匂いが混ざって、言葉が思いつかない感覚に落とされる。
そして吐き気を堪えている内に、兄貴が雛を下ろして番傘片手に近づくけれど、道半ばで体が重くなっていくのか動きが鈍くなって、笑う少女から出た影の様な、幽霊の様な認識するにはあまりにもおぼろげな腕が、兄貴を殴り飛ばして、私たちの方向に転がってくる。
「「兄貴(お兄ちゃん!)」」
「だい……じょうぶ。 だけど体が重く………なってたけど、直った。
どう言うことだ」
「……そう言う事。
お兄ちゃん! お兄ちゃんは縁から霊力を得てるから、クマの人形……チッ、多分小鳥から離れると力が抜けるんだ! この空間への抵抗力も無くなるんだよ!
てか、お前、早く行けよ! お兄ちゃんの本体は私を逃がすために残って……多分力に変換されて消えてる! 分霊だろうと一部だろうと、あのお兄ちゃんが消えたら……生まれ変わって再開とか、そんな希望も、何も無くなるんだよ!
もう二度と会えなくなるんだよ! 死ぬよりもっと酷いことになるから!
そうなったら殺される前にお前を殺すからな!」
そうしている間に、肉塊は形を作り終える。
赤いエキスを滴らせながら、ゆっくりと目を開くのは。
赤い肉のミンチを粘土の様に捏《こ》ねて作ったかの様な巨大な赤子だった。
兄貴の声が背中を押すけれど、雛の声が急かすけれど。
私はそれを見て震えが止まらなくなっていた。
「あんの女ぁ、使いもんにならないなら殺してやる」
「やめろ雛!」
子供が、少しだけ時間をかけてひょっこりと物陰から出てくる。
ハサミが大きく開かれて首元に伸びてくる。
……これは仕方がないことかもしれない。だって私、すっごく足を引っ張ってるだけで、役立たずもいいところだもん。
全部を無駄にしようとしてるもん。
「何、仲間割れしてるのかな?
お前たちの全部、糧にするんだから死なれたら困るのよ。
坊や、やりなさい」
赤子は吠える様に泣く、するとハサミを持った子供は痺れた様に痙攣して動きを止めた。
赤子は机から降りて、触れた地面を侵食される様に肉々しく脈動する自身に体の様に侵食させながら私に這い寄って来る。
「ひっ、来ないで!」
「小鳥!」
赤子が腕を上げて、今にも私に降るわんとした時。
兄貴が私をかばって前に出た。
番傘を盾に、振るわれた腕を防ぐ。
「兄貴!」
「ぐっ……だ、大丈夫だって。
俺は徹頭徹尾、俺は如月家を護る者、その本体が切り出して小鳥を護る為に残してった部分だ。
何があっても、何が来ても護ってやる。
だから怖がってないで安心しやがれマイスイートシスター!」
兄貴はそう言って、キツそうな顔をして笑って強がった。
滴る赤い液体が、兄貴に触れて侵食されながらも、番傘が肉塊に取り込まれそうになりながらも、笑ってみせた。
雛が兄貴の身を案じて叫んでいるのがわかる。
……血が床に滴る音、兄貴が目の前にいる状況が記憶を刺激する。
雨の中、学校か何かのイベントで遠足から帰る頃には雷雲が大雨を降らせていた。
暗くて傘もなくて、音も響いてとても怖くてバス停から動けず泣いていたっけ。
……迎えがやってくるのは当然の流れだったと思う。
それが、お父さんかもしれないし、お母さんかもしれなかったかもしれないけれど。
その時は、兄貴が来てくれたっけ。
兄貴、兄貴……兄貴は私が怖い思いをしているとやって来てくれる。
お父さんもお母さんもやって来ようとするけど一番に動くのはいつも兄貴で、だから私は兄貴に一番助けられて、背中を見て、手を繋いで、安心していたっけ。
───なんだ。だから雨の音を聞くと安心する気がするんだ。
