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エピローグ
死を越えた想い、そして……
しおりを挟むサレスティル王国の城下町の広場に立てられたシラリネの墓。王国へ帰還したシルヴェラはヴェルラウドと共にシラリネへの弔いを捧げていた。
「シラリネ……私は母親失格だ。お前までもがこんな事になろうとは……許せ……」
シルヴェラは涙を流しつつも、娘であるシラリネの墓を前に詫びる。ヴェルラウドはシルヴェラの傍らで黙祷を捧げていた。
王女シラリネを失い、ゲウドによって多くの人々が浚われ、多大な犠牲を残したサレスティル王国。冥神が倒された事で世界は平和を取り戻し、女王であるシルヴェラの帰還に国民は大いに喜び、宴が開かれた。宴の夜、ヴェルラウドはバルコニーでシラリネと過ごした時の事を振り返っていた。
自分が王国に災いを呼び寄せていると思い悩んでいた際、シラリネから優しい言葉を掛けられ、突然仕掛けてきたキスの感触を思い出してしまう。
あの時シラリネは俺にどういう感情を持っていたのだろうか。
俺にとってシラリネは、騎士として守らなくてはならない存在。故郷で守るべき者達を目の前で失い、二度も守るべき者を失いたくない思いもあって、騎士としてシラリネを守る事を心に誓った。故郷を失った俺を快く受け入れてくれた女王の娘だから、騎士として守りたかった。だが、それも叶わぬ事であった。
偽の女王の奸計に翻弄されるがままの俺を救う為、自らの死を選んだシラリネの姿。血に塗れたシラリネの遺体の感触は、未だに忘れられない。そして、ずっと信じられなかった。忌まわしき出来事が繰り返されたという現実と、二度も三度も守るべき者を守れなかった自分の無力さを恨むばかりであった――。
夜空を見上げると、一つの流れ星が流れる。ヴェルラウドはシラリネから与えられたルベライトのペンダントを握り締めながらも、無数の星が鏤められた夜空をずっと眺めていた。
「此処にいたのか」
声と共に現れたのは、シルヴェラだった。
「シラリネの事は本当に残念だが……お前は災いの根源を滅ぼしてくれたレウィシア王女の力になったのだろう? お前を責める理由が何処にある?」
ヴェルラウドは何も言えないまま、俯き加減にシルヴェラの言葉を聞いていた。
「このサレスティルも多大な犠牲を生んでしまった。失ったものが多すぎるな……」
シルヴェラはバルコニーから夜の城下町を見下ろす。
「……女王様。明日、私はクリソベイアへ……父ジョルディスの元へ向かおうと考えています。宜しいでしょうか」
亡き父が眠る墓と、故郷であるクリソベイアに向かおうと考えていたヴェルラウドはシルヴェラに許可を求める。
「構わぬ。私も付いて行きたいところだが、城の者を心配させるわけには行かぬ。ジョルディスに顔を見せてやるがいい」
「ありがとうございます」
ヴェルラウドが胸に手を当てて礼を言うと、シルヴェラは旧知の仲であるエリーゼとジョルディスの事を想う。
エリーゼ……ジョルディス。お前達の子は、お前達を越えたようだ。
ヴェルラウドは、世界を救う太陽となったレウィシア王女を守る為に戦い抜いていた。お前達の子が女王となった私の元を訪れたのは運命だったのだろう。
お前達は……ヴェルラウドは、我々の誇りだ。どうか、あの世で彼を見守っていてくれ。
翌日――ヴェルラウドはジョルディスの墓がある集落へやって来る。
「父さん……終わったよ。全てが終わった……」
ヴェルラウドは黙祷を捧げつつ、亡き父に想いを馳せる。今あの世で父さんと母さんが見ている気がする。そう思ったヴェルラウドは空を見上げる。
「陛下も、姫も……俺を見守っているだろうか」
クリソベイア王とリセリア姫の事が頭に浮かんだヴェルラウドは祈りを捧げ、廃墟となったクリソベイア王国に向かおうとする。
「あ、あの時のおにいちゃん!」
突然聞こえてきた声に振り返るヴェルラウド。現れたのは、かつて転んで膝を擦り剝いて泣いていたところをヴェルラウドに薬草で手当てされた女の子であった。
「君は確かあの時の……」
女の子の顔に覚えがあるヴェルラウドは過去の出来事を思い出してしまう。
「ユア、どうしたの?」
ユアと呼ばれた女の子の元に男の子がやって来る。
「あ! 騎士さま! 騎士さまだ!」
男の子は目を輝かせてヴェルラウドを見つめている。ヴェルラウドはあの時の子か、と思いつつも懐かしい気分になる。
「また君達と会えるなんてな。元気してたか?」
「うん! 世界をすくったのは騎士さまなんだよね?」
「あ、えっと……」
ヴェルラウドはどう答えようか迷うものの、そういう事になるかなと答えると、男の子はますますはしゃぎ出す。
「すごいやすごいや! やっぱり騎士さまってかっこいい! ぼく、ぜったいに騎士さまになる!」
