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5.誕生日プレゼント
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最初の通院の後、2週間おきに前回と同じように食事をして過ごすこと2回。
その間にあった変化といえば季節が秋から冬に進んだことと、楓の最寄り駅まで星野が送るようになったこと。
そして、今日は。
「良かった。少しは体は楽?」
数値が少し下がって通院が1ヶ月後になったのだ。
「あんまり実感はないけど、寝れるようになったかな。以前に比べたら、だけどね」
薬で抑えられてるのか、前は中々寝付けなかったのが今はだいぶ良くなった。
喉仏にある小さい器官から出る微量のホルモンに翻弄されるのは地味にツラい。
ホルモンが過剰に出ている状態に慣れた体を少ない、と言っても正常値のホルモン量に近づける際の苦労は経験しないとわからなかった。
「無理はするなよ」
星野からの声掛けに素直に頷くだけのゆとりも出来る。
少しだけ光明が見えてきて、楓はご機嫌だった。
だから星野の提案もつい了承してしまった。
「次は、気になるって言ってた映画、見ようよ。1週間後、新宿で待ち合わせで」
※
映画館の前で待ち合わせた。
クリスマス前のごった返した駅を抜け、人混みに紛れるようにして待ち合わせ場所に行くと、もう星野は楓を待っていた。
「早いね。待たせてごめんね」
「いや、俺も今ついたとこ」
そう言うと、星野はペコリと頭を下げた。
「気乗りしてなかったのに、今日来てくれてありがとう」
思い直して今日会うのを断ろうとした楓に星野は既にチケットを買っていると言って説き伏せたのだ。
「いや、気乗りしなかった訳ではなくて……」
病院もない日にわざわざ会うのに抵抗があっただけだ。
だって、デートみたいだもの。
言葉を飲み込んだ楓に星野は、ポップコーン食べる?と聞きながら適当にフードを注文し、連れ立ってスクリーンへ向かう。
公開から日数が経っているからか、街に人が多い割に空いている。
真ん中より少し上の列に座り、予告を見ながら他愛もない会話をしながら上映を待つ。
ブーーー。
ブザーの音が鳴り、辺りが暗くなると、隣の席の星野の気配が濃くなった。
あぁ、失敗した。
楓は映画が始めの方から、今日ここに来たことを後悔し始めていた。
見たかった映画だ。前評判通り、ストーリーも悪くない。
だが、隣にいる彼のせいで集中できない。
ことごとく、タイミングが一緒なのだ。
ストーリーに声にならないため息をもらしたり、LLサイズのポップコーンに同じタイミングで手を入れたり。
恋人同士なら嬉しい共通点。だけど、想いは星野から楓の一方通行なのだ。
楓は星野の気持ちに答えられない。心がときめかない。きっとこの先も……。
――本当に?――
チラッと浮かんだ心の声は全力で気づかないフリをする。
星野が決めた3ヶ月もあと半分だ。でも本当に3ヶ月もいるのだろうか。今日決断しても、1ヶ月半後返事をしても答えは同じなのに。
――本当に答えは同じ?――
再び浮かぶ問いかけ。それも華麗にスルーすると楓はちらっと星野の方を盗み見る。と、彼と目があった。
見つめ合っているとさっきの心の呟きが浮かんでくる。
(き、気まずい……)
顔に出ていたのだろうか。星野は少しだけ寂しそうに眉を寄せたのだった。
その視線から逃れるように、楓は慌ててスクリーンの方を見る。
見たかった映画なのに、結局ストーリーは頭に入ってこなかった。
その間にあった変化といえば季節が秋から冬に進んだことと、楓の最寄り駅まで星野が送るようになったこと。
そして、今日は。
「良かった。少しは体は楽?」
数値が少し下がって通院が1ヶ月後になったのだ。
「あんまり実感はないけど、寝れるようになったかな。以前に比べたら、だけどね」
薬で抑えられてるのか、前は中々寝付けなかったのが今はだいぶ良くなった。
喉仏にある小さい器官から出る微量のホルモンに翻弄されるのは地味にツラい。
ホルモンが過剰に出ている状態に慣れた体を少ない、と言っても正常値のホルモン量に近づける際の苦労は経験しないとわからなかった。
「無理はするなよ」
星野からの声掛けに素直に頷くだけのゆとりも出来る。
少しだけ光明が見えてきて、楓はご機嫌だった。
だから星野の提案もつい了承してしまった。
「次は、気になるって言ってた映画、見ようよ。1週間後、新宿で待ち合わせで」
※
映画館の前で待ち合わせた。
クリスマス前のごった返した駅を抜け、人混みに紛れるようにして待ち合わせ場所に行くと、もう星野は楓を待っていた。
「早いね。待たせてごめんね」
「いや、俺も今ついたとこ」
そう言うと、星野はペコリと頭を下げた。
「気乗りしてなかったのに、今日来てくれてありがとう」
思い直して今日会うのを断ろうとした楓に星野は既にチケットを買っていると言って説き伏せたのだ。
「いや、気乗りしなかった訳ではなくて……」
病院もない日にわざわざ会うのに抵抗があっただけだ。
だって、デートみたいだもの。
言葉を飲み込んだ楓に星野は、ポップコーン食べる?と聞きながら適当にフードを注文し、連れ立ってスクリーンへ向かう。
公開から日数が経っているからか、街に人が多い割に空いている。
真ん中より少し上の列に座り、予告を見ながら他愛もない会話をしながら上映を待つ。
ブーーー。
ブザーの音が鳴り、辺りが暗くなると、隣の席の星野の気配が濃くなった。
あぁ、失敗した。
楓は映画が始めの方から、今日ここに来たことを後悔し始めていた。
見たかった映画だ。前評判通り、ストーリーも悪くない。
だが、隣にいる彼のせいで集中できない。
ことごとく、タイミングが一緒なのだ。
ストーリーに声にならないため息をもらしたり、LLサイズのポップコーンに同じタイミングで手を入れたり。
恋人同士なら嬉しい共通点。だけど、想いは星野から楓の一方通行なのだ。
楓は星野の気持ちに答えられない。心がときめかない。きっとこの先も……。
――本当に?――
チラッと浮かんだ心の声は全力で気づかないフリをする。
星野が決めた3ヶ月もあと半分だ。でも本当に3ヶ月もいるのだろうか。今日決断しても、1ヶ月半後返事をしても答えは同じなのに。
――本当に答えは同じ?――
再び浮かぶ問いかけ。それも華麗にスルーすると楓はちらっと星野の方を盗み見る。と、彼と目があった。
見つめ合っているとさっきの心の呟きが浮かんでくる。
(き、気まずい……)
顔に出ていたのだろうか。星野は少しだけ寂しそうに眉を寄せたのだった。
その視線から逃れるように、楓は慌ててスクリーンの方を見る。
見たかった映画なのに、結局ストーリーは頭に入ってこなかった。
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