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目覚めし七の光

空獣ヒーメル

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勇者の極光による虹色の空はやがて通常の色へと戻っていき、六つのエレメントオーブはティムと風王、そして数人の鳥人族によって天の祭壇へと運ばれた。烈風の谷の奥に聳え立つ山の頂に設けられた祭壇で、此処に風のエレメントオーブが祀られていたのだ。燭台が囲む祭壇の中心部には風塵の勇者アネモスの像が立てられている。ティムはオーブをアネモス像の周りにある燭台に捧げ、風王と共に念じる。祭壇の周囲に光の結界が貼られていく。邪悪な存在を受け付けないばかりか、何者をも通す事のない強力な結界であった。
「ご協力感謝するワ。これデ防衛は完璧ヨ」
ティムは風王に感謝のウィンクを送る。結界は、風王の魔力と自身の魔力を融合させた事で作り上げたものである。
「フム、ワシの魔力でこのような結界を作り出せるとは。ティム殿、そなたは一体……」
「アー、ワタシに関する事ハ……そろそろ教えてもよさそうネ。デモ……あのコ達にとってモ重要な事だかラ、後程ネ」
風王はティムの正体がどうしても気になるばかりだ。少なくとも、強力な光の結界を貼る程の力を持つだけであって只者ではないと感じていた。