男の子のはしゃぎようにヴェルラウドは表情を綻ばせ、背丈を合わせるようにしゃがみ込む。
「君だったらきっと立派な騎士様になれるさ。大切なお友達を守るという気持ちを忘れるんじゃないぞ」
ヴェルラウドは穏やかな表情を浮かべながらも男の子の頭を撫でると、再び立ち上がり、集落を去ろうとする。
「あ! ねえ……」
男の子が呼び掛けると、ヴェルラウドは足を止める。
「騎士さま、お名前を教えてよ! ぼくはポルク!」
ヴェルラウドは僅かに振り返る。
「……俺はヴェルラウド。ヴェルラウド・ゼノ・ミラディルスだ」
名を名乗り、静かに去って行くヴェルラウドの姿をポルクとユアはいつまでも眺めていた。
「ヴェルラウドさま……かっこいいや……」
ヴェルラウドに憧れを抱くポルクとユア。無垢なままに自分を慕う幼い少年少女の純粋さに触れたヴェルラウドは、心の何処かで救われるような気持ちになるのを感じた。
……あの子達は、こんな俺でも純粋に慕ってくれる。
守るべき大切な存在を守る事すら出来なかった俺に憧れを抱くなんて、考えた事もなかった。
だからこそ、俺はあの子達の気持ちに応えなくてはならない――。
廃墟となったクリソベイア王国に辿り着いたヴェルラウドは、主君であったクリソベイア王とリセリア姫への追悼の意で黙祷を捧げる。そして城内に放置されていた騎士達の屍を埋葬していき、犠牲となった者達の墓を立てていく。
「陛下……姫様……そして犠牲となった民よ。どうか安らかに」
日が暮れ、静寂に包まれる中、ヴェルラウドはただ一人で全ての犠牲者を弔い続けていた。同時にスフレやオディアンと初めて出会った場所であった事を思い出すと、二人との出会いを振り返る。
二人は、蘇った闇王を討つ為に赤雷の騎士の子である自分の力を求めていた。
あの二人との出会いが、俺の運命を大きく変えたんだ。
ヴェルラウドはスフレとオディアンとの出会いが自分にとって大きな意味のあるものだったという事を改めて実感する。この場で二人と出会い、自分の力になろうとしている仲間として共にし、苦難を乗り越えて来た。だが、スフレはもうこの世にいない。リセリア、シラリネに続き、スフレまでもが命を失ってしまった。自分にとって守るべき存在でもあったスフレを、守る事が出来ないまま自分の前で命を失ったという事実は未だに信じられない程だった。
「スフレ……」
ヴェルラウドはスフレのブローチを取り出し、力強く握り締める。不意に涙が溢れ出し、脳内からスフレの過去の声が繰り返される。
初めまして、赤雷の騎士様。賢王に仕えし賢者スフレ・モルブレッドと申します。
あたし達は賢王様の予言に従い、赤雷の騎士の力を求めてやって来たのよ。ヴェルラウドと言ったわね。あなたはかつて闇王と戦った赤雷の子であり、赤き雷を継ぐ者。復活した闇王を討つ為には、あなたの力が必要なの――
それから一ヶ月余り――サレスティル城の謁見の間に一人の兵士がやって来る。謁見の間にいるのは玉座に腰掛けるシルヴェラ、傍らに大臣、ヴェルラウド、護衛の戦士数人であった。
「女王様。ヴェルラウド様の旅仲間となる者達がやって参りました」
「何?」
城を訪れたのはラファウス、リラン、ルーチェであった。三人が兵士に案内される形で謁見の間にやって来る。
「お前達、どうして此処に?」
一ヶ月ぶりのラファウス達との再会にヴェルラウドが思わず声を掛ける。
「お久しぶりですね、ヴェルラウド。そしてサレスティル女王、初めまして」
ラファウス達は深々と頭を下げる。
「そうか、お前達はレウィシア王女の……お前達の事はヴェルラウドから聞かされている。我がサレスティルへ訪れるとは何用があっての事だ?」
「はい。どうか女王にもご協力願いたい事情ですが」
ラファウスは旅の目的の全てを話す。
「成る程、人としての罪の愚かさとエルフ族の悲劇を世界中に伝えていくとな。人の罪が災いを生み出したというのならば、この世界そのものを一度見つめ直す必要があるのかもしれぬ」
シルヴェラはラファウス達の目的に協力の意向を示す。
「ご協力感謝致します。ヴェルラウドは……」
ふとヴェルラウドの事が気になるラファウス。
「悪いが俺は女王様を守らねばならない。俺に出来る事があればお前達に協力したいのは山々だが」
ヴェルラウドが返答すると、ラファウスは少々残念そうな表情を浮かべつつも、シルヴェラに深く頭を下げる。
「それでは、私達はこれで失礼します」
ラファウス達が去ると、シルヴェラはふとヴェルラウドに視線を移す。
「ヴェルラウドよ。彼女達と同行しなくて良かったのか?」
シルヴェラの問いに驚くヴェルラウド。それは予想外の問いであり、ヴェルラウドは返答に戸惑ってしまう。
「いえ……私はただ、女王様をお守りせねばと……」
