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立ち位置
しおりを挟む彼にとって今の美咲はどんな立ち位置なのだろうか。
そんなことを考えながら美咲はまた安村と小料理店のカウンターに並んで座っていた。
――ママが連れてこいとウルサイんだ。――
安村から誘いがあって再び店に訪れたのは先月。そして今日は美咲の誕生日祝いでの来店だ。
再会した5月の中旬から、月一回は会っている。
嬉しい反面、美咲は複雑な思いも抱いていた。
安村への想いに気付いたのはいいが、最初にあれだけガッツリ「友人の妹」だと釘を刺されたのだ。
恋愛経験ゼロの美咲はどうアプローチすればいいか悩んでいたのだ。
薄々美咲の気持ちに気づいているのだろう。安村をけしかけて再会のきっかけをくれたママに感謝だ。
「おめでとう。いくつになったのかな?」
「25です」
「そうか。……若いなぁ。オジサンには君が眩しいよ」
あ、また線を引かれた。美咲は少しだけ皮肉を込めて言い返す。
「初めて会った時はもっと若かったですよ」
「そうだったな。大きくなったなぁ」
安村は気にかけた様子もなく、いつものようにニカッと笑う。
「僕には兄弟がいないからな。美咲君のような「妹みたいな存在」は貴重だ。こんな年上でよければまた懲りずに飲んでくれたら嬉しいよ」
結局「妹」なのか。ならば。
「安村さん、誕生日プレゼント、おねだりしてもいいですか?」
「ん?もちろんいいさ。僕に叶えられる範囲で、でよければ。イッカイの勤め人だからな。そのあたりの財布事情は汲んでくれよ」
安村はドン、と胸を叩く。
美咲は一呼吸おくと、にっこり微笑んだ。
「私と一日デートしてください」
「へっ?」
安村には珍しく呆けた返事。
美咲は携帯を取り出すとここぞとばかりに追撃した。
「大丈夫です、予算はそんなにかけませんから。あ、安村さん、ここ、入館料なしで見学できるみたいですよ。あ、ここでは馬が飼育されているんですって。無料で乗馬体験もできるって書いてます!交通費はかかっちゃいますけど」
あっけに取られて答えられない安村に変わって返事したのは、ママだった。
「やっちゃんの負けね」
ニヤニヤと笑いながら安村のグラスに瓶ビールを注ぐ。
「最高のプラン考えなさいね。だって美咲ちゃんの初めてのデートなんだから」
※
おろしたての水色膝丈シャツワンピ。ウエストを心持ち上の方で絞りV字にしている襟元がさみしくならないよう、ネックレスをつける。
今日の行き先に合わせて、昔沖縄旅行に行った際に購入した亀のネックレスにした。
昨日美容院で整えた髪を襟足がスッキリ見えるようにゆるくまとめる。
パックをして寝たからか、いつもより潤っている肌。
時間はまだある。そっとメイク道具を開けると丹念に色を乗せていく。
外は暑いのだ。せっかくのデートで化粧が崩れないように下地は丁寧に。
厚塗りにならないようにファンデーションをスポンジで薄く伸ばし、ルースパウダーをブラシでサッと塗る。
リキッドタイプのアイブロウで眉を整える。アイシャドウは迷った末、一番顔馴染みがいいから、いつもと同じピンクゴールドをしっかり目に塗る。
マスカラとアイライナーは敢えて省く。
淡いピンクのリップを塗り、少しだけグロスでツヤを出した。
仕上げにメイクキープミストをシューッと吹きかけた。
「よし!」
鏡の中で微笑む美咲は、自分で見ても可愛いと思える仕上がりだった。
服の色に合わせて水色のリボンが付いたかごバッグを持ち、ヒールがほとんど無い白いサンダルを履く。
少しでも安村の目に止まりたい。少なくとも、妹ではなく、女性として見られるくらいには。
よし、と気合を入れて美咲は安村との待ち合わせ場所に向かった。
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