1 / 25
再会
しおりを挟む
「あっ」
離れているにも関わらず、美咲は吸い寄せられるように彼を見つめた。
周りの人より頭ひとつ抜けた巨漢をダークスーツに窮屈そうにおさめ、豊かなバリトンを響かせる。
側にいるのは友人なのだろう。屈託なく笑う顔も昔のまま。
顔を見るのは何年かぶりなのに、胸の高鳴りはあの頃と同じ。いや、それ以上だ。
徐々に近づいてきた彼が、受付に立っている美咲に挨拶をする。
「この度はおめでとうございます」
ペコリと一礼しても美咲の目線より高い。それでも昔よりはずっと距離が近くなった。
「ありがとうございます。……お久しぶりです、安村さん」
顔を上げた安村は、美咲をマジマジと見つめると、驚いたように目を見開いた。
「前野……の妹?美咲……だっけ?」
「はい!」
美咲は弾む声を抑えきれなかった。覚えてくれていた。それだけでこんなにも嬉しいなんて。
「驚いたな。あんなに小さかったのに」
安村はご祝儀袋を美咲に渡すと、芳名帳に安村龍彦と名を記す。
枠からはみ出しそうなくらい力強く書かれた字体は、彼を表しているようだ。
クスリと笑った美咲を再び見て、安村は言った。
「笑うと左にだけえくぼが出来るのは昔から変わらないな」
ニカッと笑うと、安村はもう一度祝いの言葉を述べる。
その笑顔を何度思い出したことか。
美咲は見惚れてしまいそうになって、ハッと気づく。
今は兄の結婚式の受付に専念しないと。
安村に席次表を渡す。にっこりと、とびきりの笑顔で。
「ありがとう」
安村は片頬でホロリと笑うと、片手を上げて礼をいうと、先に着いていた友人のところへ向かった。
美咲は彼の姿を目で追いかけたい気持ちを振り切るように左右に首を振ると、次の来賓客に向けて笑顔を向けた。
※
変わるもんだな。
受付で笑顔を浮かべている美咲を視界の片隅に入れながら安村は心の中で呟く。
高校からの友人の前野の妹。
やけにウマがあって、よく家を行き来していた。
その時に何度か会ったことのあるくらいの関係でしかない美咲のことを覚えていたのは、幼い彼女に告白をされたからだ。
8つは下の少女からの告白。
顔を真っ赤にして、初めて作ったという手作りのチョコクッキーをきれいにラッピングして。
淡い懐かしい思い出。たまに前野と飲むと時折話題に出ることもある、青春時代の一コマ。
それだけだったはずなのに、何年かぶりに会う彼女は幼い少女ではなく、一人の女性として安村の前に現れた。
ショートカットで日焼けしていた、かつての少女はそこにはいなかった。。
シニヨンヘアでシックなダークグリーンのドレスに身を包んだ美咲と、記憶の中の少女。
一致させることができたのは、右目の下の泣きぼくろと、笑うと左側だけにできるえくぼのおかげだ。
安村はチラリと受付を見やる。美咲は次々と来る来賓に丁寧に挨拶をし、案内をしていく。
シスコン気味の前野から時折話は聞いていたが、こんなにも立派な女性になっているとは。
安村は目を細めた。
(大きくなったなぁ)
久方ぶりに親戚の子と会ったような、卒業した教え子が数年ぶりに会いに来てくれた時のような不思議な感慨を覚える。
(本当に……)
「よう!」
安村の思考は友人の声掛けで中断された。
「久しぶりだなぁ」
続く言葉は、一瞬で霧散する。
安村はそれきり受付に目をやることはなかった。
もう二度と会わないだろう美咲のことも考えることはなかった。
ないはずだった。
離れているにも関わらず、美咲は吸い寄せられるように彼を見つめた。
周りの人より頭ひとつ抜けた巨漢をダークスーツに窮屈そうにおさめ、豊かなバリトンを響かせる。
側にいるのは友人なのだろう。屈託なく笑う顔も昔のまま。
顔を見るのは何年かぶりなのに、胸の高鳴りはあの頃と同じ。いや、それ以上だ。
徐々に近づいてきた彼が、受付に立っている美咲に挨拶をする。
「この度はおめでとうございます」
ペコリと一礼しても美咲の目線より高い。それでも昔よりはずっと距離が近くなった。
「ありがとうございます。……お久しぶりです、安村さん」
顔を上げた安村は、美咲をマジマジと見つめると、驚いたように目を見開いた。
「前野……の妹?美咲……だっけ?」
「はい!」
美咲は弾む声を抑えきれなかった。覚えてくれていた。それだけでこんなにも嬉しいなんて。
「驚いたな。あんなに小さかったのに」
安村はご祝儀袋を美咲に渡すと、芳名帳に安村龍彦と名を記す。
枠からはみ出しそうなくらい力強く書かれた字体は、彼を表しているようだ。
クスリと笑った美咲を再び見て、安村は言った。
「笑うと左にだけえくぼが出来るのは昔から変わらないな」
ニカッと笑うと、安村はもう一度祝いの言葉を述べる。
その笑顔を何度思い出したことか。
美咲は見惚れてしまいそうになって、ハッと気づく。
今は兄の結婚式の受付に専念しないと。
安村に席次表を渡す。にっこりと、とびきりの笑顔で。
「ありがとう」
安村は片頬でホロリと笑うと、片手を上げて礼をいうと、先に着いていた友人のところへ向かった。
美咲は彼の姿を目で追いかけたい気持ちを振り切るように左右に首を振ると、次の来賓客に向けて笑顔を向けた。
※
変わるもんだな。
受付で笑顔を浮かべている美咲を視界の片隅に入れながら安村は心の中で呟く。
高校からの友人の前野の妹。
やけにウマがあって、よく家を行き来していた。
その時に何度か会ったことのあるくらいの関係でしかない美咲のことを覚えていたのは、幼い彼女に告白をされたからだ。
8つは下の少女からの告白。
顔を真っ赤にして、初めて作ったという手作りのチョコクッキーをきれいにラッピングして。
淡い懐かしい思い出。たまに前野と飲むと時折話題に出ることもある、青春時代の一コマ。
それだけだったはずなのに、何年かぶりに会う彼女は幼い少女ではなく、一人の女性として安村の前に現れた。
ショートカットで日焼けしていた、かつての少女はそこにはいなかった。。
シニヨンヘアでシックなダークグリーンのドレスに身を包んだ美咲と、記憶の中の少女。
一致させることができたのは、右目の下の泣きぼくろと、笑うと左側だけにできるえくぼのおかげだ。
安村はチラリと受付を見やる。美咲は次々と来る来賓に丁寧に挨拶をし、案内をしていく。
シスコン気味の前野から時折話は聞いていたが、こんなにも立派な女性になっているとは。
安村は目を細めた。
(大きくなったなぁ)
久方ぶりに親戚の子と会ったような、卒業した教え子が数年ぶりに会いに来てくれた時のような不思議な感慨を覚える。
(本当に……)
「よう!」
安村の思考は友人の声掛けで中断された。
「久しぶりだなぁ」
続く言葉は、一瞬で霧散する。
安村はそれきり受付に目をやることはなかった。
もう二度と会わないだろう美咲のことも考えることはなかった。
ないはずだった。
12
あなたにおすすめの小説
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる