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これもまた山暮しのお約束 5
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結局ご飯の時間になって俺は起こしてもらった。
先生は陸におにぎりを作ってもらって水のペットボトルをリュックに何本も詰めて背負い、鉈と手斧を腰に差して山に入って行くのだった。
「何しに行くんだ?」
「あの人山登りが趣味みたいでさ、ほっとけば夕方にはちゃんと帰ってくるよ」
「帰って来るって、この季節熊とか出会ったらどうするつもりだ?」
「まぁ、その時はその時だろうね。鉈と手斧もあるから何とか自力で帰って来てほしいけどね」
随分とのんきな心配だと思うも俺もご飯を食べ終わった所で陸が用意するお弁当をぼんやりと眺めていた。
「所でそれは?」
「圭斗が下の畑に行きたいって言ったんだろ?」
「そうだが……」
大きなおにぎりをお釜に残った分だけ作ってラップでくるんでいた。
それから先生と同じようにペットボトルの水とキャンプセットでおなじみの小型ガスバーナーコンロにクッカーなどなど。一体何しに行くのかと思うもそれを持って家の鍵を閉める。それから軽トラに草刈り機を乗せて
「行くか」
気が重そうにナイロンパーカーを羽織る様子に嫌な予感しかない。ちなみに綾人の物だけど俺達にも用意してくれて……
俺は初めて吉野家の下の畑と言う所に足を運ぶのだった。
一面の背より高い雑草畑。
それが吉野の下の畑と言う場所だった。
これなら綾人でも気が重くなるのは納得できると顔が引きつるのを堪えながらトラックから綾人はバギータイプの草刈り機を下ろして乗り込むのだった。陸斗は初めて見ると言う様にキラキラとした目を輝かすあたり今時の男の子だったかと少しだけホッとすれば少しだけ待ってろと綾人は完全防備と言わんばかりにナイロンパーカーの帽子をかぶってゴーグルと粉塵マスクもしっかりと装備する。あまりに怪しい姿だけどいつの間にか長靴にも履き替えて自動草刈り機に乗り込んで畑へと向かい、ゆっくりと進むスピードだがすぐに姿が見えなくなった。だけどエンジン音が聞こえるので奥に向かっているのだろうなと言うのは判るが、暫くして音が横に移動して、やがてだんだん近づく音に帰ってくる事を理解するのだった。そしてかなり端の方から戻ってきた綾人は畑の敷地の中をぐるりと回って来た事をあぜ道が見えた事で理解すれば陸斗を手招きする。
「右のペダルがアクセルで、左のペダルがブレーキ。
エンジン始動がこれで、ギアね。とりあえず俺が草を刈った中を走り回っておいで」
「え?え?」
言いながら帽子とゴーグル、粉塵マスクを装着させるのを見て俺も慌てて陸と二人乗りをして使い方を教える。と言っても車の運転程度にだが、ぐるりと一周して来た所で何とか使い方のコツを掴んだ陸に
「どうだ?少し草刈りが面白くなって来ただろう」
いい笑顔の綾人に陸は少しだけ興奮して頷く。
「ここは昔蕎麦畑だったから難易度低いぞ?一度走った場所をもう一度走るとさらに綺麗になる無限の楽しさがあるぞ?」
そんなうたい文句に陸は判ったと言う様に草刈り機を走らせるその姿を見てあきれるけど、別の草刈り機を担いでその刈り取った細い道を通って奥に向えば日が当たらないせいと敷かれた落ち葉のおかげで雑草が少ない熊笹の中へと潜り込む。意外な事にそこには道路があった。道路はひび割れ、その隙間からも熊笹が姿を現して歩きにくいが、綾人が草刈り機で熊笹を払いのけながら進んでくれるので俺は歩きやすい。
俺がボソッと言った言葉なのに丁寧に案内してくれるのを申し訳なく思ってる合間に