番傘を持った兄貴が来る気がして。
兄貴が怖いにから私を守ってくれる気がするから。
気がつけば、私の震えは止まっていた。
怖い? と聞かれたらまだ怖いと答えちゃうけれど。まだちょっと泣きそうだし、なんなら吐きそうでもあるんだけど。
大丈夫、怖いのは私に触れることもできないから。
ねえ、そうでしょ? 兄貴。
「……ぷっ、何よマイスイートシスターって」
「お、おぉう? ここで聞くか? そう言うのは後で教えるからさ……もう、頑張れるか? 小鳥」
「うん、ちゃんと護ってよ兄貴」
「おうよ」
少しだけ残った、恐怖は。
これくらいの感情ならならシャーちゃんがやっていた様に飲み込める。
大丈夫、動けるよ。
取り敢えず、あの木箱に触ればいいんだよね。
頑張るよ、私ってば超頑張るよ。
「ふぅ……行くよ!」
箱との距離は数メートルも無い。
大丈夫、すぐに辿り着く。
「何しようとしてるのかな? まぁやらせないけどね」
おぼろげな腕がに狙いを定めるけれど、大丈夫。
兄貴がなんとかしてくれるはず。お願いしますなんとかしてください。
結局不安になっている心持ちの中で、兄貴は私の背後で赤子の汁に侵食され、体の一部が血管浮き出て脈動する肉塊になりつつも、私の背後で番傘を開き、おぼろげな腕と赤子の飛沫を防ぐ。
その番傘、そんなに硬いのねと思いつつ、そのお陰で私はあっさりと箱に触れることができて、箱に触れた途端、赤子が泣き喚きながら暴れ出す。
えっなんで? と振り返り、「手を離すなバカ!」と雛に怒られてちょっとムッとなりながら、木箱を触りつつ後ろを番傘から覗き込む様に見た。
番傘は腕を防ぎながら暴れ狂う赤子をこちらにこない様にしてくれているからゆっくりと観察できる。
どうやら赤子は体が崩れ始めて居る様だ。
背中には子供がしがみついている。……雛は雛なりに頑張っていた様だ。
赤子はひとしきり暴れると、腕が溶けて、足が溶けて動けなくなり、ドロリとなって床に赤い広がっていく赤い液体となって、そして跡形もなく蒸発していく。
……赤子が蓄えていた巨大な空の魂の塊が箱の中に戻って、箱から伝って私に入り込んでくる。
「ちょちょっ!? 困るんだけど!」
ここでようやく少女が慌てるが、殆どが侵食されてようとしていたのにもかかわらずその部分が溶けて剥がれ、元に戻っていく兄貴がそれを阻む。
すると少女はため息を吐いて「ちぇー、坊っちゃまの糧が……失敗したなぁ……回収できる分だけ回収して帰ろ」と言って手を空にかざす。
すると空間に穴ができて、少女がその中に入ると、穴は閉じた。
「……ダルさが消えた」
幽霊がだるくなる原因はあの少女にあった様だ。
……それに周囲の脈動する生々しい光景も気がつけば消えていて。
そのまま脱出すると、外は、空は、なんの変哲も無い光景がそこにあった。
どうやら解決したらしい。
「……何があったの?」
「お前、と言うか神社然り、お寺然り、教会然り。
そう言うところを預かる代々続く家系として生まれたら、だいたい持ってる性質。
穢れの浄化だよ。
清められ続けて血がもはや聖水の領域に、その血が運ぶ美濃で体が形成されてるから浄化作用がある身体ってだけ
幽霊になると失われるから、お前にしかできないってこと」
「……聞いてる感じ、私ってやっぱり神社の家系?」
「おうとも、この街北方面のな。
現世じゃあ、ぶらりとやってきた殺人者集団に目をつけられて壊滅したけど……はぁ、悪霊はともかく生きてる殺人者は専門外だったなぁ」
私の家系はやはり神社に出らしい。
