EM-エクリプス・モース-

橘/たちばな

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第九章「日蝕-エクリプス-」

神と人

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女神となった太陽の子は、地上に存在する希望の心を太陽の源とし、光を生んだ。

その光は女神の力となり、己の命と血肉をも力に変え、冥府を司る邪神をも凌駕する程の力を生み、そして全ての闇を葬り去った。

光は希望の欠片となって地上に降り注ぎ、『恐怖』『絶望』という名の泥で汚された世界が洗い流されていく。

荒れ狂う海は穏やかさを取り戻し、大気は穏やかなものとなり、太陽が照らす晴れ渡る青空。


邪神は完全に滅ぼされ、女神も世界から姿を消した。



――姉さま……!


幼くも懐かしい声が聞こえる。それは愛しい弟の声であった。
「ネモア……?」
暗闇の中、うっすらと浮かび上がる弟の姿。その表情は穏やかで、悲しげであった。
「姉さま……ありがとう。ぼくは……悪い夢を見ていた」
「ネモア!」
「あの時からぼくは、ずっと暗いところに閉じ込められていた。それで……だんだんぼくがぼくじゃなくなっていくような感じがしたんだ。まるで消えていくような……」
ネモアの言葉に衝撃を受けるレウィシア。二年前、死を迎えたネモアが城の中庭の花畑に埋葬されてから数日後、ネモアの遺体はケセルに回収されていた。ハデリアの新たな肉体として選ばれたネモアは肉体が既にケセルの侵食の魔力に蝕まれ、魂は魔力の影響で天に昇る事が出来ず、肉体の中に作られた深い闇に封印されていた。
「ぼくにはわかる……姉さまがバケモノになったぼくを救ってくれたことを」
ネモアの口から出たバケモノという言葉に、レウィシアは驚愕する。ネモアには、ハデリアとしての記憶が僅かながら存在し、夢という形で出ていたというのだ。
「……姉さまのおかげで、ぼくは助かったんだ。これで……ぼくは眠れる……」
「ネモア!」
レウィシアは思わずネモアを抱きしめようとする。だがその小さな身体は触れる事が出来ず、幻影のような存在となっていた。
「……さようなら、姉さま……」
ネモアの姿が光の粒と化して消えていく。下半身が消えると、ネモアの目から涙が溢れ出す。
「……ネモアァァァァァ!」
悲痛な叫び声を上げるレウィシアは止まらない涙を溢れさせる。消えた弟の姿。辺りに舞う光の粒。レウィシアはその場で泣き崩れていた。


ずっと忘れられない思い出。最愛の弟と過ごした日々。

姉として、稽古を付けた時。母として、愛情を注いだ時。花畑で一緒に遊んだ時。数々の思い出が蘇り、儚く消えていく。

最愛の弟は、本当の意味で旅立った。死を迎えた後、忌まわしき冥神に肉体を利用されるという呪われた運命から解放され、永遠の眠りに就いた。




……此処ハ……何処ダ……。

コノ忌マワシキ光……我ハ……何故此処ニイル……?


暗闇の中、邪悪な輝きを放つ一つの魂。それを覆い尽くす光の球体。冥神の魂であった。太陽の女神としての力、全ての希望の心によって覚醒した太陽の力でハデリアとしての肉体は滅ぼされ、魂は女神の力が生み出した球体に閉じ込められていた。


最期の時だ、ハデスよ――。


現れたのは杖を手に、神々しい光を纏う神の幻影――創生神モルスであった。
「コノ輝キ……忘レモセヌ。モルス、貴様……!」
冥神の魂が忌々しげな様子で声を上げる。
「無駄な事だ。如何に貴様でもその光の拘束からは逃れられぬ。余は太陽の子によって縛めから解放された。そして我が子達の意思を聞いた。己を犠牲に貴様を封印するとな」
縛め――それは、冥神の力による魂の封印であった。かつてモルスの弟であるハリアの肉体を奪い、冥神ハデリアとして冥界で力を蓄えたハデスの攻撃によって肉体を失い、魂となったモルスとレーヴェは冥府の力による縛めを受け、冥神の力が生み出した闇の拘束に封印されていた。だが、レウィシアによってハデリアが倒された事で縛めは解け、モルスの魂は精神体と化していたのだ。そして冥神の魂を捕えている光の拘束による球体は、女神の力となった三戦神そのものであった。三戦神は、光の拘束として冥神の魂を永遠に封印しようとしているのだ。