「着いたぞ。ここが下の畑のいくつかの一つ」
やっぱりと言うか雑草よりも熊笹に侵略された場所は広く切りひられた場所で、ポツリポツリと金柑や栗の木が植わっていた。
「吉野家の果実園……かな?」
畑と言うより既に森に飲み込まれた場所だけど、草刈り機で道を切り開いて行けば鳥が羽ばたいて逃げて行く音に随分と放置されていた事だけは確かで、猪が掘ったのだろう掘り返された場所を綾人は踏みしめながら草刈り機で道を切り開いていく。
「ちょうど花が終わった頃か」
食べるにはまだまだ先だなと綾人は言うが
「ずいぶんとさみしい木だな」
ポツリと零せば
「そりゃあ手入れしてないからな」
肩を竦める。
「枝を落してないし伸び放題だから雪の重みにも耐えられないだろう。折れてる。熊笹が僅かな栄養を取って行くし、猪が根っこを傷つけて行く。花の数も少ないからこのまま実になる数も少ないな」
当然と言う綾人の言葉はそうだけどと納得はできるが
「この木を貰う事は?」
「別に構わないけど、引っこ抜くのに手間がかかるぞ?」
逆にどうやって抜くと聞き返されてしまう。
その合間にも綾人が熊笹を刈っていく中に一本の木を見つけた。
まだ細い若木は種が零れて運良く育った木なのだろう。
「これぐらいなら持って帰れる」
一メートルぐらいの、隣の木々達の葉の下で芽吹いてか運よく雪に負けずに育ったようだ。あまり日に当たらないせいか葉っぱの緑も濃く、数も少ない。枝も細く頼りなさを感じてしまうも
「まぁ、これなら掘り返せそうだな。ショベル持って来るから圭斗は草刈りをしてて」
エンジンを止めた草刈り機を俺に渡して綾人は車に戻るのだった。森の中にポツンと一人残された俺は少しだけ寂しさと不安を感じるも、陸斗の草刈り機のエンジン音にすぐ人がいるからと自分に言い聞かせながら熊笹を刈って行く。高校時代綾人に手伝わされて以来の草刈り機だが体が覚えていたようで、綾人のようにうまくはないが何とか様になる程度には草を刈る事が出来た。
それから少しして綾人はシャベルとビニールシート、そしてガムテープを持って来た。その三点セットは何だと思えばすぐ後ろには陸斗が付いて来ていた。
「陸も来たか?」
「綾人さんが金柑の木を掘り起こすって聞いて」
「だけどこれから冬だから上手く根付くか判らないぞ?」
言いながらも周りの土をサクサクと掘り起こして行く。代わろうかと言おうとするも毎日畑仕事で慣れた手つきに俺は黙ってキックバックしても良い様にと二人の遠くで草刈り機を回し続ける。
綾人は熊笹の根っこに苦戦しながらも木の周りをぐるりとシャベルが入る分だけ掘り起し、梃子の原理を利用してシャベルに体重をかけながら掘り起こして行く。一か所ではなく周囲から何か所もアタックをして、鉄製のシャベルが曲がらないか心配してしまうもその前に木がぐらりと傾いた。
そこからはあっという間だった。木を揺らすたびに根がぶちぶちと切れる音が聞こえるけど綾人は気にせずにスコップを潜り込ませて掘り返して行けばゴロンと木が倒れるの辛うじて綾人は手を伸ばして枝を折らないように支えるのだった。
「圭斗、ビニールシート広げて」
草刈り機を止めて言われたまま赤と水色と白のストライプのプリントがされたビニールシートを広げれば、綾人は力任せに木をその上に置いて、陸に持たせていたガムテープを貰って土が落ちないように根っこを包む様にしてビニールシートを縛る。
「折角だからこのまま圭斗の家の庭に植えようか」
「良いけど、草刈り機……」
「どうせ誰も取らないから置いてくよ」
空を見れば雨も降りそうもない。綾人は気にする事無くキーだけはポケットに突っ込んでトラックの荷台に金柑の木を乗せるように俺に言う。