「私を守る必要が何処にある? お前は内心考えているのではないか? 己にけじめを付けなくてはならぬという事を」
ヴェルラウドは驚きの余り、言葉を詰まらせる。内心、過去の様々な忌まわしい出来事による心のしこりがいつまでも残り続け、何処かでけじめを付けたいと考えていたのだ。そんなヴェルラウドの本心を、シルヴェラは見抜いていた。
「私の事は心配せずに行くと良い。お前自身の為にもな。シラリネや、エリーゼとジョルディスもその事を望んでいるはずだ。お前は……未来の光なのだ」
シルヴェラの温かい言葉を受けたヴェルラウドはその想いに応えるべく、力強く返事をする。
「女王様。温かいお言葉とお気遣いに心から感謝致します。私……ヴェルラウド・ゼノ・ミラディルスは再び旅に出ます。全てにけじめを付ける為に」
己のけじめを付ける旅に出る決意を固めたヴェルラウドはシルヴェラと大臣に挨拶をし、城を後にする。王国の兵士達は、去り行くヴェルラウドに熱い声援を送っていた。城下町を出た時は、ラファウス一行の姿は既になかった。
「……俺は俺で旅に出るか。あいつらの邪魔をするわけにはいかない」
王国を後にしたヴェルラウドは船着き場へ向かって行く。最初の目的地は、ブレドルド王国であった。
翌日、ラファウス達はクレマローズ王国でガウラとアレアスに協力を求め終えると、ルーチェが住んでいた教会の跡地へ弔いの祈りを捧げる。
「ルーチェよ、この教会の修道士達もきっと浮かばれるだろう」
涙ぐみながらも教会の跡地を見つめているルーチェにそっと声を掛けるリラン。
「平和になっても、犠牲となった命は戻らない……このような悲劇を繰り返させない為にも、私達に出来る事をやらなくてはなりません。ルーチェ、解りますね?」
ラファウスが冷静に問い掛けると、ルーチェは黙って頷く。
「行きますよ、ルーチェ。いつまでも悲しんでいる場合ではありません。涙を拭きなさい」
厳しくも優しい言葉を受け、ルーチェは涙を拭いながらも歩き始めるラファウスとリランの後を追う。その時、一匹の犬がシッポを振りながらラファウスの元へやって来る。
「この犬、何処かで……」
犬に見覚えがある様子のラファウス。犬は、メイコの飼い犬であるランであった。
「あー! ランったら、また走り出して!」
駆け付けて来たのは、メイコであった。
「まあ! ラファウスさんにルーチェ君じゃありませんか! お久しぶりですね!」
「お久しぶりです、メイコさん」
「久しぶり」
メイコを前に淡々と挨拶をするラファウスとルーチェ。
「誰だ? 君達の知り合いか?」
リランは不思議そうな顔をする。
「あら? レウィシアさんはご一緒じゃないんですか? そちらの見慣れないお方はどなたですかぁ?」
「う、うむ。私はリラン。彼女の仲間といったところだ」
リランが軽く自己紹介をすると、ラファウスはメイコにレウィシアは様々な事情で不在である事を話す。
「そうなんですかぁー。まさかレウィシアさんが世界を救うなんてビックリしましたよ! あんな凄いバケモノと戦っていたなんて、最早女神様の一言ですよね!」
軽い調子で言うメイコの一言に、ラファウスとルーチェは思わずレウィシアの事が気になってしまう。
「あ! もし何か必要でしたら品揃えでも見ていきます? 今回は世界が平和になった記念という事で特売品も揃えてますよぉ!」
営業に入るメイコを見てラファウスはルーチェの手を引き、すぐさまその場から去ろうとする。
「ちょっと待って下さいよ! せめて旅の必需品となるものくらい見ていってもいいじゃありませんか!」
「別にお困りではありませんので。商売でしたら余所でお願いします」
「そ、そこまで素っ気なくしなくてもいいじゃありませんか! ほら、旅のお助けアイテムという事でこれを特別サービスでお売り致しますよ!」
メイコが道具袋から取り出したものは、リターンジェムであった。
「む? それはリターンジェムではないか」
リランが驚きの声を上げる。
「あら? ご存知でした?」
「うむ、私も所持しているものでな。父から譲り受けたものだが」
「まあ! それは奇遇ですねぇ。もしやあなたも私達と同じ商人……という感じではなさそうですね」
「少なくとも私自身は商人とは無縁だ。父の友人が世界で有名な大商人だったそうだが」
「ええっ! その大商人というのはもしかして親方様の事ですかぁ?」
「親方? どういう事だ?」
メイコが所属している商人団体の親方――その名はアキード。かつて大商人として世界に名を轟かせていた存在であり、リランの父リヴァンの友人でもあった。アキードはリヴァンと共に世界各地を冒険していた時期があり、冒険の末に手にした数々の財宝を資金源に商人団体を設立し、リターンジェムはリヴァンとの共同で作られた魔法アイテムであった。アキードはトレイダを拠点に世界中に物資を提供する数々の行商人を育成し、メイコもアキードの元で商人の修行を重ねてきたのだ。