その頃、グライン達は風王の家で暫しの休息を取っていた。右腕を骨折したクレバルは寝室で寝かされている。検査の結果、回復魔法を施しても完治するまでかなりの期間を要する複雑骨折となっていたのだ。
「俺とした事がこうなっちまうなんて、ホント情けねえ話だぜ」
ギプスで固定された右腕を見つめながらも、悔しそうに呟くクレバル。
「お前は悪かねぇよ。運が悪かっただけさ。人間の骨って脆いもんだからな」
近くで見守っていたキオが言う。隣にはリルモ、グラインがいる。
「グチグチ言ってないで、今は安静にしてなさいよ」
リルモが言った途端、リンゴを持ったガザニアが現れる。
「これでいいのね?」
「ええ」
リルモはガザニアが持ってきたリンゴの皮を剥こうとする。寝床のクレバルにリンゴを食べさせようとしているのだ。
「お、お? 骨折した俺にリンゴを食わせてくれるってのか? なあリルモ?」
クレバルは嬉しそうな表情を浮かべると、右腕から激痛が襲い掛かる。
「……あんたの事だから、こうでもしないと元気にならないでしょっ」
顔を赤らめながらも返答するリルモ。
「ハハハ、そういう事かよ。お熱いねぇ」
からかう調子でキオが言う。これは自分が入れる雰囲気じゃないな、と空気を読んでリルモに任せるグライン。
「グライン、リンゴ剥くの手伝ってちょうだい」
「え?」
「いいから!」
グラインはクレバルの事を考えると思わず躊躇してしまう。
「おいおい、リルモだけで十分だろ? 第一グラインはリンゴ剥くの下手じゃねえのか?」
「うっ……」
クレバルの言う通り、グラインは包丁でリンゴの皮を剥くのに全く慣れていないのだ。だがそんな事は問題ではなく、ここは全部リルモにやってもらうべきじゃないのかという考えが最優先であった。
「そ、そうだよ。僕はリンゴを剥くのが下手だから慣れてるリルモにやってもらった方が……」
「下手でも味は変わらないでしょ」
「で、でも……」
クレバルの事が気掛かりなグライン。
「おい姉ちゃん、グズグズしてねぇでさっさとリンゴ剥いてやれよ。クレバルの彼女なんだろ?」
キオのストレートな一言にリルモが更に顔を赤くする。
「そんなわけないでしょ! 何言ってんのよ!」
思わず眼前で怒鳴り付けるリルモ。
「んな顔近付けて怒鳴る事ねぇだろ」
「大体なんで私がこんな奴の彼女なのよ! 冗談じゃないわよ!」
全力で首を横に振るリルモだが、顔は赤いままだった。
「何だ、照れ隠しか? 全く、人間の女も素直じゃねえんだな」
キオは思わずクレバルの顔を見る。
「へへっ、仰る通り」
苦笑いするクレバルに、ニヤリと笑うキオ。
「やれやれ。平和そうでいいわね」
ガザニアが退屈そうな様子で腕組みをしている。
「グライン。下手でもいいからリンゴ剥くの手伝いなさい」
「わ、解ったよ」
渋々とリンゴを剥くのを手伝うグライン。そこに、一人の客人がやって来る。
「あなた、あの時の……」
ガザニアが鋭い目で見据える。現れたのはフードを被った女性――各地のエレメントオーブを守る者達に選ばれし人間であるグライン一行の訪れを予言して回っている旅の予言者であった。
「え、この人が噂の予言者?」
現れた女が各地のエレメントオーブ関連で関わっていた予言者である事をガザニアから聞かされて驚くグライン達。
「あ、あの時私を救ってくれたのはあなたなんですね? ありがとうございます」
リルモはかつて自分を命の危機から救ってくれた恩人でもある予言者に礼を言う。だが予言者は無表情でグラインをジッと見つめる。
「あなた達……とうとう揃えたのね。全てのオーブを」
予言者が呟くように言う。
「えっと……僕達の事、知ってるのですか?」
思わず訊ねるグラインだが、予言者の顔を見ているうちに不思議な気持ちを感じるようになる。まるで初めてじゃないような、何処か懐かしいような、そんな感覚に陥っていた。
「……今、この地を離れてはいけない。オーブを守りなさい……」
「え?」
どういう事だと言おうとした途端、予言者はグラインに近付く。
「……あなたには……更なる使命がある」
近い距離で言い残して去ろうとする予言者。
