裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多

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キリマンジャロとモンブラン 3

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 スマホを取り出してこの店の話題を探す。
 本格コーヒーが飲める店、おしゃれ古民家、イケメン店員などなど。
 夏前にオープンしてひと夏を超えて秋を迎えた。
 店内の清掃は行き届き、剥き出しの黒い梁にうっすらとした埃も残ってない。
 カウンターから見えるキッチンはとても清潔で、先ほど借りたトイレも清潔を保たれている。
 各所に飾られたお花は楚々として美しく、夕方なのにくたびれた様子もなければ水も濁っていない。つまり、最低今朝には水替えと花の管理はしていたのだろう。
 意外とまめな店主だ。
 夕方だからだろうか客は少なく、この時間の店を一人で回しているようだ。
 コーヒーは量も時間もきっちりと計った基本に忠実で丁寧な物だった。
「何でこんな田舎でこんなおいしいコーヒーが飲めるのよ」
 本日何度目かの文句。
 そして言わずにはいられない。
「お兄さん、何かケーキとか甘い物ないの?」
 聞けば
「ケーキはありませんがワッフルならご用意できます」
「……それで」
 ワッフルしかないとかありえない。
 メニュー表通りの物しかないなんて…… 当たり前か。
 とりあえず出てくるのを待てば手慣れた様に卵液を作っていた。
 そこに粉を合わせてバターを入れて、機械式のワッフルメーカーではなくIHコンロで焼き上げるワッフルメーカーだった。
 すごく手慣れた仕種に驚いたけど、焼き上げる間にバターをホイップして小さな器に入れてくれた。少しずらして並べられた焼きたてのワッフル二枚の隣にはこれまたホイップしたばかりの生クリームも添えてあり、私が頼んだ物はプレーンの物なのでメープルシロップが付いて来た。
「お待たせしました」
 と言って
「ブレンドコーヒーで宜しければおかわりはいかがです?」
 嬉しいお言葉。
「ではいただきます!」
 コーヒー一杯で帰るつもりだったのにもう少し居たくて頼んでしまったワッフルにもう一杯と思った所でのこのサービス。
 お店にはおかわり自由何て書いてないけど
「おかわりのサービスもあるのですか?」
 何て聞けば
「もうラストオーダーの時間ですので。
 本日分のコーヒー豆が余ってしまう時は時々お出ししてるので、内緒でお願いします」
「あら、私凄くいいタイミングだったんだ!」
 顔で喜んでいるものの、こんな良い豆のコーヒーのサービスしていて経営は十分かと心配になる。
「本当の事を言えば残ってしまった豆でのオリジナルブレンドコーヒーなので申し訳ないのですが」
 なんだ。あまりものなのかと思いつつも出来たコーヒーを受け取って一口飲む。
 折角の美味しいキリマンジャロの余韻を失ってしまうのがもったいないが、と思ったのにサービスで頂いたコーヒーはとても複雑にブレンドされて満足する香りを漂わせていた。
「美味しい……」
 思わずと言う様に溜息と共に零れ落ちた。
「ありがとうございます。いろいろ研究してみて良かったです」
 にこりと笑いながらごゆっくりとと勧められてしまった。 
 店主はすぐにミルを洗い、すぐに水けを拭って乾かしていた。後はすぐにワッフルメーカーや調理器具を洗い始める。
 この様子はキッチンの奥を少し覗かないと見れない店の作りなのでこだわった店の作りなのねと感心してしまった。
 へーなんて思いながらナイフでたっぷりと柔らかくホイップしてくれたバターを塗ってメープルシロップをたっぷりとかける。一口大に切り取って、そこに生クリームを添えて……
 カリッと焼けた表面。だけどふっくらと焼き上がっていた。
 メープルシロップもバターもホイップも正直普通。良く慣れ親しんだ物だと言えばそれまでだけど。
 ほんのり甘い生地は正直期待していなかった。ほら、ワッフルってホットケーキとかそう言った物と違って応用の利かない無難な物。パンケーキから逃げた、そんなイメージがあるけど
「やだ、ちょっと素朴な感じがするけどちゃんとおいしい……」
 とてもシンプルなオーソドックスなワッフルだった。
 バターを増やしたり、そう言うバランスを一切切り捨てた昔ながらの味。
 それがこの古民家によくあっていた。
 この店に似合う味にほっとしてしまう私がいた。
 ちょっと待て。
 和んでいる場合じゃない。
 サクッと焼けたワッフルを堪能して今回限りのオリジナルブレンドで甘くなった口の中を引き締めて
「ご馳走様」
 席を立ってオリジナルブレンドのコーヒーを貰った時に渡されたレシートを持ってレジに向かう。
「ではコーヒーとワッフルはセットにしておきましたので800円になります」
「はい。では丁度」
「はい。800円ちょうどいただきます」
 そして領収書代わりのレシートを貰って店を出た。
「ありがとうございました」
 最後まで爽やかな笑顔。この夕方の時間なのに隙のない接客の様子にどこで修行して来たのだろうか考えれば心が躍ってしまう。
 こんな田舎で家庭的な店しかない所が多いのに、民家を改装して開いた店。趣味でやっているのかと思ったのにこんな本格的な一杯が飲めるなんて。
 しかも料金は別々だとかなり高く感じた物のセットにすれば比較的ふつう。いや、少しお高め?どちらにしても良心的な店だった。
 数段の階段を下りながら店の入り口の前に階段とはいただけないと思っていたが、先程帰ったお客は反対側の裏から出て行った。あちらからにも出入り口があるとはおもわなかったが、今度はあちらからお店に入ってみよう。
 次の期待に胸を膨らませながら足を止める。
 ふと香る匂いはなんだろうか。
 振り向けば美しいまでに手入れされた庭があり……
 階段を下りて店の生け垣沿いに歩きながらじっくりと見上げて足を止める。
「ほんと素敵なお店」
 温かな木漏れ日を落す店を見上げる。

「ほんと素敵ね」

 歩く先は薄暗く、僅かな明かりを頼りに歩く足取りは何処か浮かれていた。


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