「成る程……不思議な縁もあったものだな」
「まさか此方で親方様のお仲間さんだった賢者様の息子さんとお会いするなんて思いもしませんでしたよぉ。もし宜しければ親方様に顔見せしては如何ですかぁ? トレイダならば私のリターンジェムであっという間ですよ!」
リランはふとラファウスの方に視線を向けるが、ラファウスは否定的な表情をしていた。
「……いや、今は遠慮しておく。彼女達との旅を優先しなくてはならぬものでな。我々はそろそろ行かせてもらうよ」
「そうですかぁ。あ。もし何かお困りでしたら私をごひいきにお願いしますね! いつでも秘蔵の品でお助け致しますから!」
メイコが言い終わらないうちに、ラファウス達はその場から去って行く。
「もう! 最後まで話を聞いてくれてもいいじゃないですかー!」
膨れっ面をするメイコだが、ラファウスは構わずに前進していた。
「……行商人といえど、少し気の毒な気もするな」
歩きながらも、僅かに背後を振り返るリラン。
「気にする必要はありませんよ。あの人と関わっていたら不要なものを売りつけられそうですからね。今は私達の目的を優先せねばなりません。次の目的地へ向かいますよ」
ラファウスはルーチェの手を引きながらも、早歩きで王国から出る。リランはやれやれと思いつつも、ラファウスとルーチェの後を追った。
数日後――ブレドルド王国の闘技場では、二人の騎士が激しく剣を交えていた。ヴェルラウドとオディアンであった。ヴェルラウドがブレドルド王国を訪れた際、オディアンは再会した際に剣を交えるという約束を果たす為、一騎打ちによる真剣勝負に応じたのだ。闘技場内には観客や兵士の姿はなく、ただ二人だけしかいない。何者にも邪魔はさせない、男同士の本気の戦いであった。神雷の剣が破損した今、並みの剣で、しかも赤雷の力に頼らない己の剣技のみでの戦いを望んだヴェルラウドはオディアンの大剣と激突する。数々の必殺剣を駆使するオディアンの猛攻に押され気味になるヴェルラウドだが、カウンターを狙い、反撃に転じていく。傷付き、血に塗れても勝負を捨てず、双方が渾身の一撃を繰り出した瞬間、凄まじい轟音が闘技場内に響き渡る。剣を折られ、迸る鮮血と共に大きな傷を負い、ガクリと膝を付くヴェルラウド。勝負は決まったと思いきや、オディアンの甲冑は砕かれ、大剣には罅が走り、音を立てて折れてしまう。勝敗は、引き分けであった。
「……流石だな。己の剣のみで俺の甲冑を砕く程の力を付けていたとは。やはりあの時とは全く違う」
ヴェルラウドの実力を認めていたオディアンが脱帽したように呟く。
「やはり……あなたが一番の強敵だ。今まであなたに勝てたのは赤雷の力と神雷の剣があったからこそ。今度はそれらに頼らないで、普通の剣で戦いたかったんだ」
自分の力のみで戦いに挑む事を望んでいたヴェルラウドの心意気にオディアンは心を打たれ、思わず尊敬の対象であったグラヴィルとエリーゼの事を考えてしまう。
「……お前のような男と出会えた事を誇りに思う。お前は本物の騎士であり、本物の戦士だ」
オディアンは激しい戦いで傷付いたヴェルラウドに肩を貸し、闘技場を後にした。
その日の夜――ヴェルラウドとオディアンは城の屋上で佇んでいた。
「もうすぐ、世界が大きく動き出すかもしれんな」
オディアンが呟くように言うと、ヴェルラウドが訪れる前日、ラファウス達が王国を訪ね、世界の平和を守る貢献活動で王に協力を求めてきた事を打ち明けた。
「あいつらも頑張っているようだからな。俺も何れは……」
ヴェルラウドはラファウス達の活動に少しでも力になろうと思い、改めて自分の気持ちにけじめを付けようと考える。
「国王陛下はラファウス達の貢献活動に協力の意思を示しておられるが、視力を失われておられる。俺は陛下の支えにならなくてはならぬ」
オディアンがその場から去ろうとする。
「……ヴェルラウドよ。己の心にけじめを付けるならば、決して焦るな。何があってもな」
そう言い残し、屋上から去るオディアン。ヴェルラウドはオディアンの言葉を胸に刻み込み、心の整理を始めた。
それからヴェルラウドは、マナドール達が復旧作業をしている賢者の神殿へ訪れる。ヴェルラウドの来訪に気付いたデナが颯爽とやって来る。
「あら、ヴェルラウド。デクの棒に続いてお久しぶりですわね」
「ああ。お前達がどうして此処に?」
「神殿の復旧ですわよ。リラン様のご命令での行いですわ」
マナドール達の存在に懐かしく思いつつも、ヴェルラウドはマチェドニルがいる神殿の地下へやって来る。
「ヴェルラウド! お前も来てくれたのか」
地下へ訪れたヴェルラウドをマチェドニルは快く迎え入れる。地下の大広間には多くの賢人達や車椅子で本を読むヘリオ、祈りを捧げているリティカの姿があった。