あの時、貴様を地上の奥底へ封印する事を選んだのは、貴様の魂の中にハリア様の魂が残っていたが故の考えであった。

だが、それは大きな過ちであった。ハリア様の魂は既に貴様に喰われていた。我々の甘さが貴様を再び蘇らせ、繰り返させてはならぬ災いを引き起こしてしまった。『エクリプス・モース』という名の災いをな。

精神体として存在していた我々は、同じ過ちを繰り返さぬよう、太陽の子の力そのものとなった。そして、我々は貴様を永久に封印する。そして共にするのだ。貴様が生まれた冥界の奥底へ――


三戦神の声を聞いていたモルスが神の杖を掲げると、冥神の魂を覆う光の球体が浮かび上がる。
「グオオオオアアアアアアアアア! ア、熱イ……ウオオオオオオオオオ! 熱イイイイイ! ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
球体は眩い光を放ち、冥神の魂は苦痛の声を轟かせる。
「我が子達が地上を守る神としての使命を果たした今、我々の手で貴様を完全に葬り去る。未来永劫、地上に君臨する事が無いようにな」
モルスが掲げる神の杖から放たれる光は辺りを照らし、暗闇は光溢れる空間へと変わっていく。それは、神の力が生む聖の領域であった。
「ウオオオオオォォオオアアアア! 忌マワシキ神ノ子メ! ヤメロ……ヤメロオオオオオオ! グオアアアアアアアアアアァァァァッ!」
冥神の魂の声が響く中、輝く光の球体を中心に、巨大な魔法陣が現れる。
「去らばだ、我が子達よ……」
モルスの言葉で光の柱が立つと魔法陣の中心地に穴が開き、無数の黒い手が現れ、光の球体を引きずり込んでいく。
「ヌオオオオアアアアアァアアアアアアアアアアアアア!」
それは神々の力によって生み出された次元の穴。冥神の魂が引きずり込まれる場所は、生まれた世界となる場所であった。


我ハ……渇キト……空腹ヲ満タス世界ガ……欲シカッタ……

我ニハ……生キル事モ……許サレヌ……ノカ……

我ノ……行キ着ク先……ハ……?


次元の穴は魔法陣共々消え、冥神の魂は三戦神そのものである光の拘束が齎す神の光に焼かれながらも冥界の奥底へと送られ、終わりのない永劫の苦痛を受ける事となった。そして三戦神も冥神の魂と共に消滅した。
「アポロイア、ルイナ、ヴァルク、そして我が弟ハリアよ……許せ……余は無力であった」
沈痛な面持ちのモルスの元に七つの魂が浮かび上がる。冥神の生贄となった魂であった。闇に染められていた七つの魂は綺麗に浄化され、光り輝いている。
「……冥神の力の糧に選ばれた魂よ、地上へ帰るがいい。まだ此処に来る時では無い」
モルスは七つの魂を地上へ導こうとするが、魂の一つは光が弱まっている。
「これは……闇の魂と融合しているのか」
光が弱まった魂は、憎悪と破滅の魂と融合したブレドルド王の魂であった。魂の中に残る闇の力が抵抗しているのだ。
「少々手が掛かりそうだが……お前達も協力して欲しい」
モルスが呼び掛けている相手は、六柱のエレメント神であった。六柱の神々がモルスの元に集うと、ブレドルド王の魂の浄化が始まる。



一方その頃――。


……レウィシア。

目を覚ましなさい……太陽の子よ。


穏やかで暖かな雰囲気が漂う声。目を覚ますとそこは、全てが光に溢れた見知らぬ世界であった。正面には虹色に輝く大階段があり、雲が広がっている。レウィシアは今いる場所が何処なのか答えを見出そうと、辺りを見渡す。


