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二人の朝①
しおりを挟む「んっ……」
フワリと何かが顔を撫でた感触に美咲は身じろぎをする。
ゆっくり目を開けた美咲に安村は「おはよう」と囁いた。
「おはよう……ございます」
顔に触れていたのは安村の指だったようだ。優しく微笑むと気遣うように訊ねた。
「その、体は大丈夫かい?無理させた」
昨日の出来事を思い出し、ボッと顔が赤くなる。
「……大丈夫です」
小さな消えそうな呟いた声は、安村の耳に無事届いたようだ。
ホッと息を吐いた安村は、再びあの言葉を口にした。
「まいったな」
ビクリと顔を上げた美咲。
思った通りの反応に安村はいたずらっぽく笑う。
「君が愛おしくて堪らない」
こんな風に甘いセリフを口にしてくれる人だったっけ?
美咲は顔を真っ赤にさせながら、疑問に思う。
美咲の表情から心を読んだ安村は照れくさそうに付け加えた。
「恋人にしか言わないさ、こんな言葉」
オジサンは繊細なんだ、と笑う安村にジワジワと何かが湧き上がってくる。
「お、おい!泣かないでくれよ。……君に泣かれるとどうしたらいいかわからない」
安村の指摘で美咲は初めて泣いていることに気付いた。
「すまない、昨日の行為で体が痛むのかい?それとも、やっぱりこんなオジサンと付き合うのはイヤなのかい?」
慌てる安村に美咲は首を振る。伝えるべき言葉は見つかった。だけど、胸がつかえて中々吐き出すことが出来ない。
安村は泣く美咲に様々な慰めの言葉を投げかける。その様子が滑稽で美咲は笑った。
その拍子に喉の奥で止まっていた言葉が滑り出る。
「夢みたいで……」
びっくりしたように固まった安村は、やっといつものニカッとした笑みを浮かべた。
「夢じゃないさ」
力強く断言する安村に美咲は頷いた。
「安村さん」
「なんだい?」
「好きです」
「僕も好きだよ」
「付き合っている、でいいんですよね?」
「そのつもりだ。美咲君は?」
「私もそっちがいいです」
安村は美咲の後頭部に手を回すとそっと唇を重ねる。
優しい口づけに美咲はフツフツと湧いてくる幸せに酔いしれる。
「次、どこか泊まる時は……」
唇を離した安村は、鼻が触れる距離で囁く。
「もう恋人だから、ツインじゃなくてダブルの部屋にしようか」
「ツインでもいいです。こうやって……」
美咲は仕返しとばかりに抱きつく。昨日の情事の後でお互いに浴衣は脱ぎ捨てているままだ。
美咲は自分より体温の高い安村から熱を奪っている気になる。
温かい彼に抱きついたまま、美咲は呟いた。
「寄り添って寝ればいいですから」
安村は黙りこくったあと、ふぅーと息を吐いた。
「美咲君」
「はい」
「少し離れてくれないか。その……」
言い淀んだ理由はすぐに分かった。バッと離れると美咲は宣言する。
「さ、さすがにもう無理ですからね!?」
安村も苦笑する。
「わかっているさ。でも君も悪いんだぞ。不用意に抱きつくから」
「そ、そんなこと無いです!」
美咲はプイッと安村に背中を向けようとするが、
二人――そのうち一人は巨漢の――寝ているシングルのベッドで寝返りを打つスペースはない。
一人で格闘している美咲に安村は可笑しそうに笑う。
「……笑わないでください」
元はといえば安村が朝から元気なのが悪いのだ。
照れくささも相まってついキツい口調になってしまう。
そんなところも安村にとっては可愛く写るのか、愛おしいそうな視線を送ってくる。
ますますしかめっ面になった美咲に安村は吹き出しながら告げる。
「すまない、つい可愛くて。……さて、せっかくだし朝風呂に行ってから朝食としないか?確か深夜に、男湯と女湯が入れ替わっているはずだ」
「……行きます」
まだ素直に返事が出来ない美咲に安村はついばむようにキスをしてにっこりと笑った。
「チェックアウトしたら、恋人としての初デートをしよう」
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