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休みなんて所詮社会に縛られてる人のものであり、年中無休の引きこもりにはここで働かずにいつ働くと言われるように働かせていただきます 5

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 穏やかに過ぎたゴールデンウィーク前半は数日の平日を挟んで後半戦に突入するその前夜……

「先生キターーー!!!」
「え?マジ先生ホント?!お帰り先生!!会いたかったせんせー!!!」

 熱烈歓迎な植田と水野の出迎えに当然のように先生は戸惑って
「なんでお前ら……早々に恋しくなってホームシックで帰って来たか?」
「先生と一緒にしないでください。話聞いてかけをしてただけですから。因みに絶対先生は来るで全員一致出かけになりませんでした」
 一瞬涙目になった先生だけど植田の余計な一言で死んだ目に変わるのはさすがに見ていて可哀想だけど誰がどう見ても植田が一番はしゃいでいるので許してやってと心の中で念じておく。
「都会楽しいけど休みぐらいは帰って来いって親に言われて帰って来ただけです」
「そして早々ここに来たんじゃ親もやっとれんな?」
 それはいいのかと聞く先生だが
「お土産渡したら行ってらっしゃいって軽トラ使っていいからって送り出されました」
 何じゃそらと俺を見る先生に苦笑して
「どうやら麓の町の吉野関係でここの柵を張り替える事が知れ渡っているみたいで、今回帰って来たらいつ山に行くんだって言われたらしくって軽トラで追い出されたんだって」
「うち、長谷川さん所と爺さん仲が良いから綾っちの家の情報ダダ漏れでさあ」
「そういや家も長谷川の大将がご機嫌だって母さん言ってましたね」
 そう言ったのは山田。みんなで何で?と真顔で見つめてしまえば
「母さんが親長谷川さんの所で事務員として働いているんです。
 長谷川のおばあちゃん年でパソコン苦手だし、若社長嫁さん居ないから近所の婆ちゃん繋がりで母さんがバイトしていると言う流れで」
「世間ってせめぇっ!
 プライバシーなんてないじゃん!判ってたけどさあ!今更だけどさあ!」
 呻く綾人だけど
「それよりも先生、お風呂かご飯どっちか早く決めてよ。
 あと土間の子達、紹介して。さっきから立ちっぱなしで可哀想でしょう……」
 台所からお茶を持って来た宮下のツッコミに誰となく見ないようにしていた身の置き場のなさそうな三人組をお茶を置いて宮下は寒いから囲炉裏の方に上がってと家主の俺の判断なんていちいち面倒だと招くのだった。
 うん。
 どんどん図太くなってきたぞ?
 だけどそれなりに街中の子。
 お邪魔しますと靴をそろえて上がる常識ある子達で少しだけ良しとする。上がって温まるが良い。
「所でこの子達何者?」
 想像はつくがちゃんと聞いておく。
「ん?今の先生の教え子。どこの教室にでもいるクラスの三バカトリオ。
 だけどお前らと違うのは圧倒的に勉強ができる。ちゃんと高校生三年レベルだぞ?」
 どんな説明かと思うも
「それでもうちの学校じゃあ落ちこぼれで学年順位でもワースト候補常連だ。半分登校拒否って今日強引に連れてきた」
「よく親許可したな?」
「俺を誰だと思ってる。お前を無事卒業させた凄腕だぞ」
 何その自信というようにきょどりびくびくする様の三人にとりあえず
「今夜はは交流会としてとりあえずスマホ出せ。Wi-Fi繋いで家に無事到着した事を連絡。
 植田と水野!トイレと風呂の案内とここでの生活時間と園田、お間と同じタイムスケジュールにするからその確認。明日陸斗が来たら合わせて面倒頼むぞ」
「りょーかーい」
「じゃあとりあえず寝る場所は……」
「仏間の隣の部屋。先生の布団を仏間にしてあげて。うちのご先祖様見て寝るには初対面すぎるからね」
 そんな指示に仏間を開けて見せればずらりと並ぶご先祖様達。白黒写真の時代からの先祖様達に核家族の彼らは涙目だ。絶対何か出ると怯えてる顔をしているがうちに出るのは虫か野生動物。虫は寒くてまだいないから安心するが良いと言いつつも各部屋に殺虫剤は常備品だ。
「とりあえず簡単に自己紹介。
 この家の住人の吉野綾人。決して綾っちって言わないように。お茶の人が宮下で、こいつらの飼育係。
 あとは一年年上で専門に行ったでかいのが水野で眼鏡の植田。受験組の園田と山田と川上、後輩のテニスっこの葉山とサッカー少年の下田。今はいないけど目つきの悪い圭斗ととても兄弟には見えない弟の陸斗が明日の朝来る。そいつらはまたおいおい紹介するから自己紹介どうぞ」