此処は神界……その階段を登るのです――。


神界という言葉を聞いた瞬間、レウィシアは愕然とする。私、死んでしまったの? 冥神はどうなったの? そんな事を考えながらも、階段を登り始めるレウィシア。階段を登り終えた先には、巨大な神殿が聳え立っていた。レウィシアは息を呑み、神殿に入って行く。広い神殿の内部は荘厳かつ美しくも、人の気配がなく静まり返っていた。
「よくぞいらっしゃいました……」
巨大な神の像が聳え立つ祭壇が設けられた大広間に出ると、神々しい雰囲気に満ちた女性の幻影が現れる。
「私はレーヴェ。創生神モルスと共に、『グラン・モース』と呼ばれる世界に存在する全ての種族を創生せし者……」
目の前に現れた女性の幻影が女神レーヴェだという事に驚くレウィシア。
「レウィシア・カーネイリス。貴女のおかげで冥神は滅びました。グラン・モースは救われ、私達は冥府の縛めから解放されました。貴女には感謝しています」
冥神は完全に滅びたという事実を聞かされたレウィシアは思わずこれまでの旅を振り返る。多くの仲間と出会い、様々な困難を乗り越え、自分自身を犠牲にしつつも仲間達の想いや世界中の希望の心を胸に最後の戦いに挑み、全てを救う事が出来た。戦いが終わった事に感極まり、溢れ出る涙を拭うレウィシア。更にレーヴェは語る。自身は冥神によって肉体を失い、精神体となった魂である事を。魂だけとなったレーヴェとモルスが封印されてから、眷属である六柱のエレメント神は地上の均衡を保つそれぞれのエレメントを司る故に冥神と戦う事は出来ず、地上を守る為にそれぞれのエレメントを司る特殊な人間を生み出していた。地上に降り立った冥神に立ち向かうべく、現れた神の子アポロイア、ルイナ、ヴァルクとエレメント神によって生み出された英雄達。地上の光となった者達は冥神を地底の奥底へ封印する事に成功し、戦いで深手を負っていたアポロイアは未来の災厄に備えて自身の力と炎の神の英雄の力を併せ持つ子孫を遺す為、命と引き換えに炎の神の英雄ブレンネンに太陽と戦神の力を与え、ルイナは叡智を司る子を生み、天性の魔力を司る子と未来を予知出来る力を持つ子を遺し、自らの命を費やして神の遺産を守る使命を受けた人間達に加護を与えた。ヴァルクもまた冥神との戦いで深い傷を負い、自身の武器である神雷の剣を封印し、残された生命力で自身の裁きの雷光と呼ばれる赤雷の力を継ぐ特殊な人間を地上に遺した。地上の神となった三戦神は光を守る為に神の意思を持つ子孫を遺して死を迎え、幾千もの時の中、魂を精神体に変えて世界の行く末を見守り、冥神との決戦を迎えた際にレウィシアに全てを捧げていたのだ。太陽と戦神の力を与えられた事によってアポロイアそのものとなったブレンネンの子孫がクレマローズの王家であり、ヴァルクの力を継ぐ人間の子孫がエリーゼであり、ヴェルラウドであった。
「貴女は冥神に挑みし神々の全てを受け入れ、私達の子のように地上の神となりました。そして貴女は今、私達と同様、精神体となった魂として此処にいるのです」
「え?」
レウィシアは衝撃を受ける。
「あの時……貴女は命をも力に変えて冥神を倒しましたね。冥神が滅びてから、貴女は全ての力を使い果たし、肉体の生命力は尽きたのです」
次の瞬間、光に包まれたレウィシアの肉体が現れる。その姿は血に塗れ、損傷が激しいものとなっていた。
「……じゃあ私はもう……」
自分は死を迎えていた。そんな事実を知り、再び涙を流すレウィシア。
「レウィシア……貴女はこの神界で地上を見守る神となるのです。そう、太陽の女神として……」
自らの肉体を前に、涙を零しながら項垂れるレウィシア。そんなレウィシアを見守るレーヴェの表情は悲しげであった。
「待て、レーヴェ」
突然の声。現れたのは、モルスであった。
「よくぞ来たな、太陽の子よ。余はモルス。グラン・モースを創生せし者……全ての創生を司る者なり」
現れたのが創生神モルスである事にレウィシアは驚愕する。
「レウィシア・カーネイリス……我が子が遺した太陽の子たる者がグラン・モースを救うとは。よくやってくれた」
モルスが感謝の意を述べると、レウィシアは複雑な心境のまま跪く。
「レーヴェから聞かされた通り、お前は我々と同様肉体の生命力を失い、魂だけの存在となった。お前が精神体としてこの場にいられるのも、人を捨て、神となったが故。本来ならばお前は太陽の神として地上を見守る役目を与えるべきなのだが……全ての災いは我々の甘さが招いた事でもあった。お前に力を与えた我が子達も己を犠牲にして冥神の魂を封印したのだ……」
モルスの言葉を聞いて何とも言えない気分になるレウィシア。
「レウィシアよ、問いに答えよ。全ての戦いを終えたそなたは今、何を望んでいる? 偽りなき心で答えて欲しい」
モルスが問う。レウィシアは半ば緊張感を覚えながらも、モルスの表情を真剣な様子で見つめる。静寂が支配する中、レウィシアは立ち上がる。
「……私は、地上の太陽になる事を望んでいます。人々に希望を与える太陽として、人として地上に生きる事……それが私の望みです」
率直な気持ちのまま回答するレウィシア。その瞳には偽りをも感じさせない。モルスはそんなレウィシアの瞳を見つつも、レウィシアの肉体に視線を移し、考え事をする。重い空気に包まれるものの、レウィシアは表情を変えずにモルスの姿を見つめていた。そしてモルスの口が再び開かれる。
「……僅かな太陽を感じる」
モルスの言う僅かな太陽とは、レウィシアの肉体に宿る太陽であった。
「死したはずのレウィシアの肉体から、僅かな太陽の源が残されていた。この太陽を再び輝かせ、生命力に変える事が出来れば、お前は人として地上に生きられるかもしれぬ」
「ええっ!」
思わず声を上げるレウィシア。
「だが……これは危険な事でもある。太陽の源を生命力として輝かせるには、魂の中に宿る精神力の全て……つまりお前自身を力に変え、輝かせた太陽と一体化して魂に変化させるというものだ。もしお前の魂の精神力が太陽を輝かせるのに不十分とならば、力となった精神力は燃え尽きてしまい、魂そのものであるお前は完全に消滅する事になる。それに……如何にお前でも成功率は極めて低い上、完成させるには長い年月を費やす事となる」
レウィシアは愕然とする余り、言葉を失う。精神力は魂のエネルギーの源であり、それが尽きると魂は消滅してしまう。地上に生きる望みを叶えるには、危険な賭けを強いられる事となる。そして自身が消滅する事になればどうなってしまうのか。更に太陽を魂に変化させるには、長い年月が必要だと言われている。しかもその成功率は極めて低い。理想を選ぶか今を選ぶか。そんな選択肢を迫られたレウィシアの心に不安と恐怖が圧し掛かって来る。
「神として生きる道を選ぶか、人として生きる道を選ぶかはお前の意思が決める事だ。我々は神の間にいる。よく考えて決めるがいい」
モルスとレーヴェはレウィシアの肉体と共にその場から姿を消す。一人取り残されたレウィシアは決断に悩み、立ち尽くしていた。
「……人として地上で生きたくても……私は……」
答えが見出せないまま身震いするレウィシア。