「ヴェルラウドよ、一つ聞いて欲しい事があるのじゃ。先日妙な事が起きてのう」
マチェドニルは一ヶ月前に起きた出来事について話す。神雷の剣と共に台座に保管していたアポロイアの剣が砂のように崩れていき、消滅してしまった事を。
「何だって? それは一体どういう事なんだ……?」
「わしにもよく解らぬ。レウィシアの武器としての使命を果たしたと考えて良いのか、それとも……」
レウィシアの武器であるアポロイアの剣の消滅は一体何を意味しているのか。その答えが見出せず、不安な気持ちに陥るヴェルラウド。冥神が滅びてから、レウィシアは神界へ行ったと言われている。それから一ヶ月余りが経過した今、レウィシアが帰還したという知らせは何処にもない。アポロイアの剣は、レウィシアの魂の象徴でもあるのか、それとも……。
「……賢王様。俺はスフレの墓参りへ行く。今は、己の心にけじめを付けたい」
そう言い残し、ヴェルラウドはスフレの墓へ向かって行った。
スフレの墓の前にやって来たヴェルラウドは黙祷を捧げ、ブローチを手に数々の思い出を振り返りつつもスフレに想いを馳せる。
スフレ……俺はお前に何度も助けられた。
自責の念に苦しんでいた俺を助けてくれたり、試練の時に偽りの世界に迷い込んでいた俺を真実に導いてくれたのもお前だった。
お前と出会っていなかったら、今の俺は絶対にいなかっただろう。
お前の気持ちの全てを受け止められず、守る事が出来なかった自分が憎かった。
……ごめんよ。そして、ありがとう。こんな俺の為に。
スフレの墓の前で止まらない涙を流すヴェルラウドの元に、マチェドニルがやって来る。
「邪魔してすまぬ。ヴェルラウドよ、心にけじめを付けるそうで一つお前に伝えたい事があっての」
「伝えたい事?」
「うむ。数日前にリティカから聞いた話なんじゃが、かつてライトナ王国と呼ばれる国があった場所の付近に魂を司る力を持つ呪術師が住む洞穴があるそうじゃ」
魂を司る力を持つ呪術師とは、かつてライトナ王国の祈祷師として活動していたガイスという名の男であった。しかしある日、ガイスが魂を操る禁断の呪術を披露したが為に国王や多くの人間から魂を冒涜する者と畏怖されるようになり、王国を追われる形で付近の洞穴に隠居するようになったという。
「魂を司る力……そんな事が本当に可能なのか?」
「わしにもよく解らんが、もし確かめるつもりならば用心して行くが良い。呪術師と呼ばれる者は何があるか解らんからの」
「……俺は胡散臭い話題には基本的に乗らないタチだが、とりあえず了解した。感謝する」
ヴェルラウドはスフレのブローチを握り締めながらも、スフレの墓に心の中から別れを告げ、去って行く。マチェドニルは再び地下の大広間へ戻ると、祈りを終えたリティカがやって来る。
「ふむ、リティカよ。祈りを捧げる毎日だと退屈か?」
「いえ、そんな事はありませんわ。いつか息子と会える日が来る事を祈っておりますもの」
リティカの口から息子という言葉を聞いた瞬間、マチェドニルは何とも言えない気持ちになってしまう。リティカの息子であるロドルの安否は知る由もなく、寧ろ死亡している可能性が濃厚だと密かにラファウスから聞かされていたのだ。
「息子……か。会える日が来るといいのう」
マチェドニルは軽く咳払いをし、ヴェルラウドとラファウス達の旅の無事を心から祈り始めた。
一週間が経過した頃、ヴェルラウドは各地を巡りつつも、辺境の地に存在するライトナ王国へと辿り着く。だがそこは見る影もない廃墟で、クリソベイア同様、完全に滅ぼされた亡国と化していた。
「クッ……まさかクリソベイアのように滅ぼされていた国がもう一つあったとはな」
ヴェルラウドはやり場のない怒りに震えつつも王国を後にし、呪術師ガイスが住むという洞穴を探す。半日間に渡る捜索の結果、小さな洞穴を発見する。此処に違いない、と思いつつも洞穴に潜入するヴェルラウド。中には古びた本棚と骨董品、大釜等が置かれた隠れ家のような空洞が設けられている。
「……何じゃ、誰か来たのか?」
突然の声にヴェルラウドは身構える。現れたのは、みずぼらしい恰好をした老人であった。
「あなたがガイスという呪術師か? 俺は旅の騎士ヴェルラウド」
ヴェルラウドは魂を司る力がある呪術師の噂を聞いてやって来た事を伝える。
「ふん……今時わしの噂を聞いてやって来るとは随分な物好きもいるもんじゃの。如何にも、わしがガイスじゃよ。呪術師と言われても今やこの通り、すっかり落ちぶれた身じゃがな」
半ば不機嫌そうな態度でガイスが言う。
「で、何の用があって来たんじゃ? つまらん用事なら聞かんぞ」
「ああ……あなたに魂を司る力があるというのが本当ならば、どうか俺の頼みを聞いて欲しいんだ」