 物凄い投げやりな紹介に眼鏡キャラ扱いの植田はぶーぶー文句言うが
「とりあえず右側から筋肉質の石岡智弘、植田と同じ眼鏡の羽田一樹、残りの柚木悠司。面倒見てくれ」
 酷い自己紹介に風呂に行くから後よろしくと言いって去っていけば頭を下げる三人の居場所は未だに所無さ気。
「まいいや、お前らLIMEやってるだろ?とりあえず登録するぞ。ここじゃ広いからスマホ連絡必須だからな」
 言ってWi-Fi接続させて強引にこの山のコミュニティに入れてしまう。
「さすが教師とその教え子。自己紹介が同レベルで酷過ぎる……」
 さすがに可哀想だと植田が嘆くが俺達も同じもんだっただろうと水野。とりあえずと言う様に
「荷物は仏間の奥の部屋に置いておいで。腹が空いてるだろ?宮下さんが夜食作るから一緒に食べよう」
 その掛け声で仏間の奥に荷物を置いてこれば土間を挟んだ台所へと案内する。
 きっと初めて見るだろう竈とおまけに見せた先生が湯につかる五右衛門風呂に三人は子供らしく「すげー!」「すげー!」と写真を撮りまくっていきなり勉強合宿と連れ出されて不安にしているだろう両親にこんな所と紹介していた。普通なら塾で合宿している頃なのにこんな所に来る事にいい顔しなかっただろうが楽しめる環境ならまずは安心だろうと、初めて聞く大きな声と笑い声に安心するのは俺だけではない事はこの場に居る誰もが知っている事だ。
「ほらー、ご飯食べるよー!」
 すっかりみんなのお母さんの宮下は冷える前に食べろと大きく声を張り上げれば既に夕食を食べた園田達も当然の様にやってくる。
「皆もう食べたでしょ?!」
 まだ食べるつもりという宮下に
「だっておいしそうじゃん?」
「足りない分は自分達で作るんで」
 至極当然と言う様に植田と水野が作りだせば人の家の台所を勝手にと驚く新入り三人組に
「ここじゃ自主的に行動しないと何も手に入らないからね」
 宮下の説明に園田が補足。
「近くまでのコンビニまで三十キロ、最寄りの自販機まで徒歩一時間その間街灯なし。陸の孤島じゃないけど熊とか猪とか普通にうろついてるから夜中みに家から出ない事をお勧めするよ」
 川上のアドバイスに顔を引きつらせる二人。
「なんか去年の俺らと同じ顔してるー」
「こう言う場所だって判ってても実際聞かされると引くよな」
 言いながら笑う高校生達は既に仲良くだべりながら食事をしていた。
 囲炉裏の部屋では俺と宮下がそれに耳を傾けながら
「いきなりの三人増えて布団足りるかな?明日皆泊まってくんでしょ?うちから客用の布団もってこようか?」
「とりあえず予想外もあるから借りれるだけ借りたい。
 圭斗の所にも小さい三畳の使い方のわからない部屋に大量に布団買って置いて来たから大丈夫だと思う」
「部屋を丸ごと布団部屋にしたんだね?何か旅館みたい」
「とりあえず二十組用意したから大丈夫だと思う」
「綾人は圭斗の家をどうするつもり」
 言って苦笑。
「その内下の家が出来た時に半分は持って行くからって了承してもらったよ」
「何がすごいって、圭斗の家それだけ布団を敷くスペースがあるって所だよね」
「さすが街中で二百坪越えの農家のお家。あの廃墟を何とか出来る力があればお屋敷だな」
「綾人が手を貸したけど圭斗も自力で出来てたけどね」
 圭斗はすごいんだぞという認識は変わらないし、俺もその意見には本当に陸斗のピンチまでに間に合ったのだから大いに賛成だが今の圭斗に必要なものは何かあった時の安定した確かな収入源。頼る先がある事を恥ずかしがらずに頼る事を理解する事だと俺は思う。
「これから山ほど俺に尽して貰わないといけないからな。先行投資としてそれぐらい問題ない。この冬もたくさん圭斗に雪下ろししてもらったんだー」
「俺が居なくてどうするかと思ったけど、綾人もちゃんとできる様になろうね?」
「俺も一人で出来る。だけど誰かがやってくれるのなら頼むのが俺のスタイルだ」
「ったく……」
 呆れながらも宮下と俺は焼酎のお湯割りを鮭とばを齧りながら温まるように飲んでいれば食事を終えて後片付けが終わる頃先生は五右衛門風呂から出てきて
「せんせー、悪いけどこの子達も上に連れてっちゃうからねー」  
「おー、めんどうみてやってくれー」
 許可が出た瞬間葉山と下田が三人の荷物を拉致りに来て急な階段を慣れた様に駆け上がるのだった。
「あれは猿だな」
 先生の呆れた言葉に頷けば
「さて、悪いが先生にもお酒頂戴?」
「その前にまずはご飯だよ」
 そうやって何て事もないいつもの合宿が始まるのだった。


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