やっぱり悩むのね? まあ、こればかりは無理もないよね。失敗したら完全に無になるんだから。


突然聞こえる自分自身の声。レウィシアが見たものは、心闇の化身の幻影であった。
「あなた、こんなところにまで……!」
「あら、そんな顔しなくてもいいじゃない。私はあなたなんだから」
不敵に笑う心闇の化身だが、その表情はどこか悲しげであった。レウィシアはやれやれとばかりに苦笑いする。
「……だったら聞くわ。あなただったらどちらを選ぶ?」
「何?」
「神として生きるか、人として生きるか。あなただって悩むでしょう?」
レウィシアの問いに、心闇の化身は表情を険しくさせる。
「……そんな問い自体が無駄だという事が解らないの?」
更に表情を歪めていく心闇の化身。
「言わせないで! 私はあなた自身。あなたの決断は私の決断でもある。あなた自身の意思で決めるべき事を、他者の意見で答えを見つけようと考えていたの?」
感情的に怒鳴る心闇の化身にレウィシアは思わず目を見開かせる。
「心に少しでも迷いがあるなら、失敗する末路しかないのが見えている。あなただって薄々そう思ってるんじゃないの?」
レウィシアは何も言い返す事が出来ず、その場に立ち尽くしていた。
「……ま、あなたがどちらを選ぼうと、私は決して恨まないわ。あなたは私なんだから。生半可な気持ちじゃなく、迷いの無い心で決断する事よ」
そう言い残し、心闇の化身の姿が消えていく。
「ま、待って!」
呼び止めようとするレウィシアだが、心闇の化身の幻影は消滅していた。
「心闇の化身……」
レウィシアは心闇の化身の言葉の意味を考えつつも、自分が今望んでいる事について改めて考える。