ヴェルラウドはガイスの魂を司る力で、スフレやシラリネ、リセリアの魂に自分の想いを伝えられるかを確かめようとしていた。その事を伝えると、ガイスはそっぽを向く。
「……つまらん。何かと思えばそんなつまらん事でわしに協力を求めに来たというのか」
「どうしてもダメか?」
「ダメというか、お前のつまらん事情なんかに付き合う気になれん。大体、わしの力がどんなものなのか、解った上で言っておるのか?」
ヴェルラウドは俯いてしまい、何も答えられなかった。
「……ふん、お前に死ぬ覚悟があれば少しくらいは背中を押してやらんでもないぞ」
ガイスの一言にヴェルラウドは思わず顔を上げる。
「それは本当か?」
「本当というか、ちょっとした実験じゃがな。もしお前に死ぬ覚悟が備わってるなら、わしの実験台となってもらう。わしの魂を司る力の可能性を確かめたくてのう」
不敵な笑みを浮かべながら言うガイスの実験台という言葉に得体の知れない不気味さを覚え、一瞬立ち去ろうと考えるヴェルラウドだが、何故かその場から動く事が出来なかった。
「どうじゃ? わしの実験台になってみるか? お前の頼み事が聞けるチャンスでもあるんだぞ? ん?」
迫るようにガイスが言うと、ヴェルラウドは躊躇しつつも引き受けてしまう。
「カカカカカ……後で後悔する事が無いように、今のうちに言いたい事を言っておけ。遺言のつもりでな」
こいつは一体何者なんだ。何を考えているんだと内心思いつつも、ヴェルラウドは無言で応じるばかりであった。
「ふん、何も言う事なしか。まあいい。そこを動くなよ」
ガイスがヴェルラウドに怪しげなまじないを掛け始める。呪術は徐々にヴェルラウドの意識を奪って行き、ヴェルラウドは意識が吸い込まれていく感覚に襲われる。
な、何だこの感覚は……まるで……何かに吸い込まれてい……く……
奇妙な感覚の中、ヴェルラウドの意識は遠のいていった。
気が付けばそこは、無限に広がる光に満ち溢れた世界であった。地面は淡い光の花畑となっており、暖かく不思議な雰囲気が漂う光の空間。此処は何処だ? 何故こんな場所にいるんだ? そんな事を考えながら彷徨っていると、人影が見え始める。
「おい、誰かいるのか? 此処は何処なんだ!」
ヴェルラウドが呼び掛けると、人影は一人の男の姿になっていく。甲冑に身を包んだ男――バランガであった。
「お、お前は……バランガ?」
バランガの姿を見て驚愕するヴェルラウド。
「……ヴェルラウド。お前までもが此処に来たというのか」
淡々と返答するバランガ。
「どういう事だ? お前は一体……」
「解らぬのか。此処は死後の世界と呼ばれる場所……」
バランガの言葉にヴェルラウドは更に驚愕する。今いるこの場所は死後の世界。ガイスの魂を操る呪術によって、自分は死後の世界に来てしまったという事なのか? 自分は一体どうなってしまったんだ? そんな考えが頭を過る。
「嘘だ……まさか、俺は死んだという事なのか? 俺は……」
突然の出来事に呆然と立ち尽くすヴェルラウド。
「何処までも愚かだ。王女だけでなく、女王陛下を守る事すら出来ずに死を迎えるとは。貴様は最後まで甘い奴でしかなかったわけか」
辛辣な言葉をぶつけるバランガを前に、ヴェルラウドは今自分が置かれている現状をなかなか受け止める事が出来ず、俯き加減に拳を震わせている。
「……そうだな。確かに俺は甘い奴だ。俺とお前とはどうしても相容れない運命だったという事は解っていた。だが……俺はあの時、お前にトドメを刺す事は俺にとっては心苦しいものだった。俺は……自分の力で人の命を奪う事がどうしても許せなかったんだ。お前もケセルに心を操られていた犠牲者だからな」
サレスティルにてシラリネを守る騎士に任命された事から始まり、ブレドルドやクレマローズでの戦いを重ねての因縁の顛末を振り返りつつ、ヴェルラウドは密かに抱えていた想いを吐露すると、バランガは薄ら笑みを浮かべる。
「フン、まさかそんな事を気にしていたというのか? あの道化師の傀儡にされていたとはいえ、俺は貴様を殺す事に変わりはなかった。そんな俺に不要な情を抱くとはヘドが出る」
バランガは振り返り、言葉を続ける。
「……王女がお前を選んだのは、お前には人の心があったからだ。俺にはそれが無かった。お前の甘さも、人の心が備わっていたが故なのだろうな」
淡々と呟くように言い、歩き始めるバランガ。
「堕ちた身として死を迎えた俺の行き着く先は光無き場所。俺にもお前のような甘さがあれば、お前とは少しは解り合えたのかもな……」
歩くバランガの姿が次第に薄れていき、消滅していく。ヴェルラウドは何も言えず、その場に立ち尽くしていた。
「……俺は……本当に死んでしまったのか……?」
自分の置かれている状況をなかなか信じられずにいたヴェルラウドは再び足を動かし始める。
……ヴェルラウド……ヴェルラウドなの?