「おい待てよ、何なんだお前? 予言者だか何だか知らねぇが、胡散臭ぇ女の言う事なんざそう簡単に信用すると思ってんのか?」
掴み掛ろうとするキオだが、予言者は動じる事なく去って行く。
「待ちやがれ!」
キオが後を追おうとするものの、ガザニアに止められてしまう。
「てめぇ、何で止めるんだよ」
「バカね、今は敢えて泳がせておくのよ。得体の知れない奴ほど無暗に手を出すものじゃないわ」
「あぁ? 意味解んねぇよ」
ガザニアの考えにキオは納得がいかない様子。
「何だろう……あの人、初めて会った気がしない」
グラインは予言者の事がどうしても気になっていた。
「この地を離れてはいけないってのはどういう事なんだよ? また何かあるってのか?」
クレバルは不安そうな様子。
「なあ、本当に追わなくていいのかよ。あの女も敵だったらどうすんだ?」
キオも予言者が何者なのか気になって仕方ない気持ちで一杯だ。だがグラインは少なくとも敵ではない。そんな雰囲気がしたと返す。
「ケッ、どうなっても知らねえからな」
不貞腐れるようにキオが言うと、ティムと風王が帰って来る。
「ティム! ちょうどいいところに来てくれたよ」
「エ? どうかしたノ?」
グラインは突如訪れた予言者について話す。
「例の予言者ガやって来たんですッテ? とんだ一足違いだったわネ」
予言者の正体が気になり始めるティムに、グラインは自分とは初めて会った気がしない人だった、と打ち明ける。
「初めて会った気ガしないっテ……?」
「うん、何というか……何か懐かしいような気がしたんだ」
「ハア? チョト待って」
ティムはふとメモリードでグラインの記憶を探り始める。グラインの記憶で謎の予言者の存在を認知したティムは表情を険しくさせる。
「どうかしたの?」
「イエ……アナタ達。予言者を探すわヨ!」
「え?」
「いいかラ!」
真剣な表情でティムが言う。
「おい毛むくじゃら。やっぱりあの女はやべえ奴だって言うのか?」
キオが問うものの、説明は後ヨとティムは返す。何なんだろうと思いつつも、ティムの言葉に従って予言者を探す事になったグライン達。だが予言者の姿は既に町の中から消えており、何処に行ったのかも解らない状態だ。住民からの目撃情報はあったものの、向かった先は誰も知らないという。
「ちっくしょう! 何処へ行きやがった!」
手分けして探してみるものの、予言者は結局見つからない。
「人間の女かと思ってたけど、随分逃げ足が速いのね」
町中や周辺を探しても予言者の姿は見つからず、結局諦めてしまう一行。
「ティム。あの人の事、知ってるの?」
あからさま何か知ってるかのような素振りを見せていたティムの様子がどうしても引っ掛かっていたので、思わず予言者について問うグライン。
「知ってルというカ、心当たりガあると言ったところヨ」
「心当たり?」
「エエ。でも……今はマダ知らない方がいいワ」
「どうして?」
「……ごめんなさい。アナタにとって大事なコトだから。ケド……時が来れバ知る事になるはずヨ」
ティムの言葉の意味が気になるグラインだが、ティムの真剣な表情を見ているとなかなか言えないような事情があるのではと察し、今は考えない事にした。
「あのよぉ毛むくじゃら。勿体ぶってねぇで教えろよ。てめぇ、あの女と関係あんのか? 第一てめぇは何者なんだよ。企業秘密だか何だか抜かしてるけど、オレはいつまでも隠し事されるのが大っ嫌いなんだよ」
キオは徐にティムの胸倉を掴む。
「な、何ヨ! 乱暴なマネはやめなさイ!」
「うるせぇ! 正直に白状しやがれ!」
いつまでも言おうとしないティムに苛立つ余り、無理矢理吐かせようとするキオを背後から槍で殴るリルモ。
「ってぇな!」
「ティムを放しなさい。さもないと私が相手になるわよ」
鋭い目で言うリルモの隣にガザニアもいる。キオは舌打ちし、ティムを解放する。
「ハァもう、殴られるのかと思ったワ」
ティムはさっさとリルモの方に向かう。
「やめなよキオ。どうしても言えない事情があって言いたくない事だってあるんだから」
グラインが宥めるように言う。
