裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多

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お月様が浮かぶコーヒーカップ 4

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 田舎のお約束(?)の草刈りは苛烈を極めた。
 なんせどれだけ刈っても終わりが見えないのだ。
 何度か草刈りの動画を見て十五分程度の動画に編集してたとは言え楽勝だなと楽しそうと思って見ていたが、現実は無限の草の中に突っ込む作業だった。
 全身汗まみれ、タネまみれ、草汁まみれとなってもただ我慢。
 有り難い事に標高が高いせいか蚊は居ないが別の虫はいくらでもいる。
 そんな虫にも絡まれながら道路に押し寄せ覆いつくそうとする草を刈って行く。
 大和さん曰く
「ナイロンカッターは初心者向けだからラクショーだよ」
と言うけど、初心者は草刈り機使いませんと言うツッコミを誰かお願いだから言って欲しい。
「は?この村には初心者がいないから今更誰も疑問にしない?
 お兄さん笑ってないで正真正銘の初心者に草刈り機の電源の切り方教えてください!!!」
「初心者向けなのは本当だよ?だってナイロンコードに当っても痛いだけで済むからね。チップソーだとしゃれにならないけど。あ、電源?そのうちバッテリーが切れるからそれまで頑張れ!」
「何でこの村の住人ってみんな鬼畜仕様なの?!」
 叫ぶも周囲に誰も味方は居ない所か村道なのに車一台も走らないこの異世界ぶり。都会で人が溢れても隣人とコミュニケーションを取れなくて孤独を感じた事もあったが、今は物理的な孤独に命の危機さえ覚える。都会の孤独とはまた別の恐怖を味わいながらうぃんうぃんとちょっと間抜けなモーターの駆動音に寂しさを誤魔化しながら襲い掛かってくる緑の侵略者に悲鳴を上げながら無我夢中でナイロンカッターを振り回せば……
「やっと止まった……」
 一応モーターは辛うじて動いているけどパワーが弱まり草が刈れない状況になってやっと道路に腰を下ろした。
「お疲れ様」
 大和さんがやって来てスイッチを切ってくれた。
 使い込んでいて草刈り機に印刷されたスイッチの文字が消えてしまっていたが
「こんな手元にあったのかよ」
「コードの所にあるわけないじゃないか」
 あははと朗らかに笑いながらも
「少し休憩しよう。冷たいお茶があるよ」
 言えば店の前に置かれたベンチにはすでに先生が座ってアイスを食べていた。
「いつの間に……」
「お前が草に翻弄されてる間にだ」
 先生は効率が良いから侵入口と柵の周りをぐるりと刈った所でバッテリー交換も合わせて一旦休憩。
「疲れた……
 何か腕がぶるぶるしてる感じがする」
「ただの筋肉痛だ。鈍りすぎだろ」
「使ってない筋肉多すぎだってか?」
「それ以外どう言えと」
 確かにそうなんだろうけどさとお茶のおかわりとアイスを貰って食べていればいつの間にか横に並んで座っていたワンコに最後の一口を奪われた。
「あ、こらあずき!人様のものを食べるな!」
 怒られたのが分ったのかアイスのカップまで持って犬小屋に閉じこもってしまった。
「犬ってアイスクリーム食べて大丈夫だっけ?」
 脂肪分がどうのこうのとか聞いた事あるけど
「食べた量も少ないしあずきなら大丈夫だと思うけど、躾として大問題!」
「元野犬だっけ?」
「親父が甘やかすからアイスクリーム好き女子になったんだから!」
 人も犬も変わらないその発言に思わず笑ってしまったが鎖を引っ張って強制的に犬小屋から出させてアイスのカップを回収していた。
「食べれない物を食べたら大変だからな」
「おっしゃる通りです」
 怒られたのが分ってかしょぼんとした顔でこちらを伺いながら小屋の中に閉じこもる様子になかなかどうして表情豊かだなと首の周りのもふもふ部分を撫でてあげればそこじゃなく耳の裏側がいいのと怒られた事なんてもう忘れたと言う様に鼻先を使ってうまく誘導してくれる賢いあずきに
「かんわいい~。癒しだ~」
「だろ?元野犬だった事忘れるよね。
 また野犬捕まえたら引き取り先の数に入れておくから欲しくなったら言ってね」
 のほほんとした口調だが
「野犬ってそんなに捕まえれる物なのですか?」
 思わず聞いてしまう。
 都会どころか実家周辺でも野良犬なんて見た事なかったのにと思うも
「案外いるもんだよ。まあ、あずきが美人さんだからほいほいできるんだけどね」
「いや、単なる本能でしょう」
 去勢してもそこは変らない事を思えば大和さんは「そうとも言う」と笑っていた。
 あずきを堪能してお茶を飲んでアイスを食べてクールダウンをした所で
「さて、もうひと踏ん張りするか」
 先生も腰を上げた所で俺ももう一度頑張る事にする。
 大和さんにバッテリーを変えてもらい改めてスイッチの場所を教えてもらう。
「じゃあ、二人とも暑いからそこそこでいいから頑張って来て」
 そんな応援に大和さんは店の中に入って行くのだった。




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