俺が言いだした事だから仕方がないとは思うけどと切られた熊笹で足が取られそうになるものの何とか軽トラの荷台に乗せてそのまま家に向かうのだった。
先生は陸におにぎりを作ってもらって水のペットボトルをリュックに何本も詰めて背負い、鉈と手斧を腰に差して山に入って行くのだった。
「何しに行くんだ?」
「あの人山登りが趣味みたいでさ、ほっとけば夕方にはちゃんと帰ってくるよ」
「帰って来るって、この季節熊とか出会ったらどうするつもりだ?」
「まぁ、その時はその時だろうね。鉈と手斧もあるから何とか自力で帰って来てほしいけどね」
随分とのんきな心配だと思うも俺もご飯を食べ終わった所で陸が用意するお弁当をぼんやりと眺めていた。
「所でそれは?」
「圭斗が下の畑に行きたいって言ったんだろ?」
「そうだが……」
大きなおにぎりをお釜に残った分だけ作ってラップでくるんでいた。
それから先生と同じようにペットボトルの水とキャンプセットでおなじみの小型ガスバーナーコンロにクッカーなどなど。一体何しに行くのかと思うもそれを持って家の鍵を閉める。それから軽トラに草刈り機を乗せて
「行くか」
気が重そうにナイロンパーカーを羽織る様子に嫌な予感しかない。ちなみに綾人の物だけど俺達にも用意してくれて……
俺は初めて吉野家の下の畑と言う所に足を運ぶのだった。
一面の背より高い雑草畑。
それが吉野の下の畑と言う場所だった。
これなら綾人でも気が重くなるのは納得できると顔が引きつるのを堪えながらトラックから綾人はバギータイプの草刈り機を下ろして乗り込むのだった。陸斗は初めて見ると言う様にキラキラとした目を輝かすあたり今時の男の子だったかと少しだけホッとすれば少しだけ待ってろと綾人は完全防備と言わんばかりにナイロンパーカーの帽子をかぶってゴーグルと粉塵マスクもしっかりと装備する。あまりに怪しい姿だけどいつの間にか長靴にも履き替えて自動草刈り機に乗り込んで畑へと向かい、ゆっくりと進むスピードだがすぐに姿が見えなくなった。だけどエンジン音が聞こえるので奥に向かっているのだろうなと言うのは判るが、暫くして音が横に移動して、やがてだんだん近づく音に帰ってくる事を理解するのだった。そしてかなり端の方から戻ってきた綾人は畑の敷地の中をぐるりと回って来た事をあぜ道が見えた事で理解すれば陸斗を手招きする。
「右のペダルがアクセルで、左のペダルがブレーキ。
エンジン始動がこれで、ギアね。とりあえず俺が草を刈った中を走り回っておいで」
「え?え?」
言いながら帽子とゴーグル、粉塵マスクを装着させるのを見て俺も慌てて陸と二人乗りをして使い方を教える。と言っても車の運転程度にだが、ぐるりと一周して来た所で何とか使い方のコツを掴んだ陸に
「どうだ?少し草刈りが面白くなって来ただろう」
いい笑顔の綾人に陸は少しだけ興奮して頷く。
「ここは昔蕎麦畑だったから難易度低いぞ?一度走った場所をもう一度走るとさらに綺麗になる無限の楽しさがあるぞ?」
そんなうたい文句に陸は判ったと言う様に草刈り機を走らせるその姿を見てあきれるけど、別の草刈り機を担いでその刈り取った細い道を通って奥に向えば日が当たらないせいと敷かれた落ち葉のおかげで雑草が少ない熊笹の中へと潜り込む。意外な事にそこには道路があった。道路はひび割れ、その隙間からも熊笹が姿を現して歩きにくいが、綾人が草刈り機で熊笹を払いのけながら進んでくれるので俺は歩きやすい。
俺がボソッと言った言葉なのに丁寧に案内してくれるのを申し訳なく思ってる合間に
「着いたぞ。ここが下の畑のいくつかの一つ」
やっぱりと言うか雑草よりも熊笹に侵略された場所は広く切りひられた場所で、ポツリポツリと金柑や栗の木が植わっていた。
「吉野家の果実園……かな?」
