人生負け組のスローライフ

雪那 由多

文字の大きさ
79 / 976

生まれ変わりは皆様とご一緒に 3

しおりを挟む
 トイレの工事はそれなりに早く進んだ。手足がたくさんあった事で重い資材を持ち運んだりする労力がわずかになった分だけはかどったと言う所だろうか。もともと便器の設置は終わってたので逆に言えば今もトイレに取り掛かっていると言うのは遅い位だがそこは他の行程との兼ね合いもある物の今日中には終わらせてほしい懸案だ。壁も扉もないトイレで用を足すような勇者にはなれないので、明日きっと人が溢れるだろう我が家に一番求められているのはトイレなのでせめて今日中に目隠しが欲しいのと思うのは切実な願いだ。

 その合間に浩太さんは明日設置するガルバリウムを取りにまた三年ズを連れていく。役にたって何よりだと思うも俺はそろそろ昼食の準備を始めなくてはと立ち上がる。みんな頑張っているので食べやすいどんぶりものにしてやろう。個人的には親子丼か牛丼か。うな丼も良いがこいつらに食べさせてやるにはもったいないが……
 ビデオのバッテリーの取り換えにやって来た陸斗に聞いてみる事にする。
「陸斗は親子丼と牛丼とうな丼どれが良い?」
「ええと、親子丼かな。卵トロトロが好きです」
 少し恥ずかしそうに言う陸斗だが小首を傾げて
「所でうな丼ってなんです?」
 一緒に話を聞いていた先生も両手で顔を覆って泣いた。
 どんな生活していたか想像の域だが予想ぐらいはつく。
 だけど土用の丑とかそう言った夏の風物詩なイベントがあるだろう。七夕しかり、お盆しかり。
「うな重は鰻を甘じょっぱいたれを絡めて焼いた物をどんぶりに乗せた物だよ。
 せっかくだから試してみようか」
「ええと、はい?」
 この説明ではわからなかったかと頭を抱えるも土用の丑にはちと早いが俺はスマホを取出し
「すみません、深山の吉野です。いつもお世話になります。うな丼、特重で十二人前と長焼き五本お願いします。あと宮下商店に同じく四人前。ええ、支払いは吉野にお願いします」
 注文が終わってまた通話。
『宮ちゃん、おばさんにお昼ウナギ頼んだから受け取って貰って』
『はあ?なんでまた……』
『まぁ、いつもお世話になってるお礼?』
『なんかよくわかんないけど母さんに言っておくよ』
『よろしくー』
 通話終了。ポケットにスマホを片付けて満足げに頷き
「お前は単純だなぁ」
 信じられん、うな重十六人前プラス長焼きだなんてと白い目を向ける先生に俺は仕方ないだろうと目を向ける。
「時々来客があるとバアちゃんが頼んでたんだよ。ジイちゃんが好きだったからとかいってよ。久しぶりなんだよ。もっとも奮発しすぎたけどたまにはいいだろ」
 言いながら茄子を取りに行く。
 油で揚げて味噌で食べても良し。
 出汁でも良し。
 トロリと取りける食感を堪能するが良い!
 冬瓜もあったからあんかけで食べるも良し。
 我が家の冬瓜の食べ方はレトルトの中華スープを片栗でとろみをつけて軟らかく煮た冬瓜にかけるが良い!
 もっとめんどくさければレンジで柔らかくした冬瓜にフリーズドライの中華スープにお湯をかけて終了というお手軽さも良い!
 どっちも手抜きも良い所だと先生に呆れかえられているものの冬瓜はまず失敗しない野菜だし、常に畑で腐ってしまう我が家の問題児だが、最後は烏骨鶏の餌となり、この辺りどの家も作っているので貰い手の少ない野菜でもある。
 ちなみに先生は料理にしないともらってくれない本当にダメな大人だ。
 どうやって食べてやろうと妄想とメニューをかんがえながら茄子と冬瓜を捥いで台所に戻れば
「所でお吸い物はどうなってる?」
 ここは重要な問題だと先生は真剣な顔で言う。
「ちゃんと肝吸いも付いて来るよ。ポットに入れて持って来てくれるんだ」
 最大限に呆れた顔で言い返せば安心したと言う顔のなり
「へー、今まで敷居高くて言った事なかったけど先生も今度行ってみようかな?」
「そん時は圭斗を連れてってやれよ。
 先生の家に住まわせてもらってるって言っても圧倒的先生の世話の方が重労働なんだから。それぐらいのお礼をしないと罰が当たるぞ」
「まぁ、一人ぐらいなら先生だって食わせてやれるさ」
 言いながらも俺は宮下さん達はお弁当を持って来てるからよかったら長焼きを持って帰ってくれと言わなくちゃと隣の離れに向かうのだった。



「ええと、お気づかいはありがたいのですが、そのお金は大丈夫ですか?」

 鰻の説明をしに行けば浩太さんは目を点にして現実を教えてくれた。
「まぁ、安い物ではありませんがたまにはいいでしょう」
「吉野の、家に金をつぎ込んで金銭感覚麻痺してるんじゃなかろうな?」
 内田さんに言われて少し心当たりあると言うように胸に手を当ててそっと笑う。。
 家の補修費を聞いて先週飯田さんとショッピングで散財し、この合宿で色々買い込んで、鰻で散財とそれはもう……
「今月で一年分使ったかも」
 いや、一年分以上は使っている。
 光熱費、通信費、食費にガソリン代、烏骨鶏の餌や畑にお金をつぎ込んでも月にせいぜい十万使う程度。 
「吉野の、その年でそれだけとはしけとるなぁ」
「今気づいたんだから言わないでよ」
 年収ウン億の男なのに何でこんな節約生活をしているのだろうと改めて思うもそれはこの山奥のぽつんと一軒家の自給自足生活だからと言う事にしておこう。








 
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...