「ケッ、解ったよ」
ふてぶてしく気持ちを抑えるキオ。ティムは何処か申し訳なさそうな表情をしていた。一先ず風王の家に戻る一行。
「何だ、予言者は結局見つかんなかったのか? っててて……」
クレバルは風王の協力でリハビリに専念していた。
「クレバル、無茶しちゃダメだよ」
「何を言うか。骨が折れちまったからといって、このまま大人しくしてられるかっての」
自分だけが無様な目に遭わされて、このまま取り残されてしまうなんて真っ平御免だという思いで一日でも早く戦地に立てるようにリハビリをしていたクレバル。その懸命さにリルモはいつまでたってもバカなんだから、と心の中で呟いた。
「あの人は、今この地を離れてはいけないって言ってたけど……」
グラインは予言者の言葉が気になってしまうばかり。今はまだ此処にいるべきなのだろうか。あの言葉の意味は、近いうちに敵がエレメントオーブを狙いに来るという事だろうか。六つのオーブは山の頂上に保管され、ティムと風王が何者をも寄せ付けないという強力な結界を張ったらしいけど……。
「グラインよ。勇者として選ばれたお前さんには空獣くうじゅうヒーメルを授ける資格がある。少しばかり付き合ってくれんか」
「え?」
風王の言う空獣ヒーメルとはかつて勇者達の空の旅の乗り物として協力し、決戦の地へと導いた巨大な鳥の翼を持つ聖獣で、海獣ドーファンとは兄弟であった。鳥人族の間では空の長と讃えられている存在である。
「詳しい話は外に出てからしよう。付いて来るがいい」
空獣ヒーメルの事が気になるグライン達は風王の後を追う。
「空獣ヒーメル……空の旅ができるとなると心強いわネ」
ティムは風王の計らいに感心するばかり。案内した先は、町外れとなる場所だった。風王は角笛をグラインに見せる。空獣を呼び出せる角笛との事だ。角笛を吹くと空獣を呼ぶ事が出来るのだが、決められたメロディを上手く演奏しないと来てくれないという。風王はお手本という事でレプリカの角笛を使って空獣を呼ぶメロディを奏でる。
「うーん……上手く吹けるかな。僕、楽器とかそこまで得意な方じゃないからな」
グラインはまずレプリカの角笛で練習する事に。しかし楽器は素人以下な上、角笛を吹いた事がないグラインにとって演奏する事も難しいものだった。海の旅でお世話になったドーファンを呼び出す海獣のホイッスルならばひと吹きで済むのだが、今度はメロディを覚えて演奏しなくてはいけない。思わぬ壁にぶち当たったグラインは何度も何度も角笛の練習を重ねる。
「ったく、グラインの奴いつまで笛吹いてんだよ」
退屈そうにしているキオはだんだん苛立っている様子。
「あまり偉そうに言えないけど、本当にヘタクソなのね」
リルモは本当に大丈夫なのかと言わんばかりの表情だ。
「ダメじゃ。そんなんではヒーメルは相手してくれんぞ」
演奏についてはミスは勿論、僅かなテンポのズレも許されない正確さが求められており、グラインにとってはハードルが高いものだった。だがグラインはそれでも諦めずに挑戦する。
「カーッ、ちっと身体動かしてくらぁ」
余りにもじれったいと感じたキオはトレーニング目的でその場を去って行く。
「全く、ああいった力馬鹿は気が短くて困るわね」
ガザニアの軽い毒舌。長時間繰り返して練習した結果、ようやくグラインはメロディを覚え、正確な音程とテンポを掴むようになった。
「よし、いい感じじゃ。そろそろ本番といこうかの」
風王は本物の角笛を差し出す。グラインは一度深呼吸して、空獣の角笛を吹く。本番という事で緊張しつつも演奏してみた結果、メロディの音程とテンポはほぼ完璧だった。奏で終えてみたものの、空獣は現れない。まだダメだったのか……と思った瞬間、遠くから何かが飛んで来る。
「あ、あれは!」
飛んで来たのは、空獣ヒーメルであった。白い翼を羽ばたかせ、鋭い角に厳つい獣の顔を持つ巨大な体躯で、物々しくもどこかしら神々しい雰囲気を放っている。並みの人間ならば十数人は乗れる程の大きさであった。
「これが空獣ヒーメル……」
降り立ったヒーメルを前に、グライン達は思わず息を呑む。