畑と言うより既に森に飲み込まれた場所だけど、草刈り機で道を切り開いて行けば鳥が羽ばたいて逃げて行く音に随分と放置されていた事だけは確かで、猪が掘ったのだろう掘り返された場所を綾人は踏みしめながら草刈り機で道を切り開いていく。
「ちょうど花が終わった頃か」
食べるにはまだまだ先だなと綾人は言うが
「ずいぶんとさみしい木だな」
ポツリと零せば
「そりゃあ手入れしてないからな」
肩を竦める。
「枝を落してないし伸び放題だから雪の重みにも耐えられないだろう。折れてる。熊笹が僅かな栄養を取って行くし、猪が根っこを傷つけて行く。花の数も少ないからこのまま実になる数も少ないな」
当然と言う綾人の言葉はそうだけどと納得はできるが
「この木を貰う事は?」
「別に構わないけど、引っこ抜くのに手間がかかるぞ?」
逆にどうやって抜くと聞き返されてしまう。
その合間にも綾人が熊笹を刈っていく中に一本の木を見つけた。
まだ細い若木は種が零れて運良く育った木なのだろう。
「これぐらいなら持って帰れる」
一メートルぐらいの、隣の木々達の葉の下で芽吹いてか運よく雪に負けずに育ったようだ。あまり日に当たらないせいか葉っぱの緑も濃く、数も少ない。枝も細く頼りなさを感じてしまうも
「まぁ、これなら掘り返せそうだな。ショベル持って来るから圭斗は草刈りをしてて」
エンジンを止めた草刈り機を俺に渡して綾人は車に戻るのだった。森の中にポツンと一人残された俺は少しだけ寂しさと不安を感じるも、陸斗の草刈り機のエンジン音にすぐ人がいるからと自分に言い聞かせながら熊笹を刈って行く。高校時代綾人に手伝わされて以来の草刈り機だが体が覚えていたようで、綾人のようにうまくはないが何とか様になる程度には草を刈る事が出来た。
それから少しして綾人はシャベルとビニールシート、そしてガムテープを持って来た。その三点セットは何だと思えばすぐ後ろには陸斗が付いて来ていた。
「陸も来たか?」
「綾人さんが金柑の木を掘り起こすって聞いて」
「だけどこれから冬だから上手く根付くか判らないぞ?」
言いながらも周りの土をサクサクと掘り起こして行く。代わろうかと言おうとするも毎日畑仕事で慣れた手つきに俺は黙ってキックバックしても良い様にと二人の遠くで草刈り機を回し続ける。
綾人は熊笹の根っこに苦戦しながらも木の周りをぐるりとシャベルが入る分だけ掘り起し、梃子の原理を利用してシャベルに体重をかけながら掘り起こして行く。一か所ではなく周囲から何か所もアタックをして、鉄製のシャベルが曲がらないか心配してしまうもその前に木がぐらりと傾いた。
そこからはあっという間だった。木を揺らすたびに根がぶちぶちと切れる音が聞こえるけど綾人は気にせずにスコップを潜り込ませて掘り返して行けばゴロンと木が倒れるの辛うじて綾人は手を伸ばして枝を折らないように支えるのだった。
「圭斗、ビニールシート広げて」
草刈り機を止めて言われたまま赤と水色と白のストライプのプリントがされたビニールシートを広げれば、綾人は力任せに木をその上に置いて、陸に持たせていたガムテープを貰って土が落ちないように根っこを包む様にしてビニールシートを縛る。
「折角だからこのまま圭斗の家の庭に植えようか」
「良いけど、草刈り機……」
「どうせ誰も取らないから置いてくよ」
空を見れば雨も降りそうもない。綾人は気にする事無くキーだけはポケットに突っ込んでトラックの荷台に金柑の木を乗せるように俺に言う。
俺が言いだした事だから仕方がないとは思うけどと切られた熊笹で足が取られそうになるものの何とか軽トラの荷台に乗せてそのまま家に向かうのだった。
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