不意に聞こえ始める少女の声。それは忘れもしない懐かしい響きの声であった。
「……スフレ?」
ヴェルラウドが呼び掛けた瞬間、スフレの姿が見え始める。呼び掛けに応えるかのように、スフレが振り返る。
「ヴェルラウド……あんたまで此処に来てしまったの?」
スフレは切なげな表情を浮かべている。
「お前……スフレなのか?」
半ば信じられない様子でヴェルラウドが問う。
「何言ってんのよ。あたしはスフレよ。まさか、あたしの事を偽物だと思ってるわけ?」
返答するスフレだが、その声は悲しげであった。バランガに続き、スフレまでも自分の前に現れたという現状にヴェルラウドは自身が死んだと考えるしかないのかと思ってしまう。
「ねえ……どうしてあんたも此処に来たのよ。あんたは世界を守ろうとしていたんでしょ? それなのに……」
スフレは俯きながらも涙を零し始める。そんなスフレを見ている内に、ヴェルラウドは自身が死んでしまったという考えを全力で否定し始める。
「……馬鹿野郎! 勝手に死んだって決め付けるな! 俺は好きでこんなところに来たわけじゃねぇ! 此処が本当に死後の世界だって言うなら、俺は早くこんな世界から抜け出したい。お前に想いを伝えたい気持ちがあったとはいえ、こんな事になるなんて……」
感情的に声を張り上げ、拳を震わせるヴェルラウド。
「……お前の言う通り、俺はレウィシアが救ってくれた世界を守るつもりだった。その為に、俺は自分にけじめを付けたかった。あの時お前を守る事が出来なかったのがどうしても心残りだったんだ。その為にも俺は……」
真剣な表情で全ての事情を話すヴェルラウド。スフレの死はヴェルラウドに心のしこりを残す事となり、抱えていた心のしこりを取る為にもスフレに想いの全てを打ち明けたかったという事を話すと、スフレは涙を流しつつもヴェルラウドに顔を向ける。
「あたしの為に、そこまで思っていたなんて……。あたしの事なんて気にせず、平和になった世界で幸せに過ごせていたらそれでよかったのに……何処までも不器用なんだから……」
涙ながらに言うスフレを見て言葉を失うヴェルラウド。
「あたし、ずっと見ていたよ。あんたがレウィシアの為に死ぬ覚悟で戦い続けていた事や、レウィシアが世界を救った事も。あんたはレウィシアを守る為にも生きていて欲しい。あたしはずっとあんたの事が好きだったけど、あんたと過ごす事はもう叶わない事だから……」
スフレの言葉にヴェルラウドは驚きの表情を浮かべる。
「あたしはいつまでもあなたの幸せを見守るよ。レウィシアはいつかあなたの元へ帰って来る。そんな気がするんだ。レウィシアを守れるのは、あなたしかいないから……。あたし、あなたが幸せだったらそれでいいの」
切ない表情を浮かべつつもヴェルラウドに笑顔を向けるスフレ。ヴェルラウドは止まらない涙を拭いつつもスフレを抱きしめようとするが、その身体は透き通っていて掴む事は出来なかった。
「……スフレ……こんな俺の為にありがとうな。お前には何度も助けられたから……お前の気持ちは絶対に忘れない。本当に……本当にありがとう……!」
泣き崩れるヴェルラウドの頭をそっと撫でるスフレ。
「ヴェルラウド……ヴェルラウド……」
更に聞こえてくる声。顔を上げると、穏やかな表情でヴェルラウドを見守っているシラリネ、リセリア、クリソベイア王の姿があった。
「シラリネ……姫様……陛下……」
ヴェルラウドは死した大切な人々との再会に、まるで夢でも見ているかのような錯覚に陥ってしまう。
「ヴェルラウド……生きて。私はずっとあなたの事を見守っています。どうか、私の分まで幸せになって……」
「ヴェルラウド……私はあなたと出会えて幸せでした。あなたは私達の誇り……私達はずっとあなたを見守っています」
「ヴェルラウドよ……お前にはまだやるべき事があるだろう? 我々はお前の心の中にある。今こそ未来の光として生きるのだ」
穏やかな表情を浮かべる三人を前に、ヴェルラウドは止まらない涙を拭いつつも立ち上がる。スフレは涙を零しつつ、切なげな笑顔を向けると、全身が淡い光に包まれ始める。シラリネ、リセリア、クリソベイア王の身体も淡い光に包まれていく。不意に意識を奪われる錯覚に陥ったヴェルラウドは、スフレの声を聞いていた。
……ヴェルラウド。あなたの想い……伝わったよ。
どうか……レウィシアと幸せに……
「……うっ、あぁっ!」