私の望み……それは、希望の太陽として人々に光を与える。それは神としてではなく、人としての太陽になる事。

私の太陽の力は、光と希望を与えるものだと言われていた。私の肉体に宿る僅かな太陽が光と希望を与えるものになるのならば、その太陽で世界に悪しき闇を生まないようにしたい。

冥神が滅んでも、人間が存在する限り、世界中に存在する罪は決して消えない。罪は悪しき闇を生み、災いと悲劇を生む。冥神を蘇らせる悪魔が現れたのも、人が生んだ多くの罪によるものだと言われている。

もう、闇による忌まわしき災いと悲劇を繰り返したくない。

私には、数々の罪や争いを生まない平和な王国にする為に王位を継ぎたいという気持ちがある。そして、世界の全てを変えなくてはいけない。人々の罪が生んだ大いなる災いを生まない為にも。


心の整理をしたレウィシアは大きく息を吐き、正面にある神の像をジッと見つめる。レウィシアの頭に次々と仲間達の姿が浮かんで来る。ルーチェ、ラファウス、テティノ、ヴェルラウド、スフレ、オディアン、リラン――冥神との最後の戦いの時に伝えられた仲間達の想い。世界中の人々の希望の心。そう、私は決して一人じゃない。私に力と勇気、そして希望を与えてくれた仲間達や、希望の心を絶やさないでいてくれた人々の心を決して無駄にしない。


レウィシアよ――。


声と共に現れたのは、ブレンネンの幻影であった。
「レウィシアよ、お前の想いに偽りが無ければ、お前の意思のままに決断を下す事だ」
力強い眼差しでブレンネンが言う。
「お前の意思による答えは、お前自身の心が見出すもの。心に迷いが無ければ、恐れる事は無い」
ブレンネンの言葉を受け、レウィシアは黙って頷く。
「行け、レウィシアよ。お前の心は答えを導き出しているはずだ。迷い無き心が揺るがぬうちに、有りの侭の意思を示すのだ」
「……はい!」
力強く返事し、レウィシアは大広間の奥にある階段を登り、神殿の最上階にある神の間へ向かう。


私は、希望の太陽になる。

冥神が滅びてからが、本当の始まり。

多くの災厄によって失ったものは数知れない。でもそれは、人が生んだ罪と悪しき闇が生んだもの。

そう、災厄が生まれない世界にする。その為にも、私は希望の太陽になる。


神の間――光に覆われたレウィシアの肉体を見守るモルスとレーヴェ。モルスは考え事をしながらもレウィシアの肉体を見つめていた。
「来ましたね、レウィシア」
レーヴェに迎えられ、緊張した面持ちで入るレウィシア。だがモルスは振り返らない。沈黙が支配する中、レウィシアは一呼吸置いて口を開ける。
「……創生神モルス様。今こそ私の決断をお伝えします」
レウィシアが決断を伝えると、モルスの目が大きく見開かれた。


太陽が照らす青空の中、地上の全てに降り注ぐ光の粒。鳴動は止み、嵐も完全に収まっている。光の粒は冥府の力の影響で絶望に襲われていた人々の心を照らし始め、災いの根源となる存在が滅び、世界に平和が戻ったという事を悟り始める。

レウィシアの戦いを見守っていたヴェルラウド達は、ハデリアが発動したドゥーム・カタストロフィによる隕石の巻き添えを受け、ボロボロの状態で意識を失っていた。だが、降り注ぐ光の粒がヴェルラウド達の傷を癒していく。同時に七つの光と、淡く小さな光がやって来る。七つの光は破壊された賢者の神殿跡へ向かい、光は地面に落ちると、ソルの姿に変化していく。ソルは苦しそうな様子でフラフラとしつつ、ヴェルラウドの元へ向かって行く。近くには、折れたアポロイアの剣の残骸が落ちていた。

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