……殺人旅団って現世の実話かよ。そに被害者私たち入ってんのかよ。
マジかー。
「あっそうだ。
マイスイート何ちゃらは、雛とアニメ見てた時。
なんかのキャラがそう呼びあってて雛が気に入ってな。
そっからなんか流れで使ってる」
今の流れぶった切って、ちょっと前の約束果たしのね兄貴。
まぁいいけどさ。
それにしても……ちらりと雛を見ると、クッソ腹たつ自慢げな顔になって「そうだよー。
ねー? マイスイートブラザー?」兄貴の背中に抱きつくように乗る。
マジでどっちが腐れブラコンだか……ムカっとするなぁ。
それになんだかんだ気にしない兄貴も兄貴だ。
どんだけシスコンだよ。
「そうだなー。
だけどさ」
……ふと、兄貴が雛を私の隣に立たせて、私と雛の頭を撫でた。
「そろそろ兄離れの時期だな」
「「えっ? 嫌」」
そう言われて、こんな時だけ雛と息のあった否定をする。
「わがまま言うなって。
どの道お別れなんだから」
「なっ、なんで? 嫌だよ兄貴……」
「小鳥がここが霊界ってわかちゃったし、保護してくれそうな組織の伝手がこっちで出来たから、そろそろ現世に小鳥を送らないとって思ってたんだよ
そんで俺は小鳥の縁から霊力得てようやく存在できる分霊だから、小鳥を現世に返したらもれなく消滅だ。
だから兄離れだ」
そう言って笑って見せる兄貴に、私は笑って返すことができなかった。
「現世に幽霊は存在しないほうがいいように。
霊界は生きている者が存在していい場所じゃ無い。
だから、現世に送る。
2年も俺が守ってなかったら、体を欲しがってる他の幽霊に奪われようとして狙われかねなかったんだぞ?
触れたところで浄化はされるけど、その前に傷つけようとする意思はしっかりと小鳥をその体ごと傷つけられてボロボロにする。
他人になってでも生き返りたいって言うある種の本能が働くんだ」
「兄貴……い、嫌」
大丈夫だと。
組織に下で護られるから怖いのは無いぞと頭を撫でる兄貴。
違う、違うんだよ兄貴。
私は兄貴が護ってくれるから怖いにが和らぐんだよ? そんなよくわからない組織とか、組織そのものが怖いって。
そう言って伝えようとしたけど、兄貴と繋がってる縁からその意思の強さを感じて、無駄だとわかって私は愕然とした。
雛も魂なのに魂が抜けた抜け殻みたいになっている。
気がつけば私は、街にたどり着いて家の中で雛となんお会話もなくボーっとしている。
すると兄貴がいろんな人を連れてやってきた。
なんか背の高い金髪外国人と女性と、赤毛の女子を引き連れてなんでか瑞々しい大根を生で齧《かじ》ってる目が腫れぼったい人と、しょぼくれた眠たげな男。
そして、透き通る様な肌と薄い水色のオカッパ、深い海のようなの様な青く穏やかな目の女が居た。
なんだ最後の絶対に人じゃ無いんだけど。
「やあ、小鳥ちゃん。
今日は散々だったね。
でもお手柄だよ。
私じゃあどうにかするの難しいからあの箱の中の赤ちゃん。
肉片飛び散っちゃったらそこから侵食されて大変なことになるし。
私じゃあ触ったら大変なことになるし」
なんか人間じゃ無いっぽいのが話しかけてくる。
「えっ……えっ」
「あぁうっかり……そうだ。自己紹介しないと。
私はこの世界から貴女を出しに来ました。
友達と意見が分かれて今では1人、人間を巻き込まず世界を救う方法がないか探し回ってるちょっと人間超えちゃった系の者ですはい。
名前は……えーと。
ほぼほぼ無いみたいなものだけど友達には【虚像に身を隠し才能を探す者】って呼ばれてました。
ハイ、長いのでNo.8でいいからね。