目を覚ますとそこは、ガイスの隠れ家の洞穴の中だった。
「おお……驚いたぞ。帰って来れたのか?」
ヴェルラウドはすぐさま起き上がり、辺りを見回す。無事で元の場所へ戻れたという事を確認すると、今までの出来事は夢だったのか? という考えが生じ始める。
「……俺は……何故あんなところにいたんだ? あんたは俺に一体何を……」
ぼんやりとする頭で出来事を整理しつつもガイスに問うヴェルラウド。
「カッカッカ。このわしの呪術でお前の魂をあの世へ運んだのじゃよ」
ヴェルラウドが死後の世界に運ばれたのは、ガイスの呪術によるものであった。それは禁呪とされている呪術の一種であり、過去に死した者に会いたいという願望を抱く者の依頼を受けて手を出してしまい、呪術を使用した結果、失敗に終わり、依頼者の魂はそのまま帰らなくなったという恐ろしいものであった。
「しかしながらお前の魂が無事で帰って来たという事は、この呪術も捨てたもんじゃないという事が証明された。カカカカ、実に愉快じゃ」
半ば信じられない出来事であるものの、死後の世界にてバランガ、スフレ、シラリネ、リセリア、クリソベイア王と再会した出来事は鮮明な記憶として残っている。そして何処か心のしこりが取れたような気分となっていた。まるで夢のようだったけど、決して夢ではない。俺はこの世界を守る為に、大切な人を守る為に、生きなくてはならない。そして皆の分まで、もっと生きる。その想いがあったおかげで、俺はあの世界から帰って来れたんだ。そう思うしか他に無かった。
「……何だか色々信じられない経験をした気分だが、おかげで何かが吹っ切れた。あんたには感謝するよ。今は礼らしき事は出来そうにないが、そのうち礼をさせてくれ」
「礼? そんなものはいらんよ。わしは今、気分がいいからの」
ガイスの身体が徐々に薄らいでいく。
「お、おい待てよ……まさかあんたは……」
ヴェルラウドが声を上げると、ガイスの身体は天に昇るように消滅していく。ヴェルラウドは誰もいなくなった洞穴の光景の中、ずっと立ち尽くしていた。
形はどうあれ、胸のつかえが取れた気分だ。あそこで会ったバランガとスフレは幻覚ではなく、本物だった。そしてシラリネ、姫君、陛下も……。
皆が俺を見守り、皆が俺の幸せを願っている。こんな俺の為に、皆は……。
そして父さんと母さんも、きっと俺を……。
そう、俺は皆の想いに応えなくてはならない。レウィシアはきっと帰って来る。俺はずっと信じている。
レウィシアが取り戻した光溢れるこの世界を、ずっと守らなくてはならない。
俺に出来る事があれば、この世界を……そしてレウィシアを……!
洞穴を後にしたヴェルラウドは決意を固め、再び旅に出る。その瞳には力強い意思が宿り、表情にも決意の心が表れていた。
時は流れ――ラファウス達の貢献活動の結果、世界は大きく動き始めた。世界各地の国王と首脳がクレマローズに集い、世界会議が開かれた。平和を維持する為に必要なものは何か? 何故過去に災いが起きてしまったのか? 災いの根源となる闇は何から生まれるのか? 人としての過ちによる過去の悲劇を繰り返さない為にはどうすればいいのか? 様々な議題が課せられ、幾度となく行われた会議の結果、各国それぞれの民の意を踏まえ、民の平穏を重視する様々な制度が設けられるようになった。
日が暮れる頃、クリソベイアの廃墟にて弔いを終え、サレスティルへ帰還しようとするヴェルラウドは不意に優しい香りを感じ取り、背後を振り返る。次の瞬間、ヴェルラウドは驚愕した。
「……ヴェルラウド……」
懐かしい響きがする少女の声。香りを運ぶそよ風に靡くピンク色の長い髪。美しく輝くドレスを身に纏い、穏やかな表情をした可憐なる姫の姿。
レウィシア――!
ヴェルラウドが駆け寄る。数年の時を経て、肉体に宿る太陽の源となるものを生命力に変える事に成功し、レウィシアは人として地上に生きる望みを叶える事が出来たのだ。ヴェルラウドに抱きしめられているレウィシアは、優しい微笑みを絶やさないままヴェルラウドの頭を抱き、涙を浮かべる。夕暮れの中、再会を喜び合う二人は、いつまでも抱き合っていた。
地上の太陽となりし者よ……人々に希望を与える太陽として生きよ。
人々の心に光と希望を絶やさぬ為にも――。
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