――我を呼び出したのはそなたか?


突然の声に驚くグライン。声の主はヒーメルで、グラインの意識に直接語り掛けているものだった。
「は、はい。あなたを呼び出したのは、僕です」
グラインが返答すると、リルモは不思議そうな顔で見つめる。
「どうしたのよ? まだ何も言ってないじゃない」
リルモ達にはヒーメルの声は聞こえていない。ティムはかつて自分がドーファンにやった心の声を意識に語り掛ける意思の疎通だと察し、その事をリルモ達に説明する。


――まさかそなたのような子供が新たなる選ばれし者だとはな。笛の演奏は先代の方がずっと上手かったが……まあよかろう。そなたに力を貸してやる。我が必要とならばいつでも笛で呼び出すがいい。


ヒーメルはグラインに力を貸す事を許し、翼を広げて飛び去って行く。
「フム……これは認めて貰えたという事か?」
風王の問いに頷くグライン。
「そのようですね。ありがとうございます、風王様」
「それならよかった。ともあれ、ヒーメルの力を借りるには角笛が必要不可欠じゃからな。大切に持っておくのじゃぞ」
空獣ヒーメルによる空の移動手段を得たグライン達は風王の家に戻ろうとする。時刻は、丁度日が沈む頃となっていた。
「おーい」
軽くトレーニングを済ませたキオが戻って来る。
「さっき羽の生えたでけぇのが飛んで来たけど何だったんだ?」
キオも密かにヒーメルの姿を見ていたようで、グラインがヒーメルについて一通り話す。
「ほぉ。つまりそいつは空の旅に連れてってくれるってわけか?」
「そういう事ネ。アナタ、高いトコロは平気かしラ?」
「あぁ? 平気に決まってんだろ。オレが高いところでビビるわけねぇよ」
「安心したワ。こう見えても高所恐怖症って言われたラどうしようってチョト思ったのヨ」
「んなわけあるか!」
ティムは念の為に高いところは平気かどうかグライン、リルモ、ガザニアにも聞いてみる。グラインは当然、恐れちゃいられないからと返答した。
「空を飛ぶ大きな生き物に乗るって慣れるまでちょっと怖いかもしれないけど……怖がってる場合じゃないわよね」
リルモは若干不安そうだった。
「わたくしは怖いとも思わないけど、あのボウヤはどうかしらね」
ガザニアの言うボウヤとはクレバルの事だ。
「ああ、あのバカだったらガザニアさんが引っ張ればいいんじゃない?」
「いちいち世話を焼く気にはならないわよ」
ドライな返答をするガザニア。別の意味で大丈夫かなぁと思うグライン。
「お、戻ったか」
クレバルのところへ戻ると、リルモが硬直する。なんと、クレバルは風王の使いが手配した鳥人族の看護師である美人のハーピィに介抱されていたのだ。
「へへっ、リハビリしてたら丁度看護師さんが来てくれてな。骨の回復を促進させる薬をくれたんだぜ。もしかしたら案外早く治るかもしんねぇな……って?」
リルモはクレバルに鋭い目を向ける。
「言いたい事はそれだけ?」
ゆっくりとクレバルに近付くリルモ。
「あ、あの……お邪魔でしたら私、この辺で失礼しますうう! それではお大事に!」
看護師のハーピィは只ならない雰囲気を察して退散してしまう。
「リルモ、落ち着いて! ケガ人だから……」
「いい気になってんじゃないわよ、このバカ!」
グラインの制止を聞かず、リルモは拳骨でクレバルの頭を殴り付ける。
「ってぇ! お前、こちとらケガ人だぞ! ちっとは丁重に……」
「なーにが丁重によ! 調子乗ってんじゃないわよ!」
思いっきり顔を近付けて唾を飛ばしながら怒鳴り付けるリルモの剣幕に、クレバルは圧倒されてしまうと同時にケガの痛みに襲われる。
「全く、オルガとタメを張るくらいおっかねぇ姉ちゃんだな」
流石のキオもリルモの気の強さを目の当たりにして『こいつは怒らせてはいけないタイプ』だと認識していた。
「あのザマだと、あの空飛ぶデカブツに乗せられそうもないわね」
ガザニアはクレバルの負傷を見て、完治するまでヒーメルに搭乗出来そうもないと考えていた。
「そうネェ……完全に治るまでは戦線離脱といったところネ」
ティムは今後の事について考えると、突然傷付いた鳥人族の騎士が慌てた様子でやって来る。
「か、風王様! い、今すぐ天の祭壇に……がふっ!」
そう言い残し、血反吐を吐いて倒れる騎士。
「どうした! 何があったのじゃ!」
不吉な予感を覚えた風王は騎士に呼び掛けるが、意識を失っていた。
「一体何が?」
突然の出来事に不穏な空気に包まれる中、ティムはメモリードで騎士の記憶を読み取る。
「……大変ヨ! 早く天の祭壇へ行かナくてハ!」
真剣な表情でティムが言う。エレメントオーブを狙おうとしている敵が襲撃してきたとの事だ。


天の祭壇前では、多くの鳥人族が倒れていた。祭壇の護衛を任されたウィンダル率いる騎士団で、ウィンダルの部下は全滅していた。
「貴様らは何者だ! 我が命に代えてでも貴様らの好きにはさせぬぞ!」
ウィンダルが対峙している相手は、クロトとバキラであった。
「アハハ、やめときな。お前にボク達は倒せやしない。祭壇の結界を解いてくれたら命は助けてやるんだけどねぇ」
腕組みしつつも余裕の態度で言い放つバキラ。ふざけるなとウィンダルが攻撃に差し掛かる。
「邪魔だ……ザコが」
紫色のオーラを纏った鉤爪状の手でウィンダルに挑むクロト。鋭い手はウィンダルの翼を掠め、数枚の羽が舞う。
「バケモノどもめ。エレメントオーブが目的ならば、尚更通すわけにはいかぬ」
風の魔力による竜巻を巻き起こしつつも、ウィンダルは空中を飛び回る。だがクロトはウィンダルを追い、両手の鉤爪による攻撃を繰り出す。レイピアによる連続攻撃で応戦するウィンダルだが、その攻撃も軽く受け止められ、左腕に傷を刻まれていた。

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