それで後ろにいるのが、現世で貴女がこれからお世話になる人の関係者。
伝言があるから会えたら伝えて欲しいって話ですね、はい」
そう言って紹介された腫れぼったい目の男は、齧っている顎を止めて大根を飲み込み。
「僕はお「大沢先生だよ!」……はぁ、えーそんん感じです。
でこの赤い髪の子供が紅茶々、こっちのどう見ても女性なのに年齢はこの茶々と同じの子供がイヴァンナ ・マハノヴァ。
えー僕はまず組織とのつながりの作り方を……、茶々、地図をお願いします」
「はーい」
赤毛の少女が地図を……大いなる田舎の地図を取り出して、机の上に広げる。
すると大沢先生とやらが指を指す。
「この地点にある木下千鶴って人が運用してるマンションがある。
そこの二丸五号室に住んでる天城蜜柑って女の子に俺たちの名前と組織に名前……えーと名前なんだっけ「カガミナイトだぞ大沢先生」あーそうそう、カガミナイトに入りたいと言えばを言えば、その組織とのつながりはできる。
でさ、天城蜜柑の信用度稼ぎを兼ねて伝言を頼みたいんだけど……俺たちはずっと見守ってるって言ってやってくれ。
特に天城とよくつるんでる木下芳奈って人に。
ちょと気が滅入ってるみたいだから」
……おい勝手に託すなよ。
「では私ですね。
私は……色々と言う義理は薄くなってしまってますけど。
それでも父親として……もし、会えたなら、組織のリーダーに届けられるのなら。
愛しているよ。
無理をしないでねと伝えて欲しいです」
やめてよ、霊界から追い出されるみたいじゃん。
意地でもでないからな。
「……覚えてくれたかな?
それじゃあ始めるよ。
霊界、別の名を鏡の世界。
とある一説には鏡は霊界につながると言う。
ハイ、大正解。
鏡は霊界とも繋がってる。
合わせ鏡が幽霊の封印に使えるとか危険とか言われるのは出入り口って事実の延長戦のお話」
No.8は有無を言わせず。背負っていた姿見の鏡、家の中なのに公園のような光景を映し出す鏡を手で持って、手品のように鏡に映る私を消した。
「さあ通してあげる」
No.8に触れられる。
現世に連れ出そうとしているんだ。
「い、嫌!」
抵抗する。だけど人とは思えない力でビクともしない。
眠たげな男は申し訳なさそうにしている。
お前じゃ無い、私が見たいのは……兄貴!
「兄貴、嫌! 嫌!」
「お兄ちゃん! 私も嫌! お兄ちゃんが消えるの嫌」
雛も嫌がる私に同調するけど、兄貴はごめんなと言うだけで止めようとしない。
そして私は、鏡の中の私に邪魔されることなく、鏡の向こう側へとNo.8に入れられた。
『センキューフォープレイング。
クリアおめでとう。
さてさて、クリア特典を気分が乗ったのであげちゃおうと思うよん』
あの世と現世の境目、鏡を通っている間の世界で、少し前に聞いたばかりの声が聞こえる。
嫌だ嫌だと泣く私の前にスーと読めない字で書かれた紙が……小さく空いた穴に通した糸に滑ってやってくる。
これが何になると起こりそうになって払いのけようと触れると、それに綴られた情報が頭の中に入る。
怖い怖い怖い、兄貴! 兄貴助けて!
私は離れ行くあの世の世界に手を伸ばし───気がつけば現世にいて、そして。
「お、おい小鳥? これはどう言う状況なんだ?」
私から飛び出たのであろう常人には見えざるおぼろげな手に拘束される形で兄貴が居た。
「急に鏡にひっぱり込められたんだけど」
私は、目の前に兄貴が居て……安心して泣いた。
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